『うどんの神さま』心の奥に沁み込んだ2つの”地元愛”|第34回小川未明文学賞受賞の樹 あゆりさん独占インタビュー
『うどんの神さま』で「第34回 小川未明文学賞」の大賞を受賞し、この秋Gakkenから出版されることが決まっている樹 あゆりさん。物語を紡ぐ彼女の源泉にあったのは、地元に根付くある「食材」と「歴史的作家」でした。少女のように輝く笑顔で語ってくださった憧れの児童文学作家や、40歳の時に物語を書き始めたきっかけなども必見です。
取材・文/こそだてまっぷ編集部
身近な食事と、体に沁み込んだ有名作家の化学反応|『うどんの神さま』作者 樹 あゆりさんインタビュー
――まず率直に、受賞の知らせを受けた時のお気持ちをお聞かせください。
樹 あゆりさん(以下・樹):地に足がついていないような……、本当に月並みな言葉しか浮かびませんが、夢を見ているようでした。何しろ何年も憧れていた賞でしたので。二度目のお電話をいただいたときに「あ、これは現実なんだ」とようやく受け止めることができました。
――樹さんは40歳のころから物語を書くようになったとのことですが、何かきっかけはあったのでしょうか。
樹:子どもが小学校に上がるときに、何か一生続けていられる趣味のようなものをつくりたいなと思っていたんです。その頃、ちょうど子どものために図書館に通っていたのですが、そこで子ども当人よりも母親の私のほうが児童文学にのめり込んでしまいまして。その時にやっぱり私にとって一番親しみのある、父が枕元で話してくれたような児童文学を志したいなと思い、始めました。
――『うどんの神さま』の題材、うどんについてお聞かせいただけますか。
樹:それはもう、私の住む香川県といえばうどん県なので(笑)。うちの家族もうどんが大好きで、一週間に3~5日はうどんを食べているんじゃないか、というほどです。それで、一番身近なところにある「うどん」を題材にしたいという思いがありました。
――「うどん」と「神様」というのはなかなか不思議な組み合わせですが、これらが紐づいたきっかけなどはありますか?
樹:みなさんもご経験があるかもしれませんが、風邪をひいて体を壊していたりする時も、おうどんだったら食べれるんですよね。「これはおうどんに神様がいるに違いない」と思ったんです。私は昔、体が弱い子どもでしたから、そんな経験が自然と「うどんの神さま」という言葉になって表れてきたように思います。
――もともと、児童文学はお好きな方でしたか?
樹:小川未明先生をはじめとする童話はもちろん、児童文学は昔から好きな方だったと感じます。特に強く心を惹かれたのはファンタジー作品が多かったです。例えば、柏葉幸子先生、荻原規子先生、上橋菜穂子先生……。日本の児童文学ファンタジーで活躍されている作家さんの小説を読むのが大好きです。ただ、私にはなかなか書けないジャンルで。完全なる「私、読む人」です。
――柏葉幸子先生は、今回の賞の最終選考委員でもあり、この後の懇親会でお話される機会もあるかもしれませんね。
樹:ええ、存じ上げて今とてもドキドキしています。 「先生、あの続きはどうなるんですか?」なんて、完全にファンとしてお話してしまいそうなくらい。
――そのほかに、影響を受けた作家などはいらっしゃいますか?
樹:直接的に、というわけではないですが、この『うどんの神さま』を書き上げて読み返した時に思ったのは、「え、ちょっと待って、これ『父帰る』(菊池 寛・著)かも?」ということでした(笑)。
私、実は菊池 寛と出身小学校が同じなんです。ですので、小学校1年生の時から菊池 寛のお話に触れる機会がとても多くて。自分でも驚きましたが、物語を書くときに自然と入ってきてしまうくらいに、自分の中に沁み込んでいるのでしょうね。

やわらかな語り口で、永遠の文学少女としてのチャーミングな一面を覗かせた樹さん。大賞受賞作『うどんの神さま』では、樹さんの瑞々しい感性がどのように表現されているか注目したいですね。
第34回小川未明文学賞 大賞『うどんの神さま』
『うどんの神さま』あらすじ
小学四年生の河野陽翔(こうのはると)は剣道が大好きな少年である。彼の家は祖父の代から続くうどん屋の老舗である。母と兄の悠真(ゆうま)が店を切り盛りしており、小さな店だが、地元の人たちに愛される人気店である。
ある日、陽翔と悠真は、店先で生き倒れている男を助ける。男はじっと兄を見つめているが、兄は男の顔を見た途端家から出ていくように言い放つ。この男は十年前に家族を残して一人都会に出ていった父親であった。この一件から、陽翔の家族やお店の周囲に大きな出来事が次々と巻き起こる。
第34回小川未明文学賞の概要
小川未明文学賞は、上越市出身の児童文学作家、小川未明の文学精神を継承し、新しい時代にふさわしい創作児童文学作品を創出する目的で、平成3年に創設された児童文学賞です。
- 主催:上越市 小川未明文学賞委員会
- 協賛:株式会社Gakken
- 後援:文化庁 新潟県 早稲田大学文化推進部 上越教育大学 日本児童文学者協会 日本児童文芸家協会
第34回を迎える今回は、総数800編を超える作品の中から、樹 あゆりさんによる『うどんの神さま』が大賞に、隅垣 健さんによる『おとぎ電車と宵待の橋』が優秀賞に選ばれました。
まとめ
大賞作品『うどんの神さま』は、2026年11月ごろ株式会社Gakkenから書籍として刊行される予定です。小川未明文学賞の募集開始や過去の受賞作、最終選考委員に関する情報は、下記ホームページよりご覧ください。
樹 あゆり(いつき・あゆり)
香川県在住。子どもたちの小学校入学を機に文章教室へ通い始め、そこで出会った児童文学同人誌「扉」の友人に誘われて入会。物語を紡ぐ楽しさに夢中に。
第34回小川未明文学賞にて、『うどんの神さま』が大賞を受賞。この秋の出版が決定している。
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