運動会や発表会、テストなどは、どうしても子どもが緊張しやすい場面。じつは、保護者の関わり方次第で、子どもの緊張はぐんと減らせるんです。
今回は、数々のアスリートや経営者のメンタルトレーニングを担当し、小学生から大人までメンタル強化の方法を教える 、メンタルトレーナーの石津貴代さんに、子どもの緊張を克服する方法について教えていただきました。緊張しやすい・緊張している子どもへどのように関わればよいのか、一緒に考えていきましょう。
取材・文/こそだてまっぷ編集部
保護者が変わるべき? 緊張を生み出す要因とは
「今日は大事な日だから」「あなたはキャプテンだから」といった言葉に聞き覚えはありませんか?
“頑張ってほしい”“成長してほしい“と、保護者の皆さんも一生懸命だからこそ、子どもの応援につい力が入ってしまいますよね。 でも、実はその声かけが、子どもの緊張に影響を与えているんです。
子どもの緊張は「怖さ」から
緊張とは、誰の体にも備わっている本能的なスイッチのようなもの。子どものスイッチは、主に置かれた場面や状況に対して「怖い」と感じたときに入ります。
例えば、大勢の知らない人の前に出たとき、自分が失敗して怒られるのではないかと不安になったとき。緊張につながる怖さはこのようなものです。 また、子どもの年齢が上がるにつれ、本人の自意識の成長によって「よく見られたい」「悪いところを見られたくない」といった、人からの見られ方を意識するようになります。人からの目を気にすることもまた、緊張の一つの要因です。
どうしてうちの子は緊張しやすいの?
では、どうして緊張しやすい子とあまり緊張しない子がいるのでしょう。そもそも「緊張しやすい」とは、具体的どういうことなのでしょうか。
じつは、子どもが緊張しやすいかどうかは、もともとの性格のほかに、周囲の大人たちの関わり方が大きく影響しています。多くの場合、保護者の言葉に影響されて、子どもは緊張しやすくなるのです。
子どもの人格は、周囲の環境によって少しずつ形成されます。緊張は誰にでもある自然なことですが、その感じやすさは、保護者の関わり方次第で変わってきます。
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緊張しやすい性格を変える “良い”声かけとは
子どもの緊張を和らげるために1番大切なのは、「声のかけ方」です。
子どもは保護者の感情を敏感に感じ取るため、保護者の言葉や態度一つ一つに大きく影響を受けます。
その声かけ、OK? まずは心の中でテスト
子どもの緊張を和らげる声かけについてまず意識したいのは、「今子どもにかけようとしている言葉を、子どものころの自分が言われたらどう感じるか」をテストすること。
自分がその言葉を聞いて「よし、がんばろう!」と思えるのならば、その言葉は子どもにも同じように響き、緊張を跳ね飛ばしてくれることでしょう。反対に「はぁ、怖いな」と感じるような言葉は、子どもの緊張はさらに大きくなってしまうかもしれません。 それを踏まえて、ここでは、避けたい言葉とぜひ使ってほしい言葉をご紹介します。
使わないで! 緊張につながるNGワード5選
まずは、こんな言葉を使っていないかチェックしてみてください。これらの言葉は子どもの緊張をより高めるNGワード。思わず言ってしまわないように注意しましょう。
①「ミスしちゃダメ」「失敗しちゃダメ」
→失敗を恐れさせてしまい、ますますプレッシャーに。
②「前と同じ失敗をしないでね」「○○するのを忘れないようにね」
→「失敗」「忘れる」というネガティブな言葉が、過去の失敗を思い出させてしまい、より緊張を高めます。
③「あなたは緊張しやすいから」
→ 自分の緊張しやすさを強調されることで自己意識が過剰になり、緊張しやすくなります。
④「周りの足を引っ張らないで」
→ 過度な責任感の強調は、不安やプレッシャーを感じさせます。
⑤「絶対大丈夫」
→「絶対」という言葉がストレスとなり、完璧にしないといけない、失敗できないという緊張が生まれます。
いかがでしょうか。こうした言葉は、緊張につながるだけでなく、子どもの自己肯定感を下げてしまう可能性もありますので、注意が必要です。
意識すべき2つの”良い”声かけ
それでは次に、良い声かけについて具体的に見ていきましょう。
良い声かけのポイントは2つ。
1つ目は「良いレッテルを貼る」こと、2つ目は「やるべきことをシンプルに整理する」ことです。
普段から「良いレッテル」を貼る
「レッテル」とは、心理学用語で「人物の特徴・評価を断定的に決めるもの」のこと。
大人の言葉は、子どもの自己認識に大きな影響を与えます。そこで、頑張りやできていることを具体的に伝えてあげる=良いレッテルを貼ってあげると、子どもは自信を育むことができます。例えば、テスト前なら「模試で頑張ったよね」、運動会前なら「練習頑張っていたね」などです。
さらに、日常のふとした時には、行動を誉めたり、性格の長所を伝えたりするのも効果的。「○○なところが優しいね」「周囲に気が配れるよね」と、ポジティブなレッテルを貼ることを心がけましょう。
逆に、「メンタルが弱い」「あの時の失敗が…」といった言葉を言われ続けると、「自分はダメなんだ」とネガティブな自己認識になるので、避けるようにしましょう。
本番にやることを「シンプルに整理する」
いよいよ本番が近づくと、「観客がいる」「期待に応えなければ」といったプレッシャーが複雑に重なり、緊張が高まることがあります。そんなときは、頭の中を整理して、余計なことを取り除くことがとても大切です。
そこで、本番に向けて「これだけやれば大丈夫」ということを、簡潔に伝えてあげましょう。
発表会なら「大きな声で覚えたセリフを言う」「練習した演技をする」、試験なら「分かる問題を解く」「分からない問題は置いておく」と、とにかくシンプルにするのです。
そうすることで、「自分がすべきことは何か」をシンプルにしておくことで頭の中が整理され、いざ本番となったときにはやるべきことに集中できるようになります。
緊張をコントロールする「心の筋トレ」
ここまで、緊張しがちな性格を変える“良い声かけ”についてお話してきました。
とはいえ、緊張は誰でもある自然な感情です。完全になくすことはできません。
でも、緊張と上手く向き合えるようになると、本番でもちゃんと自分で対処できるようになり、自然と緊張することも減ります。
ここからは、親子で一緒に取り組める「メンタルトレーニング」を紹介します。緊張に負けない心を育てる“心の筋トレ”なので、ぜひ取り入れてみてくださいね。
1日3ほめトレーニング
【やり方】
一日の終わりに、保護者と子どもがそれぞれ「今日、自分が頑張ったこと」を3つ書き出します。頑張ったこと・うまくいったこと・成長したことを振り返りましょう。次に、何を頑張ったのか発表し、今日もお互いに頑張ったねと、一日を締めくくりましょう。
【効果】
毎日の「できた」が続くことで、自信が積み重なります。また、大切な本番のとき、過去の自分にたくさんの◎(マル)がついていると思うと、緊張がぐっと和らぎます。
イメージリハーサル
【やり方】
本番当日の1日の流れを、頭の中でイメージします。「朝起きて、ごはんを食べて、会場ついたら気持ちを整えて、本番は60点くらいで一生懸命やって、終わったらおいしいご飯を食べよう……」と1日にすることを順に想像していきましょう。
【効果】
頭の中で何度もイメージすることで脳に情景がストックされるので、本番が「初めて」ではなくなり、緊張の緩和につながります。発表会やテスト会場の様子、その時の自分の姿までイメージできるとより効果的です。 夜寝る前に行うと逆に興奮してしまうので、前日の夕方までにするようにしてくださいね。
本番直前でもできる! 心を落ち着かせるルーティーン
本番当日、子どもは緊張でふわ~っと意識が浮ついてしまいがちです。そんなときにすぐできる、心と体を落ち着かせるルーティーンを子どもに伝えておきましょう。
① (立っているとき)足の裏で床や地面をしっかりと踏めている感覚を感じる
(座っているとき) イスにどっしり座り、体重を乗せている感覚を感じる
②息を吸いながら、肩にグッと力を入れ、肩を上げる
③ふーっと息を吐きながら肩の力を抜く
④最後に、胸に手を当てて、「大丈夫。できる。」とセルフトーク(自分で自分の心に話しかける)をする
緊張を和らげるお守りとして、ぜひ覚えてくださいね。
緊張と上手に付き合おう
緊張しているとき、子どもはきっとおうちの方に安心を求めてやってくるでしょう。そんなときは、「もし子どものころの自分がその言葉をかけられたらどう感じるか」をテストしながら声をかけ、一緒にメンタルトレーニングをしてみてください。親子で一緒に、緊張と上手に付き合っていきましょう。
この記事の監修・執筆者
株式会社リエート 代表取締役社長。ON+OFFメンタルトレーニング協会代表。上級心理カウンセラー。JADP認定心理カウンセラー。U23日本代表・プロ野球球団・実業団陸上部や、各競技の日本代表選手・プロ選手をはじめ、のべ5,600人以上のメンタルトレーナーを担当。企業や自治体、教育現場にてメンタルトレーニング研修・講演を行う。メンタルトレーナー養成講座を主宰、アスリート、教育関係者、子育て中の保護者など幅広いジャンルの受講生が参加している。
主な著書に、『緊張をコントロールして最高の結果を出す技術』(すばる舎)、『メンタルトレーニングの教科書』(技術評論社)など。
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