3歳までにやっておきたい「育脳」! 脳の発達には、基礎となる”生活”が大事

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「育脳」という言葉を聞いたことがありますか? 子育ての世界でも、脳科学が注目を集めています。

子どもの脳は、生まれてから3歳頃までに急激に成長するということがわかってから、「子どもの脳をどのように育てていけばいいのか?」という、情報がいろいろと取り上げられてきました。

今回は、小児科医であり発達脳科学者、そして一児の母としての子育て経験も踏まえ、子どもの脳の成長について研究されてきた成田奈緒子先生に、3歳までにできる育脳についてうかがいました。

お話:成田 奈緒子(小児科医・発達脳科学者)

目次

神経回路を作る「シナプス」の数は1歳頃がピーク!

まず、脳の仕組みを簡単に説明します。

生後間もない赤ちゃんの脳は400~500グラムで、大人の4分の1くらいの重さ。

ですが、脳の形や脳細胞の数は、大人とほぼ同じくらいあります。

では、なぜ生まれたての赤ちゃんは、話すことも立って歩くこともできないのでしょう?

それは、脳が未熟で、脳内での情報伝達がほとんど行われてないためです。

脳内には、情報処理をする神経細胞(ニューロン)が、140億~200億個あります。このニューロンが、複雑に結びついて情報伝達することで、脳は成長します。このニューロンを結びつけるために必要なのが、刺激です。

何かを見たり、聞いたり、触ったりといった五感を通した刺激が、電気信号となってニューロンに送られます。この刺激によって、ニューロンとニューロンの間に「シナプス」という接続点が生まれ、さまざまな情報が伝達されていくのです。

生後間もない赤ちゃんの脳には、このシナプスがほとんどありません。

生まれてから、刺激を受けることでシナプスが増え、神経回路がつぎつぎと作られていきます。

シナプスは、生後6か月頃までに急激に増加し、1歳頃にその数は最大になります。これ以降、不要なシナプスは刈り込まれ、徐々に脳内が整理整頓されて、効率よくスピーディーに働くようになっていくのです。

3つの脳「からだの脳」「おりこうさん脳」「こころの脳」をバランスよく育てることが大事

では、脳を育てていくためにはどうすれよいのでしょうか?

それには、順番とバランスがとても大事です。

脳の発達は、その働きにより「からだの脳」「おりこうさん脳」「こころの脳」の3つに分けられます。

①からだの脳

  • 位置…「脳幹」「大脳辺縁系」
  • 役割…食べる、寝る、呼吸する、姿勢を保持するなど、生きるために必要な機能を担う
  • 発達年齢…0歳~5歳くらい

②おりこうさん脳

  • 位置…「大脳皮質」「小脳」
  • 役割…言葉や微細運動、勉強、スポーツなど、知能を発達させる役割を担う
  • 発達年齢…1歳頃~18歳くらい。成長のピークは6歳~14歳頃

③こころの脳

  • 位置…「前頭葉」
  • 役割…人を思いやる、想像力を働かせるなど、人間らしい脳の働きを担う
  • 発達年齢…10歳~18歳くらい。成長のピークは18~14歳頃

脳は、この①②③の順番に成長していきます。

幼児期は、もっとも大事な「からだの脳」をしっかり丈夫に育てる時期!

脳が育つ順番がイメージしやすいように、2階建ての家を作ることに置き換えて説明します。

1階が最初に作られる「からだの脳」で、2階が「おりこうさん脳」です。

家を作る際は1階から作り始め、1階がある程度できあがってから2階を作り始めます。そして、1階と2階ができあがったら、それをつなげる階段をつけます。この階段が「こころの脳」です。

丈夫な家を作りたいと思えば、土台となる1階部分を頑丈に作っておきたいもの。同様に、「からだの脳」をしっかり育てることで、その後の「おりこうさん脳」「こころの脳」の成長もスムーズになります。

この時、「賢い子に育てたい!」という思いが強くて、1階の「からだの脳」ができあがる前に、2階の「おりこうさん脳」を育てようとしてしまう、という親御さんもいらっしゃいます。しかし、1階が貧弱なままだと、バランスが悪く、長持ちはしません

脳を育てていくのも同様で、順番が大事なのです。

では、「からだの脳」をしっかり丈夫に育てていくためには、どんなことをすればよいのでしょうか?

「からだの脳」には、太陽のリズムを感じる生活と快の経験を

早寝・早起き・朝ごはんで「からだの脳」が育つ!

大事なことは、太陽のリズムを意識した生活を日々続けていくことです。

基本は「早寝・早起き・朝ごはん」です。

  • 朝は早起きをして、朝日をたっぷり浴びる
  • 日中は活発に活動し、おなかをすかせて3食きちんと食べる
  • 夜は暗くなったら眠り、十分な睡眠をとる

ハッピーホルモンや癒しのホルモンとも呼ばれる脳内物質「セロトニン」は、朝5時~7時が分泌のピーク。できるだけこの時間帯に目覚め、カーテンを開けて朝日を浴びることで、セロトニンがたっぷり分泌されます。セロトニンは、心のバランスを整え、安定した状態を保ってくれます。これにより、不安や恐怖に対しても、「大丈夫」と思えるようになるため、心身ともに健康な状態を保ってくれます。

また、15時を過ぎると、「メラトニン」という脳内物質が分泌を始めます。メラトニンの作用により、体温を下げて筋肉の緊張をほぐし、入眠しやすい状態になっていきます。

たっぷり睡眠をとることで、朝起きると空腹を感じ、しっかりと朝食をとることができます。

0~1歳児は「快」の経験をたっぷり!

ねんねの頃から歩けるようになる0~1歳児の頃は、親が“してあげる”ことがほとんどです。食事排泄睡眠もそうですね。この時に「不快」に感じることがあると、それ自体が嫌いになり、後々まで影響することがあります。

例えば、離乳食の時期、おなかが空いていないのにどんどん口の中に入れられてしまったら? まだ眠たくないのに「どうして寝ないの?」とばかりに、イライラしながら寝かしつけられたら? とても不快ですね。

逆に、離乳食を食べる時に「おなかすいたね」「おいしいね」と笑顔で語りかけられながら、食べさせてもらったら? 夜、「あー、ごろんとすると気持ちいいね。いっぱい眠ろうね」などと、リラックスしたお母さん・お父さんと一緒に眠りについたら? きっととても心地よいですね。

特に、この時期の子どもの「快」の経験は、脳を刺激しシナプスを発生させる源になります。心地よい刺激が生まれる関わりを心がけていきましょう。

「おりこうさん脳」は、言葉でのコミュニケーションで育つ

言葉による刺激とコミュニケーションが大事

言葉が出始める1歳頃からは、言葉による刺激がとても大切です。

身近にいる親が語りかけてくれる言葉によって、たくさんの刺激を受けることで、シナプスがつながっていきます。

最初は、「まんま」「わんわん」など一語文ですが、2歳頃から「わんわん いた」などと二語文になり、言葉はどんどん増えていきます。

子どもが言葉を発したらそれに応えて繰り返したり、二語文になったら二語文で応えるなど、会話によるコミュニケーションの楽しさが経験できるようにしましょう。

発音が不明瞭だったり言い間違いがあったり、助詞を抜いてしまったりした時に、すぐその場で注意すると、話すこと自体が嫌になってしまうことも。なるべくはっきりとした発音で、主語・述語がわかる正確な話し方をして聞かせるなど、自然に伝えていきましょう。

遊びを通して、手指の巧緻性(こうちせい)を鍛える

1~2歳にかけては、指先で小さなおもちゃをつまむ道具を使って遊ぶスプーンを持つはさみで切るなど、どんどん手指を使う活動ができるようになってくる頃です。

手指の巧緻性(※手先の器用さ)は、脳の発達に大きく影響するため、指先を使う遊びを積極的に取り入れましょう

例えば、大きめのビーズを使った「ひも通し」や、抜かれた型にピースをはめる「型はめ」、タッパーなどに穴を開けてチェーンなどを落とす「ポットン落とし」などのおもちゃや、お箸が使えるようになったら「豆つかみ競争」をしたり、歌に合わせた手遊びなどもおすすめです。

子どもの興味をキャッチして、さりげなく“えさ”をまく!

1歳を過ぎる頃には、好きな遊びや興味のあることなどが見えてくる頃です。絵本の好みや、好きな遊びを観察して、子どもの興味を探ってみましょう

「これかな?」というモノが見えてきたら、さりげなく子どもの周りに置いておきます。「これやりなさい」「好きでしょう?」と渡されると、子どもによっては親の要望が透けて見え、違っていたとしても応えようとがんばる子もいます。

あくまでもさりげなく“えさ”(絵本やおもちゃなど)をまき、子どもが気づいて自然と手にとり、気に入ったら夢中になれることが大事です。

親の“好き”に巻き込むのも、1つの方法!

大好きな親が、リラックスして夢中になって楽しんだりしていることには、子どもも興味をもちます。「何だろう?」とそばでじっと見たり、そっと手を伸ばしたり…。料理でも編み物でも、音楽でもなんでもOK。子どもだから…とためらわずに、まずは見せるところからスタートしましょう。きっかけがつかめたら、一緒に楽しみます。

ただし、いくら親が好きな事だからといっても、子どもが興味を示さない事を無理強いするのはNG。それは「不快」でしかありません。

なかには、親の様子から期待に応えようと、無理してがんばろうとする子もいます。それまで「イヤ」と言ってもそれが受け入れられなかった経験があると、自分の感情を正直に出すことができなくなってしまうこともあるので、気をつけましょう。

「からだの脳」「おりこうさん脳」が成長すると、「こころの脳」も自然に育つ

子どもの脳をよりよく育てていくために必要なのは、学習やスポーツなど、なにか特別なことをする、というよりも、人間としての基盤となる「生活」を大切にすること。

その生活が身についていくなかで、「からだの脳」は丈夫に発達し、「おりこうさん脳」は興味のあることに積極的に取り組めるようになっていきます。

大切にしたいのは、赤ちゃんの頃からの「快」の経験と、家族と一緒に楽しく過ごすこと。心地よいと感じる経験により、脳は刺激を受けて発達し、そうした経験を重ねていくことで、「こころの脳」も、すくすくと成長していくでしょう。

この記事の監修・執筆者

小児科医・発達脳科学者 成田 奈緒子

文教大学教育学部特別支援教育専修教授。文部科学省「リズム遊びで早起き元気脳」実行委員長。子育てを応援する専門家による「子育て科学アクシス」を主宰。
神戸大学医学部卒業。米国セントルイス大学医学部留学を経て、獨協医科大学越谷病院小児科助手、筑波大学基礎医学系講師を経て、現在に至る。小児科医として豊富な臨床経験を持つ。一児の母。

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