【精神保健福祉士・監修】「ゲーム依存」は子どもからのSOSサイン!~親子間の“安心感”が大切なカギ ~

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【精神保健福祉士・監修】「ゲーム依存」は子どもからのSOSサイン!~親子間の“安心感”が大切なカギ ~

「いくら注意しても叱っても、ゲームをし続けるうちの子はダメな子なの…?」
「どうしたらやめさせられるの?」
そんな悩みをもつママパパはいませんか?

ゲームに依存するのは、ダメ人間だからでも、心が弱いからでもありません。
学校や家庭、対人関係でのストレスや不安を一時的にでも緩和し、お子さんの心を支えてくれる居場所になっているのかもしれません。

今回は、『ゲーム依存からわが子を守る本』(大和出版)の監修者であり、ゲーム障害やネット依存に悩む多くの子どもたちや家族の相談・支援、家族教室を行っている、八木眞佐彦先生に「ゲーム依存」について詳しくうかがいました。

お話/八木 眞佐彦(精神保健福祉士・社会福祉士)

目次

“ゲーム依存”を正しく知ろう!

子どもが抱えるつらさの「よりどころ」

ゲーム自体は、決して悪いものではありません。

家庭や学校など、どこかの環境で葛藤を抱えていて、ゲームに没頭することでそれを一時的にでも緩和・解消しようとしている、当たり前の人間の反応なのです。また緊張感の強い時期のお子さんにとっては、ゲームが大切なコミュニケーション補助ツールとなっていることもしばしば。

では、どのようにしてゲーム依存は始まってしまうのでしょうか?

“ゲーム依存”はこうして始まる

つらさを緩和するための依存行為

ゲーム依存は、学校や家庭など、お子さんの身の回りの環境に対する「不安」や「つらさ」を、しばらくの間軽減してくれる効果を感じることから始まります。これを「自己治療効果」といいます。

依存行為が始まる「つらさの要因」の例として、

  • 親の過干渉
  • いじめ
  • 両親の不仲
  • 教育虐待(周りの大人の一方的な期待を子どもに背負わせ、思う結果が出ないと厳しく叱責を重ねてしまうこと)
  • 感覚過敏(音や光、匂い、肌触りなどに敏感なために感じる苦痛)
  • 発達障害(基本は遺伝。二次障害を生じさせないマネジメントが肝要)

などといったケースも少なくないといわれています。
また、お子さんや配偶者を決してほめない、優秀な兄弟姉妹と比較する、価値観を押しつけるなど家庭内にモラルハラスメントが存在する環境も、ゲーム依存に陥りやすくする誘因に。

このような場合、愚痴をはき共感してくれる友だちがいたり、寄り添ってくれる家族がいたり、といった安心感を補える環境があればよいのですが、まじめで抱え込みがちなお子さんは「依存」することによって解消するしか手段がなくなってしまうことが多いのです。

② だんだんと効果が得られなくなる

孤立状態や、自己肯定感が低下した状態のままで、ネットやゲームにのみ自己治療を求めていると、心身ともにその刺激に慣れてしまいます。やがて、当初の「時間」や「金額」では効果を得られなくなってしまい、これが依存傾向の経過として見受けられるようになります。

③ 依存が加速し、コントロールができなくなる

ゲームの時間が増えたり、おこづかいの範囲を超えた額をつぎ込んだりしても、本質的な問題の「不安」「つらさ」は存在したまま。加えて、孤立状態になったり、またゲームしているのか! などと批判を受けたりしてしまうと、一層にゲームに依存するしかなくなってしまいます。これを「コントロール障害」といい、他の依存症でも診断の目安となっています。

いずれの段階においても、パパママや学校の先生など周囲の大人が、
「生きのびるためのアディクション(依存)」が必要となるようなできごとが、家庭や学校であったのかも?
と振り返ってみる心の余裕の回復が必須といえるでしょう。

親子で振り返りたい「依存度チェックテスト」

Q1.ゲーム(ネット)に夢中になっていると感じますか?
たとえば、最近したゲームのことを考える、次にアクセスするときをワクワクして待っている、といったことが多くありますか?

Q2.満足感を得るためには、ゲーム(ネット)を使っている時間をだんだん長くしていかなければならないと感じていますか?

Q3.ゲーム(ネット)使用を制限したり、時間を減らしたり、完全にやめようとしたが、うまくいかなかったことがたびたびありましたか?

Q4.ゲーム(ネット)の使用時間を短くしたり、完全にやめようとしたとき、落ち着きのなさ、不機嫌、落ち込み、またはイライラなどを感じますか?

Q5.初めに意図したよりも長い時間、ゲーム(ネット使用)をしていますか?

Q6.ゲーム(ネット)のために、大切な人間関係、仕事、教育や出世の機会を棒に振るようなことがありましたか?

Q7.ゲーム(ネット)のハマり具合を隠すために、家族、治療者や他の人たちに対して嘘をついたことがありましたか?

Q8.問題から逃れるため、または絶望的な気持ち、罪悪感、不安、落ち込みといった嫌な気持ちから解放される手段としてゲーム(ネット)を使いますか?

参考:「Young K.S. CyberPsychology and Behavior.1:237-44,1998」

上記の設問のうち5項目以上当てはまる場合、「ゲーム依存(インターネット依存)」の傾向があるといわれています。

しかし、依存傾向に陥ってしまうのはお子さん自身に問題があるのではなく、家庭や学校など、お子さんの身の回りに「つらさの原因」が存在していて、「自分の身を守る」防衛本能のため。 一度、親子で振り返っていっしょに「つらさの根源」を見つけて依存を緩和・解消していく必要があります。

“ゲーム依存”を予防する大切な4つのこと

【その1】親子間の「安心感」をたっぷりと満たすこと

親も子どもも、どちらも「安心感」で心を満たすことが、いちばん大切。

なぜなら、お子さんがゲームのみに救いを求めているときに孤立感、自己否定感を抱えているのと同じように、大人側もまた「ゲームをやめさせなきゃ」「成績が悪いのはゲームのせいだわ」と孤立感や自己否定感を抱えています。特に、多忙でお子さんに寄り添う余裕がない親御さんほど「正しいこと」で頭がいっぱいになり、つい「ダメじゃない」「早くしなさいよ」「〇時までに宿題終わらせないとスマホ取り上げるからね!」などと責めてしまい、依存のニーズを増大させる言動に陥りがちです。

「こんなふうに育ってほしい」「そのためにはこうしなきゃ!」という大人側の願いでいっぱいになっているのは、ママパパ自身が、祖父母からの期待をはじめ、何かを背負いすぎて疲れているサインかもしれません。

お子さんに「物足りない視線を送る」ことを、勇気をもって卒業してみれば、きっと“わが子のいいところ”、そして“ご自身のいいところ”が少しずつ見えてくるはずです。そうして、お子さんといっしょに小さなハッピー体験を積み重ねていきたいですね。

【その2】「ゲームのお約束」は、ゲームを遠ざけるためではなく“子どものため”の約束に

ゲームについての約束ごとを決めるとき、子どもをゲームから遠ざけるための、親の一方的な約束になってしまうことは避けたいですね。大切なのは、本当に子どもを思っているかということ。

「ゲームがあなたにとって大切な世界なのね」ということをよく理解した上で、お子さんといっしょに約束をつくっていきましょう。

たとえば、ゲームに没頭し、思いきり集中したあとは疲れが出ます。疲れきってしまうまでとことん集中することをも否定するのではなく、「すごい集中力だね!」とほめながら「でも、過集中くんだから、お休みも必要だよ。うちは5時までにしようか」などといったように、ゲームはお子さんに寄り添い励ましてくれるツールであるという視点が何よりも重要です。

しかし、到底守れないような約束は禁物です。
なぜなら、無理にゲームを遠ざけることは、お子さんが抱えている葛藤を処理する術を奪うことにつながるから。抜毛や爪を剥く、リストカットなど、さらになる事態の悪化につながりかねません。

また、約束を守れなかったときにこそパパママが「共感者として存在」することも予防・回復のポイントです。
「ちょっとがんばりすぎたかな~」
「好きな友だちとの交流でも、ずっと集団行動だとちょっと緊張疲れするもんね~」
「あれ? またパパママにちょっと過干渉スイッチが入っちゃったかな~?(笑)」
このようにいっしょに振り返り、寄り添っていくやりとりを生むための約束でありたいですね。

【その3】「適性」を見抜くことも大切

ゲームで多くの達成感を得られるお子さんは、空間認知力や計算のスピードなどが神業的に早いことが多いです。その能力を、押しつぶしてはいけませんね。

また、よかれと思って親が一方的に習いごとに通わせる、お受験を仕向けることなどもお子さんにしてみれば「自分の人生という実感」がわかず、その不全感から「依存」に近づいてしまいます。

お子さんの適性や能力をよく見て、大切にしてあげる関わりがしたいですね。

【その4】“何気ない楽しい雑談”を忘れないで

ひとつは、家庭内に些細なことでも「ありがとう」の言葉が自然に増えてくることが大切。

毎日いっしょに暮らしていると、いろいろなことが当たり前になってしまい、夫婦間、親子間でもお互いのよさを見失いがちなのです。そこで、
「食器を下げてくれてありがとう」
「きれいに食べてくれてうれしい!ありがとう」
「おいしいごはんを作ってくれてありがとう」
と意識して伝えてみれば、お互いを認め合うきっかけがたくさん増え、家族全体の自己肯定感も少しずつ満たされていくはずです。

また、あえてお子さんのスマホやタブレットなどの構造や操作方法の知識に頼ってみるのも手です。「へ~すごいね~物知りさんだね~!」などの言葉が出やすいチャンスです。

こうして、お互いの安心したムードを共有していくことを積み重ねていけば、小さなSOSも発信しやすく、受けとめやすくなるのです。やがて言葉を交わさずとも、皮膚感覚で分かることができるでしょう。

これは、「Community Reinforcement And Family Training」、略称を「CRAFT」というご家庭の信頼・安心といったものを補っていく家族向けのトレーニングのひとつ。①子や配偶者をコントロールしないこと、②パパママ自身が無理なく変わること、➂正論で迫ることは事態をこじらせ長期化を呼ぶのでやめてみること、④言い換え・ポジティブコミュニケーションを積極的にしてみること、を基本姿勢としています。ご家庭で取り入れてみるのもよいですね。

八木先生からのメッセージ

ゲーム依存・不登校の相談では、家庭環境に多くの共通点が見られます。親子ともに知的に優れ、しかしやや過集中(親世代は過熱したお受験、お子さんはゲーム)、こだわり(勝たないと不安etc)などの傾向が強く表れます。さらに、親御さんも過干渉や教育虐待に近い成育歴を持つこともとても多いのです。

特に、第一子や家系に強い系協力を持つ祖父母にとっての初孫さんなどに対して、よかれと思って過剰なお受験、多数の習いごとをあてがいすぎるなどの家風が強かった例が多いことも知っていただきたい点です。

たとえば、パパさんが仕事依存気味で、ワンオペ育児を余儀なくされたママさんはついお子さんの先回りをして過干渉に。このような家族像はお子さんが「大人になっても幸せにはならない」などと誤解し、居場所や承認欲求、達成感をゲームだけに求めてしまいがちです。

日々の相談業務や家族教室運営経験から、仕事依存、過干渉(共依存の一種です)、ゲーム依存の根っこには「安心感の枯渇」があるように感じます。

 そこで親にできるのは、子どもを変えよう、ゲームやスマホから遠ざけようと躍起になることではなく、ゲーム依存気味・行き渋りなどは「お子さんのSOS」だけではなく実は「家族機能のSOS」である、と受けとめる勇気を持ってみることといえるでしょう。

 お子さんからSOSが発信されたらご家庭だけで解決しようとせず、まずは親御さんご自身が安心感の枯渇を緩和するために、専門の相談や同じ悩みを持つご家族どうしの集まりなどとつながってみましょう。誰かに助けを求めることができる親御さんのしなやかな後ろ姿は、きっとお子さんも葛藤を抱えたまま孤立することを避けるようになる=ゲーム依存へのニーズが下がることでしょう。

―ゲーム依存にも、行き渋り・不登校にも「生きのびるための意味や意義」があることを理解し、わが子を信じて待てる親御さんの存在は予防・回復のために極めて有効である。

これは、依存から回復した親子から教わった大切なことです。ゲーム依存の予防にガマンやコンジョウといったものは逆効果。効果的なのは親子ともに安心感を積み重ね、気軽に助けを求められること。これは一生役立つ、生きるためのテクニックともなるでしょう。

この記事の監修・執筆者

精神保健福祉士・社会福祉士 八木眞佐彦

周愛巣鴨クリニック部長。ゲーム障害・ネット依存家族・お子さんの個別相談及び家族教室を継続して担当。支援者へのスーパーバイズのほか、ゲーム障害・ネット依存に関する取材対応及び自治体、学校など主催の講演多数。『ゲーム依存からわが子を守る本』(大和出版)を監修している。

周愛巣鴨クリニック
https://shuai-toshida.jp/shuai-sugamo/

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