【話が聞けないのは「脳」が原因!?】子どもの「聞く力」の大切さとは [脳科学者監修]

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【話が聞けないのは「脳」が原因!?】子どもの「聞く力」の大切さとは [脳科学者監修]

「何回同じことを言っても、わかってくれない」。それは、子どもの脳の「聞く力」が十分に育っていないせいかもしれません。脳科学の専門家である加藤俊徳先生に脳の「聞く力」についてお話をうかがいました。

文/こそだてまっぷ編集部

目次

脳の「聞く力」が弱いと、人の話をきちんと聞けない

「何回同じことを言ってもわかってくれない」「人の話をきちんと聞けない」。そんな悩みを抱えていませんか。もしかしたら、その原因はお子さんの「聞けない脳」にあるのかもしれません。

「聞けない脳」とは、物理的に音が届いていても、それを適切に理解したり、その情報を記憶してうまく処理したりする機能が十分に育っていないために、「聞く力」が弱いことをいいます。

9歳くらいまでは、聞く力が未熟な子も多く、女の子に比べて男の子のほうが「聞けない脳」のケースが多いです。その理由は、男の子のほうが、脳にある「海馬(かいば:日常的な出来事や勉強して覚えた情報などを一時的に記憶する際に働く部位)」の発達が、女の子にくらべて遅い傾向があるためと考えられます。

子どもが「聞けない脳」のまま育ってしまうと、将来、勉強や対人関係、さらに仕事などにも影響が生じる可能性があります。しかし、脳の「聞く力」は、何歳からでも伸ばすことができますので、あまり心配する必要はありません。

脳の「聴覚系」脳番地の発達が「聞く力」に関わる

脳の「聞く力」を理解するために、まず、脳のしくみを簡単に解説します。

脳には1千億個を超える神経細胞があり、似た働きをする細胞同士が集まり脳細胞集団をつくっています。その細胞集団は、担当する機能によって大きく8つの系統のエリアに分けられます。加藤俊徳先生は、それぞれのエリアを「脳番地」※と呼んでいます。

情報収集や理解などインプットを担当するのが「聴覚系」「視覚系」「記憶系」「理解系」で、思考や行動などアウトプットを担当するのが、「思考系」「伝達系」「運動系」、両方を担当するのが「感情系」の脳番地です。

8つの脳番地のうち、「聴覚系」の発達が遅れると、音を正しく聞き取ることが苦手になります。さらに、人の話を聞くためには「聴覚系」だけでなく、「理解系」と「記憶系」脳番地も働かなくてはなりません。「聴覚系」は、ほかの脳番地と連動して成長するため、「聴覚系」の成長が遅れると、「理解系」「記憶系」などの成長も遅れ、記憶力や言語能力、コミュニケーションを司る脳番地まで育ちにくくなってしまうことがあります。

※「脳番地」は加藤俊徳先生が代表を務める「脳の学校」の登録商標。

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子どもの脳の「聞く力」を確認するには?

子どもの脳の中で、聴覚に関する領域がしっかり働いているかどうかがわかるのは、4、5歳以降です。次の方法で、子どもの脳の「聞く力」が弱いかどうか簡単に確かめることができます。それは「文章の反復」です。たとえば、保護者が「明日は体操服を持っていく」などのような短い文章を1回だけ言います。次に、これを子どもに反復させます。

もし、1回聞いて反復できなかったら「聴覚系」脳番地が未熟な可能性があります。

2回聞いて言うことができたら「記憶系」脳番地は働いていることがわかります。

2回聞いても言えなかったら「記憶系」脳番地も未熟ということになります。

言われたことをしっかり聞いて、記憶ができれば、その指示を理解してアウトプットを担当する「思考系」や「運動系」に伝えることができて、判断し、行動に移すことができます。短い一文を反復できない子どもは、保護者に言われたことを耳では聞けても、脳が聞けていないために、言われたことを行動に移すことができないのです。

脳の「聞く力」が未熟なままだとどうなる?

子どもの「聴覚系」脳番地がうまく育たないままでいると、園生活や学校生活に支障が生じることがあります。たとえば、園や学校では、耳から得る情報が多く、大切なことは先生から話して伝えられます。また、授業の内容を理解するためにも、先生の話をきちんと聞けるかどうかは重要です。

脳の「聞く力」は「話す力」とも連動しているため、言語能力やコミュニケーション能力を育むためにも「聞く力」の育成は大切です。

脳の「聞く力」が弱い子にはどう対処する?

脳の発達には個人差もあり、「未熟だから」と過剰に心配をする必要はありません。脳の「聞く力」が十分に育っていない場合は、次のような方法で対処しましょう。

●伝えたいことを本人の耳元で言う

「聞く力」が弱い子どもは、音に対する注意力が欠けています。音に注意を向けさせるためには、伝えたいことを本人の耳元で言うようにしましょう。「服を着替えてね」などというように、必要なことだけをできるだけ短い言葉でゆっくり伝えることが大切です。

●伝えたいことを紙に書いて、声に出していっしょに読む

たとえば「寝る前に歯を磨く」というルールを口頭で伝えてもなかなかできない子どもに対しては、ルールを紙に書いて壁などに貼り、親子でいっしょに声に出して読んでみましょう。脳の「聞く力」が弱い子に対しては、聴覚だけでなく視覚情報といっしょに取り込み、「目で読む」「声に出す」という方法で理解を助けることができます。「音」は目に見えないため、文字やイラストにして実体化する方法が有効です。

●「やってはいけないこと」ではなく「やること」を伝える

病院の待合室など、静かにしなくてはいけない場所で、子どもが大きな声で騒いでいるのを注意したい際「うるさくしないで」といった抑制する言葉かけはNGです。子どもは、抑制する言葉に反応して萎縮してしまい、本当に伝えたい内容が伝わりません。「やってはいけないこと」ではなく、「小さな声でしゃべろう」などと「やること」を短い言葉で伝えたほうが、受け止めやすくなります。

何回同じことを言ってもわかってくれないのは、脳の「聞く力」が未熟だからなのかも…と考えると、少し安心できるのではないでしょうか。脳の「聞く力」は、何歳からでも育てることができます。今からでも子どもの「聞ける脳」育てに取り組んでみてはいかがでしょう。

この記事の監修・執筆者

加藤プラチナクリニック院長・株式会社「脳の学校」代表 加藤 俊徳

小児科専門医。昭和大学客員教授。脳科学、ADHDの専門家。脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや助詞強調音読法の提唱者。独自のMRI脳画像法を用いて、脳の成長段階を診断。脳番地のトレーニングの処方などを行う。近著に『1万人の脳画像を見てきた脳内科医が教える 発達凸凹子どもの見ている世界』(Gakken)など著書多数。加藤プラチナクリニック公式サイトhttps://nobanchi.com

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