【1日たった10秒】お米が高いな…でOK! 子どもの「ニュース力」を育む、家族でできるおすすめ習慣[NewsPicks 蒲原慎志さん]

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昨今は、テレビを見ない、新聞を購読しない人が増えていることに加え、スマートフォンやタブレットの普及により、家族それぞれで好みのコンテンツを視聴しているご家庭も多いのではないでしょうか。かつてのように家族全員で1つのテレビ番組を観る機会も減り、子どもが観るのは自分がお気に入りの動画ばかり。保護者の方が社会情勢について知ってほしいという思いとは裏腹に、子どもがニュースに触れる機会は減っているように思われます。

「NewsPicks Education」の蒲原慎志さんに、子どもにもっとニュースに親しんでもらうためのきっかけや、気軽に取り入れられるアイデアを教えていただきました。


取材・文/松田明子

目次

ニュースは「つながり」をつくる

「ニュース」と聞くと、どうしても、「社会を知るもの」「世の中の出来事を知るもの」といったような、「固い」「難しい」印象があります。けれども、ニュースから得られるものはそれだけではありません。蒲原さんは、ニュースに親しむことで、「3つのつながり」が生まれるといいます。

1)「自分」とのつながり

1つめは、自分とのつながり。 例えばニュースを見たときに、「うれしい」「悲しい」「ありえない」「わからない」など、何か「感情」が動くものです。このように、ニュースによって自分の感情とつながることができるのです

2)「他者」とのつながり

2つめは、人とのつながりです。親や友達と一緒にいるときに、「これ知ってる?」「こんなことがあったよね」「あれはひどい事件だったね」などと、間にニュースを置くことで会話が生まれ、人と人がつながります

そして、場合によっては、意見が分かれます。自分は賛成なのに相手は反対だったり、自分が「ひどい」と思ったことでも、「え、別に」という答えが返ってきたりするかもしれません。このように、ニュースによって、他者とのつながりが生まれると同時に、他者が自分と違う意見を持つこともあると気づくことができるのです。

3)「社会」とのつながり

3つめが、社会とのつながりです。世界には約80億の人がいて、200以上の国があります。ニュースを通じて、「こんな国があるんだ」「こんなことが起きているんだ」などと感じることで、新しい発見につながります

「自分と家族」という単位だけでも小さな「社会」を構成しているといえますが、ニュースで世の中に起きている出来事を知ることで、その背後に、さらにもっと広い世界や出来事があるということが、実感を伴って認識できるのです。

生活のすべてが「ニュース」になる

お子さんにもっとニュースに親しんでほしいという思いがあるのであれば、まずはニュースの概念について、改めて考えてみましょう。

大人が考える「ニュース」といえば、「経済」「政治」「国際」といったイメージが強いかもしれません。けれども、「スポーツ」「アイドル」「アニメ」「食べ物」など、子どもが親しみやすいジャンルも、すべてニュースといえます。つまり、生活そのものがニュースにつながっているととらえれば、「ニュース」の概念は大きく広がります。

1日1回「10秒ニュース」をつぶやいてみよう

例えば、「お米が高くて、なかなか買えないんだよね」など、日常で大人が何気なく語る一言も、十分「ニュース」といえます。まだ金銭感覚が身についていない子どもでも、「お母さんが高いって嘆いているな」と思い、「お米が高い」ことを理解できます。さらに、「やっとお米が安くなったよ!」と伝えれば、「ニュースには変化がある」ことを知らせることもできるのです。

いつも行く回転ずしでは、「このお店は中国にも出店していて、中国の人にも人気なんだって」などと伝えることで、「ニュース」は、画面の中の出来事ではなく「自分事」になります。大人が記事から読み取る「海外進出」「企業戦略」「マーケティング」などの要素まで伝わらなくても、子どもには十分「ニュース」になりえるのです。

1日1回10秒、保護者の方が関心をもったニュースを、お子さんにつぶやいてみましょう。ちょっとしたニュースでも、つぶやき続けることで、家庭の中に「ニュースのしずく」が垂らされていきます。世の中で起きている出来事を、まずは「単語」でたくさん知っていくことで、子どもの中に知識や興味が徐々に蓄積されていくのです

そして、いずれは子どもからも、「ぼくも(わたしも)知ってるよ!」「それは違うんじゃない?」などと、なんらかの反応が生まれることにつながるのです。

「子ども発信のニュース」を家族で分かち合おう

家族みんなで新聞やテレビを見る機会が減った一方、それぞれが個別に情報を得ることで、「個々が見聞きしたものを分かち合う」というコミュニケーションを育むことができます

実は子どもたちも、スマホや動画サイト、学校での話題などから、大人が思っている以上に世の中の出来事に触れています

例えば、お子さんがスマホを見ていたら、「最近見て気になったものはある?」と聞いてみましょう。(ここで「何を見てるの?」と聞くと、状況によっては、スマホを見ていることをとがめられているようにも感じる子もいるので注意しましょう。)

そして、お子さんが「こんなのがあったよ」と教えてくれたら、それを絶対に否定しないこと。たとえ自分がすでに知っていたことでも、耳を傾けてあげることが大切です。大人が「どこで見たの?」「よく知っているね。また教えてね」などと興味を示すことで、子どももまた伝えたくなり、新しい「ニュース」を自分で見つけて来るようになるものです

今年のニュースを振り返るときは「行事」に紐づける

年末などにメディアで行われる「今年のニュースの振り返り」。一年の終わりに、親子で今年のニュースを振り返ってみるのもよいでしょう。けれどもニュース単体だと、意外と時期までは覚えていないもの。学校や家族の行事・イベントなど、子ども自身に起きた出来事と紐づけることで、その時々のニュースを思い出しやすくなり、より自分事としてとらえやすくなります

例えば、夏休みの家族旅行に触れながら、「今年の夏は本当に暑かったよね。異常気象でクマのエサにも影響が出ているという説もあるね」というように、行事に紐づけてニュースの話題につなげましょう。運動会や発表会、合宿、流行った映画など、お子さん自身に関係の深い出来事を選ぶのがポイントです。会話の前に、保護者の方が少し下調べをして、ニュースを具体的に振り返っておくと、より話題が広がります。

戦争、災害、事件……、悲しいニュースをどう話す?

戦争や災害、事件・事故など、悲しい、または残酷なニュースもあふれています。保護者の方としては、お子さんに社会や世界で起きているさまざまな問題を知らせたいという思う一方、実際にお子さんがそういったニュースに触れたときに、どのように対応すればよいのか迷うことも多いのではないでしょうか。

とはいえ、見方を変えれば、悲しいニュースは「感情を育む機会」ととらえることもできると蒲原さんはいいます。

「I(アイ)メッセージ」で親の感情を伝える

まず、子どもと悲しいニュースについて話すときは、保護者自身が「I(=私)」を主語にして感情を表すことが大切です「パパはすごく心を痛めている」「ママはとても悲しい」というように、自分の感情を表現します。無理にお子さんの気持ちに同調する必要はありません。親も一人の人間として、起きていることにどう感じているかを伝えましょう。

ただし、「懲罰的な発言」は行わないこと。悲しいニュースに触れたとき、「○○○が悪いからだ」など、善悪を判定するような発言をしたくなるのは誰しも同じです。けれども、どんな事件や事故にも背景があるもの。「Aは悪くてBはよい」といったような二項対立的な価値観で話すことは、大人同士の会話はともかくとして、親子としては避けるべきです。子どもは大人よりも、額面通りに言葉をインプットしてしまう傾向が強いからです。

「悲しいね」「痛ましいね」「こういうことがずっと続いててうんざりするね」などと表現するだけでよいのです。もちろん、「怒りを感じる」「こういったことが早くなくなればいいのに」などでもOK。保護者の方自身が感じたことをしっかり表現することで、子どもは自然と「感情って表現していいんだ」ということを学びます。

子どもの感情を否定せず受け止める

一方、子ども自身がそういったニュースに触れて、「最悪な人間だ」「生きる価値がない」などと、乱暴な言葉遣いをしてしまうときはどうでしょうか。これも、子どもの感情を言語化する機会ととらえてみましょう。

まずは、「あなたはそう思うんだね」と、否定せずそのまま受け取ることですその上で、「どうしてそう思うの?」と聞いてみると、お子さんのほうで「人を傷つけたから」などと答えてくれるかもしれません。大人はさらに、「そのことについてあなたはどんな気持ちになった?」とたずねます。すると、「悲しい」「怖い」などといった答えが返ってくることでしょう。つまり「最悪な人間」などの暴言の奥には、「悲しい」という感情があったのです

そこで保護者の方が、「そうか、じゃあ自分のその悲しい気持ちを大事にしてあげてね」と伝えることで、お子さんは起こった出来事と自分の感情を結びつけることを覚えます。その上で、「ママ(パパ)はこう感じるよ」と、会話を重ねていくことが大切です。

感情表現は、大人でも苦手な人が多いもの。さらに現在では、前述したように、各自がスマホなどのデバイスをのぞき込んで、自分が関心を寄せた出来事に対してのみ一喜一憂していることが多いのではないでしょうか。

つまり、今の子どもは以前と比べて、大人がニュースに対して感情を表現する姿を目にする機会が減っているのです。ニュースを見て感じるモヤモヤとした気持ちを、「悲しい」「怖い」などという感情を表す言葉に落とし込んでいくことは、子どもにとって感情表現を「学ぶ」ことにもつながります。ぜひニュースを通して、親子で語り合う時間をもってみましょう。

フェイクニュースの危険性を伝えたいなら?

フェイクニュースを見破る、つまりニュースの真偽を確かめることは、子どもはもちろん、大人にとっても簡単なことではありません。

フェイクかどうか、1つ1つ確かめる技術を磨くという以前に、これまでお伝えしてきたように、日頃から多くのニュースに触れて、感性を磨くことが第一歩なのではないでしょうか

いろいろな情報に触れることで、「なにか違和感を覚える」「嘘っぽい」と感じる感性を養うことができます。そして、ニュースで得た情報を鵜呑みにするのではなく、「疑わしいから一度調べてみよう」と判断することができるようになるのです。

ニュースが子どもの感性を育み、社会とのつながりを強める

現在、青少年の「感じること」への感度の低さが、社会的な問題として、さまざまな場面で取り上げられています。

だからこそ、親子の会話を通じて、子どもの感性をしっかり磨いていくことが、今後はより大切になるはずです。そういった意味で、多くの情報を継続的に受け取ることができるニュースは、子どもの感性を育む絶好のツールです。また、ニュースが自分の身の回りにもあふれていると知ることで、自分も社会のつながりの中に生きていて、その一員であるという実感を強めることができるのです。

この記事の監修・執筆者

NewsPicks Education 蒲原慎志(かもはら・しんじ)

NewsPicks Education事業責任者。「ニュースでつながり、学び合う」をコンセプトに、ニュースを「素材」として、自己・他者・そして社会とのつながりに気づき、対話する学びを推進。全国の小学校・中学校・高校で、総合の時間や教科の時間で講師を務め、教員研修も担当する。中高生向けのプログラム「10分ニュース」(5分で各自ニュースに触れ、残り5分で気になったニュースを仲間と分かち合うワーク)にも取り組む。

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