小学校の算数で教わる四則計算(たし算、ひき算、かけ算、わり算)は、日常生活で必要となる基礎知識です。大人はもちろん、多くの子どもも習得してしまえば当たり前のようにできる計算かもしれませんが、実は「どうしてそう解くのか」「そこにどんな意味があるのか」という問題の奥にある考え方をとらえることが、とても大切です。
「問題の奥にある考え方などあるの?」と思われるかもしれませんが、ただ計算問題を解くだけでは気づきにくい、算数の本質に関わるお話です。
この考え方や意味を理解することで、算数の問題もわかるようになり、算数や学ぶこと自体が楽しくなっていきます。まずは大人が理解して、子どもとコミュニケーションを取りながら教えてみましょう。
最終回である今回は、四則計算の最難関である、わり算についてです。
お話/小宮山博仁(教育評論家)
わり算には、2つの意味がある
小学校3年生で習うわり算は、かけ算の逆算であり、わり算とかけ算は切っても切れない関係にあります。このわり算には、2つの意味があることをご存じですか? かけ算の基本的な意味が「〈一つあたりの量〉×〈いくつ分〉=〈全体の量〉」ということを念頭に置いて、次の文章題を見てください。
【問題1】 みかんが全部で8個あります。2人で分けたら、1人あたりいくつになりますか。計算式も答えましょう。
【答え】 4個 (式 8÷2=4)
これはわり算で「一つあたりの量」を求める問題、つまり〈全体の量〉を等しく分けたらいくつになるかを考える問題です。式を立てるときは、〈全体の量〉÷〈いくつ分・何人分〉=〈一つあたりの量〉という式、つまり〈全体の量〉にあたるみかん8個を〈いくつ分〉にあたる2(人)で割る式になります。
さて、次の文章題はどうでしょうか。
【問題2】みかんが全部で8個あります。1人あたり2個ずつ分けると、何人に分けられますか。計算式も答えましょう。
【答え】 4人 (式 8÷2=4)
これはわり算で「いくつ分」を求める問題、つまり全体の量の中に「いくつ分」にあたる数がいくつあるかを考える問題です。式を立てるときは、〈全体の量〉÷〈一つあたりの量〉=〈いくつ分・何人分〉という式、つまり〈全体の量〉であるみかん8個を〈一つあたりの量〉である2(個)で割る式になります。
どちらも8÷2=4で同じ式ですが、その式の持つ意味は違います。答えの単位に注目してください。問題1の答えは「4個」、問題2の答えは「4人」です。
みかんをタイルに置き換えて考えてみましょう。
問題1は「一つあたりの量」を求める問題で、全体の量を〈いくつ分〉で「等しく分ける」という意味で「等分除(とうぶんじょ)」と言います(除は「割る」という意味です)。これは、かけ算の基本的な考え方である「〈一つあたりの量〉×〈いくつ分〉=〈全体の量〉」(という決まった式)を変形したものであることがわかります。問題1なら、4(個)×2(人)=8(個)を変形して、8(個)÷2(人)=4(個)となります。
問題2は「いくつ分」を求める問題です。このわり算は等しく分けるのではなく、全体の量(ここでは8個)の中に1人分の2個がいくつ分あるかを求めるものです。このような「いくつ分」を求めるわり算を「包含除(ほうがんじょ)」と言います。〈一つあたりの量〉×〈いくつ分〉=〈全体の量〉というかけ算が、〈全体の量〉÷〈一つあたりの量〉=〈いくつ分〉という式に変形できます。包含除の考え方は、大人も盲点だったと思うこともありますので注意してください。
このわり算の逆算となるかけ算は、2(個)×4(人)=8(個)という式になります。問題1の例で示した4(個)×2(人)=8(個)と同じような式で答えも同じなので違いがあまり感じられませんが、文章題で出されると違うことがわかります。
つまり、「みかんを4個ずつ、2人に配るには何個必要ですか。」という問題であれば4(個)×2(人)=8(個)という式になります。また、「みかんを2個ずつ、4人に配るには何個必要ですか。」という問題であれば2(個)×4(人)=8(個)という式になります。
文章題を解く場合は、何の量を表しているのか理解して式を立てることが大切です。
わり算の基本的な問題は等分除が多いので、まずは全体の量を〈いくつ分〉で「等しく分ける」という形に慣れましょう。
何を求めるわり算なのかを理解して計算できるようになると、5年生以降の割合や平均、速さなどの内容がとてもわかりやすくなります。
たとえば、速さを求める問題は1時間あたりどのくらいの距離を移動するかを考えるので、距離を時間で割ります。「100kmの距離を2時間で走ると、時速は何kmになりますか。」という速さを求める計算は、100(km)÷2(時間)=50(km/時)となります。100kmが〈全体の量〉、2時間が〈いくつ分〉、時速50kmが〈一つあたりの量〉と当てはめることができ、等分除の考え方に近いことがわかります。わり算は、かけ算と同様に「量」を意識して考えるようにしましょう。
わり算のあまりを求める問題には要注意
わり算の問題には、答えが割り切れず「あまりも求めなさい」というものもあります。
【問題3】 みかんが50個あります。このみかんを8個ずつ袋に入れると、8個入りの袋はいくつできますか。またみかんは何個余りますか。計算式も答えましょう。
【答え】6袋できて2個余る(50÷8=6 余り2)
この問題は、みかん50個(全体の量)の中に8個のまとまりがいくつあるかという包含除の問題です。なので、式は50÷8となります。計算をするときは、考え方を重視して途中式を必ず書き、結果(正解)ばかりを気にしないようにしましょう。考えるプロセスやどこで間違えたのかなどを見直すことができます。
以前、問題3で「7袋」できると答えた子がいました。この子は、6袋できて2個余ると答えを導き出すことができましたが、「余りの2個を入れる袋が必要だから6+1で7袋必要」と考えてしまったのです。実際にはそのような状況があるかもしれません。ただ、ここでは算数の問題として正しく文章を読み解くことが大切です。途中式が書かれていれば、このような間違いも見つけることができます。
いかがでしたか? わり算には等分除と包含除の2つの意味があるということを押さえることができたでしょうか。包含除は、等分除に比べて難しい考え方で、子どもの包含除の正解率は等分除の正解率に比べて低いです。大人でも戸惑うところがあるかもしれませんが、たとえば1÷1/3というような分数のわり算は、「1の中に1/3がいくつあるか?」という包含除の知識で考えると、大人ならわざわざ計算しなくても、「3つある」と答えられるはずです。この、直感的に解く、わり算を知っていると、何かと便利です。
くり返しになりますが、低学年のうちに、友だちとの遊びやご家庭でのお手伝いなど、日ごろからたくさん生活体験をすることは算数の深い理解につながります。「シールが10枚あるけど、3人で分けたらいくつもらえる?」「カステラをいくつに切ったら、みんなが2つずつ食べられるかな?」などとお子さんにたくさん声をかけると、自然にわり算に触れることができます。ぜひ気軽に楽しみながらお子さんと計算をしてみてください。
この記事の監修・執筆者
こみやま ひろひと/1949年生まれ。日本教育社会学会会員。放送大学非常勤講師。2005年より学研グループの学研メソッドで中学受験塾を運営。学習参考書を多数執筆。最近は活用型学力やPISAなど学力に関した教員向け、保護者向けの著書、論文を執筆している。
主な著書・監修書に『子どもの「底力」が育つ塾選び』(平凡社新書)、『はじめてのアクティブラーニング社会の?<はてな>を探検』全3巻(童心社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 数と数式の話』(日本文芸社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 数学の定理』(日本文芸社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 統計学の話』(日本文芸社)、『大人に役立つ算数』(角川ソフィア文庫)、『危機に対応できる学力』(明石書店)など多数。
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