「うちの子、HSC(ひといちばい敏感な子)の傾向があるかも?」。HSCに詳しい心療内科医の明橋大二先生に子どもへの接し方やことばのかけ方などその子らしさを伸ばす子育てのコツをうかがいました。
文/こそだてまっぷ編集部
HSCって、何?
HSCは「Highly Sensitive Child(ハイリー・センシティブ・チャイルド)」の略語で、「ひといちばい敏感な子ども」と和訳され、最近、メディアなどでよく取り上げられるようになりました。5人に1人はHSCであるとされています。
HSCは、豊かな感性を持ち、人の気持ちを察知できる一方、ちょっとした刺激にも大きな影響を受けてしまいます。たとえば、暑さ、寒さ、痛さ、大きな音などの刺激にとても敏感です。また味やにおい、服の感触など小さな変化にも気づきます。さらに物事をじっくり考えて行動する慎重派で、完璧主義な面もあります。
これらの特性のためにHSCは、園や学校の生活になじめないことがあります。保護者が「うちの子、ほかの子と違う!?」と不安を感じてインターネットなどで調べ、「ああ、HSCなのかも」と気づくケースがふえています。
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子どもがHSCだったら、保護者はどうしたらよい?
「子どもがHSCかもしれない」と感じたら、保護者はどうしたらよいのでしょうか。ひといちばい敏感であることは、悪いことではありません。保護者は、その子らしさを伸ばすために次のことを意識しましょう。
●子どもを信じて、共感する
子どもが「この服はチクチクするから嫌」などと言った際、「気のせいじゃない?」「うそでしょ」と否定しないようにしましょう。自分が気づいたことを保護者に否定されると、信頼関係が築けません。「そうなんだ、チクチクするんだね」と、子どもの言うことに耳を傾け、共感しましょう。
●十分に休める環境をつくる
初めての経験や慣れない場所などでは、不安を感じ、疲れやすくなります。保護者は子どもが十分に休める時間を確保し、環境を整えるようにしましょう。とくに初登園・初登校、また大きなイベントのある日などは要注意です。帰ってきたら、しっかり休養を取るように心がけましょう。
●急かさず、その子のペースを尊重する
HSCは、急かされたり、ペースを乱されたりするのが苦手です。子どもが「どうしよう」などと慎重に考えているときに急かさないようにしましょう。HSCは、最初の一歩を踏み出すのにとても時間がかかります。じっくり深く考えるのは、HSCの長所でもあります。「ゆっくりでだいじょうぶだよ」などといったことばをかけて、子どものペースを尊重しましょう。
自己肯定感を育むことが大切
現代社会においては、HSCは、自己肯定感を持ちにくい傾向があります。たとえば、園や学校などでは「みんなと同じ作業を時間内にやる」ことを求められる場面が多々あります。しかし、HSCは「みんなと同じようにやる」「時間内にやる、急かされる」ことなどが苦手です。周囲から「遅い」「早くして」などと言われるだけで「自分はダメな人間だ」「自分は能力が低い」などと考え、自己肯定感を低下させてしまうのです。
HSCを育てている保護者は、その子の「できたところ」「よいところ」に目を向け、ほめていくことで自己肯定感を培っていきましょう。「ここまでできたね、えらいね」「おもしろいところに気づいたね」などのことばかけが重要です。
また、HSCは自分に厳しいところがあり、ちょっとでも否定的な言葉を投げかけられると“人格の全否定”と受けとめがちです。たとえば「箸の持ち方が違うよ」と注意されただけでも、強烈なダメージを受けてしまうことがあります。保護者は、注意をする際に「だめ」「遅い」などの否定的な言葉を使わないようにしましょう。
園や学校の先生にHSCであることを伝える
集団生活が苦手、刺激に影響を受けやすい、じっくり考えこむ慎重さなどから、HSCは、生きづらいと感じてしまうことがあります。周囲の大人が気づかずにいると、子どもの自己肯定感を低下させかねません。子どもにHSCの傾向があると感じたら、子どものことをより具体的に理解してもらえるよう、できるだけ周囲の人に伝えていきましょう。
まずは、通っている園や学校の先生に事情を伝えましょう。小学生の場合、教室内で先生がだれかを大きな声で叱ると、HSCは、叱られているのが自分でなくても、怖くなってしまいます。また、ちょっとした味やにおいの変化によって給食が食べられなくなり、学校生活に支障が生じることがあります。このような事態を招かぬように、事前に先生に伝えておくことは大切です。
家庭でも、祖父母や非HSCのきょうだいには「〇〇ちゃんは、ひといちばい敏感な子なんだよ」などと伝えておくとよいでしょう。
小学校の入学を控えている場合は?
HSCは、初めての経験や環境に慣れるのに時間がかかります。その対策としては「予行演習」がオススメです。たとえば、小学校入学を控えている子どもの場合、学校側に事情を話して、入学式の前に子どもといっしょに教室を見せてもらったり、担任になることが決まっている先生に挨拶をしたりするなど、シミュレーションができると理想的です。このような機会をつくっておくと、子どもも事前に小学校入学のイメージが持てるので安心です。
本人にもHSCであることを伝えたほうがよい?
本人にもHSCであることを伝えておきましょう。HSCという用語を使うと「自分は病気なのかな?」と誤ったとらえ方をしてしまうことがあります。たとえば、次のように伝えてはどうでしょう。
「あなたは友だちより敏感で、いろいろなことに気づけるすばらしいところがある。でも、人がたくさんいる学校(園)では、疲れちゃうかも。そんなときは教えてね」
また、HSCのポジティブな面を伝えましょう。
「あなたは、人の気持ちがわかるやさしい子だよ」「物事を深く考えることができるね」「絵や音楽など芸術を理解する優れた感性を持っているね」
敏感であることは“強み”でもあります。HSCの特性のメリットも本人に伝えるとよいでしょう。
うちの子、HSCかも!? どこに相談したらいい?
HSCは、医療機関で治療する病気や障害とは異なり、本人が生まれつき持っている「特性」です。病院で診断をもらうものではありません。相談するなら、自治体が運営する子育て支援センターなどにいるカウンセラーや、公認心理師などがよいでしょう。小学生なら、スクールカウンセラーに相談することもできるでしょう。医療機関の小児科でも相談できる場合があります。
HSCの概念は、アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱して、まだ30年も経っていません。十分な理解がまだ浸透していないのも事実で、国内ではHSCに特化した支援体制は整っていません。ただ、支援に向けて取り組みが始まっている自治体も一部ありますので、ぜひ調べてみてください。
ひといちばい敏感な子は、いろいろなことに気づいたり、人の気持ちをくんだりすることができるすばらしい特性の持ち主です。対人関係によるストレスが課題となっている時代に他者理解に長けた特性は必要とされます。HSCのことを正しく理解して、その子が自分らしく生きていけるよう支えていけるとよいですね。
この記事の監修・執筆者
京都大学医学部卒。国立京都病院内科、名古屋大学精神科、愛知県立城山病院(現・愛知県精神医療センター)を経て現職。精神保健指定医、高岡児童相談所嘱託医、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長(射水市子どもの権利支援センター「ほっとスマイル」の設立団体)、一般社団法人HAT共同代表、富山県虐待防止アドバイザー、富山県いじめ問題対策連絡会議委員、富山県ひきこもり対策支援協議会委員などを務める。
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