3年生になると毛筆の学習が始まります。ここでは、3年生から始まる「国語科:書写」の毛筆学習について、横浜国立大学 教育学部教授で書道家の青山浩之先生にお話を伺いました。
毛筆に取り組む理由や、毛筆を楽しく学ぶ方法、筆のお手入れについて、また年中行事の「かきぞめ」についてもお伝えします。
取材・文/細川麻衣子
「かきぞめ」の由来・意味は?
「かきぞめ」は日本の年中行事のひとつです。元旦は新年を祝い、1月2日からその年、初めて筆を使って書くということで、古来より吉書初 (きっしょはじめ)、筆始 (ふではじめ) 、試筆(ためしふで)とも言われています。江戸時代に寺子屋が普及したことで庶民の一般的な行事になり、当時は日常的に筆を使っていた背景から、このように呼ばれるようになったのではないかと考えます。
明治以降になると、学校教育に取り入れられるようになりました。
“気持ちを新たに筆を持つ”ということで、新年を祝う言葉や自分の決意など、書かれる内容は、さまざまです。
毛筆は何のために学習するの?
3年生から毛筆を使った書写の指導が行われます。これについて、学習指導要領解説では以下のように示されています。
【小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編より】
※書写・毛筆に関する部分を一部抜粋し編集したものです。
【書写】
●各教科等の学習活動や日常生活に生かすことのできる書写の能力を育成する。
●文字を書く基礎となるのが「姿勢」、「筆記具の持ち方」、「点画や一文字の書き方」、「筆順」など。ここから「文字の集まりの書き方」に関する事項へと学びを深めていく。
●文字を正しく整えて書くことができるようにする。
●「毛筆」を使用する書写の指導は第3学年以上の各学年で行う。
各学年年間30単位時間程度を配当するとともに、毛筆を使用する書写の指導は硬筆による書写の能力の基礎を養う。
●第1学年及び第2学年の学びを受けて、毛筆を使用して点画の書き方への理解を深め、筆圧などに注意しながら書く。
このように、硬筆による書写の基礎を身に付けるために毛筆を学び「書写は生活の中に生きている」ということを子どもたちに実感してほしいのです。
現在は、毛筆を日常的に使う機会は少ないでしょう。それこそ書写の授業や「かきぞめ」などでしか触れることがないので「伝統文化を大事にするために毛筆を経験してみよう」という一面ももちろんあります。ですが本来の目的は、
毛筆を学ぶことで、普段、硬筆で書いている文字を改めて書き確かめ、文字の成り立ちや書き方の基礎を学ぶことで日常のさまざまな学びにつなげ、生かしてほしい、という思いが込められています。
1・2年生で学んできた文字も、改めて毛筆で書いてみることで「とめ」「はね」「はらい」などの点画の書き方への理解を深めることができるでしょう。
3年生の毛筆で大事にしたいことは?
実は、硬筆よりも毛筆のほうが書く過程(書く流れ)をより意識して練習できるため、書写の基礎が身につきやすい一面があります。
毛筆学習で大切にしたいことは以下です。
① 姿勢・持ち方
② 筆使い(動作、運筆)
③ 筆順
④ 字形
⑤ 配列
これは(毛筆に限らず、書写の学習全般に言えることです)①から⑤をひとつずつ丁寧に積み上げるように習得していくことが大切です。
①②③は自身の「書きやすさ」のため、④⑤は読む相手の「読みやすさ」のために機能することを、子ども自身も意識して学べるとよいでしょう。
特に3年生の毛筆学習では②の「筆使い(動作・運筆)」がポイントになります。
筆の穂先は常に左斜め上(45度)を向いていること。そして筆を動かすときも常に穂先は左斜め上を向くように動かすことを身に付けられるよう、取り組んでみてください。
そして3年生の毛筆学習では基本点画※を最初に学び、練習をします。
※基本点画:漢字を構成する最も基本となる点画のこと。横画、縦画、左払い、右払い、折れ、そり、曲がり、点、の8種類。
このとき、単に「基本点画をお手本のように上手に書く」のではなく、「“動きを上達させること” で基本点画が上手に書けるようになる」ということを意識しながら、毛筆学習に取り組んでみましょう。
保護者のかたは、書写というとつい「きれいな字を書けるようになってほしい(=字形にこだわる)」と思うことが多いようですが、文字を整えて書けるようになるには、まず①②③の土台をしっかり身に付けることが大切です。そのうえで、④字形⑤配列(文字を並べて言葉にしていくこと)へとつながっていきます。
毛筆学習、保護者がサポートできることは?
家庭で毛筆に触れる機会があると、より身近に感じることができるので、楽しく取り組むきっかけになるかもしれませんね。
●薄墨と朱墨液で「②筆使い(動作、運筆)」を視覚的に理解する
薄墨と朱墨液を使うことで穂先がどう動いているかを、実際に目で見て確認することができます。特に3年生でしたら前述の②「筆使い(動作・運筆)」を意識しながら、実際に親子で書き確かめてみるとよいでしょう。
「筆の穂先は左斜め上だね」などと声掛けをし、書写の基礎を親子で楽しく学んでください。
薄墨を大筆に含ませ、軽くぬぐいとった後、穂先に朱墨液をつけて書きます。この方法は、練習の成果を目で見ることができ、子ども自身が達成感を得られるのでおすすめです。
≪関連記事≫【専門家監修】「字が汚い」を解決! 硬筆指導のコツ
筆の穂先のおろし方はどこまでが正解? 手入れ方法は?
教科書には、大筆の場合「穂先から3分の2ぐらいをほぐして使用する」と書かれてあることが多いです。なぜすべてほぐさず3分の2ほどかというと、大筆は根元までおろすと、筆圧のコントロールが難しくなります。初めて毛筆に取り組むにあたり、子どもの筆圧調整を考慮して「3分の2ほど」が推奨されているのです。
しかし、筆の手入れのことを考えると、筆は最初からすべてほぐして使い、毛が固くならないよう毎回水でしっかりと根元からもみ洗いすることをおすすめしたいです。
お子さんの筆圧のコントロールが難しい場合は書きやすさを優先して、筆は「3分の2ほど」ほぐし、使用後は必ず、水を入れた容器などで穂先を振り洗いして、墨をしっかり落とすことを心がけてください。
水洗いが不十分であったり、ふき取りのみでは、墨が筆に残ったまま固まってしまい、次回使用するときに書きにくく、筆自体長持ちしません。
お子さんの毛筆学習の習得状況に合わせて配慮し、筆の使い方・管理をふくめて、ご家庭でご判断いただくのが良いかと思います。
小筆の場合は流し水では洗いません。穂先に水をつけて墨を落とし、半紙やタオルなどでぬぐいとってください。
3年生の書写・毛筆について、いかがでしたか? 「書写は生活の中に生きている」ということをしっかり感じられるよう、改めて意識をもって学ぶことが大切ですね。お子さんの書写の学習が、より豊かな練習・学びの時間になるよう、ぜひサポートしてあげてください。
この記事の監修・執筆者
あおやま ひろゆき/書写書道の研究・教育者であり、書道家。
「美文字王子」の愛称で知られ、
テレビ番組や書籍、講演などを通じて、
美文字の普及に取り組んでいる。
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