今、子どもの視力低下が問題になっています。低年齢で近視を発症する実態やその原因などを、子どもの視力低下に詳しい、東京医科歯科大学の五十嵐多恵先生にうかがいました。
イラスト/種田瑞子 文/こそだてまっぷ編集部
小学1年生の約4人に1人が裸眼視力1.0未満
文部科学省の調査(*)によると「裸眼視力が1.0未満」の子どもは、小学1年生の約4人に1人、小学6年生では約半数、中学生になると6割を超え、この数字は調査を開始以来約40年間で過去最高です。子どもの視力が低下している状況は、日本だけではなく世界的な傾向でもあります。
注目すべき点は、近視の発症の低年齢化です。就学前の子どもが近視を発症すると、近視がどんどん進行し、強度近視など重症化するおそれがあります。
日本では「視力が低下しても、メガネやコンタクトレンズを利用すれば見える」として、これまで近視を重要な問題として認識してきませんでした。しかし、たとえ軽度でも近視の人は将来、白内障や網膜剥離に罹患するなど視覚障害になるリスクが高まることがわかってきて、対策が急がれています。
もし、お子さんが園や学校の視力検査で0.3以下と判定されたら、中程度や強度の近視の可能性もありますので、眼科医に相談しましょう。
*2021年度学校保健統計調査より
デジタル端末機器の長時間使用に注意
子どもの近視が増えている原因としては、まず「近業の長時間化と学習環境の変化」が挙げられます。
近業とは、手元など近い所を見続ける作業のことです。画面と目の距離が近い近業を長時間続けることで近視のリスクが高まります。タブレット学習に限らず、紙と筆記具を使った学習でも、短い視距離で長時間続けることは問題です。
スマホやタブレット、携帯ゲーム機などの普及で、子どもたちの生活にもデジタル端末機器は欠かせないものとなってきました。また、文部科学省のGIGAスクール構想のもと“子ども1人1台端末”時代を迎え、学校でのタブレット学習も浸透しています。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響で、自宅待機を強いられた子どもたちがオンライン授業を受けたり、タブレット学習を行ったりしたこともあって、近業がより長時間化したなど学習環境の変化も原因の一端と考えられます。
子どもがスマホやタブレット、携帯ゲーム機などを使用する際は、保護者が適切な使い方を伝えることが大切です。
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近視の原因には、屋外活動時間の減少も!?
お子さんは、最近外で遊んでいますか? 最近の研究で、近業時間が長く、屋外で過ごす時間が短い子どもほど近視になりやすいということがわかってきました。近視の子どもは、日本だけでなく、シンガポールや台湾などの東アジア各国でも増加傾向にあります。そこでシンガポールでは、子どもの近視を防ぐために屋外活動を促すという国策に取り組んだところ、子どもの近視の抑制に一定の成果を得ることができました。台湾でもプレスクール(未就学児対象の保育施設)で、子どもたちに1日2時間程度の屋外活動をさせることで、早期の近視発症を抑える効果があったと報告されています。
このようなことから、日本眼科医会でも、子どもに1日2時間程度の屋外活動をすることを推奨しています。
そもそも、近視とは?
ここで、近視のメカニズムを紹介します。近視とは、遠くが見えにくくなる状態をいいます。
目の表面にある角膜から、目の奥にある網膜までの眼球の前後の長さを「眼軸長(がんじくちょう)」といい、眼軸長が正常だと、外から入った光は網膜の上できちんとピントが合い、近くも遠くもよく見えます(正視)。ところが、眼軸長が長くなり、眼球の奥行が伸びてしまうと、ピントが網膜より前で合ってしまい、近くは見えるけれど、遠くが見えなくなります。これが「軸性近視」です。日本の子どもが発症する近視の約9割が、この軸性近視です。
うちの子、もしかしたら近視かも? おうちでチェック
近視を防ぐために、日ごろから子どもの目の見え方を確認しましょう。たとえば、子どもといっしょに外出したときなどに、遠くの看板などを見て「なんて書いてあるか、見える?」などと声をかけて、子どもの見え方を確認するとよいでしょう。
次のような言動は、近視が始まっているサインかもしれません。
《子どもの近視サインチェック》
□テレビなどを見るときに目を細めている
□テレビなどに近づいて見る
□本を近づけて読んでいる
□「学校の黒板が見にくい」と言う
上記に該当する場面があったら、眼科医に相談しましょう。小児眼科でもかまいませんが、近視外来のある眼科や近視を専門とする眼科医のいる医療機関があれば、そのほうがよいでしょう。
低年齢で軸性近視になると、強度近視に進行する可能性が高く、強度近視になると眼軸長は一生伸び続けることがわかっています。そうなると、将来、網膜剥離や緑内障などの目の病気になるリスクが高まります。一度伸びてしまった眼軸は、短くすることができません。低年齢の時期だからこそ、保護者は、子どもが近視にならないように予防対策に取り組むことが大切です。
この記事の監修・執筆者
金沢大学医学部卒業。東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科病院網膜フェローを経て2019年から現職。子どもの視力低下や近視の進行予防についての研究を行っている。
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