いっしょに出かけたり、孫の面倒を見てくれたり、「まだまだうちの親は元気。親の介護なんてもっと先の話」と思っているかたも多いのでは?
ただ、近年は「子育てと親の介護が同時に来てしまう」という、ダブルケア問題に直面する人が増えていることのも事実です。
いざ自分がそうした状況になったときあわてないために、今のうちに必要な情報をおさえておきましょう。『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか: ナッジでわかる親の本心』の著者の一人で、ビジネスケアラーをサポートする「わたしの看護師さん®」を主宰する神戸貴子さんにお話をうかがいました。
現状をチェック!「うちの親はまだ大丈夫」はホント?
まずは、両親・義両親の現状の身体的・精神的な健康状態を把握することが大切です。次に挙げた項目で該当するものがいくつあるか、チェックしてみましょう。
□立ったり座ったりするときに、ふらつくことがある
□ここ1年以内に転んだことがある
□以前より食事の支度がおっくうになっている
□最近、料理の味つけがおかしくなった
□階段の上り下りで常に手すりを使っている
□以前より外出の回数が減った
□「疲れた、疲れた」とよく言う
□家にやたらと小銭がたまっている
□(意図せずに)半年間で2~3キロ以上体重が減った
□固いものが食べにくくなった
□お茶や汁物でむせることがある
□前に話したことをよく忘れる
□1年以内に銀行のカードや、マイナンバー、保険証などを紛失したことがある
□以前より部屋が片づいていない
□以前よりゴミ出しがきちんとできなくなった
□表情が暗くなった
□性格が変わって短気になった
いかがでしょうか。該当するものが2つ以上あったら、実は要注意なのです。元気そうに見えても、介護リスクに対する備えが必要と言えます。気になるかたは、厚生労働省が出している「基本チェックリスト」で、ぜひ本人の状況を確認してみてください。
出典:介護予防のための生活機能評価に関するマニュアル(改訂版)p.5丨厚生労働省
育児をしながら介護も! ダブルケアの何が大変か
子育てと介護が同時にやってくる「ダブルケア」問題の背景には、女性の社会進出による晩婚化、晩産化があります。晩産化によって育児期間が後ろ倒しになる分、介護のタイミングと重なる人が増えているというわけです。
ダブルケアの推計人口は2016年時点で約25.3万人ですが、毎日新聞の推計によると2024年1月時点では29.3万人と増加しています。その9割を30~40代の働く世代が占め、離職を迫られる人も少なくないようです。 ダブルケアには、次のような問題が挙げられます。
女性への負担が大きい
「育児と介護は女性がやるもの」という古い価値観のもと、女性にかかる負担が大きい
孤立してしまう
ダブルケアの経験者や相談機関が少なく、悩みを共有できずに孤立しがちになる
離職や家計への影響
仕事と両立できず離職する、または介護施設への費用など、家計の負担が重くなる
育児への影響
育児の時間が削られ、子育てに影響が出る。急な対応の際、子どもを預ける必要がある
体調不良
更年期にさしかかり、自分自身が体調不良であっても休めない
このように、ダブルケアに直面すると、さまざまな問題が出てきます。30~40代にさしかかって職場での責任も重くなり、仕事を休みたくても休めない時期に、育児・介護・仕事をすることになり、さらに、更年期にさしかかって自分の体調もすぐれないという、大変な状況に陥ってしまいます。
いざというとき、どこに頼ればいいの?
では、もしも急に介護が必要な状況になったら、どうすればいいでしょうか。
自分に知識がない、友人・知人に介護経験者がいないなど、だれにどう相談していいかわからない場合、おすすめは、親が住んでいる市区町村の役所にある高齢者福祉担当課など、高齢者の総合相談窓口です。そこに行くと、近くにある地域包括支援センターを紹介してくれます(ちなみに、自分の住む地域の市区町村の窓口に行っても親が住んでいる地域の情報がもらえない ので、まちがえないようにしましょう)。
地域包括支援センターとは、市区町村から委託を受けた公的な相談窓口です。
2005年の介護保険法改正にともない創設されたもので、全国に約5000か所以上、すべての市区町村で「公立中学校のエリアに1つ」を基準として設置されています。地域に暮らす高齢者の介護・医療・福祉・健康などをサポートする総合相談窓口です。 地域包括支援センターに相談に行くと、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)、保健師(看護師)、社会福祉士などが対応してくれます。
介護が必要になる「その日」の前にやっておくとよいこと
今は両親・義両親とも元気なかたでも、いつダブルケアの状況になるかはわかりません。その備えとなる、7つのことを知っておきましょう。
(参考:『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか』/Gakken)
1.親の希望を確認する
まず、一番大切なのは親の希望を聞いておくことです。将来どんな医療・介護を受けたいか(「最期は家にいたいか」「遠方に住む子どもの近くに呼びよせてもいいか」など)、本人の意思に反した介護サービスや施設を選ぶことにならないよう、家族で話しておきましょう。 元気に話ができるうちに、「こうしたい」という希望を確認しておくことで、実際に介護が必要になったときにスムーズに対応できますし、子ども側が罪悪感を持ったり、後悔したりする、という事態を避けることもできるでしょう。
2.親の病歴を把握する
入院や介護認定の際に困らないよう、親の入院歴や手術歴、薬の種類などを答えられるように準備しておくことも大切です。本人が全部答えられるといいのですが、突然の入院だったり、本人がぼうっとしてしまったりして、子どもが代わりに答えないといけない状況も出てきます。できるだけ、メモや記録を残しておくのがよいでしょう。
今どきのエンディングノートには、既往歴、お金、交友関係など、自分にかかわるさまざまなことを記入できるものがあり、100円ショップなどでも購入できます。親に介護保険の受給証が届く65歳になったタイミング、または自分の介護保険料の支払いが始まる40歳になったタイミングで、いっしょに記入してみるのもいいかもしれません。
3.きょうだい、親戚や近所の人と連絡を密に
兄弟姉妹がいたら、親の介護の役割分担ができるとよいもの。負担が一人に集中しないように、今のうちから話し合っておくことが大切だと思います。
また、親と遠距離で暮らしていると、緊急の対応ができない場合もあります。近所に住む親戚がいればまめにやりとりをしたり、親がふだん親しくしているご近所のかたと連絡先を交換しておいたりするとよいでしょう。
4.かかりつけの病院を把握する
親のかかりつけの病院の把握も大切です。要介護・要支援など介護度の認定審査を行う際には、ふだんの親の身体・精神の様子を理解している主治医の意見書が必要になります。かかりつけの病院を把握しておくと、スムーズに申請できます。
いつも飲んでいる薬はどこで処方されているのか、定期的に通っている歯科医院はどこか、把握しておくとよいでしょう。
5.年金、預金など金銭面を把握する
金銭面の把握も大切です。銀行の支店の確認や通帳の印鑑の照合、ATMの暗証番号も聞いておくといいですね。家族間であってもお金のことは聞きにくいかもしれませんが、聞き出すタイミングを工夫してみてはいかがでしょうか。
例えば、親戚や知人など共通の知り合いが亡くなったとき、同じ年代の芸能人が倒れたニュースを見たときなどに、「何かあったときのために教えておいて」などと言って、聞いておきましょう。きょうだいで「だれが聞くか」を話し合っておくといいですね。
6.地域包括支援センターを調べておく
いざ、介護が始まると必ずお世話になるのが、地域包括支援センターですが、地域ごとにあるのを知らないかたも多いのではないでしょうか。インターネットで検索する場合は、「地域包括支援センター ●●市△△(親の住む地域)」で調べるとよいでしょう。自宅に近く、介護状態に適している、自分の希望に沿った事業所があるかどうかを確認します。可能であれば、その地域に住んでいて利用した経験のある友人・知人からの口コミも参考に。 いざというときにあわてないよう、今から情報収集をしておくといいと思います。
7.会社の介護休業制度を調べておく
会社には、介護休暇(対象家族1人に対し年5日まで)と介護休業(対象家族1人に対し3回まで、通算93日まで)の制度があります。いずれも、条件を満たした人が取得できますが、介護休暇が有給か無給かは会社によって違いがあり、また、長期休業制度である介護休業も、日数や取得回数に制限があるため、いつ取得するかは悩みどころです。
育児と違って介護には終わりが見えないため、「介護の程度が軽いうちから介護休業制度を使ったらあとで困る?」など、仕事の状況もあいまって取得に踏み切れないというケースもあるようです。 自分の会社で介護休業制度が取りやすいか取りにくいか、社内で介護の経験者に話を聞いておくと参考になると思います。
最後に
もしも親が突然倒れたり、認知症になったりして、育児と介護の両方が同時に来てしまったら……。
そんなときは、すべてを自分で背負わず、それぞれの「生きやすさ」を優先して考えたらいいのです。「お互いに犠牲にならない」ことが何よりも大切です。自分が元気でないと、介護も育児もできないので、限界を超えてしまいそうだったら、介護保険適用外も含めて使えるサービスを利用するなど、早急にアウトソーシングを行いましょう。
令和のこの時代、「自分の介護は子どもがやって当然だ」と考える親御さんは減ってきています。先に述べたように、親と意識合わせをする際に、「仕事があるし、これ以上はできない。ヘルパーさんにお願いすることもあるかもしれない」と宣言しておくことも必要です。
お互いの気持ちを確認し合う作業を早めにしておくといいでしょう。
家族に「こうしないといけない」というルールはありません。自分だけで負担を抱えすぎないように、適切にサービスを利用することを考えてほしいと思います。そのために、今のうちから情報収集をしておくことが大切です。
この記事の監修・執筆者
看護師遠距離介護支援協会代表理事/NPO法人ライセンスワーク 理事長/Office Main.代表/鳥取県規制改革委員
自らの子育てや介護の経験で、より良い介護サービスを提供したいという思いから、2014年、ビジネスケアラーをサポートする「わたしの看護師さん®」のサービスを開始。全国に15拠点展開している。内閣府女性のチャレンジ賞、東京都知事賞、鳥取県活動表彰最高賞等、多数受賞。講演、コンサルティングも行う。
著書に『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか:ナッジでわかる親の本心』
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