発達特性のある子どもの小学校入学は、通常の就学準備とは少し違う手順と悩みがあります。「通常の学級でいいの?」「特別支援学級はどんなところ?」「就学相談って何?」と、迷う保護者も多いのではないでしょうか。
新年長から小学校入学までの1年間は、子どもに合う環境を考える大切な準備期間。そのためには、まず保護者がわが子の特性を理解することが欠かせません。そこで発達障害の子どもの支援に詳しい小児科医の森博子先生に、就学先の選択肢や入学準備の進め方、そして保護者が大切にしたい視点について伺いました。
取材・文/細川麻衣子
発達障害・特性がある子の就学先の選択肢は?
発達障害や特性のある子どもが小学校(公立)に就学する場合、就学先にはいくつかの選択肢があります。
【就学先の選択肢】
●通常の学級
1学級に最大35名/担任1名。地域の小学校の一般的な学級。クラス全員で同じ授業を受ける。発達特性のある子も在籍しており、必要に応じて学校内で支援体制を整えながら学ぶことができる。
●通常の学級+通級指導教室
通常学級に在籍しながら、個々に必要な時間だけ別室で専門的な指導を受ける通級指導教室に通う(通う頻度は個人差あり)。通級指導教室は児童数最大13名につき教員1名が配置され、学習や生活面での困りごとを改善するための個別・少人数指導が行われる。
●特別支援学級
1学級に児童数最大8名/担任1名。公立小学校の中に設置される少人数で構成される学級。障害や特性に合わせて個別の学習支援や生活支援を行いながら学ぶ。通常の学級に対し、個々に合わせたきめ細かな指導が行われるのが特徴。
●特別支援学校
障害の特性に応じ、専門教育を行う学校。1学級の児童数最大6名(小・中学部 ※重複障害の場合は3名)教科学習だけでなく、生活スキルや自立を目指した指導も重視される。
公立小学校の場合は、このような就学先が候補にあげられます。
通常の学級は、いわゆる地域の小学校の一般クラスです。集団生活の経験が多く得られるメリットがありますが、クラスの人数が多いため、基本的には担任の先生がひとりで全員をみることが基本になります。特定の配慮などは相談によってしてもらえますが、支援の範囲にも限界がある場合が多いようです。また、集団という環境そのものが発達特性を持つ子どものストレスになってしまう場合もあります。
通常の学級での集団生活をベースに、通級指導教室を利用することで、個別のソーシャルスキルや学習面の課題をサポートしてもらえます。ただ、地域によっては学校内に通級指導教室が無く、他校に移動して受ける場合もあります。その場合は保護者が送迎をするなどの負担もあります。
もっと少人数で手厚い支援を受けられる環境として特別支援学級があります。これは公立小学校のなかに設置されていることが多く、障害や特性にあわせた個々のサポートを受けながら学校生活を送れるので、集団生活に不安がある場合や、個々の成長を軸にしたいという場合に適している環境と言えます。また、特別支援学級に籍をおきながらも、教科によっては通常の学級へ行き来しながら、学習する場合もあります。
特別支援学校は、より専門的な支援が必要なお子さんが行く学校です。医療的なケアが必要だったり、体の動きに課題があったり、地域の公立小学校の環境では経験が増やしにくいという場合は、専門的知識を持った教員やスタッフがいる特別支援学校で学ぶことで、経験を広げていくことができます。
また現在は、市区町村の教育委員会が特定の小規模校を指定し、小規模特認校(少人数の特別指定校)として、自然環境の活用やきめ細やかな指導を目的として区域外からの通学を認めている公立の学校も、地域によってある場合もあります。さらに、国が定める一条校(学校教育法第一条に定める公立・私立学校)とは異なる、独自の理念・カリキュラムに基づいて運営されるオルタナティブスクール(フリースクール・インターナショナルスクールなども含む)もあります。いずれも、特色ある学校運営がされていることで、特性に❝合う❞と考えて、入学を決めるご家庭もいらっしゃいます。

公立・私立を含めると、実は思っている以上に選択肢はあります。でも、ここで大切なのは「どこが一番いいか」ではありません。大切なのは、わが子がどんな環境で安心できるか、どんな支援があると力を出せるかという視点です。制度の名前よりも、❝環境との相性❞が軸になります。環境との相性を見極めることが、後悔の少ない選択につながります。
入学までの1年間にできること
就学準備というと、学校見学や就学相談、手続きの流れに目が向きやすいのですが、一番最初にやってほしいのは、わが子の“学び方”を知ることです。どんな環境なら落ち着けるのか、どんな声かけで動きやすいのか、何に疲れやすいのか。こうしたことを知っておくと、学校見学や就学相談の見え方も変わってきます。これらを知ったうえで、年長の春頃から少しずつ始めていくと安心です。1年間のおおよその目安をまとめてみましたので参考にしてみて下さい。
【就学準備のスケジュール】※4月頃から始めた場合のモデルです
●春(4〜6月)/学校見学&情報収集
小学校で開かれる「学校見学」(特別支援学級と通常の学級を見学できる場合が多い)に参加したり、自治体の「就学相談」の制度を確認したりして、どのような学びの場があるのかを知る。
●夏(7〜9月)就学相談
自治体で個別の「就学相談」が始まる時期。園の先生や療育機関とも情報共有をしながら、子どもに合った学びの環境について専門家とともに考える。
●秋(10〜12月)就学先がおおよそ内定(決定)
就学先(通常の学級?特別支援学級?など在籍先)を検討し、学校と相談を進めていく。見学で感じたことや家庭の希望をもとに、就学先を決定する段階に入る。
●冬(1〜3月)就学先が正式に決定➡入学準備
「就学相談」や学校と相談した内容をもとに、正式に就学先が決定し、書類上の手続きなどがある時期。就学先がきまったら、通学路の確認や持ち物の準備などをして、小学校生活に向けた本人の心の準備も進めていく。
大きく分けると、このような流れになりますが、もちろんいつからでも間に合いますし、この通りでなければ❝遅れている❞などというわけではありません。
ただ、全体に向けて行われている「学校見学」や「就学相談」は、ある程度時期が決まっている地域も多いようなので、スケジュールだけでも早めに確認しておけるとベストです。
≪関連記事≫【発達障害・特性のある子どもの新学期】安心してスタートするための心の準備、大切なこととは?[小児科専門医監修]
まずは実際の現場を体感!「学校見学」
すでに発達障害や特性があるとわかっている場合も、そうでない場合も「学校見学」はおすすめです。
【「学校見学」で見ておくとよいポイント】
□通常の学級・特別支援学級それぞれのクラスの人数
□教室の場所・雰囲気(教室移動の様子や、音、広さ)
□教室内の支援環境(視覚支援、整理整頓がなされているか)
□教員・支援員の配置(担任以外にもどんな先生がいるか)
□先生と児童の関わり方
□休み時間の様子
学校見学で見たいのは、校舎の新しさや評判だけではありません。「この場所で、わが子は安心して学べそうか?」という視点で見ることが大切です。クラスの人数や先生の関わり方、教室の音や空気感など、わが子にとっての“合う・合わない”を感じ取ることが、就学先を選ぶ大きなヒントになります。
学校の雰囲気や支援体制は地域によって違いますし、同じ地域内でも指定学区と隣の学区、というだけでも違う場合が多々あります。「同じ市だからどこの学校もいっしょ」というわけではないんです。児童数(規模)やその時の先生によっても、方針はさまざま。実際に足を運んではじめてわかることは、本当にたくさんあります。
もし余裕があれば、指定学区以外の近隣他校も見学してみることもひとつ。入学後に「もっと、こうした支援があれば……」などと思ったとき、実際に行われている支援の例を知っていると、具体的に学校側に相談しやすい、ということもあります。
支援を考えている&迷っているなら「就学相談」
発達障害や特性のある子どもの就学を考えるときに知っておきたい制度のひとつが「就学相談」です。これは各自治体の教育委員会が行っているもので、子どもの障害・特性や生活の様子をもとに、どのような教育環境が合うのかを専門家といっしょに考える場です。
一般的には年長の夏から秋にかけて行われることが多く、教育委員会の担当者や心理士、医師などが関わることもあります。相談では、子どもの発達状況や園での様子、家庭の希望などをもとに、通常の学級や特別支援学級、特別支援学校などの選択肢について検討します。
就学相談はとても大切な場ですが、専門家に正解を決めてもらう場ではありません。子どもの特性や家庭の希望を整理しながら、「我が子にとって何を優先したいか」を確認していく場として活用できるとよいでしょう。
「通常の学級で大丈夫?」「支援学級と支援学校、どちらがいい?」など、就学先に対する悩みを専門のスタッフと具体的な話ができてアドバイスももらえるので、保護者だけで迷っている場合は是非受けておくとよいでしょう。
また「(通常の学級以外で)特別支援を必ず何らかの形で受けたい」と現時点で思っているなら、「就学相談」は必ず必要なものになるので、いずれにしても相談を受けるとよいでしょう。
就学前~就学後の実例3
就学先を考えるとき、「どこが正解なのだろう」と悩む保護者の方は多いものです。けれど実際には、子どもの特性や環境によって選択はさまざまです。私がこれまで関わってきたお子さんの例を、3名ご紹介します。
ケース①ADHD(注意欠如・多動症)/通常の学級+通級指導教室を利用した例
授業中に集中が続きにくかったり、衝動的に動いてしまったりする様子が見られる子がいました。ただ、友だちとの関わりは好きで、本人も「みんなと同じクラスで過ごしたい」という気持ちが強かったため、通常学級で入学することになりました。年長の就学相談の段階から学校と話し合いを重ね、入学後は通級指導教室を併用して支援を受けることに。通常学級での生活を基本にしながら、通級で個別のサポートを受けることで、本人も安心して学校生活を送ることができています。
ケース②ASD(自閉スペクトラム症)傾向/入学時から特別支援学級で自信をつけた例
集団で不安が強くなりやすい子がいました。幼稚園では環境に慣れるまで時間がかかり、活動の切り替えが難しい場面も見られました。保護者の方は年長の春頃から就学相談や学校見学を始め、「まずは安心して通えること」を一番大切にしたいと考え、就学先は特別支援学級を選ばれました。少人数の環境で先生のサポートを受けながら学校生活をスタートできたことで自信がつき、学校生活の中でできることが増えていきました。最初に安心できる環境で成功体験を積めたことが、学校生活の土台になったのではないかと感じています。
ケース③ADHD(注意欠如・多動症)/入学時は通常の学級、入学後に支援学級へ転籍を検討した例
年長の段階では特性がはっきりせず十分な就学準備の時間がないまま、入学の直前にADHD(注意欠如・多動症)の診断がついたケースでした。まずは通常の学級で入学することに。ただ、学校生活が始まると授業中に立ち歩いたり、学校での疲れから家で強く感情が出たりと、本人にとって負担が大きい様子が見られました。保護者の方も「このままで大丈夫なのだろうか」と悩まれて、そこから学校や専門家に相談。支援の方法を検討していくと、特別支援学級が安心して過ごせるのではとなり、1年生の途中から手続きをはじめて1年生の後半から特別支援学級に転籍。その後は、とても落ち着いて学校生活を送れているということです。
3つの実例に共通しているのは、最初の選択が完璧だったかどうかではなく、親がわが子の特性を理解し、その時々で必要な支援を考えられたことです。入ってみて「違うかもしれない」と思ったときに、じゃあどうするかを考えて動ける親は強いのです。
入学準備で大切にしたいのは保護者の❝判断軸❞
保護者の方から「どの選択が正しいのでしょうか」と相談を受けることがよくあります。通常の学級、通常の学級+通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校など選択肢があると、迷ってしまうのは自然なことだと思います。そんなとき私が大切にしてほしいとお伝えしているのが、家庭の中で「何を大切にしたいのか」という❝判断軸❞を持つことです。
例えば、「子どもが安心して学校に通えること」「自信を持って過ごせること」「将来の自立につながる経験を積むこと」など、優先したいポイントは家庭によって違います。ある家庭では安心できる環境を重視して特別支援学級を選ぶかもしれませんし、別の家庭では集団生活の経験を大切にして通常の学級を選ぶこともあるでしょう。どれが正解ということはなく、その家庭が何を大事にしたいのかによって選択が変わってよいのだと思います。
大切なのは、❝評判の良い学校❞や❝整った環境❞を探すことよりも、我が子はどんな環境なら安心して力を出せるのかを、保護者が特性を理解したうえで考えることです。

このように、子どもの特性や性格、家庭が大切にしたいことによって、就学の形はさまざまです。大切なのは子どもにとって安心して通える環境はどこかを考えること。また、就学は一度決めたら終わりではありません。(前出の実例ケース③の方のように)実際に学校生活が始まってから、子どもの様子を見て支援の形を調整していくこともできます。
新年長からの1年間は、我が子に合う環境をゆっくり考え、焦らず準備を進めていく大切な時間です。就学準備は、学校を選ぶ時間であると同時に、親の“判断軸”を育てる時間でもあります。子どもが安心して「学校って楽しい」と感じられるスタートを迎えられるよう、まずはわが子を理解することから始めてみてください。理解が積み重なった選択は、きっと後悔の少ない選択になります。
この記事の監修・執筆者
2010年熊本大学大学院医学教育部卒業。新生児集中治療室(NICU)での大学病院等勤務を経て、22年に発達診断専門の「親子のミカタオンラインクリニック」を開院。全国の親子から発達相談を受ける。自身も、注意欠陥多動性障害(ADHD)の長男と、グレーゾーンの次男を育てる。医療者であり、発達障害児を育てる当事者でもある視点から、子育てのリアルな悩みに寄り添う。
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