2023年4月に発足が予定されている「こども家庭庁」。
これまで複数の省庁がそれぞれに管轄していた体制を見直し、一元的に担うことにより、子どもに関する問題の早期対策と解決を目指すことが期待されています。
文/マムズラボ
子どもを取り巻く諸問題
少子化、いじめ、不登校、児童虐待、ひとり親、保育サポートなど、子どもに関する問題は、年々深刻化し、残念ながら悲しいニュースがあとを絶ちません。近年では、ヤングケアラーの問題、そしてさらに、きょうだい児(障害のある子の兄弟姉妹)なども取りざたされています。まずはこれらの問題の中からいくつか取り上げて、現状どのような課題があるのかをご紹介します。
少子化の問題
2022年6月3日厚生労働省の発表によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は、2021年で1.30%。出生数も、81万1604人で前年比2万9231人の減となっています。これは、6年連続、過去最少の結果です。
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いじめの問題
2020年度認知されたいじめの件数は、小・中・高等学校および特別支援学校の合計で約52万件で、過去最多となった前年度よりは減りましたが、依然として高い水準が続いています。
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不登校の問題
また、不登校の小中学生の人数は増え続けています。2020年度では小・中の長期欠席者のうち、不登校児童・生徒数は19万6127人と、ここ8年間で急増し、過去最多となっています。
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ヤングケアラーの問題
不登校の一因にもなっていて、昨今問題となっているのが「ヤングケアラー」です。
ヤングケアラーは、障害や病気のある家族の世話や、労働などで、子どもが年齢や成長の度合いに見合わない重い責任や負担を日常的に背負わされている状態を指しています。
新型コロナウイルスの流行が長期化する中で、社会的な孤独・孤立の問題は深刻さを増す中、子ども本人の生育や教育に与える影響が問題視されています。
最近では、その中で「きょうだい児」として、一つのカテゴリーを独立して考える研究者も出てきています。
きょうだい児とは、重い障害を抱える兄弟姉妹のいる子どものことを言います。
保護者が障害のある子どもの養育や世話にかかりきりになり、その兄弟姉妹は様々なことを我慢したり、関心や愛情の不公平を感じても当然だと思ったり、我儘となることを避けて「いい子ちゃん」になってその弊害が出たりします。また場合によっては障害のある兄弟姉妹の世話もしたりします。
このことが原因で引き起こす問題を「きょうだい児」問題と言います。厚生労働省は現在、ヤングケラーの一つとして分類しています。
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こうしたさまざまな問題に対応するため、「こども家庭庁」の創設が決まりました。
子どもを取り巻く様々な問題の解決を目指して
「こども家庭庁」が複数の省庁が管轄していた子どもに関する政策を一元的に担うことにより、政策全体の司令塔となり、すべての子どもの命と権利を守ることを目指します。
こども家庭庁の体制はどうなっているの?
「こども家庭庁」は総理大臣直属の機関として内閣府の外局に設置され、各省庁などに子どもに関する政策の改善を求めることができる「勧告権」を持たせるとしています。
また、組織としては、子ども政策担当の内閣府特命担当大臣を置き、「こども政策担当大臣」「こども家庭庁長官」をリーダーにします。その下には、企画立案・総合調整部門、成育部門、支援部門という3つの部門を作ります。
● 企画立案・総合調整部門……子ども政策全体の企画・立案など全体のとりまとめ
●成育部門……妊娠・出産の支援から子どもの生育の基準を策定、子どもの安全対策など生育をサポート
● 支援部門……虐待防止といじめ対策、子どもの貧困やひとり親家庭の支援など、特に支援が必要な子どもをサポート
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子どもたちの意見を取り入れる
子どもを取り巻く問題を解決していくうえで、当事者である子どもや若者の意見に耳を傾けることも重要です。
「こども家庭庁」創設にあたって、子どもや若者の視点に立って何を大事にするのか、どういった政策が必要なのか、子どもたち自身の会議などへの参加や意見を取り入れる仕組みも考えられています。
子ども・若者から意見を聴いたり、子ども・若者が参加する仕組みを、子ども向けのパンフレットは以下のように解説しています。※5
子どもや若者から意見を聴くために、いろいろな工夫をします。
例えば、
●意見を言いたい子ども・若者を集めて、会を開く
●子ども・若者が政府の会議などに参加できるようにする
●子ども政策を決めるときには、子ども・若者が政府に意見を送れるようにする(パブリックコメント)
●SNSなど子ども・若者が参加しやすい方法で意見を聴く
などをしていきます。
「こども家庭庁」発足に寄せる期待は…
「こども家庭庁」を設立する目的の一つに、縦割り行政の弊害解消もあったといわれています。
しかし、文部科学省と厚生労働省の利害調整に時間がかかるなどの理由から、課題の一つだった「幼保一元化」は、今回も見送られてしまったなど、この問題は解決しているとはいいがたい面もあります。
また、予算倍増計画を首相は明言していますが、具体的な施策は特にないのが実情です。そのためか、選挙の票集め戦略ではないか、などの見方もあるようです。
しかし、ともかく、子どもを取り巻く厳しい現状があるのも事実です。
すべての子どもの命と権利が守られ、安心して成長できる世の中を目指して、「こども家庭庁」が正しく機能することを願い、これからの動向をしっかりと見届けることが大切なのではないでしょうか。
〈出典・参考資料〉
※1 令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/dl/gaikyouR3.pdf
※2 文部科学省 初等中等教育局 児童生徒課「いじめの現状について」令和3年11月22日」
https://www.mext.go.jp/content/20211122-mext_jidou01-000019036_03.pdf
※3 文部科学省「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf
※4 厚生労働省 ヤングケアラーについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/young-carer.html
※5 内閣官房 こども家庭庁設立準備室「こども家庭庁について」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/betu2_kodomo_siryou.pdf
この記事の監修・執筆者
早稲田大学公共経営研究科修了。
中国語同時通訳・翻訳、公共経営アドバイザー、社会起業家。
これまで4つの保育園を設置・運営。3つの一般社団法人の代表理事。
保育士。東日本国際大学客員研究員。日本広報学会会員。日本こども学会会員。
『保育士になったら最初に読む本』共著
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