低年齢で近視を発症する子どもが増えています。近視にならないようにするために家庭で保護者ができる対策を、子どもの視力低下に詳しい、東京医科歯科大学の五十嵐多恵先生にうかがいました。
イラスト/種田瑞子 文/こそだてまっぷ編集部
子どもの近視、低年齢化と重症化が問題に
文部科学省の調査(*)によると、「小学1年生の約4人に一人の裸眼視力が1.0未満」という結果が出ています。近視の発症が低年齢化しており、その結果、重症化することも懸念されています。近視の人は、将来目の病気にかかりやすく、視覚障害になるリスクも高まります。
子どもが近視になる主な原因は、低年齢のうちから過度な近業(手元を見る作業)時間が増加していることにあります。学習の場面で、タブレットなどの携帯型電子機器を使用することで、手元を見る作業が増えています。画面から目までの視距離がますます短くなっています。デジタル端末の使用に限らず、紙と筆記具を使った長時間の近業も近視のリスクを高めます。
保護者が正しい知識を持って、子どもの学習環境や、携帯型の小型の電子機器の使用環境を見直し、しっかりとサポートしていきましょう。
*2021 年度学校保健統計調査より
うちの子、もしかしたら近視かも? おうちでチェック
まずは、お子さんの目の見え方を確認しましょう。次のような言動は、近視が始まっているサインかもしれません。
《子どもの近視のサインチェック》
□テレビなどを見るときに目を細めている
□テレビなどに近づいて見る
□本を近づけて読んでいる
□「学校の黒板が見にくい」と言う
上記に該当する場面があったら、眼科医に相談しましょう。小児眼科でもかまいませんが、近視外来のある眼科や近視を専門とする眼科医のいる医療機関があれば、そのほうがよいでしょう。
タブレット学習は、ここに注意!
子どもが携帯型の小型電子機器を使用する際は、できるだけ目に負担がかからないように以下のことに気をつけましょう。
1.長時間連続で使用しない
タブレット学習などで画面を見る際は、30分に1回は休憩を取り、20秒以上、遠くを見つめて目を休ませましょう。遠くを見ることで、目のピントを合わせる力がゆるんで、リラックスできます。
「遠く」とは、6m以上離れているものとされています。目を休ませるには、勉強の合間に窓から外の景色を見るなどがオススメです。家の中でも最低2m以上離れているものを見るとよいでしょう。たとえば、壁に掛けた絵画や窓辺に飾った花などを見るのでもOKです。
2.適切な視距離を取る
画面を見るときは、目からの距離を30cm以上離しましょう。画面の角度や机・椅子などの高さは、画面を見る際の姿勢に影響し、その結果、視距離が近くなってしまうことがあります。保護者が学習環境を整えましょう。
3.就寝前はデジタル端末機器を使わない
寝る前の1時間は画面を見ないようにしましょう。就寝前にデジタル端末機器を見ていると、目に入ってくる光の刺激によって体内時計が崩れるとされています。睡眠不足や睡眠の質にもかかわってくるため、気をつけましょう。
※参考/「目の健康啓発コンテンツ 『ギガっこ デジたん!』」(公益社団法人日本眼科医会)
4歳以下のデジタル端末機器使用には要注意!
WHO(世界保健機関)が2019年に発表した小児の健康な成長に関するガイドラインでは、デジタル端末機器の使用時間に関して以下の基準が設けられています。
2歳未満:Screen timeは推奨されない
2〜4歳:Screen timeは1日1時間未満
(Screen timeとは、デジタル端末機器の画面を見続ける時間)
※「5歳未満の小児に関する運動・座位活動・睡眠に関するガイドライン」より
このガイドラインは近視を対象にしたものではありませんが、小児の発育上、4歳未満の子どものデジタル端末機器使用については、保護者の十分な注意が必要です。
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近視対策には1日2時間の屋外活動が有効!
子どもの近視予防、または近視の進行対策として近年注目されているのが、屋外活動です。屋外の明るい環境で過ごす時間が長い子どもほど近視になりにくく、近視が進行しにくいことがわかってきたのです。海外では、子どもの近視対策として1日2時間程度の屋外活動をすることが国策として実践されている国もあり、その成果が数多く報告されています。
屋外活動が近視を抑制するメカニズムについては諸説ありますが、有力なのは「光誘導性ドーパミン仮説」です。強い光が目の網膜に達すると、網膜内で光誘導性ドーパミンという物質が放出され、これが近視の進行を抑えるのではないかと考えられています。
庭やベランダでも十分効果が得られる
近視対策の屋外活動は、太陽の光を直接浴びるということではありません。重要なのは光の明るさで、1000~3000ルクス(*)程度の場所で過ごせば十分です。学校や家庭など室内の照明ではなかなか1000ルクスを超えませんが、屋外なら、晴れた日は10万ルクス、 曇りや雨の日でも1万~2万ルクスの明るさがあります。つまり、炎天下の日なたに出る必要はなく、日陰でもよいし、庭やマンションのベランダに出るだけでもよいのです。むしろ夏場は、熱中症や日焼け対策を十分に行ったうえで屋外活動をしましょう。強い日差しのもとでは、帽子やサングラスなどで光をさえぎっても、目には2000ルクス近い光が届きます。
目標は1日2時間の屋外活動ですが、2時間連続して行う必要はありません。トータル2時間、が目安ですので、たとえば30分ずつ4回に分けてもよいですし、仮に2時間に満たなくても一定の効果は得られます。
*ルクス:照度の単位
近視の低年齢化が問題となっている今、デジタル端末機器の使用に関しては、保護者がしっかりと管理して子どもの目を近視から守っていきたいですね。そして休日には、数時間でもスマホやゲーム機を見ない時間をつくって、家族で外遊びを楽しんではいかがでしょうか。
この記事の監修・執筆者
金沢大学医学部卒業。東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科病院網膜フェローを経て2019年から現職。子どもの視力低下や近視の進行予防についての研究を行っている。
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