さまざまなアンケート調査によると、幼児期の子どもを持つ保護者の方の多くは「ひらがなの読み書き」に強い関心を持っているようです。
「ひらがなの読み書き」ができるかどうかは、保護者にとってわかりやすい子どもの成長の指標だと言えるでしょう。
でも実は、読み書きの学習をする前に、まずさまざまな語彙を獲得することの方が重要なのです。なぜ「ひらがな」を書くよりも語彙の獲得が重要なのか、幼児・児童教育の専門家である野瀨愛未先生にお話をうかがいました。
お話/野瀨愛未先生(一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会 理事・上級インストラクター)
「ひらがな」の学習を支える語彙獲得
4歳ころになると、幼児は言葉の音について意識的に考えるようになります。例えば「しりとり」の最後の音は「り」だと気づくようになると、「りんご」「りす」「りぼん」の最初の音が同じで、その音に対して文字があるとわかるようになるのです。こうして小学校入学前に多くの幼児は、自然と、ひらがなの読み書きができるようになります。
言葉の音に対する気づきは、言葉の獲得が前提です。「りんご」「りす」「りぼん」の言葉を知らなければ、最初の音が同じであることには気づきようがありません。4歳ころに言葉の音について意識的に考えることができるようになるのは、そのころに幼児が語彙をたくさん獲得し、それぞれの言葉の共通性に気づきはじめるからです。このように、語彙の獲得は、ひらがなの読み書きを支えています。
国語だけでなく、あらゆる教科や様々な場面で求められる“語彙獲得”
小学校入学後、新しい言葉の習得はすべての教科の学習で必要となります。国語の教科書で出てくる新しい漢字や熟語、算数では「一辺」「直角二等辺三角形」「半径」などといった図形をはじめとする専門用語など、それぞれの教科でしか使わない言葉がたくさんあります。また、教科以外にも学校生活の中や「入場門」「退場門」「校歌斉唱」など、運動会や入学式のような特定の場面でしか耳にしないような言葉もあります。
子どもたちは、様々な場面や状況で新しい語彙獲得が求められるのです。
語彙力と教科学習の関係
新しい言葉を覚えることが苦手であったり、知っている語彙が少なかったりすると、文字は読めても意味がわかりません。また、単に言葉を覚えることが苦手、語彙が少ないというだけではなく、ひらがな・カタカナや漢字の書き、読解問題、算数の文章題など様々な場面での困難やつまずきにつながるおそれがあります。
例えば、4年生の算数で次のような文章問題に出会ったとします。
「1辺が10cmの正方形と面積の等しい長方形を描きます。その長方形の横の長さを20cmにすると、たての長さは何cmにすればよいでしょうか。」
このような問題は「1辺」「正方形」「長方形」などの専門用語だけでなく、「等しい」という言葉の意味が分からないと問題が解けません。つまり、算数の知識に加えて一般的な語彙力がないと、国語だけでなく算数や他の科目においても何を問われているのか理解できず、的外れな解答になってしまうのです。
加速する語彙獲得 ー「聞く・話す」から「読む・書く」へー
一般的に、小学校入学前の子どもは耳で聞いた音声から、直接新しい言葉を学習し、言葉を増やしていきます。語彙を習得する元となるのは親やお友だち、周りの人とのコミュニケーションや、絵本の読み聞かせ、テレビ等のメディアの視聴などです。
しかし、小学校入学後、子どもは正式に文字の読み書きを学習し、文章を読むことで新しい言葉、語彙を増やしていきます。実は、子どもは小学校入学前後で言葉の獲得手法が変化しており、就学後は、「読む・書く」ことによって更に言葉の獲得速度が増すのです。
語彙習得と「ワーキングメモリ」
新しい言葉の習得においては、「ワーキングメモリ(Working Memory)」という脳の働きが重要な役割を果たしています。新しい言葉の習得において、「声や文字などの音声情報を正確に覚えながら聞きとり、読み上げた音声をしばらく頭の中で覚えておいて、同じ音声で真似できる」、このシンプルな行為(リハーサル)によって、新しい言葉の学習を行っているのです。
幼児期の子どもは、耳で聞いた音声から直接言葉を習得します。その際、音声はいったん「ワーキングメモリ」に保持されます。さらに、児童期の子どもが小学校入学後正式に文字を学習し文章を読むことで新しい言葉、語彙を増やす場面でも「ワーキングメモリ」が機能し、音声を正確に「ワーキングメモリ」に保持することでその情報は長期記憶に送られ、子どもの語彙の一部となります。この行為がくり返されることによって、子どもは語彙の数を増やしていくことができるのです。
今日からお家でできる言葉を増やす関わり
「ワーキングメモリ」の容量には個人差があるため、子どもによっては新しい言葉の習得がうまくいかない場合もあります。
しかし、親子のコミュニケーションや周りの大人との関わり、「言葉に関する活動」などを通して、言葉の知識を増やすことで「ワーキングメモリ」の力の発達を促すことができます。ここで言う「言葉に関する活動」とは、例えば『しりとり』や『かるた遊び』などで言葉に触れる機会を増やして新しい言葉を覚えたり、ひらがなの音を意識的に聞いて真似したりするような取り組みです。
『かるた遊び』は、遊びの中で楽しくひらがなに触れ、語彙を増やすことができます。それ以外にも、言葉やひらがなを習得する際に必要な「聞く力」「見分ける力=比較し、違いを見つけ、判断する力」なども身につけることができるのです。ぜひ親子や周りの大人とのコミュニケーションをはじめとした、言葉に関する活動を通して、小学校入学後、すべての学習の基盤となる「語彙」を増やしていきましょう。
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この記事の監修・執筆者
株式会社インフィニットマインド/同協会代表理事で広島大学大学院教授の湯澤正通先生が開発した「アセスメントHUCRoW」の分析レポートを国内で唯一担当し、その分析を通して「子供の個性」を見出す活動に従事している。現在、「ことばパーク」のカリキュラム制作にも携わる。
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