「朝起きられない」はサボりじゃない!思春期に急増する「起立性調節障害」のサインと親ができること[医師監修]

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「朝起きられない」はサボりじゃない!思春期に急増する「起立性調節障害」のサインと親ができること[医師監修]

「朝、起きられない」「起き上がろうとすると立ちくらみやめまいがある」といったお子さんの症状が気になっている保護者の方が少なくないようです。それは小学校高学年から症状が現れることが多く、重症化すると学力低下や不登校の原因にもなる「起立性調節障害」かもしれません。この障害が、なぜ発症するのか、どんな症状が見られるのか、保護者がどのように対応すべきかについて、「早稲田メンタルクリニック」院長の益田裕介先生に伺いました。

取材・文/FUTAKO企画

目次

起立性調節障害って何?

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)とは、起き上がったときに身体や脳への血流が低下することで起こるものです。小学生の約5%、中学生の約10%に発症していると言われています。

◎症状
起立性調節障害には、主に次のような症状があります。症状は午前に強く、午後には軽減する傾向があります。

・朝起きられない(午前中に調子が悪く午後に回復する)
・立ちくらみ
・めまい

・動悸(少し動くと動悸や息切れを起こしやすい)
・頭痛
・腹痛
・倦怠感(常に体がだるく、疲れやすい)
・食欲不振
・乗り物に酔いやすい
・集中力の低下 など

◎原因
起立性調節障害は、自律神経系のバランスが崩れることによって引き起こされるものです。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は「身体を動かすアクセル」の役割を、副交感神経は「心と身体を休ませるブレーキ」のような役割を果たしています。両者はバランスを取りながら心拍数・呼吸数・胃腸の動きなどを自動的に調整しています。
自律神経のバランスが正常なら、立ち上がったとき重力によって血液が急激に上半身から下半身に移動するのを抑えることができます。しかし、両者のバランスが崩れていると体に不調をきたすことになるのです。

自律神経のバランスが崩れる原因としては、身体の成長やホルモンバランスの変動、さらに精神的なストレスが関係すると言われています。
思春期(小学校高学年から高校生頃)は身体の急速な発達に自律神経の成熟が追いつかないため、起立性調節障害を発症しやすい時期です。また、心身ともに不安定になりやすく、ストレスを感じやすい時期でもあります。
他には、睡眠不足や食生活の乱れなど、不規則な生活習慣による自律神経の乱れも要因と見られています。さらに、体質や遺伝的な要因も考えられます。さまざまな要素が複雑にからみ合って症状が現れるのです。

◎治療
症状が軽快するまでの期間は、症状の強さに応じて数か月から数年と人によってさまざまです。医師の診断のもと、日常生活上の工夫、食事や生活リズムの改善、薬物療法などが行われます。処方される薬としては、血圧を上昇させるメトリジン、リズミックや、心拍数を抑え高血圧や不安症状を緩和するインデラル、貧血治療の鉄剤などがあります。
重症化するとうつ病を併発することもあるので、軽症のうちに受診や相談をすることが大切です。不登校などを伴う重症の場合、専門家のサポートを受けて適切な環境で過ごすことで2~3年で約90%が軽快しています。

起立性調節障害に関するQ&A

Q:どの程度の症状が現れたら医療機関を受診するのがいい?

A:気になる症状があれば、早めに受診するに越したことはありません。「月に1回学校に行けなくなった」という程度でも受診していいと思います。軽症の場合は生活習慣の改善で軽快することも多いですし、医師の一言で楽になるケースもあります。何より本人や保護者の方の安心につながるでしょう。受診をためらって余計に悩まなくていいと思います。
Q:起立性調節障害には遺伝も関係する?
A:家族に起立性調節障害の方がいる場合、発症するリスクが高くなる可能性はあります。低血圧体質、アレルギー体質や喘息などの持病があったりすると自律神経のバランスが崩れやすいため、発症する可能性が高くなると言われています。

Q:無理に登校させるのはNG?
A:思春期のお子さんでは、起立性調節障害で「起きたくても起きられない」ときと、「今日の体調は問題ないが、学校に行きたくないから起きられない(起きない)」ときとで、登校を促す判断がしづらいことがあります。本人に楽をさせすぎてもよくないですし、負担をかけすぎてもいけないので、難しいところです。ケースバイケースで、本人にとって一番適切な対応を探っていくしかありません。

対応に迷うようであれば、データを取ってみるとよいでしょう。24時間タイプで書き込める手帳などに朝、昼、夜の状態を記録してみると、その子なりのペースがわかってきます。1日の流れを見るのが大切です。受診や相談をするときにも役立つものです。
「月5回のお休みを4回にする」など目標設定の目安にもなります。
Q:学校はお休みしても習い事などは行かせてもいい?
A:起立性調節障害で症状が軽い場合は、「午後からであれば動ける」ということもよくあります。環境を大きく変えすぎないことが大事なので、無理強いをするのでなければ習い事や塾に行かせてもいいと思います。体を動かせなかったり、好きなことができなかったりすると、二次障害が生まれてしまう可能性もあります。
Q:家では好きなことをさせていていい?


A:学校を休んだ日、午後から体調が回復していたとしても、ゲームやスマホなどで遊んでいるのはおすすめしません。 勉強の遅れが登校渋りにつながることもありますし、ゲームやスマホへの依存も心配です。担任の先生と相談して、適切な量の宿題を与えることが大事です。オンライン学習や塾の宿題なども活用して、コツコツ家庭学習に取り組みましょう。
勉強以外で取り組むこととしては、「料理する」「風呂掃除をする」などもよいでしょう。学校を休んでいると「そんなことはしなくていいから」などと言いがちですが、実は全部が子どもの未来につながっているもの。家事のノウハウが仕事につながることもあります。
将棋、読書、音楽など、好きなことをするのも幅広い意味での学びになります。有意義な時間の過ごし方を親子で考えてみることは、ストレス軽減のためにもよいことだと思います。

親は子にどんな声かけをしたらいい?

「思春期によく現れる症状で、成長すればよくなる」と理解していても、長く症状が続くと保護者の方も心配だと思います。でも、一番不安なのはお子さん自身です。心が落ち着かない状態のお子さんをサポートするには、どのような声かけをするとよいのでしょうか。

「今は仕方ないよ」
「そのうちよくなるから、大丈夫だよ」
「これだけはやっておこうね」
……などと、お子さんを安心させる言葉をかけてあげることが大事です。

一方で、NGな言葉もあります。
「どうして起きられないの?」
「本当はさぼっているんじゃないの?」
「これ以上私にいやがらせをしないで」
……などと、子どもを責めるような言葉をかけてはいけません。
また、「今日は学校に行く?」と毎日聞くことが、お子さんにプレッシャーを与える場合もあります。そうなると体だけの問題ではなくなるので、注意が必要です。

それから大切なのは、保護者の方自身が家でスマホをいじらずに、1日5分でもお子さんと対話する時間を作ることです。これがなかなかできないもの。お子さんの言葉にしっかりと耳を傾けて「傾聴」を意識してください。その際、話の途中でつい助言しようとしたり、最後に一言でまとめようとしたりしがちですが、それではせっかくの「傾聴」が台無しになります。最後まで口をはさまずに聞きましょう。

また、同じ悩みを持つ「親の会」に出てみるのもおすすめです。オンラインでの親の会に参加して、他の保護者の方の話を聞く機会を持つのもよいと思います。「新しい情報を得る」というよりは、経験者の話を直接聞くことで知識が定着しやすいという効果があります。「こんな心配をしてきた」という思いを共有するだけで、心が落ち着くこともあります。

起立性調節障害は、成長とともに症状がおさまることがほとんどです。将来ずっと外出できなくなる、というわけではありません。「半年や1年、家で勉強していてもいい」と覚悟を決めて見守ることが、お子さんの心身によい影響を与えます。
大切なのは、ゴールから考えないこと。「1年後に○○があるからそれまでにこれをやる」ではなく、「今日できることのベストをやる」ことが重要です。
現代はさまざまな選択肢がある時代。「こうしなければいけない」という型通りの生活にこだわりすぎず、「できることを続ける」の連続が、症状の改善につながるはずです。

この記事の監修・執筆者

精神保健指定医、精神科専門医・指導医 益田 裕介

防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、2018年より早稲田メンタルクリニックを開業。診療中の患者さんの疾病・心理教育の補助のために始めたYouTube『精神科医がこころの病気を解説するCh』の登録者数は、令和7年11月時点で70万人を超える。オンライン上の患者会・家族会も運営。

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