小学校から始まる「プログラミング教育」とは?

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2020年、ついに「プログラミング教育」が小学校で必修化されました。保護者の中には「そもそもプログラミングって何?」「授業でどんなことをするの?」という疑問をお持ちのかたもいらっしゃるかもしれません。

小学校の「プログラミング教育」について、信州大学 教育学部で教育工学等を研究されている佐藤和紀先生にお話をうかがいました。

お話/佐藤和紀先生(信州大学教育学部 助教)
文/編集部

目次

【1】私たちの社会を支える「プログラミング」

そもそも「プログラミング」とは、“コンピュータに命令をして、同じ動作をさせるプログラムを作成すること”です。例えば、道路に設置されている信号機は同じ手順を踏み、いつも同じ動きをします。公衆トイレのセンサーも、人が入ってきたら電気が点灯し、便座から離れたら水が流れるといったように、必ず同じ手順と動作が繰り返されています。家電の炊飯器なども同様です。

このように、“ボタンを押すと、規定の動作が実行される”といった現象は、すべてコンピュータに命令をして動かしているものです。命令とセンサーが組み合わされて動くものは、ほぼすべてプログラミングで動作していると思ってよいでしょう。プログラミングと聞くと、「ロボットや複雑な機械に組み込まれたもの」というイメージがあるかもしれませんが、このように生活に身近なところにたくさん導入されています。

プログラムは、“➀手順の組み合わせ”“➁分岐”“➂それが繰り返される”この3つの要素が組み合わさることで、人間が行うよりも速く、精度の高い動作を実行してくれます。いわゆるスマートフォンのアプリなどは、多くのプログラムが複雑に組み合わさったものです。プログラミングは私たちの社会や生活を支え、より豊かに便利にしてくれているのです。

【2】2020年小学校で「プログラミング教育」が必修化

文部科学省が定める教育課程の基準を示した「学習指導要領」の冒頭には、日本の危機について書かれています。日本社会はこれまでにない人口減少が進み、2050年には人口が1億人を下回り、高齢化もさらに進んでいくとみられています。

そうした社会では、これまで人が担っていた仕事をコンピュータに置き換えていかないと社会が回らなくなってしまいます。子どもの頃からコンピュータに親しみ、抵抗感がないこと、「コンピュータができること、できないことへの理解」など、コンピュータが当たり前に使われる社会に適応した、ものの見方や考え方が求められるようになってきます。

小学校は、体験を通して世の中に対する“見方や考え方を養う”場所です。実体験を通じて「プログラミング的思考」や見方を養うことで、大人になって社会に出たときに通用する感覚を身につけることにつながるでしょう。

残念なことに、世界の先進国の中でも日本はICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)に関する教育が最も遅れています。コンピュータを使って学習するという体験が少なく、大人になったときに仕事で上手に活用することができていないという現状があります。このような背景をから、小学校でプログラミング教育が必修化されています。

【3】小学校の「プログラミング教育」では何をやるの?

文部科学省では、学習指導要領や同解説で示している小学校段階のプログラミング教育についての基本的な考え方などをわかりやすく説明した「小学校プログラミング教育の手引」という資料を公開しており、授業や学習の進め方について記載しています。

学習活動の分類は、「A 学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの」「B 学習指導要領に例示されてはいないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの」「C 教育課程内で各教科等とは別に実施するもの」「D クラブ活動など、特定の児童を対象として、教育課程内で実施するもの」「E 学校を会場とするが、教育課程外のもの」「F 学校外でのプログラミングの学習機会」に分かれています。

Aについては、3年生からの総合的な学習の時間、5・6年生の理科と算数の授業において必修で行います。具体的には、小学5年生時に算数で多角形の図形を描く事例をプログラミングで実行するという授業や、6年生の理科で電気の利用についての学習をする際、センサーと組み合わせて効率的に電気を使うためにプログラミングを導入するといった授業があります。

Bについては、必修規定ではありませんが、教科の中でプログラミングを取り入れ、実施するものです。Cについては、例えば学級をよりよくするためにプログラミングを導入して解決しようという取り組みなど、授業以外の場所で実施するものです。Dについては、クラブ活動など、特定の子どもが対象となり教育課程の中で実施するものです。

EとFについては教育課程外のもので、例えばプログラミングの塾に通ったり、自宅でプログラミングの教材で学習したりするといった活動が該当します。つまり、A~Dが学校の中で実施するものとなります。

具体的に内容が決まっているのはAだけなので、それぞれの学校や先生によって実際の授業の内容は異なっているのが実情です。全国の小学校での取り組みの例として、教育向けのマイコンボード「micro:bit(マイクロビット)」という教材を使ったプロジェクト「MakeCode × micro:bit 200 PROJECT」の事例を紹介しましょう。例えば、理科で空気の温まり方を学習する際に、プログラミングを使って温度計を作るという取り組みや、視覚障害のあるかたに向け、センサーとプログラミングを組み合わせ、音声で道案内をするシステムを作るといった取り組みがされています。

■MakeCode × micro:bit 200 PROJECT
https://wdlc100.com/

また、ブロック玩具「レゴ」やビデオゲーム「マインクラフト」などを学校教育に導入するケースもあります。「レゴ」は海外の学校では学習教材として早くから取り入れられていますし、「マインクラフト」には「Minecraft: Education Edition」という教育版も用意されています。チュートリアルを活用すれば、自宅で学習することもできます。

小学校以外での「プログラミング教育」に対する取り組み

小学校での「プログラミング教育」以外にも、全国の自治体や大学などが子ども向けの講座やイベントを開催しています。

現在、信州大学では科学技術振興機構からの要請を受け、小学5年生~中学3年生を対象に、「ジュニアドクター育成塾」という無料の講座を開講しています。これは、高い意欲や突出した能力をもつ小中学生の発掘や、将来のIT人材育成を目指して実施されているものです。この他にも全国各地で数多くの取り組みが行われているので、ぜひ探してみてください。

■信州大学 ジュニアドクター育成塾
https://cril-shinshu-u.info/jr-doc/

【4】今後はコンピュータやAIへの素養が求められる時代に

小学校からの「プログラミング教育」に備えて、子どもを専門の塾に通わせたり、専用の教材などで学習させたりすることを検討している保護者のかたもいらっしゃるかもしれません。家庭によって子どもの教育に対する考えが違うので一概にはいえませんが、水泳やピアノと同じように、習い事の一環として考慮してもよいと思います。また、「プログラミング教育」の専用教材やアプリなどを活用して自宅で学習を進めるのも1つの方法です。

今、小学校では“子ども1人1台情報端末(パソコンやタブレット)”の環境を整えるという「GIGAスクール構想」が文部科学省によって推進されていますが、そうした情報端末を子どもがうまく活用できるようになるというメリットがあります。

今後は、コンピュータが扱えない人の活躍が難しい世の中になることが見込まれます。現在、大学でもAIやデータサイエンス教育に力を入れており、学部を問わず必修化する方向で進んでいます。コンピュータやビッグデータを扱うのが当たり前になるこれからの時代には、読み書き計算と同じように、コンピュータを使いこなすことが必然的に求められてくると思います。

【5】未就学児/小学生向けのプログラミング教材

「プログラミング学習」というと、コンピュータがないと取り組めないような気がしますが、実はプログラミングの考え方である「プログラミング的思考」とは、ものの順番や法則を考える“論理的思考”のことです。ですから、未就学児のときから「プログラミング的思考」の学習に触れることは可能です。いわゆる知育玩具を通じて、遊びながらものの手順を考えるといった体験ができるでしょう。

よりプログラミングに特化した玩具であれば、木製のロボットを動かす「キュベット」(3~6歳対象)や、芋虫型のロボットに命令を与えて動かす「コード・A・ピラー」(3~6歳対象)、命令カードを通じてマップ上の車を動かす「はじめてのプログラミングカー」(3歳~)といったもののほか、本当にたくさんの教材があるので、試してみるのもよいかもしれません。

小学校のお子さんの場合、マサチューセッツ工科大学メディアラボが開発した、小学生から使うことができるプログラミング言語「Scratch」を利用するのもよいでしょう。世界的に非常に有名なツールで、ブロックを動かし、その組み合わせでプログラミングを完成させるものなので、視覚的にわかりやすく扱えるのが特徴です。例えば、“多角形を無数に描き出す”といったプログラミングを実行するようなことも自在にできます。まずは遊びを通じて、プログラミングに親しんでみるのもよいのではないでしょうか。

ただ、もしかすると子どもが電子機器に触れることに抵抗がある保護者のかたもいらっしゃるかもしれません。電子機器を長時間使用することで、姿勢や目が悪くなるなど、身体への影響が気になるかたも少なくないでしょう。

一般的に、電子機器の使用に限らず、長時間同じことをやり続けることはよくありません。バランスよくいろいろなことをやること、生活リズムを整えることが一番大事だと思います。また、ディスプレイの高さ×2の距離を保って画面から目を離す、長時間続けてやらない、姿勢に気をつけるといったことも必要です。電子機器の使用時間や使用場所など、家庭内のルールをあらかじめ決めておきましょう。

また、プログラミングの知識や素養がないからといって、保護者のかたが子どもの学習に関わろうとしないのもよくありません。一緒にやってみると、ご自身がわからなかったことがわかるようになり、「なんだか難しそう、ゲームみたいなことをやっている」という認識から、「学習の意図がわかる」というように、大きく認識が変わるはずです。「わからないなら一緒にやってみよう」くらいの気持ちで、ぜひ積極的に子どもの学習に関わってみてください。

この記事の監修・執筆者

信州大学学術研究院 教育学系・助教 佐藤 和紀

信州大学学術研究院 教育学系・助教。公立小学校教諭、主任教諭等を経て、常葉大学教育学部・専任講師、静岡大学教育学部・非常勤講師等を務めて現職。文部科学省のGIGAスクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議の委員等も務め、情報教育やICT活用授業などを研究している。

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