【専門家監修】「困っている」と言える子にするために

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【専門家監修】「困っている」と言える子にするために

小学校生活がスタートすると、保護者は“我が子は学校でのびのびと過ごしているのか”が気になるもの。特に、困ったときに誰かに助けを求められるかどうかで、学校生活が変わります。そこで、保護者として子どもに「困ったときに助けを求める」手立てをどう伝えるとよいかを、東京家政大学児童学部准教授の前田和代先生にうかがいました。

目次

小学生になって、子どもが困る場面は?

全体的に、園と学校では生活リズムが違うので、最初はとても戸惑うでしょう。5~6歳児は自分のことは自分でできるし、わからないことを聞くこともできます。しかし、6年生までいる環境への変化(今までは自分たちがいちばん年長だったのに)は緊張感が伴います。

生活していくうちに、少しずつ慣れていきますが、以下の4つのポイントで戸惑うことがあります。

先生に対して

声をかけるタイミングや伝え方がわからない 

授業中は園での遊びや活動と雰囲気が違うので気楽に質問できない子どももいるでしょう。もちろん、小学校の先生方も配慮していますが、やはり、子どもたちが椅子に座って授業を受けているので、気軽に質問できないのです。

距離を感じてしまう 

園では保育者がクラスにいつもいっしょにいますが、小学校の先生は授業ごとに職員室に戻るので、初めは不安に思うことも。最初は、休み時間も多少教室にいることもあるようですが、ずっと子どもといっしょにいるわけではないので、距離を感じてしまう子もいるようです。

教室の環境に違和感

園では1つの机に数人で座ることが多く、いつも友だちと顔を見合わせていましたが、小学校では1人ずつの着席、しかもみんな同じ方向を向いている環境です。そのため、友だちといろいろなことを共有するのが難しいかもしれません。

時間割のこと

時間割によって、行うことが決まっています。これにより、気持ちの切り替えが難しい子どもは戸惑い、困りごととなります。また、休憩時間にトイレに行くなど、合理的に動くことも必要です。園ではある程度自由に行動できますが、小学校では基本的に休み時間にトイレに行くので、慣れるまでは難しいかもしれません。また、次の授業の準備、たとえば、教科書の用意なども、身支度や気持ちの切り替えが苦手な子どもにとっては、バタバタしてしまいそうです。これに教室移動も加わると…。

給食のこと

まず、時間が短い!とくに食事がゆっくりの子どもにとっては急いで食べないと!と困りごとになります。残したいけれど、どうする?もっと食べたいけれどおかわりできる?など些細なことでも「どうしよう?」と考えるでしょう。

引っ込み思案でもともと意思表示が苦手な子が、「困った」を言えるようになるには?

もともと意思表示が苦手な子に、保護者として気をつけたいことは、絶対に圧をかけないこと。家庭でも意思表示が遅いと、保護者が先回りして子どもの思いを決めつけていませんか? そうすると、子どもが自分で発信する機会を奪われてしまいます。子どもの引っ込み思案を保護者がマイナス面ととらえてしまってはいけないのです。

実は、引っ込み思案の子は周りをよく見ています。そのぶん、じっくり考えて行動できるということです。保護者は、子どもが今どうしたいのか、何に困っているのかなど、子どもの思いを丁寧に受け止めていきたいもの。

「〇〇ちゃんはどうしたい?どう思う?」など、気持ちをさりげなく聞きましょう。そして、その応答には「そうなんだね」とうなずいたり、子どもが言ったことを繰り返したりして、受け入れられたという実感をもてるようにしましょう。うまく話せない場合も、しつこく尋ねることはせず、たとえば、「ママはこう思うよ。〇〇ちゃんはどう思う?」「○○ちゃんの気持ちを教えて」というように保護者が自分の思いを伝えると、子どもが自分の思いを考えるヒントになります。自分の思いを言葉で表現する機会をつくるのです。

うなずいたり首を横にふったりというしぐさも子どもの意思表示です。それを保護者が「いやなの?」と代弁しましょう。その都度、子どもの気持ちを尋ねる機会をもちましょう。答えるのが難しい場合は、どっちがいい?と選択肢を話してもよいですね。自分の意思が相手に伝わった、という経験を重ねると、徐々に意思表示ができるようになるでしょう。

完璧主義で弱音をはくのが嫌いな子が「困った」を言えるようになるには?

認められたいという思いが強く、他者の評価が気になるのかもしれません。保護者は子どもの姿を見て「できたね」「上手だね」という言葉だけでなく、子どもの具体的な取り組み、過程を言葉で伝えていきましょう。たとえば「正しい答えが言えたね」ではなく「ひらがなをたくさん書いて、がんばったね」です。他者評価ではなく、自己評価ができるようにし、自己肯定感を高められるような関わりをすることが大切です。

また、周りの大人がだめなところを見せるのも効果的。「ママ、こんな失敗しちゃった」「パパは○○がうまくできなくて。でも、ママに聞いて、教えてもらったからできた」など、大人が自分のことを素直に話す機会をもちましょう。これらの対応で、子どもも「なんだ、それでもいいんだ」と楽になり、「困った」ことを口にできるようになっていくでしょう。

また、このような子どもは、本当にまじめにがんばってしまうので、そんな自分に苦しくなったり、追い込まれたりしてしまいます。様子を見て、「ちょっと休憩、ママとおやつにしよう」と言ったり、いっしょに入浴したりするなど、気持ちを話しやすい環境をつくってみましょう。

「困った」と素直に言えなくなってしまう?! 子どもの気持ちを傷つけるNGワード

子どもが困ったことを素直に言えないとき、周りの大人に原因があるのかもしれません。

たとえば、テーブルの上のお茶をこぼしたとき、「どうして!」と責められても、本人も答えようがありませんよね。失敗はその後が大切です。まずは「テーブルを拭きましょう」と伝え、それから「どうすればこぼれなかったかな」などと、次につながる言葉をかけましょう。保護者がつい責めたり問い詰めたりしてしまったときは「そういえば…ママもある。そのとき、こうした」などと自分のことを話しましょう。追及しすぎは追い詰めるだけで、解決にはなりません。

また、「○○ちゃんのほうができる」など、他者と比較する言葉もNG。課題があれば、「○○が難しかったね」「○○はがんばったね、△△はもう少しこうするとよいかもしれないね」などと、いっしょに解決していく手立てを考えることが大切です。

大人が決めつけた価値観で子どもを見ることも危険です。子どもがうまくできないことがあったとき、いつのまにか「この子は神経質だからこうなんだ!」などと思っていませんか? これでは課題の解決にはならないのです。

反対に、意味のない肯定表現ばかりを繰り返していても子どもを追い込んでしまいます。毎回「上手」「良い子」とばかり言われていると、子どもは良い子でいなくてはいけないと思い、困りごとをはき出せなくなってしまうのです。認めるときは、子どもの人格や出来不出来ではなく、起きた事象について具体的に表現しましょう。

「困っている」と言える子にするために

「困っている」と言えるようになるために必要なことは、練習ではなく「意識」。日ごろの親子の会話や関わりの積み重ねが大切です。伝えたいことがあったときに伝えられることが、これから子どもが生きていくうえで必要な力です。そのためには、日ごろから「待つ」ことができる保護者になることです。そして保護者自身が、常に自分はどう思っているのかを伝え、「○○ちゃんはどう思う?」と子どもに意見を求めます。そうすると、子どもも「自分はこう思っている」と考えていることを言葉にするようになるでしょう。意見を伝え合う機会をもつと、その意見の中には困りごともあるはずです。

子どもが困りごとを素直に周りの大人に言えるためには、周りの大人が子どもを一人の人として関わることです。大人の価値観や先入観で話すのではなく、対等に話す意識をもつことが大切です。もちろん、子どもの経験はとても少ないですが、少ないなりに、いろいろなことを考えているのです。保護者はそれらを言葉にする機会を奪わず、受け止めてください。すぐ言葉にできる子どももいれば、じっくり考えてから発する子どももいます。大人が「待つ」ことは、子どもにとっては、安心や信頼につながります。困ったことを言葉にし、助けを求めることができることは、生きていくうえで必要な力です。大人も子どもも、同じ人間として、思いを伝え合い、共有し尊重し合う関係を築いていきたいものですね。

この記事の監修・執筆者

元幼稚園教諭 前田 和代

東京家政大学児童学部児童学科准教授。専門は幼児教育学、保育学。特に子どもの遊びや保育環境に関心があり、保育者だったときから子どもの遊びのおもしろさ、そこで育つ力のすごさを実感している。

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