脳医学の観点から、「好奇心」が脳を育てるという見方があるそうです。
それでは、子どもの「好奇心」を大切に伸ばすために、保護者にはどのようなことができるのでしょうか。
脳医学者の瀧 靖之先生に、好奇心について、また、その伸ばし方をうかがいました。
お話/瀧 靖之(東北大学加齢医学研究所 教授)
「好奇心」はもっと知りたいという内発的な欲求
好奇心旺盛な子にはこんな特徴がある?
好奇心旺盛な子は、
- 身の回りのことに対して知的欲求を満たしたい、もっと知りたいという気持ちが強い
- ワクワクする体験をもっとしたいという欲求がある
- いろいろなことに興味・関心をもっている
- 欲求を満たすために努力する粘り強さ
このような力があると言い換えることができるでしょう。
また、何かに対して「美しいなあ」と思う「審美眼」があるとも言えるかもしれません。
「美しいなあ」と思うのは、たとえば、楽器の演奏を聴いたとき、昆虫のはねを見たときや、絵を見たときかもしれません。
美しさに感動したりワクワクしたりするということは、興味がある対象への美しさを感じ取り、観察する力があるということです。
何かに対して美しいと思ったり感動したりできる力は、好奇心と重なる部分があるように思います。
脳には好奇心で伸びる特性がある
脳医学の観点から、脳には「可塑性」という特性があります。
自らを変化・成長させていくことができる力のことです。
興味のある物事を「どうなっているのかな?」「もっと知りたい!」と好奇心をもって取り組むことで、脳はどんどん変化します。
それによって、もっともっと! と成長するサイクルが出来上がります。
子どもは好奇心いっぱいな印象ですが、同時に、知らないことがいっぱいでもあります。
ここからは、子どもが好きなことを見つけたり、興味・関心をもったり、好奇心をさらに伸ばす方法や準備を紹介します。
好奇心旺盛な子に育てるための、保護者の関わり方
子どもは大人を模倣して育つ
脳には、ミラーニューロンという神経細胞があり、相手のまねをするときに活発に働きます。
実は、ミラーニューロンは、相手の動きやことばだけでなく、感情も模倣するといわれています。
誰かが楽しく活動しているまねをすると、楽しいという感情もコピーすると言えるでしょう。
つまり、子どもにとって、もっとも身近な保護者が、楽しんで物事に取り組んでいる姿を見せることで、興味・感心をもつことにつながります。
キーワードは「いっしょにやろう!」
大事なのは、保護者が楽しんで行うこと。
まずは、保護者自身が好きなことや趣味の活動など、ワクワクと楽しんでいる姿を子どもに見せたり、「いっしょにやろう!」と誘ったりすることで、子どもも「なんだろう? 楽しそう」と思うようになっていきます。
何度も目にしたり触れたりすることで興味をもつ、「単純接触効果」という効果も働くので、もし子どもに学ばせたいことがあるのなら、親子でいっしょに始めるのもオススメです。
お互いが刺激し合って、成長することにつながりますし、親子で共通の興味や趣味があれば、それに関する話題が増えます。
会話によるコミュニケーションも、脳の発達には欠かせません。
子どもの好奇心に対しての保護者の関わり方
まったく知らないジャンルの専門書を開いたときと、自分の趣味や仕事の分野の本を開いたとき、読み進めやすいのはどちらでしょうか?
人には、何も知らない物事よりも、少しでも知っている物事に触れたときの方が、対象への興味関心がさらにわく、「流暢性効果」というものがあります。
そこで、子どもが少しでも何かに興味を示したときには、興味の対象への体験をたくさんつくるのが、さらに好奇心を強めるいちばんよい方法であると思います。
たとえば恐竜に興味をもったなら、恐竜の展示がある博物館や科学館に足を運んだり、昆虫であれば、実際にその昆虫が見られる場所に行ったりするなど、子どもの「知りたい!」という欲求に対しての、熱中体験ができる環境をたくさん用意することです。
子どもは、好きなことは、大人よりもあっという間に覚えていくほどの吸収力をもっています。
そして、とことん熱中すると、子どもの疑問はどんどん高度になっていきます。
時には、保護者が答えられないことも出てくるでしょう。
そんなときは知ったかぶりをせず「いっしょに調べてみようか」と、図鑑や本を開いたり現地に行ったりしてみてください。
子どものほうが詳しいのであれば、「教えて!」と言ってもよいのです。
初めは、どんな楽しいことがあるのかを知らせたり連れて行ったり、調べる手段にはどのようなものがあるかをいっしょに確かめたり教えたりと、少し子どもの手を引くのがよいでしょう。
でも、子どもが実際に興味に向かって走り出したら、保護者は後ろから背中を押してやるくらいがちょうどよいと思います。
子どもの興味・関心に対して、保護者が「それってどういうこと?」と教えてもらえば、また会話が増えて、よい循環ができていきます。
また、子どもが一人で熱中・集中しているときは無理にあれこれ質問したり声をかけたりする必要はありません。
でもほったらかしにするのではなく、可能な限り近くで寄り添うと、子どもは安心して、また好奇心いっぱいに興味を深めていけるでしょう。
子どもの「なんでだろう?」を深める3つのアイテムと活用方法
子どもの好奇心を高め、興味関心を深めるためにオススメの、3つのアイテムを紹介します。
知識を取り込むアイテム
興味の取っ掛かりになったり、より知識を深めたりできるアイテムを用意しましょう。
たとえば
- 図鑑
- 本、絵本
などです。
中でも、さまざまな知識や情報が載っている図鑑は、長く楽しむこともでき、ぜひ家庭に置いてほしいアイテムです。
これを、子ども一人で眺めるのではなく、寝る前の時間などにでも、ぜひ親子でいっしょに楽しんでみてください。
保護者の楽しそうな様子を見て、子どもは「なんだかおもしろそう」と感じることでしょう。
あるいは、知識を吸収して詳しくなった子は、保護者に解説してくれるかもしれません。
実体験できるアイテム
知識として身につけたことを、実際に体験したり、確かめたりできるアイテムです。
子どもの興味によって、用意するアイテムはさまざまですが、たとえば、昆虫が好きな子であれば
●虫捕りアミとカゴで、昆虫採集をする
●カメラ(スマートフォンでも)で撮影する
などが考えられます。
知識として得たものを実体験として感じることで、さらに興味や知識が深まっていきます。
「単純接触効果」で、実体験を通してより興味がわき、正のスパイラルが生まれます。
審美眼を磨けるアイテム
いわゆる芸術を感じることのできるアイテムです。
身近に美に触れる経験ができるアイテムのなかでも、特に楽器はオススメです。
さらに、楽器を演奏したり、美術館に行ったりすることを特別なイベントにするのではなく、日常に溶け込ませるのがベターです。
もし保護者自身があまり触れてこなかった、習いごとやアート体験などを子どもに経験させたいのであれば、ぜひこの機会に、子どもといっしょに始めてみてはいかがでしょうか。
子どもの成長という効果にとどまらず、いちばん近くにいる親子どうしで共通の趣味や興味、話題があったり競い合ったりできれば、とてもよいですよね。
「子どものため」と気負うのではなく、肩を並べるようにいっしょに楽しむことで、保護者自身も、何歳になっても成長できるのです。
保護者が楽しんで取り組む姿を見せることで、子どもは「世の中にはおもしろいことがたくさんあるんだ!」「こんなに楽しいんだ」と、安心してワクワクしながら、興味に向かっていくことができるでしょう。
紹介したことだけが正解というわけではありません。
でも、自分自身の経験からの実感も含め、ひとつの方法として、オススメします。
子どもの好奇心、興味・関心を育みながら、子育てを通じて、親子でいっしょに成長していきましょう。
この記事の監修・執筆者
たき やすゆき/東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長/東北大学加齢医学研究所教授/医師 医学博士
東北大学加齢医学研究所及び東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIは、これまでにのべ約16万人に上る。
「脳の発達と加齢に関する脳画像研究」「睡眠と海馬の関係に関する研究」「肥満と脳萎縮の関係に関する研究」など多くの論文を発表している。
著書は、『生涯健康脳』(ソレイユ出版)『「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)『脳医学の先生、頭の良くなる科学的な方法を教えてください』(日経BP)始め多数、特に『生涯健康脳』『賢い子に育てる究極のコツ』は共に10万部を突破するベストセラーとなっている 。テレビ東京「主治医が見つかる診療所」、「NHKスペシャルアインシュタイン 消えた“天才脳”を追え」、NHK「あさイチ」、TBS「駆け込みドクター!」など、メディア出演も多数。
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