春は卒園や卒業、引っ越しなど別れの季節でもあります。そこで今回は、キュンと切ない絵本を紹介します。
絵本のセレクトをしてくださったのは、絵本専門士でNPO法人「絵本で子育て」センター認定絵本講師、現役の保育士でもある、遠藤裕美先生です。
3月号
別れと出会いの春にオススメの一冊
◆2~3歳向け! 『クマくんのひっこし』
作・絵/フランク・アッシュ 訳/山口文生 1,320円 評論社
【あらすじ】
クマくんのひっこしの日。
荷物を車に積み込んで出発というときに、「ぼく、わすれものしたみたい」と、クマくんはおうちへと引き返しました。
食堂や台所。屋根裏や地下室まで、おうちの中を全部探しましたが、わすれものは見つかりません。
クマくんの大切なわすれものはなんだったのでしょうか?
【オススメポイント】
ひっこしの荷積みが終わって、あとは出発するだけというとき。忘れ物がある気がしてクマくんはおうちへ戻ります。
「クマくんは何を忘れたのかな?」と、見ていた子どもたちも見守っている感じでした。
ところが、おうちの中には何にも残っていません。
本当にそうなのかな…?
クマくんが忘れていたもの。
一つひとつの部屋を回って「さよなら」を伝えていく姿に引き込まれていました。
園では、進級・卒園を区切りとして、1年間過ごしてきたお部屋とさよならをします(園によっては、同じお部屋で過ごす場合もあるかもしれません)。
今まで過ごしてきたお部屋に「さよなら」「ありがとう」。
引っ越しは誰もが経験することではありませんが、この絵本は、長くいっしょにいた人・ものとのお別れに重なるのではないでしょうか。
そんな経験を、小さな年齢からやさしく感じることのできる1冊だと思います。
◆3~4歳向け! 『ぼくとクッキー さよならまたね』
作・絵/かさいまり 1,320円 ひさかたチャイルド
【あらすじ】
ぼくとクッキーはとっても仲良し。毎日たくさん遊んで、「さよなら またね。」の挨拶で別れます。
ある日、なんだか元気のないクッキーは、「さよなら…。」と言って帰っていきます。
クッキーは、引っ越しすることを言い出せずにいたのでした。
突然の友だちとの別れ。葛藤するぼくの思いが丁寧に描かれています。
【オススメポイント】
仲良しのぼくとクッキーの「さよなら またね。」の毎日が、クッキーの引っ越しで変わります。
「さよならって いっても、また あえた。」
そうではなくなってしまった突然の別れに、寂しさ・怒り、いろいろな感情があふれています。その姿が、文章だけでなく絵でも丁寧に描かれていて、ぼくの表情・様子から痛いくらいに伝わってきます。
それはクッキーに対しても同じです。子どもたちも、シーンとお話の中に引き込まれていました。葛藤を乗り越えてぼくが取った行動。お別れのときのふたりの表情に注目してくださいね。
この絵本は、卒園が近づいてきたころに幼児さんに紹介している1冊です。年長さんは、卒園するといろいろな小学校へ分かれていきます。今の「さよなら またね。」の繰り返しは一旦終わります。
年長さんにたくさん遊んでもらった小さなクラスの子たちも同じです。それでも、離れてしまっても「またね」があること。大切な友だちだということは変わらないこと。この絵本を通して伝わるといいなと思いながら読んでいます。
◆4~5歳向け! 『さよならぼくたちの ようちえん ほいくえん』
文/新沢としひこ 絵/みやにしたつや 金の星社
【あらすじ】
卒園式のシーズンにはたくさんの園で歌われている、『さよならぼくたちの ようちえん ほいくえん』。シンガーソングライターで元保育士の新沢としひこさんが書いた歌詞をもとに絵本化されました。
歌詞のイメージそのままに、みやにしたつやさんが絵をかき上げています。たくさんの思い出がよみがえってくる1冊です。
【オススメポイント】
この曲は、子どもたちにとって、歌いながら園で過ごしてきた思い出がよみがえってくるすてきな曲になっています。実際に、歌っているときに感極まって思わず涙してしまう子もいるくらいです。我が子の卒園のときも、勤務先の園でも、何度も聞いてきた曲でした。
この絵本は、さらに曲の世界を広げてくれると思います。
子どもたちと読んだとき、この曲を知っていると歌い読みになるかもしれません。それも楽しい読み方ですが、ぜひ絵本にかかれたKOBUTA園の子どもたちの姿をゆっくりと楽しんでみてください☆
そこには、絵本を見ている子どもたちと同じく、たくさん笑ってたくさん泣いて、時には友だちと喧嘩をしてたくさんの経験をしているかわいいこぶたたちがいますよ!
子どもたちと思い出を振り返りながら読めるオススメの絵本です。
◆大人向け! 『6さいのきみへ』
文/佐々木正美 絵/佐竹美保 1,540円 小学館
【あらすじ】
子どもが生まれてから6歳までの振り返りが描かれています。
生まれたときの喜び。あくびを見て幸せを感じたこと。ほかの子と比べて少し小さいと感じたこと。好き嫌いがひどかったこと。今は、ボタンどめやくつのはき方など、自分でできることも増えてきて…。お子さんの成長に重ねて読める1冊です。
「きみは6さい。かぞくのたからもの」
温かなメッセージも詰まっています。
【オススメポイント】
子どもが6歳になるまでのシーンが描かれています。
長男が生まれたときに、小さくても一丁前にあくびをしている姿に癒されました。なかなか体重が増えずに悩んだ毎日。支援センターで会うほかのお子さんと比べて落ち込むことも…。
幼稚園の参観日では、周りの子が手遊びを楽しむ中で固まっていました(笑)。
そして、気づいたらいろいろなことができるようになって、直接手助けをすることよりも、見守ることが増えました。
私は子どもが大きくなってからこの絵本を手にしたのですが、「あ~同じだ」と懐かしい気持ちで読みました。同時に、「おおきくなったなぁ」としみじみ…。まだお子さんが小さいかたは、こんなことがあるのかなという思いで読むことができると思います。
巻末にある、作者の佐々木さんからの子育て応援メッセージも見どころのひとつですよ!
また、お子さんといっしょに読むときには「あなたがたいせつ」「あなたがだいすき」という思いも伝わるすてきな時間になると思います。
次回の「こそだてまっぷ 絵本棚」は、入園・入学、進級にぴったりの絵本を紹介します。
この記事の監修・執筆者
絵本専門士7期生。NPO法人「絵本で子育て」センター認定絵本講師。現役保育士として、絵本を取り入れた保育を実践している。地域の読み聞かせボランティアの経験も多数。保育雑誌や書籍にて、絵本のセレクトや、執筆も行っている。監修書に『年齢別! 子育てママ&パパの頼れる絵本193』(ユーキャン)。
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