3歳から始めた水泳で、パラリンピックに5回連続出場！【パラ競泳・山田拓朗選手インタビュー／前編】

「水に慣れてほしい」という母の思いから始まった、パラリンピックへの道

Q：水泳を始めたきっかけを教えてください。

母の話によると、ぼくは幼いころ水をこわがっていたそうです。顔に水がかかるのがいやで、お風呂も嫌いだったと言っていました。そこで母が「少しでも水に慣れてほしい」という思いで、3歳だったぼくを、近所にあったスイミングクラブに通わせたそうです。

スイミングクラブに通い始めてからは、すぐに水に慣れ、水泳はどんどん上達しました。小学校に入る前にクロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライをマスターしました。周りの子に比べたら、圧倒的に速く泳げたので、物心がつくころには「自分は水泳が得意だ」と思っていました。

Q：水泳の練習で、とくに苦心したのはどんな部分ですか?

苦労をした意識はありません。水泳は水のかき方や下半身の安定など練習のポイントがいろいろあります。なかでも、ぼくの場合は生まれつき左腕のひじから先がないので左右の腕の重さが違い、左右のバランスを取るのが非常に難しいといわれています。たとえば、「水の入ったペットボトルを片手で持って、両腕を同じリズムでぐるぐる回してください」と言われたら、地面の上に立っていてもやりにくいはずです。ただ、初めからこの体なので、水の中で自然にバランスを取る動きを習得できたため水泳が上達したのだと思います。

Q：水泳以外にもスポーツはやっていましたか?

体を動かすことが好きだったので、サッカーやスキーなども経験しました。幼稚園のころから、強豪として知られていた地元（兵庫県）のサッカークラブにも入っていました。母は「腕がなくても、サッカーならできるだろう」と考えてサッカーをやらせたみたいです。でも、小学校に入ってすぐにサッカーはやめてしまいました。水泳の練習が忙しくなったからという理由もありますが、そもそもサッカーにはまったく興味がもてなかったからです。

サッカーのようなチームでプレーする競技の場合は、自分のパフォーマンスだけで勝敗が決まるわけではありません。その点、水泳のような個人競技は自分のパフォーマンスで勝負できます。しかも水泳は、級が細かく分かれていて、進級するたびに進級バッジがもらえます。自分が上達していることがわかり、バッジをもらえるのがうれしかった記憶があります。ひとりで集中して取り組む水泳のほうが自分の性格に向いていたのだと思います。

Q：スイミングクラブに通っていた小学生時代のことを教えてください。

スイミングクラブには「選手コース」というのがあります。大会出場を目指すような選手を育てるコースです。選手コースに上がると練習量も増えます。小学校2年生まで通っていたスイミングクラブでは、ぼくも「選手コース」に上がりたいなぁと思っていましたが、片腕にハンディのある自分は上がれませんでした。友だちより自分のほうが明らかに速く泳げたのに。「どうして自分は上がれないのかなぁ」と子ども心に不思議に思っていました。

小2のときに転居して、別のスイミングクラブに通うようになりました。そこではすぐに「選手コース」に上がることができました。その後、さまざまな水泳大会で優勝して周囲からも評価されるようになりました。当時はまだ「パラリンピック」の存在を知らなくて、健常者の世界の記録を基準にして本気で「オリンピック」の出場を目指していました。

ところが体が成長するにつれ、健常者に比べて速いタイムで泳げなくなりました。「選手コース」に入っていない一般コースの子には勝てるのですが、「選手コース」の同級生の中での順位は真ん中ぐらい。「オリンピックは、ないな」と感じました。

水泳はだれかと競い合うものではなく、自分の限界にチャレンジするスポーツだと思う

Q：パラリンピックを知ったのは、いつごろですか？

転居を機に、スイミングクラブのほかに「楽泳会」という障がい者の水泳チームにも通うようになりました。「楽泳会」には、多くの障がい者の大会や国際大会で優秀な成績を修めている選手が何人もいました。2000年に開催された「シドニーパラリンピック」に「楽泳会」から日本代表選手として出場したひとりの選手が、パラリンピック後に金メダルを見せてくれました。「金メダルって、大きいなぁ。かっこいいな」。そのときにパラリンピックの存在を知り意識しました。自分もパラリンピックに出場してメダルを取りたいと意識するようになったのはこのときで、小学校3年生でした。

Q：小学生時代はさまざまな大会で優勝し、注目されていたそうですね。

自分で言うのも恥ずかしいですが、小学生時代の勢いはすさまじかったですよ（笑）。

2003年、小学校6年のときに日本国内最高の障がい者スポーツ大会である「ジャパンパラ水泳競技大会」に出場しました。「ジャパンパラ水泳競技大会」は、パラリンピックの日本代表レベルの選手が出場できる大会のため、より高いレベルの参加標準記録が求められます。ぼくはその参加標準記録はクリアしていましたが、「ジャパンパラ水泳競技大会」に出場するには年齢制限があり、その年齢に達していませんでした。小6で参加標準記録を突破する選手が現れることは想定外だったのでしょう。ぼくは特例として最年少で「ジャパンパラ水泳競技大会」に出場し、出場した4種目中3種目で優勝、2種目で大会新記録を出しました。このとき、シドニーパラリンピックの代表選手にも勝っています。

Q：2004年アテネパラリンピックに日本選手史上最年少の13歳（中学1年生）で出場。何か印象に残っていることはありますか？

ぼく自身は、アテネパラリンピックの次の北京パラリンピック（2008年開催）の出場をねらっていました。17歳で迎えることになるので。でも、小学生から勢いに乗っていた自分は運にも恵まれ、アテネパラリンピックに出場することができました。試合後のインタビューで「次は金メダルを取れるので大丈夫です！」と言っていました、全種目予選落ちだったのに（笑）。当時は、自己ベストを次々と更新していたので、本当に金メダルを取れると思っていたのでしょうね。実際、国内にライバルはいなかったし、世界を見渡しても同世代で自分ほど活躍している選手はほとんどいませんでした。アテネパラリンピックのあとで世界ランキングが3位に上がりました。

――その後山田選手は、2008年北京パラリンピックに出場、2012年のロンドンパラリンピックでは、S9クラス（※１）100ｍ自由形で4位入賞、そして2016年のリオデジャネイロパラリンピックではS9クラス50m自由形で3位に入り念願のメダルを獲得（銅メダル）した。

Q：今も現役として競技に取り組んでいますが、これからの目標や課題は？

次回のパラリンピックに挑戦するかどうかは、まだ決めていません。ぼくは2004年のアテネパラリンピックから東京パラリンピックまで、5大会連続で出場しました。「次も出たい！」と思ってチャレンジしてきましたが、もし、この気持ちがなくなったら、無理して出ようとは思わないでしょう。13歳でパラリンピックに出場できる選手はなかなかいませんから、「最多出場記録」も期待されています。でも自分自身は「最多出場記録」には興味がありません。

今の課題は、2016年リオデジャネイロパラリンピックの50ｍ自由形でマークした自己ベストを更新することです。引退するまでにやり遂げたいですね。1位、2位などの順位は、他の選手との比較で結果となるので自分でコントロールができません。水泳は、他の選手と競い合っているように見えますが、実際は自分が決められたコースの中でどれだけ速く泳げるかというスポーツです。自分の限界にチャレンジしていくことが今の目標です。

※次週、後編では家族のこと、昨年生まれたお子さんのことを伺います。お楽しみに！