【えっ、まだ43%が和式なの!?】学校のトイレ「5K」問題、最新事情 [専門家監修]

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【えっ、まだ43%が和式なの!?】学校のトイレ「5K」問題、最新事情 [専門家監修]

「学校のトイレではうんちをしたくない」という子どもが約6割。学校のトイレの問題点と、その解決のための取り組み例などを「学校のトイレ研究会」事務局長の冨岡千花子氏にうかがいました。

※以下、本記事中のデータは「学校のトイレ研究会 研究誌」掲載の調査結果を引用しています。

文/こそだてまっぷ編集部

目次

すべてのトイレが和式、という学校も多い

文部科学省の発表によると、全国の公立小中学校の施設にあるトイレ約136万個のうち洋式は57%、和式は43%です(令和2年)。文部科学省は4年ごとに全国調査を行っていますが、洋式が半数を超えたのは今回が初めて。新築・改修された校舎はオール洋式という学校が多いですが、古い校舎の場合は多くのトイレが和式で、校内にある洋式トイレは1、2個という学校もいまだに多くあります。

「学校のトイレ研究会」が全国の公立小中学校の教職員に調査したところ「学校で、児童・生徒のために施設改善が必要と思われる場所はどこですか?」という質問には「トイレ」という回答がなんと62%ともっとも多く、改善・改修が望まれています(2021年度調査)。この背景には、新型コロナウイルス感染症による衛生意識の高まりもある一方で、トイレに行くのをがまんして体調を崩す子どもたちがいるという深刻な事情もあります。

学校のトイレでうんちができない子どもたち

《学校のトイレに関する養護教諭アンケート(2013年)》

●あなたの学校でトイレに行くのをがまんする児童や生徒はいますか? ※小便・大便含む

いる…47%

●学校で大便をすることを嫌だという児童や生徒はいますか?

いる…63%

上記のように、「学校でうんちをするのは嫌」という子どもは多いことがわかります。その理由は、「人がいると恥ずかしい」「大便をするとからかわれる」といった心理的なものもありますが、「和式便器が嫌」「学校が汚くて臭う」という声も多く、学校のトイレの「5K(汚い、臭い、暗い、怖い、壊れている)」が課題となっています。

子どもが学校でトイレに行くのをがまんすることによる健康リスクは、医師からも指摘があります。日本小児栄養消化器肝臓学会出席の医師に調査したところ(2018年)、すべての医師が「臭くて汚い学校のトイレが、子どもたちの健康に悪影響を及ぼすことがある」と答えています。大便をがまんすることによって排便のリズムが崩れ、便秘や下痢になる可能性があり、その結果、腹痛や便の漏れなどを引き起こすこともあるでしょう。子どもの健康リスクを防ぐためにも、学校のトイレの環境改善は急務といえるでしょう。

実際に、ある小学校でトイレを明るくきれいに改修した後に調査したところ(2018年)、改修前は「学校のトイレは汚い、臭いから嫌」という理由で用を足すことをがまんしていた子どもたちの8割以上が「改修後はがまんすることが減った」と答えています。

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5K解決のポイントは「洋式化」と「乾式化(かんしきか)」

学校、または自治体の多くは、今トイレの課題を解決するために「洋式化」「乾式化」に取り組んでいます。

1.洋式化

和式便器の周りは、その形状から尿・便の飛散や臭気の拡散を防ぐことが難しいとされています。汚れの度合いをCFU(*)の数値で見てみましょう。

*トイレ内糞便由来菌汚染度(大腸菌数CFU/cm2)のこと。

●洋式便器の下の床……5 CFU

●和式便器周りの床…820 CFU

洋式便器に比べ、和式便器の周りからは大量の大腸菌が検出されています。臭気も汚れに起因するので、和式から洋式トイレに変更することで汚れや臭いの問題を改善することができます。

2.乾式化

従来、トイレの清掃は、水を流してブラシでこすり洗いをする「湿式(しっしき)清掃」が一般的でした。しかし、この方法は、一見きれいになったように見えますが、実は濡れたまま放置することで菌を増殖させてしまうことがわかってきました。そこで、近年は、床に放水せずに清掃する「乾式清掃」ができるトイレに改修する学校が急速に増えています。学校のトイレにおけるCFUの測定結果が以下です。

●湿式清掃の床……83,000 CFU

●水栓のハンドル… 6,250 CFU

●乾式清掃の床………180 CFU

●天日干しした衣類… 18 CFU

●洋式便座……………… 3 CFU

湿式清掃の床など濡れている場所から大量の菌が検出されていることがわかります。「自宅以外の洋式便座は不衛生な気がして苦手」というかたもいるようですが、感覚的な清潔感と実際の衛生性は異なります。濡れていない洋式便座の菌の検出量は極めて少なく“洋式便座は衛生的”ということになります。

乾式化の取り組みとしては、男子トイレの小便器を床が濡れにくく清掃しやすい壁掛けタイプに変更する学校が目立っています。コロナ禍の際には教職員がトイレの清掃・消毒を行う学校もありましたが、通常、学校では教育的な意図もあり、子どもがトイレの清掃に取り組むところが8割を超えています。清掃時の衛生管理や清掃のしやすさ、節水という面でも、学校のトイレの洋式化・乾式化が望まれています。

災害時に学校のトイレが担う大切な役割

ほとんどの学校は災害時に住民の避難所になります。トイレも、通学している子どもたちのためだけでなく、高齢者や障害のあるかたなど多様な地域住民にとって使いやすい「みんなのトイレ」であることが求められます。文部科学省でも2020年に学校施設におけるバリアフリー化の加速に向けた緊急提言をとりまとめています。

たとえば、車いすユーザーでも使いやすいスロープの設置・段差の解消・バリアフリートイレの設置、オストメイト(*)対応の設備、ベビーチェアなど乳幼児用の設備、性的マイノリティにも配慮した性別に関係なく使える男女共用トイレなどトイレのユニバーサルデザイン化が検討されています。

*病気などを治療するための手術で、腹部に排泄のためのストーマ(人工肛門・人工膀胱) を造設した人のこと。

SDGs、保健、ダイバーシティ…トイレは“学びの場”

今、トイレを教材とした教育に取り組む学校も増えています。

水を使う場所であるトイレは、水の大切さや水環境を考える教材に適しており、節水や地球環境の循環などSDGsに関わる学習によく活用されています。また、「排泄」は、私たちの体のしくみや健康を考える上で欠かせない行為であり、子どもにとって実践的な保健の学習につながります。さらに、バリアフリー、ジェンダーフリーなどいろいろな人に配慮したトイレに触れることで、多様な人と共存する社会やユニバーサルデザインへの気づきを促す学びにも役立っています。

家庭でも排泄の大切さを伝える働きかけを

子どもが学校のトイレをうまく使えるようになるために、ご家庭でも働きかけていくことをオススメします。たとえば、「うんちをすることは、あなたの健康にとって大切だよ」と排泄の意味を伝えていくとよいでしょう。体のしくみや排泄の役割を正しく理解できれば、学校のトイレで用を足すときのストレスを軽減するのに役立つはずです。また、トイレを使う際のマナーも伝えていきましょう。とくに公共施設などのトイレを利用する際、「次の人が気持ちよく使えるようにきれいに使おうね」といった声かけも重要です。

トイレに行って排泄をするのは、だれにとっても生きるために大切なことです。日ごろからトイレと排泄のことを子どもに伝えて、学校のトイレも上手に使えるようになるとよいですね。

この記事の監修・執筆者

冨岡千花子

監修/冨岡千花子(学校のトイレ研究会事務局長)
1994年、住宅設備機器などの製造販売メーカーTOTO株式会社入社後、さまざまなパブリックトイレ空間の提案業務に従事。2022年「学校のトイレ研究会」事務局長に就任。学校のトイレのよりよい環境づくりを目指して活動。
「学校のトイレ研究会」:子どもや地域の人々が安心して使える清潔で快適な学校のトイレ環境の実現を目指して、1996年11月に発足。トイレに関連する6社(アイカ工業、オカムラ、木村徳太郎商店、TOTO、ミッケル化学、ロンシール工業)で活動を行っています。

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