10月~11月になると就学前検診が行われ、来春の小学校入学に向けて不安なこと、気になることが出てきている時期ではないでしょうか。社会の変化と共に、学校の授業や子どもたちの持ち物なども変化してきています。共働き家庭が増えている今、入学準備で本当に必要なこと、優先すべきことは何でしょうか。「保育園を考える親の会」顧問の普光院亜紀さんと、会のメンバーで東京都の公立小に通うお子さんを持つ4名の保護者にお話を伺いました。
Wさん(新宿区/高3・中1・小5の男女の母)
Iさん(西東京市/小5・小3の男の子の母)
Yさん(墨田区/小1の男の子の母)
Sさん(立川市/小6・小2の男の子の父)
取材・文/FUTAKO企画
「小学校の昔と今」何が変わった?
仕事を持つ母親は8割に
「児童のいる世帯」で仕事を持つ母親の割合は80.9%と、過去最高の数字となっています。そのうち正規の職員・従業員の割合は34.1%と、こちらも年々増えている状況です。(厚生労働省「2024年国民生活基礎調査」より)
「地域によっても違いはあると思いますが、長男の時は低学年で仕事を持つ母親は1/3程度だったのが、下の子の時には2/3くらい。いわゆる『バリキャリ』の方も多い印象です」(Wさん)
共働き家庭の増加によって放課後の学童保育のニーズも高まり、公立小学校や児童館の学童施設では定員オーバーといった状況も生じています。
お便りや集金などデジタルへの過渡期
また、ここ数年の傾向として、子どもがタブレットやPCを使う授業が増え、連絡手段がメールやアプリに移行し、欠席連絡や学校からの情報発信、そのほか集金の電子決済など、さまざまな面でデジタル化は進行しているようです。
「新宿区はデジタルの運用が遅いほうだったので、連絡が電子化されたのは去年からです。お便りを持ち帰っても親に出さない男子の母としては、とても助かります」(Wさん)
一方で、「学級通信」「学年通信」や授業・校外学習の持ち物連絡などのお便りはまだ紙での発信が多く、「あの連絡はいつ、どこで?」と混乱することもあるそう。地域差だけではなく、同じ学校内でも先生のITスキルによって違いがあるなど、まだまだ「過渡期」と言えそうです。
ランドセルが重すぎる!

文部科学省の推進するGIGAスクール構想によって、2024年3月時点で国内ほぼすべての小学校で1人1台学習用コンピュータ(タブレットやPC)の配布が完了しています。それらの端末は国語や算数だけでなく音楽や図工など各教科で使用され、毎日の持ち帰りが必要なものになっています。
「うちの子の学校では7月頃にiPadが支給されました。1年生の我が子は片手で持てず、子どもにとっては過酷な重さです。学校に置きっぱなしというわけにもいかず大変です」(Yさん)
「教科書や副読本、漢字や計算のドリルなどもカラーになり、ページ数も多いです。紙質のせいか1冊1冊がとても重く感じます」(Iさん)
「コロナ期以降、学校には毎日水筒を持っていきます。ランドセルの中に入れると水漏れで端末が故障する危険があるからと斜めがけで持参していますが、ランドセルと合わせると相当な重量になります」(Sさん)
荷物を入れたランドセルの総重量は平均で4~6キロという調査も。子どもの負担を考えると、少しでも軽量で丈夫なランドセルを選ぶことも重要です。
猛暑で変わった「夏の体育 」
さらに、ここ数年の夏の暑さは学校の授業にも影響を及ぼしています。教室内のエアコンはほとんどの小学校で設置済みですが、体育館にエアコンがある割合は全国でまだ2割程度。
「立川市内の小学校は全校の体育館にエアコンが設置されているのですが、プール授業についてはほとんど予定通り実施できていない状況です。学校も熱中症警戒情報をもとに判断しているようですが、夏の体育の授業は年々難しくなっているなと感じています」(Sさん)
全国的に見ると、プール授業は9割を超える小学校で実施されているものの、全体の約4割が「公共施設等で実施」、約2割が「民間事業者に委託」という状況。自校でプール授業を実施できているのは約4割にとどまっています。(笹川スポーツ財団「スポーツ振興に関する全自治体調査2024」より)
自治体によっては、暑さ対策として6月からプール授業を始める学校も増えていて、「夏の体育」も様変わりしているようです。
入学準備で身につけておきたいこと
ひらがな・時計・英語~教えておく?
「入学が近くなってくると、通信教育の案内が来て申し込む親がどっと増えます。やはり気にはなりますし、タブレットの操作など不安な要素もありましたが、先輩ママの『やっていなくてもなんとかなる』という言葉を信じて、我が家では何もしませんでした。アルファベットも時計もまだ読めていませんが、結果的に他の子と差がつくようなことはなく、本人も困ってはいないので、あせらなくても大丈夫だと思います」(Yさん)
「長男・次男は入学前にひらがなの読み書きができていましたが、三男はまったく興味がなかったので、自分の名前だけ読めるようにして入学しました。先生は『まっさらなのはありがたい』と、1学期にていねいに教えてくれました(ひらがなを教わってきている子も多いので、慰めてくれたのかもしれませんが……)。親がカリカリするよりは大らかに見守っているほうがいいんじゃないかと思います」(Wさん)
入学前にあれこれ網羅してできるようにしておかないと、と考えるご家庭は少なくありませんが、基本的には「自分の名前が読める」「1から10までの数が数えられる」程度で問題ないようです。
英語は小学3年生から「外国語活動」として授業が始まります。ここ数年、「入学前から英語を習わせたい」という声も多いですが、子どもの興味はそれぞれ違うもの。本人が楽しんで行えないものを無理強いしても、身にならないし、苦手感を植え付けることにもなりかねません。
入学後に楽しく勉強に取り組めるように、親ががんばりすぎないようにしたいものです。
通学路の確認と練習
入学前の準備として最重要なのは、登下校のルートの確認と練習です。
登校班がない地域や学童の後にひとり帰りをする場合など状況に合わせて、登下校それぞれのルートや時間帯に、親子で実際に歩いて確認する必要があります。一緒に歩きながら「車通りが多く、左右をよく見て渡らないといけない交差点」「地震の時に壁が倒れる危険がある道路」「草木や建物などで見通しが悪い通り」など、危険なポイントを教えましょう。
また、行きと帰りでは、同じ場所でも子どもの目には違って見えることもあります。
「子どもって見える景色がちょっとでも違ったりすると不安になるので、通常の下校時刻だけではなく、夕方ちょっと暗くなった時間帯でも練習しました。『こども110番の家』のステッカーを貼ってある家や施設は『何かあったら駆け込むところだよ』と一緒にチェック。本人が『覚えた』と言っても、安全のためにしつこいくらいに練習しました」(Wさん)
「子ども110番の家」には、地域ごとに目印のステッカーが貼ってあります。わからない
場合は近くの警察などで確認を。ほかにも、警察署・消防署・図書館・コンビニエンスストア、知り合いの家なども「駆け込み先」として教えておくとよいでしょう。
「1年生の5月ごろには、学童からひとり帰りをする子もちらほら出てきましたが、はたから見ていて不安に思える子もいました。子どもがひとり立ちする日のために、危ないポイントはくり返し注意する必要があると思います」(Yさん)
子どもはパニックになるとちょっと道をそれただけで、家の近くでも迷子になる可能性があります。平日の下校時刻に練習するのは少し大変かもしれませんが、可能な範囲でていねいに練習しておきたいところです。
保護者が情報収集&備えておきたいこと
学童情報のチェック
共働きの家庭にとって、放課後の子どもの生活の場としての学童はとても大切な存在です。一口に学童と言っても、➀公的な学童保育(放課後児童クラブ)②放課後子供教室③民間学童と、大きく3種類あります。
➀公的な学童保育(放課後児童クラブ)対象:保護者が働いている児童に生活と遊びの場を提供する自治体の事業(申し込みには勤務状況を証明する就労証明書の提出が必要)。6年生まで対象が基本だが、定員の関係で低学年に絞られている場合も。
開所時間:下校時から18時30分までが多い(自治体・施設によってはその後の延長保育も実施)。
運営:自治体直営の「公設公営」と、運営を民間法人(株式会社、公益法人)に委託している「公設民営」、民間法人が設置する「民設民営」がある。②と一体的に運営されている場合もある。
場所:約6割が学校敷地内、約1割が児童館のほか、学校外の専用施設、保育園や幼稚園に併設するものなどがある。
利用料:施設により異なるが、おやつ代込みで1か月4,000円~10,000円程度が多い。国や自治体から運営費が出ているため、③よりも利用料は安い。
出欠管理:家庭と連絡を取り合い、子どもの出欠確認が行われている。
②放課後子供教室対象:全児童を対象とした放課後の居場所事業。保護者が働いていなくても利用可。
開所時間:下校時から16~17時ごろまで(季節や自治体によって違いがある)。週に数日のみ運営される地域も多い。逆に、毎日開所して公的な学童保育の代わりとしている自治体もある。
運営:運営:自治体による運営が多いが、最近では自治体から委託をうけたNPO法人、民間法人による運営も増えている。
場所:学校内。
利用料:ほぼ無料。
出欠管理:自治体によるが、登録はしても毎日の出欠確認は行われていない場合が多い(子どもが来なくても家庭に連絡はない)。
③民間学童対象:保護者の就労に関係なく利用できる。塾のような補習、習い事などを行っている施設も多い。
運営:株式会社など(塾の運営も多い)。
開所時間:施設によるが、①よりも遅い時間まで利用できるところが多い。
場所:利便性の高い場所のビル内などが多い。
利用料:公的な補助を受けないため、利用料は①よりも高め。特に長期休暇中は1日保育となるため、5日利用すると5〜7万円程度になるところが多い。習い事等はオプション料金がかかる。
出欠管理:子どもの出欠確認が行われるのが一般的。
公立の学童保育施設への申込みは自治体によって違いますが、新1年生の申込み受付は10月ごろから始まり、11月から翌年1月くらいまでに締め切るところが多いようです。新1年生は、入学説明会の時に申し込み用紙が配布される場合が多く、説明会や見学会なども開催されるので、自治体の情報を確認しておきましょう。
共働き家庭が増えてきたことで、地域によっては公立学童の人数が多すぎて過密状態になり、希望しても入れないというところもあります。
「学校内の学童はスペースの割に人数が多く、『きゅうくつで行きたくない』と子どもが行かなくなってしまいました。子どもが多くの時間を過ごす場所なので、問題があったら改善しようと保護者が声を上げることも大事だと思います。保護者が声を上げたことで、自分の子どもの時には叶えられませんでしたが、今、少しだけスペースが広くなっています」(Wさん)
一方、民間の学童は公立の学童と比べると費用はかかりますが、送迎や習い事などのサービスや料金もさまざまで、申込みは随時受けつけています。「利用しやすい地域にあるかどうか」「子どもとの相性」なども重要なので、利用を検討する場合は説明会への参加や見学など早めの情報収集が大事です。
見守り用ツールのチェック
登下校の安全のためのツールとして、ここ数年で子どもの見守り用GPS端末の人気が高まっています。ランドセルやバッグに入れて持ち歩くもので、位置情報の精度が高いGPS機能のほかに、「親にボタン1つで連絡できる、お知らせボタンつき」「ボイスメッセージ機能つき」「定型文で返信できるメッセージ機能つき」など、さまざまな商品が出ています。
そのほかに、GPSではありませんが、Appleの「探す」ネットワークを活用した紛失防止のAirTag(エアタグ)も、充電が不要で月額料金がかからないので注目されています。
使い方や料金設定など、情報収集してみるのもよいでしょう。
ただし、入学の際にGPS機能つきの防犯ブザーを配布する自治体も近年は増えてきているようです。
「情報をチェックするのはいいと思いますが、あまり急いで購入しないほうがいいかもしれません。学校の持込ルールは要チェックです」(Wさん)
パートナーとの連携
保育園時代は送迎や行事の実行委員など、パパも子育てに積極的に関わってきたのに、「子どもが入学したとたん、学校行事しか参加しなくなった」というケースも少なくないようです。園の送迎がなくなり子どもに関わる時間が減ること、学校の保護者会や行事の平日開催が多いのも原因と考えられますが、子育てはパートナーと協力して行うもの。一方にだけ負担がかからないようによく話し合うことが大切です。
「子どもの小学校の保護者会で、パパの参加は1割程度。夫にも学校に足を運んでもらいたいのでうちでは保護者会の担当は私、個人面談の担当は夫という形で分担しています」(Iさん)
「学校からの連絡メールを夫婦両方のアドレスで登録したり、紙のお便りも共有するなど、多少面倒でも夫婦で情報を持っておくことは大事な気がします。いざという時に情報がないと連携しにくくなりますから」(Sさん)
学校の年間行事の予定は4月には決まっているので、計画的に休みの予定を立てることは可能です。夫婦で話し合って役割分担ができるとよいですね。
困った時に相談できるネットワーク
宿題、持ち物、クラスで起きている問題など、困った時に相談できる相手は貴重な存在。保護者会や登下校の際など、地域の保護者とコミュニケーションを取り、情報交換ができると安心です。
「登校班のグループLINEがあるのですが、紙のお便りが来たらメンバーがスクリーンショットを上げてくれて本当に助かります。『これってどういう意味?』『子どもはこう言っている』『そちらのクラスはどうですか?』などと情報交換ができるので、一人っ子の親としてはとても安心です」(Yさん)
「パパ同士のLINEグループで情報共有をしています。紙のお便りはなくなってしまいがちなので、お互いに助け合っています」(Sさん)
「ちょっと顔見せ」で先生とコミュニケーション
学校での子どもの姿を一番よく知るのは担任の先生。何かあった時に先生との意思疎通をスムーズにするためには、ふだんから親がコミュニケーションを取っておくことも大切です。連絡帳を活用して子どもの情報を共有したり、クラス活動のお手伝いやPTAの活動などで顔を出したり、親の様子を見せることで先生とのやりとりがしやすくなります。
「PTAの役員をしているので、在宅勤務の日のお昼のほんの短い時間だけ学校に行くことがあります。よく顔を見せる親は話しやすいようで、先生もちょっとしたことでも立ち話で教えてくれるのでありがたいです。帰宅して子どもに先生の話を伝えると、『先生ってぼくのことを見てくれているんだな』と、子どもと先生との信頼関係作りにもつながると思っています」(Iさん)
最後に~親が子どもの不安を増やさないことも大切
入学が近づいてくると、園の先生や家族、まわりの大人などから「もう1年生だから」などと言われて、子どもの行動に対するハードルが上がってしまうことがあります。
環境の変化をポジティブに捉えられる子は「小学生になるのが楽しみだね」とうまく乗せていくといいのですが、ゆっくり慎重派の子は不安を感じてしまう場合もあります。
「入学前、息子に『1年生になったら、ママも僕のことを励ましたり応援したりしなくなるの?』と聞かれたことがありました。園の先生にだいぶ厳しく言われていたようです」(Yさん)
まわりから「もう1年生だから」と言われ続けることによって、不安を感じるタイプのお子さんもいます。必要以上にお子さんの不安をあおることがないよう、親子で入学を楽しみにしたいですね。
この記事の監修・執筆者
ジャーナリスト。保育園を考える親の会 代表を経て、現在は顧問アドバイザーとして、執筆活動、調査研究、相談支援活動などを行うほか、大学講師も務める。おもな著書に『保育園は誰のもの』(岩波書店)、『保護者のホンネがわかる本』(ひかりのくに)、『後悔しない保育園・こども園の選び方』(ひとなる書房)、『不適切保育はなぜ起こるのか』(岩波新書)など。
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