子どもが「歯がグラグラする!」と言い始めたら、子どもの歯(乳歯)が大人の歯(永久歯)に生え替わる時期。当たり前のことなので特別な心配はいりませんが、保護者は子どもの永久歯が健やかに生えてくるようにしっかりサポートしましょう。11月8日は「いい歯の日」。このタイミングで子どもの歯の状態を確認してみませんか。歯の生え替わり時期に起きがちなトラブルについて小児歯科専門医の坂部潤先生にお話をうかがいました。
監修/坂部 潤(小児歯科専門医院キッズデンタル代表) 文/こそだてまっぷ編集部
Q:乳歯がグラグラしたら、どうする?
A:乳歯がグラグラしたら、自然に抜けるのを待ちましょう。乳歯は通常、5歳半くらいから12歳くらいまでの間に永久歯に生え替わります。もし、本人が気にし過ぎている、あるいは、グラグラした歯が不安定でうまく食事ができないなどの場合は歯科医に相談しましょう。
乳歯が抜けた直後は出血します。清潔なガーゼを丸めてかみ、安静にしていれば十数分で血は止まります。
乳歯がグラグラしてくると、「早く乳歯を抜いたほうが歯並びがよくなる」という話を耳にして、早く抜いてほしいという保護者がいらっしゃるのですが、そういうことはありませんので、誤解しないようにしてください。
Q:乳歯が抜けていないのに後ろから(または横から)永久歯が生えてきたら?
A:乳歯が残っている状態で永久歯が生えてくると(二重歯、または二重歯列といいます)、虫歯の原因になりやすいので、早めに歯科医に診てもらいましょう。二重歯になると歯が磨きにくく、虫歯や歯肉炎になりやすくなります。
原因は、歯の大きさに対してあごの骨(骨格)が狭いために、歯の“おしくらまんじゅう”状態になっている場合がほとんどです。これを放っておくと、歯並びがでこぼこになってしまうおそれがあります。これを「叢生(そうせい)」または「らんぐい歯」といい、子どもの歯のトラブルの約8割を占めています。
Q:永久歯がなかなか生えてこないときは?
A:乳歯が抜けた場所に永久歯が生えてこなくても、基本的にはすぐに心配する必要はありません。永久歯は、骨の中でその準備ができないと生えてこないのですが、準備が整うよりも前に乳歯が抜けてしまうケースもあるからです。
ただし、歯は左右がだいたい同じペースで成長するため、もし、その歯の反対側の永久歯がすでに生えてきているのなら、問題があるかもしれません。このような場合は、歯科医院でX線撮影(レントゲン撮影)をしてもらって、永久歯の有無や永久歯の育ち具合を確認してもらうとよいでしょう。数は多くありませんが、生まれつき永久歯の数が足りない子どももいます。
ただ、永久歯がない状態をあまり長期間放っておくと、歯肉に食べ物が当たり続け、粘膜が厚くなります。そうなると、永久歯が生えてくる際に、歯が歯肉を破りにくくなるため、歯科医による切開手術が必要になることもあります。
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Q:生えてきた永久歯が黄色いのはどうして?
A:生えてきた永久歯の色が黄色いのは心配ありません。もともと乳歯は白く、永久歯は乳歯に比べてやや黄色い色をしています。
生えたばかりの永久歯を「幼若永久歯(ようじゃくえいきゅうし)」と呼びます。歯質が未成熟な状態で生えてきて、2年くらいかけてだんだん白くなっていきます。幼若永久歯は、歯の表面を覆っているエナメル質がまだ成熟していません。未成熟な歯質は、酸による刺激を受けやすく、虫歯になりやすいので十分に注意しましょう。
歯科医院で受ける「フッ素塗布」は、歯を強くする効果や再石灰化作用が極めて高く、幼若永久歯の成熟にも寄与します。フッ素塗布を検討してもよいでしょう。
Q:永久歯が欠けたり、折れてしまったりしたら?
A:子どもの歯が欠けたり、折れたりした場合は、すぐに歯科医院を受診しましょう。また、転んだ拍子などに永久歯が抜けてしまった場合は、抜けた歯を回収し、可能であれば生理食塩水(もしくは牛乳でもOK)に浸してできるだけ1時間以内に歯科医院へ持っていきましょう。それぞれの状況に応じて、欠けたり失ったりした歯の治療をしてもらうことができます。牛乳は水に比べて浸透圧が体液に近いため、歯の再植に重要な歯の根の周りに残る細胞(歯根膜)が生存しやすくなります。
「痛くないから」と欠けたり折れたりした歯をそのままにしておくと虫歯になるおそれがあります。また、歯が欠けて歯の神経が露出してしまうと、細菌が入るなどして歯の神経を取らなければならなくなることがあります。
上顎前突(じょうがくぜんとつ、いわゆる出っ歯のこと)の子どもは、そうでない子どもより前歯をけがしやすいので、歯並びを治しておくことも検討しましょう。
Q:歯が黒くなっているけど、痛がらない。虫歯ではないの?
A:奥歯の上にある溝の部分や、歯と歯の間が黒くなっている場合は、虫歯を疑ってよいでしょう。保護者が目で見て、歯に穴が開いているなど明らかに虫歯だとわかるような状態は、だいぶ進行しているといえます。
「虫歯になったら、子どもが痛がるはず」と思うかもしれません。実は、乳歯の虫歯は痛くないのです。乳歯は永久歯に比べ歯質が柔らかいため、虫歯が急速に進むので、痛みなどの自覚症状がほとんどないことが多いのです。
虫歯は、目で見ただけではわかりにくい歯の溝の奥や、歯と歯の間から進行することが多いです。保護者が、見た目だけで「歯が黒くなっていないから、うちの子は、虫歯がない」と判断するのは禁物です。
幼児から小学校低学年までは、虫歯の発生率が高く、歯並びの問題が起き始めるときでもあります。歯に痛みがなくても、3か月に1度は歯科医の定期健診を受けることをオススメします。
Q:歯並びがでこぼこ。治療はできる?
A:歯並びがでこぼこしている「叢生(そうせい)」または「らんぐい歯」は、6~8歳くらいから器具を使った治療や口の機能をトレーニングするなどの治療が有効な場合が多くあります。
叢生とは、隣り合う歯がすき間なく並んでいてでこぼこしている状態をいい、子どもの歯のトラブルの約8割を占めています。原因は、生まれつきあごが狭く、歯のサイズとのバランスが合っていない場合が多いです。
歯並びがでこぼこしていると歯磨きがしにくく、虫歯や歯周病になりやすくなります。また、食事がうまく食べられない、発音が不明瞭になるなど子どもの健全な成長に関わる問題となります。
治療法には、あごの骨を広げるためにプレート型の装置を食事と歯磨きのとき以外に装着する「床矯正(しょうきょうせい)」という治療や、口の周りの筋肉を鍛える「筋機能トレーニング」などがあります。
歯列矯正というと、永久歯が生えそろった12歳くらいから行う治療を思い浮かべるかたが多いのですが、これは「第二期治療」といわれるものです。一方、「第一期治療」である小児矯正は、歯の生え替わりの時期にあごの成長を利用して骨格のバランスや大きさを整えたり、口の機能を改善したりすることが目的です。小児矯正は永久歯が生えそろう前に行う必要があります。
反対咬合(いわゆる受け口)など、一部の歯並びの異常に関しては3歳くらいから治療をしたほうがよいケースもあります。
歯の治療は大人でも怖いものです。子どもにとってはなおさらでしょう。症状が進んでしまってから歯科医院に行くと、「歯医者さんは痛い思いをする場所」「怖い場所」というイメージが植えつけられ、子どもが行きたがらなくなってしまいます。ですから、歯が痛くなくても3か月に1回くらいのペースで定期的に歯科医院へ行くようにしましょう。定期健診なら痛い思いをすることもないですし、もし虫歯が見つかっても早めに治療したほうが子どもの負担も軽くなります。子どもが怖がらずに安心して定期的に通える歯医者さんを見つけておくとよいですね。
この記事の監修・執筆者
日本小児歯科学会認定小児歯科専門医、歯学博士(小児歯科学)、日本大学歯学部兼任講師(小児歯科学)。日本歯科矯正学会会員。UCLA小児矯正歯科客員研究員。4児の父親としての経験も生かし、小児歯科専門医院キッズデンタル(東京都)では、継続管理型の小児歯科専門医療を提供している。
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