子どもを「ほめる」ことを大切にしたいご家庭は多いと思います。
でもつい「すごい!」「じょうず!」を連発してしまいがち…。どうほめればいいのかよくわからない…というかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、現役幼稚園教諭の木暮真紀先生に、子どもをじょうずにほめるために大切な考え方や、ことばのかけ方をうかがいました。
お話/木暮真紀(富士見幼稚園 主任)
「ほめる」は子どもを全面的に受け入れることから
「ほめる」の前に大前提として大切にしたいのは、子どもの存在そのものを無条件で受け入れることです。
「ほめる」には、保護者の“こうあってほしい”という願いや考えが強く表れるため、子どもの行動を誘導してしまう場合があるからです。
それが子どもの育ちの力になるときもあるのですが、まずは、子ども自身を丸ごと受け入れることで、子どもの行為には、その子なりの思いや理由があると気づくことができるはずです。
結果として、子どもの行為を尊重した肯定的な関わりやことばかけにつながり、親子の愛着関係が結ばれていきます。
それを踏まえると、「子どもをほめる」と言うよりも、「子どもの行為を認める」「子どもと同じ目線に立って考える」と言ったほうが、子どもの育ちにとってはふさわしいかもしれません。
保護者のそのような態度やことばを受けた子どもは、以下のようなことを感じて育ちます。
●喜びやうれしいという感情
●安心感
●満足感
●自己有用感(「自分の行為は相手を満たしたり影響を与えたりすることができる」という思い)
子どもの行為を認めることを根底にしたうえであれば、「ほめる」ことには以下のような影響もあります。
●社会性の育ち(周囲との関係性のなかで自分があるということ。また、周囲のなかで自分がよりよくありたいという気持ちが育まれる)
ただ、保護者の“こうあってほしい”という思いが強く出すぎると、子どもの個性を妨げてしまうので、子どもの育とうとする力をサポートしていくような心がまえがよいと思います。
「子どもをほめる」についての考え方がわかったところで、次に、子どもにその思いを伝えるためには、どのようにことばをかけるとよいかを見ていきましょう。
具体的なことばで「あなたを見ているよ」と伝える
具体的に伝える
ポジティブなことば、よいことばを生み出そうとすると、とても難しいですよね。
ボキャブラリーを学んだりしなくても、子どもの行為に対して「どこ」がすごい、「どんなところが」すてきだと思ったのかをことばにすればOKです。
たとえば、「○○ちゃんのこんなところがすてき」「(お絵かきを見て)ここの色にこれを使ったんだね、きれいね」といった具合です。
「お母さん、お父さんは自分のことを見てくれている、話を聞いてくれている」ということが伝わります。
事実をことばにする
何かポジティブなことを伝えなければ! と意気込まなくてもだいじょうぶです。
たとえば、赤ちゃんに「汗いっぱいかいたね」「大きな声で泣いてるね~」などと言いますよね。
そんな風に、事実をことばにして伝えるだけでも十分なのです。
そのことばに加えて、ちょっと声のトーンを高くしたり、ちょっと口角を上げたりすると、ことばと感情がより伝わりやすくなります。
先に紹介したように「ほめなければ」よりも「子どもを全面的に受け入れる」という意識があれば、“子どもの行為をことばにすること=肯定的に伝えること”と、きっと思えるはずです。
イライラしてポジティブなことばをかけられないときには
保護者の反応を求める子どもの行為を、時には面倒に思うこともあるかもしれません。
「今は少しイライラして、よい反応が返せないな」と思うときもあるでしょう。
そんなときは、「うん、うん」とうなずくことだけをしてみてください。
たったそれだけでも、子どもには「聞いているよ」「見ているよ」と伝わります。
これは、保護者自身のクールダウンにも効果的です。
感情が高ぶっている状態のまま何かを言うと、どうしても強いことばが出てしまいがちなので、実は自分のイライラを「うん、うん」と飲み込んでもいるのです。
そうして少し落ち着いてから、口角を上げて、柔らかい表情で「どうしたの?」と返せるといいですね。
事例別 ことばかけ例+α&伝えたいこと
ここでは事例をもとに、より具体的なことばかけ例+αと、伝えたいメッセージを紹介します。
≪その1≫ポジティブなことばをかけたいシーン
事例1 洗濯物を畳むのを手伝ってくれた
●ことばかけ例+α
「○○ちゃん、手伝ってくれてありがとう。お母さん(お父さん)とってもうれしい! ○○お母さんだね」
●伝えたいメッセージ
“自分の行為で周りの人が喜んでいる”ことを伝えましょう。
保護者としては、手伝ってくれる気持ちがうれしいですし、助かりますよね。
それが伝わると、自分の役割や行為が人を喜ばせるとわかり、大好きな保護者と同じ役割を果たしている喜びも感じることができます。
「きょうだいの□□ちゃんも喜ぶね」などと伝えるのもよいでしょう。
事例2 約束の時間どおりに、自分でテレビを終わらせることができた
●ことばかけ例+α
「時間どおりにおしまいにできてえらかったね。じゃあいっしょにお風呂に入ろうね」
●伝えたいメッセージ
“先の見通し”を伝えましょう。
生活習慣やしつけに関わってくる事例です。
幼児のうちは、「次に何をするのか」という見通しをもつことがまだ難しいため、約束どおりに自分で終わりにすることができたことをまず認め、同時に、終わらせたことで次にやってくる楽しみを知らせたいところです。
先の見通しをもてるような経験を重ねると、だんだんと自律・自立した生活を身につけていくことができます。
≪その2≫励ましのことばをかけたいシーン
事例1 かけっこでビリになったけれど、最後まで走り抜いた
●ことばかけ例+α
「ゴールまで遠かったよね、がんばったね。お母さん・お父さん、最後まで応援していたよ」
●伝えたいメッセージ
“今のあなたのがんばりがうれしい”と伝えましょう。
最後までがんばって走りきったことを認め、ゴールできたことをいっしょに喜ぶことで、「自分を見ていてくれたんだ」と伝わるでしょう。
「大変だったね、悔しかったね。でも諦めないで走れたね」など、子どもの気持ちに共感することばもよいと思います。
事例2 側転の練習を「じょうずにできないからやりたくない」と言っている
●ことばかけ例+α
「じょうずになりたいんだ。…じゃあ、じょうずな側転ってどんなのかな?」
●伝えたいメッセージ
“いっしょに考えるよ!”と伝えましょう。
幼い子どもにも、プライドや、いいところを見せたい、でもうまくできない…という思いや葛藤があります。
ありのままの自分をさらけ出すのは、時として大人でも難しいことです。それを伝えてくれたことをまずは喜び、その思いに寄り添いたいもの。
「だいじょうぶだからやってみなさい!」と無理に励ますのではなく、子どもの今の気持ちに共感して、じょうずにやりたいという思いを達成するために、保護者は力になりたいと伝えることで、もしかすると、今の姿を安心して出し、チャレンジできるようになるかもしれません。
≪その3≫好ましくない行為とポジティブなことばをかけたいシーンの混在
事例1 友だちを押してしまったが、謝ることができた
●ことばかけ例+α
「今、お友だちを押しちゃったのよくないって、自分でわかったんだよね。だから謝ったんだね」
●伝えたいメッセージ
“どんな思いや理由で謝ったのか、子どもの行為の意味”をことばにして伝えましょう。
よく見る場面ですが、保護者は、周りの目に対して我が子を叱らなければならないときもあるでしょう。
ただ、子どもが「相手を傷つけてしまったことに気づいて、謝ることができた」のは認めたいところです。
「お友だちは押されてイヤだったよね、痛かったよね。だから○○くんは謝ったんだよね」とことばにして伝えることで、“間違ってしまったときに、自分で修正することができる”子に育っていくことでしょう。
事例2 保護者の手を振りほどいて走り出したが、「止まりなさい!」などの声かけで止まったり戻ってきたりできた
●ことばかけ例+α
「よく止まれたね。だけど、お母さんとってもびっくりした! 急に走り出して車がきたらどうなる?」
●伝えたいメッセージ
“あなたの行動で起こりうる危険”を伝えましょう。
急に飛び出したり走り出したり止まったりするのは子どもの特性で、きっと保護者のかたは重々承知のことでしょう。
子どもの命を守るために、なぜ危ないのか、その行為でどんな危険なことが考えられるのかを、何度でも繰り返し伝えましょう。
けれど、強いことばで叱ると、子どもは「叱られている!」と委縮してしまうため、本当に伝えたいことが伝わらず、得策ではありません。
保護者の「驚いた!」「何かあったらお母さんは悲しい」と、感情をことばにするのも、「これをするとお母さんが悲しいんだ。やめておこう」と伝わりやすいです。
木暮先生から保護者のみなさんへ
「じょうずにほめる」ことは、「ほめる」に着目するよりも、「子どもを全面的に受け入れ、認める」「子どもと同じ目線に立って考える」こととお伝えしてきました。
そうすることで、「なぜこんなことをしたのかな?」「どんな思いでこうしたのかな?」と、保護者が子どもの思いを考え、肯定的にとらえられるようになってくると思います。
ただ、そうは言っても、保護者も人間ですから、イライラすることはあるものです。私も、自分の子には、いつも幼稚園で子どもと関わるときのようにはいかない日があります。
でも、感情が高ぶった状態で口を開いてしまうと、子どもに伝えたいことが伝わらないので、できるだけその状況は回避したいですよね。
そんなときは、子どもの行為から一瞬でもよいので視線を外して、3回くらい大きくうなずきながら、「うん、うん」と飲み込むように深呼吸して、クールダウンしてから、対応するようにしています。
それでも、つい叱ってしまったら、あとからでも「どうしてあのとき、あんなに叱っちゃったのかな?」と、ご自身を振り返ってみてください。
案外、保護者の都合(自分の虫の居所が悪かった、時間がなかった、夫婦げんかをしていた など)で叱ってしまっていることがあるかもしれません。
原因がわかったら、日がたたないうちに、「さっきは大きい声で怒っちゃってごめんね」とお子さんに言えるとよいですよね。
そうやって子どもを育てながら、保護者も育っていきましょう。
親として、だけではなく、大人になってからの「私」としても成長していけることでしょう。
少しずつ、共に育っていきましょうね。
この記事の監修・執筆者
エネルギッシュな子どもたちからパワーを受けながら、日々の園生活を笑顔で保育を合言葉に大切に過ごしています。
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪