ゴールデンウィークや夏休みなどの連休明け、昨夜まで元気だった子どもに「おなかが痛い」「頭が痛い」と訴えられ、「本当に痛いの?」「学校に行きたくないのでは?」と戸惑う保護者も多いかもしれません。
今回は、小児科と児童・思春期精神科外来を併設して子育て中の親子に寄り添う、はるもキッズクリニック院長の鶴丸靖子先生に、子どもの朝の不調や登校しぶりについて、そして、保護者が心がけたい子どもとの向き合い方についてお話を伺いました。
こそだてまっぷ編集部
子どもの症状のみではっきりと診断をつけるのは難しい

腹痛や頭痛への対処方法
——連休明けの朝、子どもが腹痛や頭痛を訴えることがあります。学校に行ってほしいという気持ちも強く、どう対応するか悩む保護者は多いです。どう対応すればよいでしょうか?
鶴丸先生(以下敬称略):そうですね。一概には言えませんが、低学年は「腹痛」、高学年になると「頭痛」を訴える子どもが増える傾向にあります。
子どもによって特性がありますが、まず知っておいてほしいのは、身体的なものにせよ、心因性のものにせよ、「本人が痛いと言っているときは、本当に痛い」ということです。「怠けている、嘘をついている」と保護者が決めてかからず、子どもの言うことに耳を傾けることが大切です。
——腹痛の原因は何が考えられますか?
鶴丸:脳からのストレスは、特に腸に伝わりやすいと言われています。緊張でおなかが痛くなるのは大人も経験がありますよね。また、生活リズムのみだれや便秘、登校前の緊張などから腹痛を誘発することがあります。
ウイルス性の胃腸炎を発症した場合は、嘔吐をともなったり、激しい下痢が続きます。「便に血が混じる」「寝ている間に痛みで目が覚める」「食事量が減る」といった場合は、身体的な病気の可能性が高いので、すぐに受診してください。
——頭痛についてはどうでしょうか?
鶴丸:風邪などの感染症にともなうものが多いですが、高学年になると、後ほどお話しする「自律神経の乱れ」が関わってくることもあります。
怖いのは、心因性だと思い込んでいたら、実は脳腫瘍などの病気が隠れていたというケースです。「朝に吐き気をともなう」「痛みがどんどん強くなる」「寝ている間に痛みで目が覚める」といった場合は、早めにMRIやCTなどの精密検査ができる病院へ相談することをおすすめします。
起立性調節障害が起こるメカニズム
——高学年になると増えるという、自律神経の症状について詳しく教えてください。
鶴丸:代表的なのが「起立性調節障害(OD)」です。起立性調節障害はメカニズムを正しく知ることが大切です。
人間は二足歩行だから、心臓より高い位置にある脳に、重力に逆らって血液(栄養と酸素)を届けなくてはいけません。10代前半は急激に身長が伸びる時期で、体は大きくなるけれど、血圧や脈を調整する自律神経の成長が追いつかなくて、脳までうまく血液が上がらなくなってしまうことがあります。それで朝起きられない、頭が痛くなるといった不具合を起こしてしまうのです。
——朝に調子が悪いのは、怠けているわけではないのですね?
鶴丸:その通りです。寝ているときは心臓と脳が同じ高さなので楽ですが、起き上がる瞬間に切り替えがうまくいかない。ですから、「ゆっくり頭を起こす」「うつ伏せの状態から、頭を最後に上げるようにして起きる」といった工夫で、血流の急激な変化を抑えるのが有効です。
起立性調節障害の頭痛は薬が効きにくく、なかなか治まらないので、このメカニズムを親子で理解しておきましょう。朝の不調は怠けているだけではないと知れば、それぞれの心の負担は大きく変わります。
子どもにとっては「検査で異常なし」が良いこととは限らない

身体的な病気がないと言われたとき、逆に辛くなることもある
——不調や痛みが心因性だと判断するには、身体的な病気を先に調べる必要があるのでしょうか?
鶴丸:そうですね。大きな病気が隠れていることもあるので、まずは診察や検査をして、身体的な病気を確かめます。
——病院で検査をして「異常ありません」と言われると安心しますが、本人は痛がっている……という場合はどう接すればいいですか?
鶴丸:そこが難しいところです。保護者や医師は「身体的な病気がなくて良かった」と思いますが、本人にしてみれば「こんなに痛いのに異常がないなんて」「誰にも苦しみがわかってもらえない」と、逆に追い詰められてしまうことがあるんです。
——では、どう声をかければよいのでしょうか?
鶴丸:まずは検査で何もなくても、「痛みがあるという事実は変わらないね」と、本人の苦しみに寄り添うことが大切です。心因性の痛みも、本人にとっては「本当に痛い」のです。嘘をついているわけではありません。
知っておきたい「疾病利得」
——心因性の場合、保護者の向き合い方を教えてください。
鶴丸:心因性の痛みである可能性が見えてきたら、あまり症状に着目しすぎないことを心がけましょう。
「疾病利得(しっぺいりとく)」という言葉があるのですが、これは、症状があることで、「親が優しくしてくれる」「心配してそばにいてくれる」といった“良いこと”が起きると、無意識に症状を手放せなくなってしまう現象です。
——心配しすぎるのも良くないということですか?
鶴丸:本人が痛みを訴えていないのに、「今日はおなかどう?」などと聞きすぎるのは逆効果です。痛みを訴えたときは「そうなんだ、じゃあ休んでて。元気になったら話そうね」と、あえて少しあっさりと対応するくらいがちょうどいいのです。
逆に、元気なときにしっかりコミュニケーションを取るようにすると、子どもは「元気でいる方が親と楽しく過ごせる」と感じるようになります。
もちろん、明らかにいつもと痛がり方がちがうなどがあれば、身体的な原因があるかもしれないので、迷わず受診してください。
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痛みは多少あっても、ちゃんと生活を送れることを目標に
子どもの心のSOSを見逃さない

——子どもに聞いても、ストレスの原因を話してくれない場合は、どうすればよいですか?
鶴丸:子どもの心の様子について、「コップ」にたとえて考えるとわかりやすいと思います。
まず、心の中にストレスをためるコップがあると考えてください。人間は生きていれば常にさまざまなストレスが降りかかります。大人になると、そのストレスを言語化することでコップから出すこと、好きなことをしてコップにたまらない工夫をすることができるようになります。
でも、子どもはストレスを言語化するのがうまくできないことも多いです。学校で嫌なことがあったり、家庭で納得できないことがあったりしても、それを言語化できずにコップがあふれそうになってしまう。そんなときにどうするかというと、子どもはコップがあふれないように、コップ自体を壊してしまうことがあるんです。それこそが、頭痛や腹痛、不登校、癇癪や問題行動といった症状だとイメージしてください。
——症状は、子どもなりのSOSなのでしょうか?
鶴丸:そうです。学校や家庭の環境や、友だちや保護者との相性や、本人の特性の場合もありますが、なにかしら子どもを苦しませるストレスの要因があり、それをどうすることもできなくて、SOSとして症状が出ているんだと、保護者は一歩下がって、「今はこの子にこれが必要なんだな」と客観的に見られるとよいと思います。
ストレスの要因を言語化できないときに、「何が原因なのか」と問い詰められても、子どものストレスが大きくなるだけでしょう。
特に子どもが登校をしぶると、保護者は「昨日は元気だったのに」「学校に行かないって決まったら痛みがなくなってる」などと言いたくなる場面もありますよね。子どもに休まれると困るという保護者の状況もあるでしょう。
でも、子どもを否定せず、「SOSを出しているのかも」と、ちょっと飲み込んだほうが、のちのち状況が長引かず、改善へ向かいやすいこともあります。
第三者と連携を取りながら、保護者の視野を広げる
——家庭内だけで解決しようとすると、どうしても親子ともに感情的になってしまうのではないでしょうか?
鶴丸:親子だとどうしても甘えが出て、ぶつかり合ってしまいます。早い段階から、第三者と連携することも考えましょう。学校の先生と密に連絡を取り合えば、お友だちとのちょっとしたトラブルや、苦手科目の勉強の遅れなど、子どもの心にひっかかっていることが見えてくるかもしれません。
子どもが安心して生活が送れるようにするヒントを探すために、保護者と先生だけで難しければ、スクールカウンセラーや医療機関、市区町村の教育相談事業がお手伝いできると思います。第三者からの違う風が入ることで、状況が動き出すことがあります。
——登校しぶりにはどう対処すればよいでしょうか?
鶴丸:まずは学校で何か困りごとがないか、本人からの訴えを傾聴しましょう。その内容が正しい正しくないに関わらず、「本人がそう思っている事実」に共感し、いっしょに残念がるのです。
事実と違う場合や、保護者と考え方が違う場合には、説得するのではなく、例えば、「お母さんはこう思うけどね」と保護者の意見としてふんわり伝えるようにしましょう。
保護者の考えをわからせようとするのではなく、子どもの気持ちをわかってあげようとする姿勢を見せることが大事です。子どもが「困ってくることもなく、学校は楽しい、でも行くのがつらい」ということもよくあります。その場合は、「楽しいけど(困ることはないけど)学校で疲れることもあるよね」と言葉を添えてあげるとよいです。
——登校しぶりへの心構えと、具体的な対処方法を教えてください。
鶴丸:登校に対する子どもの不安に、保護者がいっしょに飲み込まれてしまうと、子どもの不安の波がどんどん大きくなってしまいます。保護者はどっしり構えた大きな木のように、子どもの心が揺れ動いても変わらずそこにいるというスタンスがとれるとよいと思います。
ひとつの方法として、「お休みシール」をつくるのもおすすめです。「この日は休んでいい」と決めてカレンダーに貼っておけば、子どももその日までがんばって登校しようと思える場合もあります。月に何日にするかは、家庭の状況によって決めてよいのではないでしょうか。そして、その日は休むと決めたら、保護者も「調子良さそうだから、やっぱり学校へ行く?」などとは言わないことです。
連休明けに不調が出やすいことがわかっている場合は、連休が始まる前に、例えば連休明けの数日後に「お休みシール」を使う日を設定しておくとよいかもしれません。
——ストレスを抱えている子どもに、保護者はどのような姿勢で対応すればよいでしょうか?
鶴丸:子どもが不調や痛みを訴えたら、「不調や痛みをゼロにする」「不調や痛みの原因を突き止める」ことを目標にするのではなく、「多少の不調があっても、その子なりのリズムで生活し、その子らしくいられること」を目指しましょう。
登校しぶりの対応についても、「お休みシール」を紹介しましたが、解決方法はひとつではありません。だれかには有効だった方法が、必ずしもすべての子どもに合うわけではありません。もしこの方法がうまくいかなければ、子どもや家庭環境に合う次の方法を探せばよいと考えてみてください。簡単なことではありませんが、あせらずに取り組むことが状況を動かしていくでしょう。
子どもの健やかな成長を願うがゆえに、子どもと保護者の思いがすれ違うことがあります。それは保護者が悪いわけではありません。子育てには絶対的な正解はなく、だからこそ心配も悩みも尽きません。そんなときこそ、視野を広げて、抱え込まないことが大切です。もし自分たちだけでは視野が狭くなってしまうと感じたら、いつでも第三者の手を借りてください。
〈 子どもの不調に対する保護者の心構え 〉
●子どもが不調を訴えたら、まずは子どもの言うことにしっかり耳を傾ける。
●身体的なものにせよ、心因性のものにせよ、本人の感じている痛みは本当に痛いということを理解する。
●不調や痛みが心因性だと判断するには、先に身体的な病気を調べる必要がある。
●身体的な病気がなくても、保護者は本人の「痛みがある」という苦しみに寄り添うことが大切。
●言語化が難しい子どもの心のSOSを見逃さないように心がける。
●親子だけで問題を抱えず、教員や医師、スクールカウンセラーや行政の教育相談支援などに相談する。
この記事の監修・執筆者
日本小児科学会専門医、日本小児心身症学会認定医、子どものこころ専門医。
東京女子医科大学を卒業、東海大学医学部附属病院で研修後、同大学病院に小児科医として勤務、岡山大学病院小児科子どものこころ診療部および国立成育医療研究センターこころの診療部で小児心身症・児童精神科医としての専門性を深め、世田谷区にあるみくりキッズくりにっくなどで臨床経験を積む。2024年に、はるもキッズクリニックを開院。
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