親子で一緒に過ごす時間が増える年末年始、「朝なかなか起きられない」「片付けができない」など、お子さんの「できていない部分」が目につき、小言や叱る回数が増えているのではないでしょうか。
保護者の方ちょっと意識するだけでお子さんのモチベーションが上がり、親子関係がよくなる方法を、教育評論家の親野智可等さんに伺いました。
取材・文/FUTAKO企画
年末年始は「自己肯定感アップのきっかけ」がたくさん!
学校での制作物は親の知らない子どもの姿
長期休みになると、「子どものできていない部分が目について、叱る回数が増える」という保護者の方は少なくないと思います。ただし、口うるさく注意しても実はほとんど効果はありません。できていないことには目をつぶり、できたことを言語化して認めることで子どもの自己肯定感が上がり、やる気アップにつながります。年末年始は、こうした「ほめて伸ばす」絶好の機会だと言えます。
休みが近づいて学校から持ち帰る制作物、通知表、成長の記録などは、保護者の方がふだん知らない学校での子どもの成長や努力を知るきっかけとなるものです。がんばった&こだわった部分を子どもに聞き、よいところに注目して大いにほめてあげてください。
通知表を叱る材料にしない

注意したいのは、「通知表を叱る材料にしない」ということ。 通知表には悪い評価もあるかもしれませんが、それを責めても効果はないと考えましょう。子どもの苦手なものは9割がた生まれつきであるため、小言を言ったり改善するように促したりしても、そう簡単にできるようになるものではありません。
また、お子さん自身、親に頭ごなしに注意されては気分がよくないので、「よくないところを指摘された」→「次はがんばろう」とはならないのです。
親の側も「できていないこと」について追及し始めると歯止めがかからなくなり、結局は保護者の方が疲れてちょっと気が済むだけです。こんなふうに効果がないのであれば、あえてお互いの貴重な時間を費やす必要はないですよね。
ではどうしたらいいかというと、悪い評価は思い切ってスルーしてしまいましょう。
「子どもの得意なことに注目してほめる」それだけを心がけるのです。得意なことを伸ばしていくうちに、いつか苦手なことにも取り組む意欲が生まれます。保護者の方に必要なのは、「できていないこと」ではなく、「できていること」に目を向けることです。
そして、「身長が○センチ伸びた」「靴のサイズが大きくなった」という身体的な成長も、子どもにとっては純粋にうれしいもの。成長の記録を親子で見て喜びを共有することで、子どもの自己肯定感が上がり、やる気アップにつながります。
年末に習い事の作品や写真を整理するのもおすすめです。そうすることで、この1年のお子さんの成長が感じられるはずです。
子どものやる気が出るほめ方6
1「部分」に着目してほめる
「それほどうまくできていない子どもの作品だった場合、どこをほめればいいの?」と思われる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。 とはいえ、ほめ方にはコツがあるものです。「うまく描けたね」「すごいね」などと、いつも同じ言い方をしていては子どもに響きません。
例えば子どもが描いた絵なら、
「この腕のところは丸みが出るように影を付けたところがいいね」
「花の色がすごくきれい」
「ていねいに描けたね」
……など、「部分」に注目して具体的に言葉にするのです。
年始に書き初めをする機会もあるでしょう。
「大きく書けたね」
「濃い線で書けたね」
「左はらいがうまくできたね」
「お手本をよく見て書けたね」
……など、やはり全体より「部分」を見て具体的に言葉にするとよいと思います。 よく観察してほめることを実践することで、ほめ言葉のバリエーションは自然に増えていきます。
2 作品や写真を目につくところに飾る
「子どもにうまいほめ言葉をかけるのが苦手だ」という保護者の方は、言葉以外でお子さんのがんばりを讃えてみてはいかがでしょうか。
例えば、作品や写真を、家の中の目につくところに飾ってみるのもよいでしょう。 自宅に持ち帰った子どもの絵を額に入れたり、少しサイズの大きい厚紙に貼って飾ったりするだけでも「額縁効果」で絵が引き立つものです(美術館の展示のように作者名とタイトルをつけることも忘れずに)。
子ども自身、「よくできているな」と自信になりますし、そうして飾ってくれた親の愛情を実感できます。工作ならちょっといいお菓子の箱を台座にして、現代アートのように飾ってみるのもよいでしょう。
また、家の中に子どもの写真を飾るのもとてもよいことです。「ピアノの発表会で堂々と弾けた」「縄跳びの練習をがんばった」など、その時のがんばりを再認識することができるからです。「今年のベストショット」として子どもが選ぶのでも、親子一緒に選ぶのでも構いません。できるだけ大きくプリントしてリビング、玄関、トイレなど、よく目につくところに飾るとよいですね。
それから、「今年楽しかったこと」として家族旅行やピクニックなど、親子やきょうだいでの写真を飾るのもよいですね。そうした写真が目につくところにあることで「あの時、お兄ちゃんと遊んだな」「自分はみんなに大事にされているな」などと、家族への愛情を実感できる効果があるのです。私はこれを「ほめ写」と呼んでいますが、子どもが「親に愛されている」「受け入れられている」と実感できるようにすると、子どもの気持ちが満たされて自己肯定感が上がり、親子関係がよくなります。
3「ほめるチーム」を作る
年末年始は、親戚と顔を合わせる機会も増えると思います。その際、お子さんががんばった作品や写真を見せて、大いにほめてもらいましょう。おじいちゃんおばあちゃん、時にはおじさん、おばさんも動員して「ほめるチーム」を作ってしまうのです。さらに親族だけでなく、習い事の先生や近所の方など第三者も巻き込めたら、さらに子どもの自信になるはずです。
4「子どもがほめられたいこと」をほめる
保護者の方がお子さんをほめるときは、どうしても勉強の成績や運動、習い事の成果など、「自分がほめたいこと」を優先してしまうものです。でも、子どもがほめられて本当にうれしいのは「自分の思い入れがあること」「好きなことや熱中していること」をほめられたときなのです。お子さんの好きな生き物や電車、好きなゲームのキャラクターなどについて保護者の方が聞いてみると、喜んでたくさん話してくれるはずです。
「よく知っているね」
「説明がうまいね」
「面白さが伝わったよ」
……などと、大いにほめましょう。 そうすることでお子さんは「お母さん・お父さんはわかってくれているな」と感じ、信頼関係ができます。
5 学校以外で「挑戦したこと」をほめる
習い事やスポーツ活動などをしていると、大人はどうしてもその進捗度合や試合の結果を気にして「ここができていない」「もっとこうしたら」などと一言多くなってしまうものです。しかし、そうした活動は「挑戦できた」こと自体が素晴らしいこと。見方を変えてみると、子どもへの言葉がけの内容が変わってくるはずです。
「今年はこんなことに挑戦できたね」
「試合のとき、思い切りバットが振れていたね」
……などと、(たとえ成果が出ていなかったとしても)よい部分に注目してほめることが大事です。
6「楽しかったこと」を共有する時間も大切に
ほめるだけでなく、「楽しかったことを振り返る」ことでも自己肯定感は上がります。
がんばったことは振り返りがちですが、年末に「楽しかった思い出を振り返る」という家庭は意外と少ないようです。
「今年楽しいことがあった」→「来年もきっと楽しいことがある」というイメージは、生きていくうえで大きなエネルギーになります。
年末、「スマホやカメラに眠っていた家族の写真をみんなで見る」というのは、家族の絆を深める時間になるでしょう。
「よかれと思って」つい言いがちなNGほめ言葉
保護者の方がお子さんをほめているつもりでも、実はNGな言葉を口にしてしまってはいないでしょうか。次にご紹介する例は「よかれと思って」つい言ってしまいがちな言葉ですが、子どもにはよい影響を与えないので注意したいものです。
「国語はよくがんばったね。次は算数もがんばろう」
通知表を見て、悪い評価があると言ってしまいがちな言葉です。
先にがんばった教科をほめてから次に他の教科を「がんばろう」と言うのでOKと思われるかもしれませんが、このような場合は「後から言われたこと」のほうが子どもに強く伝わることが多いのです。「成績がよくない教科をがんばらせるため、先によい教科をほめた」ことが子どもにもわかるので、せっかくほめられてもうれしく感じられなくなってしまいます。
では、順番を変えて「算数はもう少しがんばろう。でも国語はがんばったね」と言ったとします。そうなると、今度は最初に言われたことが気になって、後で言われたほめ言葉が耳に入らなくなってしまうのです。
こういうときは「シンプルによいところだけほめる」。それで十分です。
「わがままを言わなくていい子だね」
保護者の方が本心でそう思っていたとしても言ってはいけないのが、「わがままを言わず大人しくしていること」をほめる言葉です。そう言われると、子どもが素直に言いたいことを言えなくなってしまうからです。親が子どもを都合よくコントロールしたいという意図が見え見えで、「親を困らせるようなことを言わない、親に都合がよい子どもでいる」ことを子どもに強いてしまいます。
心理学において、子どもが親の愛情を実感するのは「無条件に自分を肯定されたとき」。ありのままの子どもを受け入れることがとても大事です。
「○○ちゃんより、よくできたね! 」
これもよく聞かれる言葉ですが、「〇〇ちゃんより……」と、きょうだいや友だちと「比較してほめる」のはNGです。比較することで「子ども自身がいい気分になる」と思われているのかもしれませんが、決してよい影響はないと思います。
比較する相手を一段低く見ることにもなりますし、子ども自身も「自分が失敗したら、立場が逆転する」と不安に感じたりもします。特に度々きょうだいで比較すると、「お母さん(お父さん)は、自分たちきょうだいを比較して見ているんだな」と気持ちが落ち着かなくなるものです。
比較するなら相手は「過去の自分」にして、その成長を喜ぶことを目的にしてください。
年末年始、注意や小言なしで子どもと過ごすために
一人の人間として尊重する
親というのは我が子に遠慮がないものですし、特にお母さんは自分のおなかから生まれたからと「自分の一部」のように感じていることも少なくありません。
しかし、子どものほうは自分を「親の一部」などとは思っていません。
日本やアジアでは「親が上、子どもは下」という考え方が多く見られます。特に子どもの年齢が低く保護者の方の影響が圧倒的に強い中で「だめ」と否定的な言葉をかけられ続けると、子どもは自分の成長にふたをしてしまうという研究結果があります。
一方、教育先進国と言われる北欧では、3歳の子どもに対しても一人の人間としてリスペクトし、ていねいに、わかるように話をします。上下の関係ではなく、人間同士として話をするのです。
「返報性の原理」といって、人間には「相手が自分を尊重してくれると、自分も相手のことを尊重しようとする」という心理が働くと言われます。それは職場での人間関係でも、親子の関係でも同じこと。子どもの気持ちや意志を尊重することが、親子関係をよくすることにつながります。
子どもに不愉快な言い方をするのは「親の甘え」
保護者の方がお子さんに乱暴な言い方をするとき、「親だから許される」と思っているかもしれません。しかし、それは「親の甘え」でしかないのです。
「まだ○○してないじゃない!」「○○してはだめ!」などと否定的な言葉を浴びせられるのは、大人でも不快なものですし、子どもも同じです。
「子どものよくない点や足りない点を否定的に言うのをやめる」と意識するだけでも、親子関係はぐっとよくなります。
「まだ片付けをしていないじゃない」→「片付け競争しよう。用意ドン」
「早く起きないとだめ」→「起きよう。朝ごはんは大好きな卵焼きだよ」
……などとゲーム化したりプラスの表現に言い換えたりして、責めずに伝えることで、お子さんも気持ちよく保護者の方の言うことに耳を傾けるようになります。
「アンガーマネジメント」で対処する
保護者の方が意識して叱らないようにしていても、時にはお子さんの言動についカッとして感情的になることもあるでしょう。そんなときはアンガーマネジメントで怒りの感情を整理し、適切にコントロールしましょう。今はネットで検索するとさまざまなアンガーマネジメントの手法が紹介されているので、ご自分がやりやすい方法を見つけてみるのもいいと思います。
おすすめは深呼吸です。3秒程度、深く鼻から息を吸って肺をいっぱいにしたら、息をゆっくり吐き出します。そうして気持ちを落ち着けられたら、言葉を工夫することもできますし、イライラが続かなくなります。
最後に、お子さんと過ごす年末にぜひ伝えてほしい言葉があります。
「今年も一緒に過ごせてうれしかった」
「あなたがいてくれて幸せ」
「あなたが大好き」
「来年もよろしく」
このように、無条件にその子の存在そのものを受け入れるような言葉をお子さんにかけてあげてください。年末年始を挟む冬休みの時期には、一緒に掃除をしたり遊んだりおしゃべりをしたりして、ぜひ親子で楽しく有意義に過ごしていただきたいと思います。
この記事の監修・執筆者
教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOk』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Instagram、Threads、X、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
mail:oyaryoku@ka.tnc.ne.jp
Threads:https://www.threads.net/@oyanochikara
Instagram:https://www.instagram.com/oyanochikara/
X:https://twitter.com/oyanochikara
Voicy:https://voicy.jp/channel/2888
Blog:http://oyaryoku.blog.jp
㏋:http://www.oyaryoku.jp
メルマガ:http://www.mag2.com/m/0000119482.html
YouTube:https://tinyurl.com/5cj96wjk
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪