大きな災害を重ねるたびに被災地へのさまざまな支援がなされてきました。そんな中、今とても注目されているのが、被災者の❝心のケア❞です。《知識編》では、被災地で傷ついた子どもの心の反応や、脳の状態についてお伝えしました。
この《実践編》では、さまざまな災害現場にも入り、被災した子どもたちの心のケアに携わってこられた臨床心理士で公認心理師の本田涼子先生に、実際にどのように子どもと関わっていけばよいかというケアの方法と、気をつけておきたいことについて話を伺いました。
取材・文/細川麻衣子
傷ついた子どもとの関わり方で最も大切なこと
災害で被災し、つらい体験をした子どもとの関わりで大切なことは、少しでもより多くの安心感と安全感を取り戻すこと。これが一番のカギになります。
災害後、大人はやらなければならないことがたくさんあるので、本当に忙しく、そして余裕も無いので無理は禁物です。ただ、子どもとの関わり方として❝安心・安全❞ということを、子どもが感じられるように接することを心がけられると良いでしょう。
↓子どもの心のケアをするとき、まず大人が知っておきたいことはこちら↓
【被災者の心のケアに携わる臨床心理士に聞く】《知識編》傷ついた子どもの心のケアで「まず大切なこと」
小さなことからひとつずつ実践していきます。
例えば――
●朝起きてギュッとハグをしたり、背中にちょっと手を当てたりしてあげる
●目と目を合わせてお子さんが安心するような言葉を伝える
●穏やかな声で話しかけたり返事をしたりする(急いで何かをしなければいけない時でも)
など
どれも、なにげないやりとりですが①穏やかな表情で②アイコンタクトをとりながら③優しい声で④共感する(気持ちの受け止め)。被災後の大変な状況の中では、余裕はなく、このように接することはなかなか難しいと思いますが、少しでもこのような接し方が実践ができると、子どもにとっては大きな安心感につながります。
子どもにこう接することで、「あなたは大切な存在だよ」「あなたに関心があるよ」「あなたの話を聞くよ」というメッセージを伝えることが出来ます。このように子どもが実感できれば、次第に自分の気持ちや行動を、自ら整えていくことができるようになります。
遊びを通した心のケアは❝2通り❞
子どもの心のケアのための関わりは以下、2通りあります。
①構造遊び――大人から「こういう遊びをしてみよう」と提案する遊び――
【遊びの例】
◆❝ペンギンさんのマネ❞をして肩を動かしてみよう!
肩を上下に動かしていっしょに運動を楽しむ
◆ヨガの猫のポーズをとってみよう!
背中など体全体を伸ばしてストレッチをいっしょに楽しむ
◆イメージ呼吸法
「息を吸いながら太陽の光がいっぱい身体に入ってくるのを想像して、息を吐くときは嫌な気持ちを身体から出していこう」と呼びかけ、イメージしながら深呼吸することでリフレッシュをはかる
◆シャボン玉を吹く
いっしょに吹いて楽しみながら、深呼吸の代わりにもなる
など

このような❝構造遊び❞は、つらい体験のあとの反応を緩和させ、人とのつながりを再び感じることで安心し、適切な対処方法を身に付けるために役立つ遊び方です。
②自由遊び――子どもが自主的にする遊び――
【遊びの例】
◆ごっこあそび(おままごと、〇〇やさんごっこ、災害ごっこなど)
◆お絵描き
◆積み木やパズル

自由遊びは、その子の持つ強みや持ち味が生かされます。遊びの中でつらい体験を表現することで、体験を整理・理解し、感情や思いをあらわすことができます。これを重ねていくと、次第にコントロール感を取り戻し、つらい体験を乗り越えていくことができるといわれています。
子どもの遊びに寄り添うときのポイント
子どもの遊びに関わるとき、次の点を気にかけながら関われるとよいでしょう。
【子どもの遊びに寄り添うときのポイント】
①子どものペースで遊ばせる
②遊びを眺めるのでは無く見守る(様子・表情はよく見る)
③遊びへの相づちとして❝実況中継❞をする
「青い色がいっぱいだね」「電車が前に進んだね」など
④気持ちを言葉にする
「なんだか楽しいね」「寂しくなっちゃったね」「怖いって感じだね!」など
子どもは遊びの中で、つらい体験を表現します。大人が思うような遊び方ではなくても、子ども自身のストーリーがあるので、安全であるなら見守ってあげることが大切です。そして、子どもの遊びを大人が言葉にすることで、子どもは「わかってくれた」という安心感を得ることができます。その表現の中に「悲しかった」「怖かった」といったネガティブな感情も、あえて言葉にしてOKです。
❝災害ごっこ❞などは特に、大人からすると不謹慎にみえたり、良くない遊び方のように感じてしまうかもしれません。また、子どもが描いた絵がこれまでとは違う悲しく苦しい絵柄ということもあるかもしれません。そんなとき、「大人が❝怖い❞なんて言ったらもっと怖がってしまうのでは……」と心配になるかもしれませんが、このときの子どもの様子が、集中していたり表情豊かに遊んでいるのであれば、むしろ共感してあげることで子どもの心は満たされます。
「今、自分がこんなふうに思っていることは間違ってないんだ」と感じ、次第に心を落ち着かせることができるようになります。
❝遊びへの相づち❞で、共感してあげることが一番のポイントです。
子どもの遊びの邪魔になる大人の対応
子どもが遊びの中でさまざまな表現をしてくれるなか、大人の関わり方で気をつけておきたいことがあります。
【子どもの遊びの邪魔になる対応】
①指示をする
「それじゃなくてこっちのほうがいいよ」「積み木を崩すのは地震が起きたみたいだからやめよう」
②質問する
「それは何なの?」「で、次はどうなるの?」
③教える
「これは救急車じゃなくて消防車だよ」
「これは順番が違うよ」
子どもの自由な遊びに対して❝指示をする❞❝教える❞は子どもが自分の気持ちを表現することを妨げます。
また、子どもは遊びの中で右脳を整理している状況ですが、❝質問される❞というのは、左脳を使って答えなければならないので、子どもにとっては、整理を邪魔されている状態になってしまいます。
良かれと思っての声かけが、子どもの心の整理の邪魔になってしまう場合もありますので、気をつけるように心がけましょう。
❝困った行動❞と❝心配な様子❞への対処法
子どもの遊びに寄り添い、気持ちや考えや過去の体験を自由に表現させる過程で、子どもはときに行きすぎた❝困った行動(自分や他人を傷つけたり、ものにあたるなど)❞をとることがあります。
そんなときは、「気持ちや考え」は、子どもが体験していることと認めて共感し、受け入れる必要があります。しかし、「表現する方法」には適切なものと適切でないものとがあることを、順序立てて伝えていくようにしましょう。
【困った行動/恐怖や悲しみの気持ちに混乱して、お母さんを叩いてしまう子どもの場合】
①子どもが伝えようとしている気持ちを言葉にする
「とても怒っているんだね」「悲しいことがたくさんあったよね」
②制限を伝える
「お母さんをたたいてはダメだよ」
③その気持ちを表現する他の可能な方法を教える
「代わりに、このクッションをたたいてもいいよ」
※これを繰り返す。何度してもやめなければ、遊びをやめて、距離をとるなどする
また、こどもの遊び方のなかで、注意深く見ておきたい点もあります。
それは❝停滞的な遊び❞をしている場合です。
通常❝遊び❞は子どもにとって、つらい体験を乗り越えるためのカギとなり、遊び続けることによってストレス反応を徐々に軽減させます。
例えば、子どもが津波の場面を再現している中で、人も物も津波で流されていってしまう遊びだけをしていたとします。でもその後、いくつかの物や人はなんとか生き残るという遊びに発展し、それからたくさんの人や物が生き残る遊びになり、助けが来るのを待つ遊びになり、最後には、助けが来て多くの人が助かるという遊びになったりします。遊びにストーリー展開があり、発展的な災害ごっこをしている場合、遊びの展開とともに子どもの表情も体の動きも変化していきます。このように遊んだあとは、子どもには達成感や安堵感が残ります。
しかし、つらい体験の遊びが❝停滞❞してしまうこともあります。例えば、先に述べたような津波の場面で、津波が人やものをさらっていく遊びを繰り返し、遊んだ後に解放感がある様子がなく、むしろ身体や表情が硬直したような様子が見られたとします。見ている大人に説明することもなく、来る日も来る日も一人で静かにその遊びを繰り返している……そんな場合は、注意をする必要があります。これは、子どもがつらい体験を乗り越えるのを助けるものとならず、不安を高めるものになってしまうからです。
そのため大人は、子どもが遊ぶ様子をよく見て、ひとりぼっちで遊んでいないかどうかや、同じ遊びを繰り返しすぎていないかどうかを見守りながら確認しましょう。
同じつらい場面を繰り返すだけで発展しない場合、気持ちの整理が進んでいない可能性があります。その場合は、そっと体に触れて「あっちで一緒に休もうか、おやつを食べようか」といった声かけをして遊びをやめさせ、専門家への相談を検討しましょう。
災害後の「子どもの心のケア」には、❝安心できる人との関わり❞と❝遊び❞が大きな役割を果たします。特別なことをする必要はありません。日々の何気ない関わりの中で、子どもの気持ちに寄り添うことが、何よりの支えになります。
大人も無理をせず、できることから子どもといっしょに、ゆっくりともに安心・安全を取り戻していくことが大切です。
参考資料/一般社団法人日本プレイセラピー協会『遊びを通した子どもの心の安心サポート~つらい体験後の未就学児(乳幼児)のためのマニュアル~』より』
この記事の監修・執筆者
上智大学卒業後、フィリピン派遣にて中学校で教え、共同体づくりに関わる。米国コーネル大学で農村開発学修士を取得後、ユニセフ職員としてガーナに赴任。帰国後アライアント国際大学/CSPP臨床心理学大学院で心理学を学び、夫の赴任先タンザニアに同行。2011‐2016年、日本ユニセフ協会東日本大震災緊急支援本部心理社会的ケアアドバイザー。2011年より日本プレイセラピー協会理事を務めている。
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