小学校の算数で教わる四則計算(たし算、ひき算、かけ算、わり算)は、日常生活で必要となる基礎知識です。大人はもちろん、多くの子どもも習得してしまえば当たり前のようにできる計算かもしれませんが、実は「どうしてそう解くのか」「そこにどんな意味があるのか」という、問題の奥にある考え方をとらえることが、とても大切です。
「問題の奥にある考え方などあるの?」と思われるかもしれませんが、ただ計算問題を解くだけでは気づきにくい、算数の本質に関わるお話です。
この考え方や意味を理解することで、算数の問題もわかるようになり、算数や学ぶこと自体が楽しくなっていきます。まずは大人が理解して、子どもとコミュニケーションを取りながら教えてみましょう。
第1回目の今回は、算数の基礎中の基礎、「数」についてです。
お話/小宮山博仁(教育評論家)
子どもには「数」の概念は難しい
「いち、に、さん、…」「ひとつ、ふたつ、みっつ、…」と数を順に言える子どもでも、たとえば目の前にある2本の鉛筆を見て、「2本」という数量と「2」という数字を結びつけて考えることをきちんとできない子どもは一定数います。
「数」は抽象的な概念なので、特に幼児や小学校の低学年のうちは、具体的な数量と数字の結びつきを理解するのは、なかなか難しいものなのです。
学年が上がって、大きな数や小数、分数、割合など、だんだん内容が難しくなってくる前に、この数の抽象的な概念を身につけておくことが、算数をおもしろいものにするために、実はとても大事なのです。
ステップ1 ものを量としてとらえ、具体的に「数」をつかませましょう
【問題】 次の絵を見てください。それぞれの果物はいくつありますか。また、どの果物がいちばん多いですか。読み方と個数を言ってみましょう。
1 りんご……[ ]、[ ]個
2 みかん……[ ]、[ ]個
3 キウイフルーツ……[ ]、[ ]個
4 いちばん多い果物……[ ]
【答え】 1 りんご…さん、3個 2 みかん…ご、5個
3 キウイフルーツ…よん、4個 4 いちばん多い果物…みかん
初めに「具体的な数量と数字の結びつきを理解するのは、なかなか難しいもの」であるとお話ししましたが、まずは、ものには量があることを知ることが大切です。その出発点が、あるものを基準にして集合を考える「なかま集め(集合づくり)」です。
「なかま集め」とは、たとえば「果物を集めてみよう」と言ったら、りんごやみかんなどを同じ集合とみなして集める作業です。もしその集合に犬や鉛筆が入ったらおかしいと考えなければなりません。私たちは、数をかぞえるときの暗黙の了解として、必ず同じ集合(なかま)の中でかぞえています。それは違う集合のもの同士はかぞえないという原則があるからです。外遊びをたくさんしている子どもは、果物、虫、動物などの集合の区別が自然にできてきます。また、家庭でもトランプで七並べなどのゲームをすると、集合の区別がすぐにできるようになるので、ぜひ幼いうちから生活の中に「遊び」をどんどん取り入れてください。
「なかま集め」ができるようになったら、果物のような具体的なものを使って、数量と数を結びつける練習をしましょう。果物のような、身近で「1個、2個、…」とかぞえられるものだと、具体的な数量のイメージをつかみやすいです。
お子さんが数に興味を持ったら、本やペンなど、ほかのいろいろな身の回りのものを使って「いくつあるかな?」と数をとらえる練習をするといいですね。
ステップ2 トランプを使って、数量と数字を結びつけてみましょう
【問題】 次のトランプの絵を見てください。上と下では、どちらのトランプが多いですか。またそれぞれいくつありますか。トランプの数を表す数字も答えましょう
【答え】 多いトランプ……下
上のトランプ……ろく、6 下のトランプ……なな、7
具体的に「数」をつかませたら、次は数量と数字を結びつける作業をしてみましょう。
絵にあるようなトランプは、先ほどの果物やペンなどの具体物に対して「半抽象物(半具体物)」と呼ばれています。ほかにもおはじきやタイルも半抽象物に当てはまります。
まずは、この半抽象物を使って、量の大小を比較します。半抽象物を使って考えることで、より数を視覚的にとらえやすくなり、数の概念を理解しやすくなります。
上のトランプの場合、上と下でどちらの量が多いかがわかると、抽象的な数字である6と7ではどちらが多いか(大きいか)がわかるようになります。
「数(数字)には量がある」ということがつかめれば、たし算やひき算の意味もすぐ理解できるようになります。
ステップ3 数字だけで「数」をとらえてみましょう
【問題】 次の2つの数字で、大きいほうの数を選びましょう。
① 2 5
② 9 7
③ 6 8
【答え】 ①……5 ②……9 ③……8
最後は、数字だけを見て、数の大小を判断させます。まだ数字だけで数の大小がわからない場合は、トランプやタイルなどを使って、実際に並べていっしょにかぞえてみましょう。そして「今かぞえた個数を表す数字はこれだよ」と数字を示して確認しましょう。
さて、幼くても数を100まできちんとかぞえられるお子さんはたくさんいると思いますが、単に数を順番に暗記しているだけだと、量としての数の意味がわからなくなってしまうことがあります。数には、「りんごが2個」のようにものの量を表す意味と、「前から2番目に並ぶ」のように順番を表す意味があります。量を表す数はたし算やひき算ができますが、順番を表す数では計算はできません(「1番目+2番目=3番目」という計算は成立しませんよね)。
量と順番の意味を混同させないように気をつけてください。
いかがでしたか? お子さんによって、数の概念がすぐつかめる子、なかなかつかめない子といろいろです。焦らず、楽しく数に触れさせていきましょう。
この記事の監修・執筆者
こみやま ひろひと/1949年生まれ。日本教育社会学会会員。放送大学非常勤講師。2005年より学研グループの学研メソッドで中学受験塾を運営。学習参考書を多数執筆。最近は活用型学力やPISAなど学力に関した教員向け、保護者向けの著書、論文を執筆している。
主な著書・監修書に『子どもの「底力」が育つ塾選び』(平凡社新書)、『はじめてのアクティブラーニング社会の?<はてな>を探検』全3巻(童心社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 数と数式の話』(日本文芸社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 数学の定理』(日本文芸社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 統計学の話』(日本文芸社)、『大人に役立つ算数』(角川ソフィア文庫)、『危機に対応できる学力』(明石書店)など多数。
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