「夜尿症 前編」では、夜尿症とおねしょの違い、夜尿症の原因やメカニズムについてお伝えしました。後編では、家庭でできる夜尿症対策と治療法、保護者の声かけなどについて、前編に引き続き、兵庫医科大学小児科学特別招聘教授の服部益治先生にお話をうかがいました。
文/こそだてまっぷ編集部
生活のちょっとした見直しで症状が改善
夜尿症を治療するときは、まず、生活習慣を見直すことから始めます。これを2週間~1か月程度続けるだけで症状が改善されるケースが多いのです。たとえば、以下のような点を見直すだけで2~3割のお子さんの症状が改善されています。これを参考にお子さんの毎日の行動を見直してみませんか。
●規則正しい生活をする
夜ふかしや不規則な生活は夜尿症を悪化させます。早寝、早起き、決まった時間の食事を心がけましょう。とくに朝食と昼食はしっかり食べさせます。夕食は少し控えめにして早めにとり、夕食後から寝るまでの時間を可能なら2~3時間あけましょう。
●水分のとり方に気をつける
寝る前に水分をとり過ぎると夜尿につながります。ですが、水分は体に必要なので、朝食や昼食時など日中にたっぷりとるようにしてください。夜は、入浴後の水分摂取も含めて、夕食時から就寝まではコップ1杯(200cc)程度の水分摂取にとどめましょう。
●塩分を控える
塩分のとり過ぎは、のどが渇いて水分のとり過ぎにつながります。夕食の塩分過多は、寝るまでの水分過多を引き起こし、夜尿の原因にもなるので塩分を控えましょう。
●便秘に気をつける
便秘とは、便の回数が少ない(週2回以下)か、出にくい(出血や痛みがある)ことをいいます。便が腸内に大量にたまっていると膀胱などを圧迫し夜尿を引き起こすことがあります。食物繊維を多く含む野菜、果物、豆類、いも類などをバランスよく食べさせましょう。
●寝る前にトイレに行く
トイレに行ってから寝る習慣をつけましょう。布団に入り30分~1時間経っても寝つけないときは、もう1度トイレに行かせます。お子さんが「トイレに行っても、おしっこが出ない」と言ってもトイレに行く習慣をつけることが大事です。
寝る前だけでなく、毎日の生活で定期的にトイレに行く習慣をつけることは大切です。おしっこをがまんして膀胱に負担をかけるのはよくありません。トイレに行きたくないときでも定期的に行かせましょう。たとえば、食事の後、学校の休み時間、テレビを見たりゲームしたりする前などは必ずトイレに行くことを教えるといいでしょう。
●寝ているときの寒さ(冷え)から守る
冷えは尿量の増加や膀胱の縮小につながります。とくに冬は気をつけましょう。子どもの場合、厚着をさせると暑くなりすぎて、寝ている間に脱いだり、布団をはいだりしてかえって冷えてしまうことがあります。
●寝る前のゲームはNG!
夜尿症は、睡眠と深い関わりがあり、質のよい睡眠をとると夜尿症が早く治るとされています。ですから夜尿症対策には睡眠の質を上げることが大切です。
睡眠の質を下げる原因のひとつに部屋の照明があります。お子さんが寝る部屋の照明に蛍光灯やLED照明を使っているご家庭は多いようですが、眠る直前まで蛍光灯の白い光やブルーライトを浴びていると脳の生体リズムが乱れ(夜なのに昼間だと脳が認識してしまうなど)、質のよい睡眠がとれません。できるだけ白熱灯やブルーライトの少ない電球色のLED器具を選ぶようにしましょう。
お子さんが夢中になるゲーム機やスマホからブルーライトを浴びないために、就寝1~2時間前はゲームをやらせないようにしてください。
夜中、無理にトイレに起こさない
夜中にトイレに行かせようとして、お子さんを無理に起こすのはやめましょう。無理に起こしても夜尿症治療に効果はありません。トイレに行かせるために夜中に起こすと、睡眠のリズムが崩れたり睡眠が浅くなったりします。そうすると睡眠の質が低下してしまうので夜尿症対策にはむしろ逆効果です。また、睡眠が妨げられて抗利尿ホルモン(夜間の尿の量を減らす作用があるホルモン)が分泌されにくくなり、夜尿を繰り返すことになってしまいます。
※抗利尿ホルモンと睡眠の質については、「夜尿症 前編」に説明があります。
出しきるための排尿時の体位もポイント
排尿時は「尿を出しきる」体位をとることがポイントです。そのためには、排尿時に骨盤底筋をリラックスさせる姿勢が有効です。簡単に言うと、洋式トイレなら男の子も座って排尿するほうが出しきりやすいのでぜひ試してみてください。
また、便器に座ると足が床につかない小さなお子さんは、便器の横に踏み台があると足を置いてふんばることができるのでオススメです。夜尿症のお子さんは、トイレに行っても尿を出しきっていないことが多く、夜尿症の一因とも言える便秘も、排泄時のこの姿勢で改善が期待できます。
薬物療法とアラーム療法が主な治療法
生活習慣の見直しをしてもよくならない場合は、薬やアラームを用いた治療法があるので医療機関に相談しましょう。
【薬物療法】
(1)抗利尿ホルモン薬
体内での尿の量や水分を調節しているホルモンと同じような作用があり、尿を濃縮して量を減らします。
(2)三環系抗うつ薬
抗利尿ホルモン薬などで効果が十分でない場合に使われることがあります。
(3)漢方薬など
お子さまの症状に合わせて用いることがあります。
【アラーム療法】
寝る前にお子さんのパンツに小さなセンサーをつけることで、夜尿でパンツがぬれるとアラームが鳴ります。夜尿をした瞬間を感知し、本人に気づかせる方法です。6週間~3か月程度、毎晩装着することで、何時くらいに夜尿をするか脳が判断できるようになり、その時間に自分で起きられるようになることを目指します。アラームが鳴ってもお子さんが自分で起きられないときは、家族の協力が必要になります。
相談するならまず小児科(小児泌尿器科)へ
夜尿症が疑われるときは、小児科もしくは泌尿器科(小児泌尿器科)の医療機関に相談しましょう。ただし、すべての小児科、泌尿器科が夜尿症に対応しているわけではありません。事前にWEBサイトなどで確認するといいでしょう。
■「おねしょ卒業!プロジェクト委員会」が運営するWEBサイト「おねしょ卒業!プロジェクト おねしょで悩むお子さまとその家族へ」では、相談できる医療施設を探すことができます。
【スマホ】https://onesho.com/sp/patient/clinic/
【PC】https://onesho.com/patient/clinic/
お泊りイベント時の対策
宿泊行事は、お子さんが貴重な体験をできる機会です。たとえ夜尿があるお子さんでも自信を持って参加させてあげたいものです。冒頭でご紹介した生活習慣の見直しに取り組みつつ、以下のような対応をしてみましょう。
・夕食時と夕食後の水分摂取を制限(合計で約200CC、コップ1杯以下)
・就寝前の排尿と、夜中に起こしての排尿
※通常は夜中に起こすのはよくありませんが、宿泊学習など特別なときは緊急避難的な措置として有効。
・濡れやしみが目立たない黒や紺など濃い色のパジャマを持参
・市販のおねしょパンツなどの利用
・担当の先生や付き添いの方への協力依頼
育て方やしつけなどが原因ではない
いろいろな対策や治療をしても、夜尿をしてしまうことはあるでしょう。そんなときでもお子さんのことを叱ったり、きょうだいと比べたりしないようにしてください。叱っても夜尿症は治りません。
大切なのは「あせらない・怒らない・比べない・ほめる」ことです。辛抱強くサポートし、一晩でも夜尿がなかった日は、しっかりとほめてあげましょう。
毎晩夜尿が続くと、寝具の洗濯など保護者の方の負担は決して小さくないでしょう。お子さんの夜尿は育て方やしつけなどに問題があるのかもしれない、と自分を責めてしまう保護者の方もいます。ですが、育て方やしつけなどは関係がありません。お子さんが自信を持って毎日を過ごせるように夜尿症への理解を持って支えてあげてください。
この記事の監修・執筆者
「おねしょ卒業!プロジェクト委員会」委員長。日本小児科学会専門医、日本腎臓学会専門医、日本夜尿症学会評議員、医療福祉センターさくら院長ほか。専門は、小児科全般、腎臓病、夜尿症、予防接種、傷害予防など。次世代を託す子どもたちに心豊かに育ってもらうために講演や執筆などで活躍。
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