2020年度の法改正により、公立小学校の児童数の上限が40人(1年生は35人)から35人に引き下げられました。学級編成基準の引き下げは文部科学省をはじめ、教育関係者にとって悲願でした。35人学級になることでどういったことが期待でき、子どもたちと保護者の環境はどう変化するのか見ていきましょう。
文/マムズラボ
なぜ35人学級が求められているの?
35人学級は、学年進行で段階的に適用され、2021年度は2年生が、2022年度には3年生が35人学級になり(1年生はもともと35人学級)、2025年度には小学校全学年で「35人学級」が実現することになります。小学校全学年の定員が引き下げられるのは、1980年以来40年ぶりです。
これまでも35人学級にすることの必要性は訴えられてきましたが、予算面から実現されることはありませんでした。しかしコロナ禍により、学校現場の事情が大きく変わりました。
机と机の距離の確保
まず第1に「感染症予防のための密を避ける教室環境づくり」です。これまで教室内に密集した状態で机が並べられていましたが、新型コロナウイルス感染症対策を取り入れた新しい生活様式に対応するため、机と机の距離を一定に保つ必要が出てきました。教室の大きさが限定されている以上は、生徒数を減らして距離を確保する他に方法がありません。
教育ICT環境の実現
第2に「GIGAスクール構想」の実現前倒しです。「GIGAスクール構想」とは、生徒1人につき1台の端末を持たせる教育ICT環境の実現のこと。本来であれば少しずつ環境整備されていく予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために長期にわたる休校等もあり、1人1台の端末を配布するGIGAスクール構想は前倒しとなり急スピードで進みました。そのため、GIGAスクール構想の効果を高めるには、少人数でのきめ細かいサポートが必要とされていて、スピーディーに動きました。
学級編成の国際水準化
第3には、38か国の先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)の諸外国の中で、日本は小学校の規模が大きいことがわかっています。先進国全体を見ると、過去10年間で1クラスの平均人数は年々下がっています。しかし日本は、数十年間も学級編成基準が変わらず、学級規模の変動もありません。当然教員1人当たりの生徒数も多くなります。
教員の労働環境改善
第4に教員の過労業務改善です。学校現場の人手不足が深刻化し、超過労働が常習化しています。労働環境が改善されないままであれば、教員の志願者は減少する一方で、優秀な人材の確保が困難なことも課題になっています。英語やプログラミングなど新しい学習内容も増え、教師の負担が増加しているため、1クラスの人数を減らすことで、業務負荷の改善を目指したいとされています。
35人学級になることで期待できること
35人学級になることで、子どもは様々なメリットが得られます。
ゆとりある教室環境
35人学級になることで、教室を広々と使うことができるようになります。
公立小中学校では、約7割が1950年の校舎大量整備のときに建てられた文部省(現、文部科学省)の基準に満たない、7メートル×9メートルの広さの教室だといわれています。その狭い教室に40人を詰め込み、ソーシャルディスタンスを保つことは困難です。
また、現在使用されている机の半数は60センチ×45センチです。国のGIGAスクール構想により、パソコンやタブレットが1人1台配備され、端末を普段使いすることが求められていますが、机の上に教科書とタブレットを同時に広げることは難しいでしょう。
とはいえ限られた教室スペースの中で机を大きくすることは困難なため、1クラスあたりの生徒数を減らすこと以外に選択の余地はありません。このように、35人学級になることによってソーシャルディスタンスの確保とGIGA スクール構想の両者の環境整備が可能となります。
活気ある授業の実現
1クラスあたりの人数が減ることで、子どもが自発的に授業に参加しやすくなります。
人数が多ければ先生がコメントやアドバイスをするにも限界が生まれ、全員の意見を発表するにも時間が足りません。しかし、少人数学級になると生徒一人あたりの発言できる機会を増やすことができ、子どもの参加意欲をアップさせ授業の活性化が期待できます。大勢の前ではなかなか発言できない子どももクラスの人数が少なくなれば発言しやすくなるでしょう。
生徒への丁寧なサポート
教員の負担が減り、一人ひとりの子どもに寄り添う指導がしやすくなります。
教員1人当たりが関わる生徒数が減ることで職務が軽減されれば、教員自身も生徒と関係性を育む余裕が生まれるでしょう。そのことで一人ひとりの習熟度をより丁寧に確認することができ、学習のつまずきなど個別に寄り添うことが可能になり、手厚いサポートができることになります。
35人学級を成功させることへの課題
長年期待されてきた35人学級ですが、それを達成させるには次のような課題があります。
教室が足りない
少子化の影響による生徒数の減少で、教室が余っている学校も多くありますが、6学年全てが35人学級となると、そこまで教室に余裕のない学校もあり、教室の確保が困難な学校が出てくることもあります。
教師が足りない
35人学級を実現するための最大の課題と言われていることが、教員の確保です。そもそも教員志望者数が減少しています。小学校の教員採用倍率は全国平均3倍を切る水準にまで下がっており、採用数を増加することによって、十分な素質を持った教員を確保できるのか懸念されています。
35人学級になることで親としてどう子どもに関わるか
35人学級になることで、子どもに対して保護者として気にかけるべきことは、少人数学級になったことによる子どもの変化です。
少人数学級になることは、クラスで出会える友達の数が減ることにもなります。そのため、気の合う友達が同じクラスにいなかったという状況を生む可能性も出てきます。また、教師と生徒との関係も少人数がゆえに密になり、万が一相性が合わなかった場合、子どもにとって辛い1年になりかねません。
保護者としては、子どもの学校での様子や学習活動に興味を持ってみることが大切です。「学校で何か面白いことはなかったか」「先生とどんなお話をしたのか」などと声をかけ、会話を通して子どもの表情や日々の暮らしに注意を向け、学校での様子を感じ取ってあげてほしいと思います。
GIGAスクール構想が進められていますが、あくまで教育は「人対人」です。タブレットから全てが学べるのであれば、学校ではなく自宅学習だけでよいでしょう。子ども同士が教室内でコミュニケーションをし、タブレットを使いながらもAIでは教えてくれないこと、ネット検索をしても見つからない答えを生み出すのが、学校での学びです。
実際のところ、35人学級と40人学級ではさほど大差がないかもしれません。
教育は教師一人当たりの児童数の平均値では比較できませんし、善し悪しを測ることもできません。
しかし、都会のマンモス学校では児童があふれている現状がある中で、GIGAスクール構想にある「だれ1人取り残すことなく資質能力が伸ばせる個別最適化された教育環境」をさらに作り出すことが求められます。義務教育法が改正されることで、知識の習得面だけでなく、より良質な教育が育まれることを期待していきたいですね。
<出典>
文部科学省 初等中等教育局 学びの先端技術活用推進室「GIGAスクール構想による1人1台端末環境の実現等について」
https://www.mext.go.jp/content/20200605-mxt_chousa02-000007680-6.pdf
この記事の監修・執筆者
東京都の公立小学校教諭、教育委員会、港区教育長などを歴任、2012年10月に退職。2013年4月から、学研ホールディングス特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。おもな著書(共著):「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)
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