
運動会や発表会など学校行事が続く秋。自ら手を挙げて積極的に活躍している子と、消極的なために引っ込み思案になってしまいがちな我が子を比較して、もやもやすることはないでしょうか。
どうして消極的になるのか、また、消極的な気質を持つ子の行動の理由や対処法を解説。
子どもの成長のためにどんな働きかけやサポートをすればよいか、ご自身も「消極的な子どもだった」という公認心理師の佐藤めぐみさんに伺いました。
文/こそだてまっぷ編集部
「消極的な子」の行動パターン
「お子さんが消極的なタイプで悩んでいる」という保護者の方は少なくないようです。消極的な子には次のような行動パターンが見られます。
・授業中、わかっているのに手を挙げない
・クラスでの係決めなど、やりたいことがあっても自分からは手を挙げない
・発言するときの声が小さく、自信がなさそうな態度を取る
・休み時間は、ごく少数の気が合う子とだけ遊ぶことが多い
・クラス全員参加の遊びやイベントに尻込みをする
・困っている時に、なかなか先生に伝えられない
・読書や一人遊びなど自分の世界を持っている
・家では普通に会話ができている
消極的なお子さんを持つ保護者の方としては、学校でなかなか力を発揮できずに歯がゆい思いをしたり、損をしていると感じたりすることもあるでしょう。よくないとわかってはいても、つい積極的に行動できる他のお子さんと比較してしまうことも。
では、「積極的な子」と「消極的な子」の行動には、どんな違いがあるのでしょうか。
「消極的な子」と「積極的な子」の違い
「消極的である」というのは生まれつきの気質が大きく影響しています。気質というのは、その人の性格や行動パターンの傾向を示すもの。生まれながらに持っているもので、後から変えることは難しいものです。
新しい刺激に対して、積極的な子は「接近する」のに対し、消極的な子は「回避する」傾向にあります。 例えば入学式のようなイベントを目前にすると、積極的な子はわくわくするし、消極的な子はびくびくしてしまう、というように最初から捉え方や感じ方が違うのです。
また、消極的な子は、自分の気質に沿った行動を取ることで安心できます。例えば人前に出るような場面で「出る」選択をすると負担を感じて、「出ない」選択をすると安心できるわけです。その結果、「出なくてよかった」と思うことが多いので、その行動を繰り返すことになります。
さらに、例えば教室で発言するときに皆に見つめられてうまく答えられず、落ち込んだ経験をしたとします。そうなった原因は、自分の性格に合わない行動を取ったせいだと解釈することもあり、落ち込むことを回避するために「手を挙げない、発言しない」などといった行動を選択することを学習してしまいます。1歩目の行動が、2歩目、3歩目につながっていくのです。
しかし、そうした「回避学習」が行われ、いやなことを回避する行動があまりに強化されてしまうと、学校生活に支障をきたすことも増えてしまうため、対策が必要です。
保護者の方が子どもの心に寄り添うのは大切なことですが、消極的な子には簡単に回避学習をさせないような働きかけが大切というわけです。
「消極的な子」に親はどう対応する?

今や、学校の授業や推薦入試、就職の面接など、さまざまな場面で「プレゼンテーション能力」が求められる時代になってきています。グローバル化が進み、さまざまな人と共生することを求められる社会で生きていくことを考えたら、ある程度のコミュニケーション力もあるとよいでしょう。
そこで、消極的な性質を持つお子さんだからこそ、できるだけ早い時期からの働きかけがとても重要です。
次に、保護者の方がお子さんにどんな働きかけをしていったらよいかを見ていきましょ
う。
1.「完全回避」をさせない
まず重要なことは、消極的な気質というのは生まれつきのものなので、無理にお子さんを積極的な気質に変えようとしたり、変えられないことで親が自分の子育てを責めたりしないことです。
ただ、気質は変わらないとしても、消極的なまま放っておくと社会生活でうまくいかなかったり、損をしたりすることもあります。
そこで、消極的なお子さんには、できるだけ回避学習を促さないようにすることが必要です。
学校や習い事に「行きたくない、いやだ」と子どもが言ってきた場合、時には「そうだね、いやなら行かなくていいよ」と寄り添ってしまうこともあるでしょう。 しかし、消極的なお子さんの場合、そうすることで回避学習がますます強化され、ちょっとしたハードルでも「いやだ」となってしまいかねません。
対処法として、「習い事に行きたくない」と言われた場合、「参加しなくてもいいから見学に行こう」「先生の顔だけ見に行こう」などとハードルを下げてみます。 見学できたり、部分的にでも参加できたりしたら、「完璧ではなくても成果はあった」と認めてあげましょう。
このように、「今日はこれができたね」などと言語化して、自信をつけさせるのです。まずは「完全回避」を学習させないことが大事です。
2.他人との比較をしない
積極的、消極的な気質というのは別の思考回路であり、簡単に比較できるものではありません。それなのに積極的な他のお子さんと比較して、「○○ちゃんはできているじゃない」などと口にするのはNGです。
学校ではどうしても積極的な子が目立つために、消極的なお子さん自身が「自分はできない」という刷り込みで自信を失っている場合もあります。積極的な子がうらやましく、発表できたらいいなと思っていることもあるかもしれません。
ただ、先に述べたように、積極的な気質を持つ子と、消極的な気質を持つ子とではそもそもの思考回路が違うのですから、他人との比較は意味がないもの。 保護者の方は、お子さんなりに積極性を出せた場面を言語化して、「今日は行けたね」「〇〇ができたね」と少しずつ自信をつけてあげるとよいでしょう。
3.「あなたもできるはず」と決めつけない
気質には遺伝的な影響もあるので、保護者の方が似たタイプだと「気持ちがわかる」場合もあることでしょう。しかし、我が子と自分が違うタイプだったりすると、つい「お母さんが小学生の頃は学級委員で……」などと自分の武勇伝を語って励ましてしまいがちです。 「だからあなたもできるはず」と言うのは、子どもに余計なストレスを与えてしまうことになりかねません。
実は、私自身が典型的な消極的タイプで、母親の気質とは全く違っていました。小学4年生の頃、母から「なぜ勉強も運動もできるのに、積極的にならないのか」と言われ続けていて、「積極的になりなさい」と手紙までもらったこともあります。
その当時は、母親と自分の気質の違いなどわかりようもなかったため、「お母さんはわかってくれていない」「それでも積極的にはなれない」と感じていたことを今も覚えています。
このように、つい自分の思考回路や気質をベースにお子さんのことを見てしまいがちですが、子どもと親は別の存在だということを明確に自覚して、決めつけずに子どもの気持ちに寄り添うことが大事です。
4.スモールステップで慣れさせる
消極的なお子さんが学校行事や習い事の発表会など、プレッシャーがかかるような行事に参加する場合は、「段階的暴露」という方法がおすすめです。
「段階的暴露」とは目標に対して、スモールステップで刻んで取り組む方法。
大勢の前に出るような場面では、人並みの練習だと真っ白になってしまうので、
「完全にセリフやすべきことを覚えている状態を作る」→「人よりたくさん練習する」→「お父さんの前でも発表してみる」→「高いところや目立つ場所に上がってやってみる」 ……と少しずつ刺激のハードルを上げながら練習を積み重ね、刺激に「慣れる」ことで、不安や恐怖心を解消できるようになっていきます。
ちなみに、こうした練習でいったん克服できたように見えても、消極的な気質そのものが変化したわけではありません。
私自身も就職の際、母の希望や自分の憧れもあり、CA(客室乗務員)という人に注目される仕事を選んだのですが、訓練期間にたくさんの人の前で話す練習を重ねて、最終的には慣れてできるようになりました。それでも、仕事を辞めた後は消極的な自分に逆戻り。いまだに、たくさんの人の前で話すのは苦手です。
「慣れたから大丈夫」ではなく、練習によって一時的にカモフラージュされていただけで、元の気質に戻りやすいのです。 それだけ持って生まれたものは大きいということです。
ただし、消極的だからこそ気づける部分があったり、人の立場に立てたり、よい側面があることも事実です。
苦手なことでも練習してできるようにはなるので、消極的な子のよい面を認めて伸ばしていくことが大切だと思います。
5.消極的な子ほど場数を増やす

最後に、消極的なお子さんをお持ちの保護者の方にお伝えしたいのは、「できるだけ小さい頃から刺激にふれる機会を増やしてもらいたい」ということ。小さいうちから親子一緒にあちこちに出かけることが、プラスに働くのです。
赤ちゃんの時はまだその子の気質というものに気づけないことが多いものですが、2歳頃からだんだんとわかってきます。自分で自由に行動できるようになった時に、新しい刺激に興味を持つのか、こわがるのか、本来のその子の気質というものが見えてくるのです。
ですから、消極的なタイプの子ほど、「積極的に公園に行く」「児童館に出かけてみる」など、少しずつハードルを上げながら「段階的暴露」によって場数を踏み、慣れさせることが大事です。
子どもが小さいうちほど、親子で出かける機会は作りやすいもの。
消極的な子に対しては、とりわけ意識的に一緒に外に出る機会を多く持って場数を踏ませることで自信を持たせることができ、その子の成長につながります。
お子さんが消極的な気質でも、学校生活や社会で生きていくうえで困ることがないように、保護者の方が事前にお子さんの気質を把握して対処することが、大切なのです。
この記事の監修・執筆者

専門は0~10歳のお子さんを持つご家庭向けの行動改善プログラム、認知行動療法ベースの育児ストレスの支援。英・レスター大学大学院修士課程修了。今、力を注いでいることはママの心のケアのためのメルマガ「ポジ育クラブ」
https://megumi-sato.com/
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