宿題や勉強あるいは、ピアノやスポーツなど習い事の練習に取り組んでほしいときに、みなさんはどんな声掛けを子どもにしますか? すぐに取り掛かってくれないときや「イヤだ」という言葉が子どもから返ってきそうだなと予想されるとき、つい“ご褒美”を提示してしまうことがあるのではないでしょうか。「このドリルを毎日1ページずつ続けたら〇〇を買ってあげる」、「これができたら〇〇に連れて行ってあげる」。もちろん、ご褒美を掲げられることで子どものやる気に火はつきます。しかし、一時的な効果で終わってしまうことが多いのではないでしょうか。さらに、ご褒美作戦には子どもにとってマイナス要素も多く含まれているようで……。
今回は、教育評論家の親野智可等先生にお話を伺いました。
ご褒美作戦が子どもにもたらす2つの“マイナス要素”とは!?
ご褒美作戦開始直後は、アイスクリームやお菓子などすぐに親が用意できるご褒美で子どものやる気はアップ! 宿題や練習などの“課題”にすぐに取り組み、マイナス要素など思い浮かびもしないことでしょう。
しかし、残念ながらマイナス要素も存在します。当然ですが毎日同じものや代わり映えのないものがご褒美として掲げられても、子どものモチベーションを維持することはできません。割と早い段階でご褒美への思いが「これだけ?」に変わっていき、次第にご褒美に魅力を感じなくなっていってしまうのです。
そして最終的には、子どもが課題に取り組むことを渋る、または取り組むことさえしなくなってしまうことがよく見られます。
一方で、親が子どもに取り組んでほしい内容も、子どもがより良いご褒美を望むのと同様に変化しがちです。ご褒美を提供している見返りを求めるかのように、日に日に課題の量を増やしたり質を高くしたくなっていく傾向にあります。
双方のこの状況は、ご褒美をより魅力的なものへとレベルアップさせていかざるをえなくなり、親はその見返りをさらに求めるようになっていくという負のスパイラルに陥っていくのです。これが1つ目のマイナス要素です。
2つ目にあげられるのは、本来の行動の価値を見失ってしまう可能性があることです。子どもにとっては、ご褒美が目当てでありご褒美をもらうことがゴールになってしまうため、勉強や練習という行為はそれをかなえるためのいわば「やっつけ行為」になってしまうという点です。
つまり、子どもにとって「〇〇したら△△がもらえる!」という言葉は△△の部分しか届いていないといっても過言ではありません。親が望んでいる新しいことを知る大切さや楽しさ、練習の積み重ねが導く成果など、行為自体がもつ価値が子どもにとって後回しになってしまうどころが、身につかなくなってしまう恐れさえあります。
ある年の運動会でこんなことがありました。「さぁ! 紅組の出番です。応援しようね!」そんな声掛けをしたところ、ある児童から「先生! 応援頑張ったら何もらえるの?」と。この言葉にとても驚いた記憶があります。
でも、これこそがご褒美は、行為そのものの価値を見失わせてしまう可能性があるということのあかしともいえるでしょう。
マイナス要素がなくなる“後回しのご褒美作戦”
先にご褒美が与えるマイナス要素をあげましたが、このような弊害を伴わないご褒美もあります。それは、「日頃から普通にやっている楽しいことを順番を変えて後回しにすることでご褒美化したもの」です。例えば、次のようなものです。
宿題が終わったら撮っておいたテレビを見る
宿題が終わったらゲームをやる
宿題が終わったらおやつを食べる
宿題が終わったら漫画を読む
テレビを見る、ゲームをやる、おやつを食べる、漫画を読むなどは日頃から普通にやっている楽しいことです。つまり、どうせやるものです。それを、宿題・勉強の後に持ってくることでご褒美化するのです。このようなご褒美なら弊害がありません。
もう一つは子どもが自分に与えるご褒美です。自分が自分に与えるのですから、要求がエスカレートすることはありません。
また、あらかじめゲーム機や漫画、テレビなど、ご褒美化できそうなものを布などで隠しておくと、より効果が期待できます。〇〇をやるまではそれらが禁止の状態にあることをあえて演出するのです。
そして、ここで「後回しのご褒美作戦」を実行しましょう! 後でやる約束を交わしたことによりゲーム機などを覆っていた布が取られ、ご褒美化されたそれらはより特別感を増した状態で子どもの前に登場することになります。この演出によりご褒美のうれしさが増し、あとで必ず〇〇をやろうと子どもは決意するものです。
つまずいたら試したい! 「わんこそば方式」と「とりあえず1問式」
とはいえ、子どもだけでなく親もやる気と根気が毎日続くわけではありません。そんなうまくいかない日にオススメの声掛け術を2つ紹介します。
1つ目は“わんこそば方式”。まずは、なかなか取り組まないページの問題をコピーします。そして、その1ページに書かれている問題を1題ずつ切り取って渡し、「じゃあ、まずは1題だけ解いてみよう」と声掛けするのです。
1題解けたらまた1題、わんこそばのように出題し続けると、不思議と1ページまたはそれ以上の問題数を子どもは解いていきます。
もし、1題しか解いてくれなかったとしてもそこは「まったくやらないよりは良かった。」「1題でもやってくれたら御の字」と思うようにしましょう。
2つ目は、“とりあえず1問方式”。これは初めに、子どもが課題に取り組みたくない気持ちに共感してあげることが大切です。子どもの気持ちに親が寄り添ってくれたことで、子どもはうれしくなり、とてもリラックスした状態になります。
そして、しばらくしてから「とは言っても全くやらないわけにはいかないから、とりあえず1問だけやってみようか」というようにハードルを極力下げて促してみましょう。
子どももやらなければならないことはわかっているので、自分の大変さがわかってくれている人からそう言われると、「しょうがない、やるか」という気なる可能性は高まります。
“やらなくてはならないことがある”状態は大人でも億劫になるものです。実は子ども自身もやらなくてはならないことはわかっているのです。重い腰を上げるまでに時間がかかるかもしれませんが、ご褒美に頼らず、学ぶこと・知ることの楽しさを体験させてあげることが大切です。生活や遊びの中で、学びに興味を持てるような知的な刺激を与えられると良いですね。
この記事の監修・執筆者
長年の教師経験をもとに、子育て、親子関係、しつけ、勉強法、家庭教育について具体的に提案。著書多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。X、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
音声配信サービスVoicyの配信番組「コソダテ・ラジオ」の2022年12月の金曜マンスリーゲストとして出演。「家庭での学習習慣」について熱いトークを配信しています。
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