字に関するお悩みは、大人になってからもいろいろな場面でつきまといます。だからこそ、我が子にはきれいな字を書けるようになってほしいと思うのが親心。そのため、「きれいに書きなさい!」とついつい口うるさく注意してしまいますが、なかなか効果があらわれず…。そんな保護者の悩みを解決するべく、書写書道教育の研究者であり、書家の青山浩之先生にうかがいました。
イラスト/石崎伸子
「字をきれいに書く」ということ
字をきれいに書くには、目的と相手を意識することが大切。ことばには対象があって、多くの場合、何かを伝えたいから存在するもの。つまり、文字も人や文化、社会とつながりあうためにあるものなのです。読む人が「丁寧に書いてくれたな」と心地よくなってくれれば、書いた人もうれしくなる。つまり、書いた文字は自分に返ってきます。「丁寧に書けた」「書いたことが伝わった」という喜びが「きれいに書こう」という気持ちにつながるのです。
大人目線で「将来、字がきれいなほうが印象がよい」「書類を書くときなどに、字がきれいだと恥ずかしくない」などという理由で、子どもに字をきれいに書くよう促すことが多いかと思います。確かに文字は自分を表すものですが、小さいお子さんにはピンときません。
やはり、自分の気持ちを丁寧に書いたものが相手に伝わり、ほめてもらえた、喜んでもらえたという経験の繰り返しが「字をきれいに書きたい」という気持ちへの動機づけになるのではないでしょうか。
ITが発展しても、手書きはなくならない
学校の授業などでも、パソコンやタブレットが導入されて、子どもたちが紙とペンを持つ機会がへってしまうのではと危惧されています。しかし、私は紙とペンの文化はなくならないと思います。
たとえば、急に何かをメモするときは、やっぱり紙とペンが便利ですよね。また、手書きのぬくもりはデジタルの文字にはない良さがあります。
手を動かして文字を書くことの大切さを、わたしたちは忘れてはいけないし、そのほうが便利なときは、まだまだたくさんあります。デジタル文字に変換したほうがよい場合と、手書きのぬくもりを残しておいたほうがよい場合があるので、子どもたちにも、そのTPOを伝えていけるとよいですね。
きれいなひらがなを書くコツ
ひらがなは、6種類の外形に分けられます。「外形」とは、文字の外側を線で囲ったときの形です。
- 横長の長方形(い・せ・つ・ぬ・へ)
- 縦長の長方形(う・き・く・こ・し・そ・ち・ま・も・よ・ら・り・を)
- 正方形(お・け・た・と・な・に・ね・は・ひ・ほ・む・れ・わ)
- 三角形(あ・え・ふ・み・る・ろ・ん)
- 逆三角形(か・さ・す・て・や)
- 丸形(の・め・ゆ)
一つひとつのひらがなを、それにふさわしい外形に当てはめて書くと、きれいな字を書きやすくなります。
きれいな漢字を書くコツ
人は文字を見るとき、文字の線だけを見ているのではなく、まわりの空間も含めて認識しています。だから、線と線の間の空間がいびつだと、不安定に見えてしまうのです。漢字を書くときは、隣り合った線と線のすきまを均等にすることがポイント。私はこれを「すきま均等法」と名づけていますが、少し意識するだけで、文字はかなり安定します。
練習する際のノートの上手な使い方
小学校低学年で使う国語のノートは四角いマス目が入っています。初めのうちは、保護者がそのマス目に合わせて6種類の外形をうすく引き、子どもがひらがなを書く練習をするとよいでしょう。子どもは形を楽しみながら練習します。
文字をきれいに書くことに慣れたら、次は「配列」を意識しましょう。一つひとつの文字はきれいに書けていても、文字の並びがゆがんでいると不安定に見えてしまいます。マス目や罫線のない場所に書いてもゆがまないようにする練習が必要です。そこで、ノートの罫線を利用してみましょう。罫線の間に書くのではなく、罫線の上に書きます。一つひとつの文字の中心を罫線の上に合わせる気持ちで書くと安定します。そして漢字よりもひらがなを少し小さめに書くとさらに整って見えます。
正しい姿勢とペンの持ち方は、字を書くときの基本
きれいな字を書くためには、正しい姿勢とペンの持ち方が欠かせません。姿勢や持ち方がよいと、楽に書き続けられるため、学習にも影響が出てきます。あらためて確認してみましょう。
きれいな字を書くための心がまえを始め、ひらがなや漢字を美しく書くための具体的なコツを丁寧に教えていただきました。 年始に向けて、小学校でも書き初めの練習が始まります。子ども自身が楽しく文字を書くことができるように、まずは、家庭でできることから始めてみませんか。
この記事の監修・執筆者
あおやま ひろゆき/書写書道の研究・教育者であり、書道家。
「美文字王子」の愛称で知られ、
テレビ番組や書籍、講演などを通じて、
美文字の普及に取り組んでいる。
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