「音読」といえば、小学生の国語学習の定番ですね。
早くから音読学習を提唱されている陰山英男先生によると、「読む力を鍛える『音読』で、全教科の学力アップが期待できる」といいます。
その理由と、期待できる効果や学習方法のポイントをうかがいました。
【学びのスイッチをオンにする】音読の効果とは
——「音読」の効果を教えてください。
陰山先生:まず、音読は脳を活性化させるので、学びのスイッチをオンにできるんですね。たとえば、自宅学習の最初に行うと、いきなり問題プリントや書き取りを行うよりも勉強が始めやすくなります。スポーツでいう準備運動と同じで、自然に「さあ、やるぞ」という気持ちになれる。そして勉強を始めてからも、音読で育んだ集中力が学習効果を高めてくれることがわかっています。
——黙読とは何が違うのでしょう?
陰山先生:声に出さずに読むと、実は読んだつもりになっているだけというケースが少なくありません。わからない漢字を飛ばしたり、文字を目で追うだけで内容が頭に入っていなかったりすることもありますが、音読なら、正確に読めているかどうか確認できます。
きちんと発声されたものは、脳にスッと入っていくものです。勉強中に、わからない問題を音読してみるのもおすすめですよ。
「音読」に最適な文章と効果的な方法は
——どんな文章を音読するのがよいのでしょうか?
陰山先生:最初に触れる文章は、リズミカルに読めるものがベスト。最もよいのは古典でしょう。長い歴史のあるものは、まちがいなくリズムやテンポよく、脳の中に染み付いていきます。
2年生くらいまでは同じものを何度も繰りかえし、飽きるまで読みましょう。意味の理解はしていなくても大丈夫。リズミカルにテンポ良く、目の前にある言葉を声に出すことが大事なんです。
意識したいのは、背筋を伸ばし、口を大きく開けてはっきりと発音すること。おうちの方が先にお手本を読んであげてもよいですね。
——いつから始めるのがよいのでしょうか?
陰山先生:早くから始めるに越したことはありません。できれば就学前、遅くとも小学校1、2年生から始めていただきたい。先ほどお伝えした「学びのスイッチ」として活用するためにも、習慣化しておきたいところです。
——保護者は、何に気をつければよいでしょうか?
おうちの方に意識していただきたいのは、ほめること。つっかかったり、うまく読めていなかったりすると、つい口を出したくなりがちですが、グッとこらえて最後まで待ちましょう。そして、「大きな声が出ていたね」「最後まで読めたね」など、小さなことでもよいところを見つけて、ほめてあげましょう。音読が苦手なお子さんも、何度も繰り返すうちにうまく読めるようになります。
どうしても気になるところは、その場所を示して「ここ、難しいよね。あと3回繰りかえしてみようか」などと声がけし、改善したら次の一文に進むとよいですね。
「読む力」は学習すべての基本
——陰山先生は、「読む力」が全教科の学力に関係するとおっしゃっていますが、それはなぜでしょうか?
陰山先生:文章を理解することは、すべての学習の基本中の基本です。国語の読解はもとより、算数の文章題、理科の解説文、社会科の説明文など、どの教科でも文章読解が必要です。文章を読み、何が書かれているかを理解して吸収することこそが学習なのです。
——読解力が必要なのは、国語だけではないんですね。
陰山先生:最近、入試をはじめとするテストの問題文は、すべての教科でどんどん長くなってきています。そうした長文を正確に読み、短時間で全体像を理解できる力が必要になってきているんです。
「音読」は、生きる力の土台にも
——音読に、学習面以外の効果はありますか?
陰山先生:音読を続けることで、のどもきたえられます。実は、のどがきたえられていない子は、授業中の発言も少なくなりがち。音読により発声力が育まれると、友だちや家族との会話がスムーズになるなど、コミュニケーション能力にもプラスが生じます。スポーツでも、ピンチのときに大きな声で鼓舞する姿を目にしたことがあるでしょう。お腹の底から声を出す習慣がついて、自信が生まれていく子どものすがたを、これまで見てきました。
【学年別】学習効果を高める!音読におすすめの本
——はじめて音読にチャレンジする方へのおすすめはありますか?
陰山先生:1・2年生は、まず言葉に親しみ、馴染んでいきたい時期です。
おすすめは、短くテンポの良い言葉がいっぱいの、『10分で読める名作』『10分で読めるお話』『10分で読める物語』。
新美南吉さんやまどみちおさんなどの詩歌、「マッチ売りの少女」や「かぐやひめ」といった名作など、多彩な音、単語、文と出会い、学習の基礎力をつけましょう。
陰山先生:3・4年生には、好奇心を満たす本を読んでほしいものです。
『10分で読める伝記』『なぜ?どうして? 身近なぎもん』がおすすめです。
織田信長や野口英世、ヘレン・ケラーなど、何かを成しとげた偉人の伝記や、「どうして新幹線ははやいの?」「AIってどうやって賢くなるの?」といった身近な疑問に答える本で、知る喜びを育みましょう。
陰山先生:5・6年生では、知識や教養を身につけたいですね。
『なぜ?どうして? 科学のお話』『そうなんだ! 日本の歴史のお話』がおすすめ。「なぜアリは昆虫なのに飛べないの?」「電球はどうして光るの?」といった科学にまつわる疑問や、「紫式部と清少納言」「坂本龍馬と大政奉還」など、学習にも直結する知識や情報と出合える本です。
——最後にひとこと、お願いします!
陰山先生:音読で「読む力」をつけることで、その子の可能性は広がります。そのことが、間違いなく人生の質をよくすると思いますよ。うまく読めなくても、つっかかってもいいんです。ぜひ、毎日の習慣に「音読」を取り入れてみてください。
この記事の監修・執筆者
かげやま ひでお/岡山大学法学部卒業後、教職に就く。兵庫県朝来町立(現・朝来市立)山口小学校在職時に反復学習で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。2003年広島県尾道市立土堂小学校長に全国公募により就任。2006年立命館大学教授及び立命館小学校副校長を経て、現在、隂山ラボ代表。教育クリエイターとして、全国各地で学力向上アドバイザーを務め、講演会活動を行っている。『本当の学力をつける本』(文藝春秋)、『学校を変える15分 常識を破れば子どもは伸びる』(中村堂)ほか、著書多数。
隂山メソッドを教材化したドリルは「徹底反復シリーズ」(小学館)、「早ね早おき朝5分ドリルシリーズ」(Gakken)など、累計1500万部に及ぶ。
隂山英男HP
http://kageyamahideo.com/
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