お正月、お節句、こどもの日、七五三……子どもが生まれると日本の行事に触れる機会がより多くなりますよね。子どもと四季折々の行事を楽しむのはすてきなこと。行事に触れることで、子どものいろいろな力も育つそうです。
「行事育」という言葉をご存じですか? 日本の行事を楽しみながら、子どもの心や家族の絆を育てていこうというものです。行事育を提唱している和文化研究家の三浦康子先生に日本の行事の意味や行事育で育つ力についてうかがいました。
文/こそだてまっぷ編集部
行事には家族が笑顔でいてほしいという愛情がこめられている
日本の行事は、家族の幸せを願う気持ちを形にしたものです。もともとは宮中行事や農耕神事として始まりましたが、時代とともに家庭に入ってくると、幸せを願う対象が家族に向いていきました。行事は文化であり、そこには「家族が笑顔でいてほしい」という愛情がこめられています。たとえば、お正月に家族や親戚がそろい、おせち料理を囲むみんなの笑顔を見ていたら「幸せだなぁ、来年もこの幸せが続くといいな」と感じませんか。行事育のベースは文化と愛情なのです。子育て中の今だからこそ、子育てを豊かにする行事育のよさを知って実践してみてください。
行事を楽しむことで育まれる5つの力
家庭で行事を楽しむことで、「根っこになる」「絆になる」「心豊かになる」「賢くなる」「元気になる」5つの力を育むことができる、それが行事育です。それぞれの力について説明します。
1. 根っこになる
「根っこ」とは、人としての礎(いしずえ)のこと。大きな木には立派な根っこがあるように、人にも、栄養分をしっかりと吸収する根っこが必要です。根っこがしっかりしていれば、幹や枝葉が強く育ちます。根っこをつくるにはさまざまな力が必要ですが、行事育には、文化、愛情、食べもの、知識などさまざまな“栄養分”が含まれていて、その人の人生を支える力になります。子育て自体が、子どもの根っこを育てていることだといえるので、行事育で上質な栄養分を与えることが大切です。
2. 絆になる
絆は心の結びつきです。たとえば、お正月に親戚が集まると家族の結びつきが深まり、地元のお祭りに参加すると「地域」のつながりを感じます。行事には、家族や親戚などの「縦の絆」と、地域や友だちなどの「横の絆」をしっかり結び、暮らしの基盤を整える役割があります。
とりわけ効果的なのが、親子の絆です。行事は毎年繰り返されるので、毎年その時期が来るたびに、まるで“思い出ボタン”が押されるように記憶がよみがえってきます。たとえば、「お正月には家族で鏡餅を飾ったな」などという情景が毎年思い出されるでしょう。自分が家族に愛されて育ったという思い出は親子の絆を強め、かけがえのない宝になります。
3. 心豊かになる
日本の行事は季節の風物詩となっているので、行事に触れることで風流を解する心や感性を育み、万物への慈しみや思いやりの心も育ちます。
注目したいのは「お陰さま」の心です。日ごろ私たちを陰で支えてくれるさまざまな物事(人、自然、祖先など)への感謝や祈りの気持ちが育ちます。昔からよくいわれる「お天道様が見ている」「天国で見守っている」などの表現にも通じるので、道徳心や自律心の成長も促します。
4. 賢くなる
行事は文化を伝承する場でもあります。年長者から年少者へ家や地域の文化を伝えていくものでした。そのため行事に親しむうちに歴史やしきたりに触れ、知識が増えます。行事を行う際には、「これにはこんな意味があるよ」「これを〇〇に見立てて食べるんだよ」などと子どもに意味を教えると、表面的なことにとどまらず知恵を育むことができるでしょう。そのほか、挨拶の仕方やことば遣いなど礼儀作法を身につける機会にもなります。行事は毎年めぐってくるので繰り返し学べ、昨年は理解できなかったことが今年は理解できたというお子さんの成長も発見できます。
5. 元気になる
お祭りなど行事に参加すると、わくわくして元気になれる気がしませんか?行事には元気になれる力が備わっています。
古来、「ハレ(晴れ)」と「ケ」という概念があります。ハレはお祭りなど行事がある非日常を指し、ケは毎日の仕事などをこなす日常を指します。平凡な日常が続くと気力が枯れてパワーが落ちてきてしまいます。そこでハレの日には行事を楽しみ、ごちそうを食べ、晴れ着を着るなど気晴らしをして元気になり、ケの日常に戻っていきます。こうしてハレとケを繰り返しながら日本人は生きてきました。
また、行事にはお供えもの(食べものを供える)をするものが多く、これが行事食として食文化を支えてきました。行事食を用意して家族で食べるだけでも、子どもがわくわくするはずです。
子育て中は何かと忙しく、行事育は幼稚園や保育園にお任せにしていたというご家庭もあるかもしれません。ですが、子育て期間は過ぎてしまうと意外と短いものです。行事育は子どもの未来につながっていると考え、ぜひ楽しみながら実践してください。それぞれの行事の意味や目的を知ったうえで、ご家庭でできることを工夫して楽しめるといいですね。
この記事の監修・執筆者
古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などで提案しており、「行事育」提唱者としても注目されている。連載、レギュラー多数。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとる。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)、監修書『季節を愉しむ366日』(朝日新聞出版)ほか多数。
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