子どもが打たなければならない予防接種は案外たくさんあります。みなさんのお子さんは打ち忘れはありませんか? 今一度予防接種について考えてみましょう。ワクチンの種類や接種の大切さ、もし打ち忘れたら? すでにかかっていても打つべき? といった疑問などを小児科医の森戸やすみ先生にうかがいました。
監修/森戸やすみ
子どもの予防接種、そんなに大事?
日本小児科学会が推奨しているワクチンは、約15種。多いと感じるかたもいるかもしれませんが、逆にいうと、ワクチンを接種することによって防げる病気がそれだけある、ということです。
ワクチンの種類と働き
「生ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」の3つの種類がおもなワクチンです。
「生ワクチン」…ウイルスや細菌などの病原微生物の病原性を弱めて作られたもの。その病気にかかった場合と同じくらい強い抗体をつけることができる。ただし、同じような症状がごくまれに出る。
「不活化ワクチン」…病原微生物を原材料にしたもの。感染能力をなくして作られるため、その病気にかかった場合のような症状が出ない。ただし、つけられる抗体が弱いので、複数回の接種が必要。
「トキソイド」…細菌の作るトキシンの毒性を弱めたもの。細菌は入っていないため、その病気にかかった場合のような症状は出ない。ただし、つけられる抗体が弱いので、複数回の接種が必要。
なぜ接種したほうがいいの?
予防接種の大切さを知って
たとえば、「ヒブ」ワクチンはヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(ヒブ)感染症を予防します。ヒブは生活環境のどこにでも存在し、予防接種の導入前は1年間に600人余りが髄膜炎を起こしていました。ヒブ髄膜炎は抗菌薬を使い集中治療が必要で、後遺症が残ったり亡くなったりすることもある病気です。2013年から定期接種になり、「鹿児島スタディ」と呼ばれる研究でヒブによる髄膜炎の患者数がゼロになりました。予防接種をやめたら再び患者がふえることは明らかです。
次に、「ロタウイルス」を例にしましょう。ロタウイルスが引き起こす胃腸炎で、おもな症状は嘔吐や下痢ですが、重篤な脱水や脳症といった重症化で命を落とすこともあります。5歳までにほぼすべての子どもが1回は感染します。ワクチンには重症化を防ぐ役割があり、定期接種になって以降、胃腸炎での入院が減りました。
かかったほうがいいと考える人がいるかもしれませんが、どの子が重症化したり後遺症が残ったり、亡くなったりするかは事前に知ることができません。結果的に治っても子どもに苦しくつらい思いをさせるよりは、予防接種によって重症化しないほうがいいでしょう。
また、ワクチンを接種することは、打った本人の予防や重症化を防ぐだけでなく、その家族や周りの人たちの感染リスクもへらすことができます。
副反応が怖くて打たせたくない場合
副反応はネットで検索すると情報がたくさん出てくるので怖いのもわかりますが、自然に感染する場合とどちらがいいのか考えてみましょう。
たとえば「おたふくかぜ」。このワクチンは、まれに発熱や嘔吐を起こす無菌性髄膜炎にかかることがあります。頻度は0.1%未満ですから、数千人に1人の割合です。けれど、自然に感染した場合は100人に1~2人が無菌性髄膜炎になるので、ワクチンを接種することによる副反応のほうが起こる確率が低いことがわかります。
また、「おたふくかぜ」にかかったあと、片耳あるいは両耳が難聴になるケースがありますが、これを治療する方法はありません。ちなみに、ワクチンを接種したあとに難聴になった例はワクチン6000万本の出荷のうちわずか数例のみ。自然感染と予防接種、どちらがお子さんのリスクが少ないかおわかりになるのではないでしょうか。
予防接種が順調か確認しましょう
次の表は予防接種のスケジュールです。①②③などの数字は何回目の接種かを表しています。月齢、年齢を確認してお子さんの接種回数が足りているか、チェックしてみましょう。
「任意接種」の予防接種も大事
「定期接種」は期間内であれば公費で接種できる予防接種、「任意接種」は自己負担(助成がある場合も)での予防接種です。今、任意接種なのはおたふくかぜワクチン、インフルエンザワクチンのほか、A型肝炎ワクチン、髄膜炎菌ワクチン、5回目の3種混合ワクチン、5回目の不活化ポリオオワクチンなどがあります。任意の予防接種は受けなくていいという人もいると思いますが、医師の立場では定期も任意も優劣なく大切なワクチンなので、接種をしてほしいです。
◆この10年で変更のあったワクチン
任意だった期間に接種をしていない可能性も。もれがないか確認しましょう。
【ヒブ】2013年4月に任意接種から定期接種へ。
【肺炎球菌】2013年4月に任意接種から定期接種へ。
【ヒトパピローマウイルス(HPV)】2013年4月に任意接種から定期接種へ。9価は2023年4月から定期接種が可能に。2025年3月までワクチン接種を逃した人への救済措置が行われている。
【みずぼうそう】2014年10月に任意接種から定期接種へ。
【B型肝炎】2016年10月から定期接種へ。
【ロタウイルス】2020年10月に任意接種から定期接種へ。
すでにかかってしまった場合でも、ワクチンの接種は必要?
多くのワクチンは、かかってしまったあとに打っても意味があり、接種することでより抗体価が上がります。かかりつけの小児科で相談してみましょう。
接種のし忘れや期間が過ぎてしまったら?
予防接種のし忘れ、回数不足、期間が過ぎているなどの場合は、定期接種の推奨期間を過ぎてしまうと公費での接種はできませんが、一部のワクチンを除いて接種が可能なので、かかりつけの小児科で相談しましょう。機会を逃してしまったかたへの救済措置として、自治体によっては費用助成を行っているので接種の前に確認を。とはいえ、抗体価が上昇しやすいもっともいいタイミングでスケジュールが組まれているので、なるべく推奨されたスケジュールどおりに進めるにこしたことはありません。
新型コロナウイルスワクチン以外はすべてのワクチンが、ほかのワクチンとの同時接種が可能です。疑問点や不安なことは、かかりつけの小児科に相談しながら受けるようにしましょう。
HPVウイルスの予防接種について
HPVウイルスは、子宮頸がんだけでなく尖圭コンジローマ、肛門がん、再発性呼吸器乳頭腫などの原因であるウイルスです。HPVワクチンは、HPVウイルスの感染を予防することによって、引き起こされるこういった病気を防ぎます。毎年約1.1万人が子宮頸がんと診断され、毎年約2,900人のかたが亡くなり、20代からふえ始め30代までにがんの治療で子宮を失う人も1年間に約1,000人います。HPVワクチンはこれまでに世界で約8億人が接種し、国によっては男性も定期接種。日本でも男児に助成を出す自治体がふえています。
予防接種を受けようと思った矢先に子どもが熱を出したりして、受けそびれるなんてことはよくあること。そのまま忘れてしまっているワクチンもあるかもしれません。今一度母子手帳などで確認し、遅れや受け忘れがあった場合はなるべく早めに対応しましょう。わからないことは、かかりつけの小児科に相談しましょう。
この記事の監修・執筆者
東京都生まれ。一般小児科、新生児特定集中治療室(NICU)を経て、現在は東京都台東区にある「どうかん山こどもクリニック」勤務。2児の母。著書『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(宮原篤共著)などがある。
マイナビ子育て
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