これまで問題なかったように見えていても、高学年になって「集団でうまく過ごせない」「学習についていけなくなった」「友達の間で浮いている」などの様子が表れている場合、発達障害が関係しているかもしれません。「ひとまず様子を見よう」と考える保護者は多いかもしれませが、発達の特性が背景にある場合は、今すぐにでも支援や理解が必要です。適切に対応することで、その後の生活や学び方を大きく変えることができるでしょう。
今回は、多くの子どもの診療経験から子どもの抱えるさまざまな病気・障害・問題に詳しい小児科医の森博子先生に、高学年になってわかる発達障害の特徴と、その対処法を伺いました。
取材・文/細川麻衣子
発達障害とは?
発達障害とは、脳のある部分が未発達だったり、うまくはたらかなかったりすることで起こるさまざまな状態のことをいいます。
発達障害の代表的なタイプは以下の3つです。
1)注意欠陥多動性障害/ADHD の特性
常に動き回っていたり、順番を待てないなどの“多動性”、突然走り出したり、カッとなって感情がコントロールしづらいなどの“衝動性”、そして集中することが苦手であったり、ケアレスミスや忘れ物の多さが目立つ“不注意”。この症状から、生活に困難が生じる。
2)自閉スペクトラム症/ASDの特性
こだわりが強く、興味・関心の対象が非常に限定的である。周囲が目に入らなくなるほど集中することがある。また、相手の気持ちや意図をくみとることが難しく、対人関係やコミュニケーションが必要な場面で困難が生じる。特定の光や音など、感覚刺激への偏った反応(視覚や聴覚、味覚や嗅覚・触覚の過敏性・鈍麻性)があることも。
3) 学習障害/LDの特性
[聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する、能力]このうちのどれか1つ、もしくは複数の領域において、学習に困難が生じる症状がある。知的な遅れや、視覚・聴覚の障害ではなく、学習における面のみでの困難である場合に限る。

大きくこの3種類にわけられてはいますが、実際には子どもによって発達障害の特性はさまざまです。
上記の発達障害の特性が少しずつ併せて見られる子どもが多く、性別では3(男):1(女)くらいの割合だといわれています。
小5・6で気づく発達障害の症状・特徴は?
自分のことで精いっぱいだった低学年――、“自分は人からどう見られているか”という部分に目を向けられるようになって視野が広がる中学年――、そしてこれを経た高学年は、❝自立と反抗❞が同時に始まります。
いわゆる思春期の入り口(第二次反抗期:11才~17才頃)、というとても繊細な時期です。
そんな5・6年生は、学校生活で求められる力が一気に上がります。
授業は抽象的で複雑になり、先生の話を聞きながらノートを取り、考えをまとめて発表するなど、同時にいくつものことを処理する力が必要になります。
そしてなにより人間関係の難しさも増してきます。仲間意識が強くなり、グループ行動や友達関係の中でのコミュニケーション力=「空気を読む力」や「距離感の調整」が必要になります。
それまでなんとか頑張っていた子が、5・6年生になって❝つまずく❞のです。
その一例がこちらです。
【学習面】
・算数の文章題や図形の応用問題で混乱してしまう
・漢字の難度が上がり、簡単なものは書けても画数の多い複雑な漢字などに苦労する
・指示を一度で理解できない
・ノートをまとめるのが苦手で提出が遅れる など
高学年になると、どの教科も難度が増します。それに伴ってこれまでは❝なんとかついてきていた❞という子が、その難しさについていけなくなるのです。
LD(学習障害)傾向のお子さんにとっては、苦手が顕著に表れ始めます。
これはウィスク※でいう「ワーキングメモリー」や「処理速度」に凹凸があり、影響している場合もあります。
※:ウィスク/ウェクスラー式知能検査のこと。最新版にWISC-Ⅴ(ウィスク5)があるが、現在日本ではWISC-Ⅳ(ウィスク4)を用いる場合が主流。5歳0か月~16歳11か月の児童や生徒の知能を測定する臨床検査の呼称であり、この検査では知的能力や記憶・処理能力をはかることができるため、発達障害の診断やサポートに活用されている。世界各地で使用されている。
【生活面】
・グループ学習や係活動などでコミュニケーションがとれない
・大勢の前での発表は極端に緊張する
・時間が守れないことが続く
・任された役割を忘れてしまって果たせない
・相手の気持ちを読み取るのが苦手でトラブルになる
・冗談が通じず空回りしてしまう など
低学年のうちは「まだ小さいから仕方ない」と周囲が受け止めてくれていたことが、「もう高学年なのに」と、責められることが増えて判明することがあります。
ASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子どもにとっては、空気が読めない行動や言動が、悪気が無くても誤解されやすい行動として目立ち始めるのです。
ADHD(注意欠如・多動症)の傾向がある子どもにとっては、時間を守れない・忘れ物が多い……といった特性による困難が目立ってきますが、これを「ただの努力不足」と誤解されやすいことも。
女子では、行動が幼く見えたり、空気を読まずに話しかけたりして“困ったちゃん”扱いされることもあり、友達トラブルにつながりやすい傾向があります。
男子では、自信のなさを隠すために強気にふるまったり、他の子をからかったりするケースがあります。
≪関連記事≫【たたく殴る❝手が出る子❞】対人トラブルを起こしてしまう「他害」の原因・背景と、その子どもへの寄り添い方[小児科専門医監修]
思春期の感情の揺れは脳とホルモンが関係
学習面・生活面ともに、特性によって困難が生じてくるのですが、そんな高学年で見えてくる発達特性は大きく二つに分かれます。
ひとつは「低学年からの苦手の積み重ねが表面化するタイプ」、
もうひとつは「高学年になり課題のハードルが上がったことで初めて困りごとが出るタイプ」です。
これまで「うちの子はマイペースなだけ」と思っていた保護者も、5・6年生で改めて特性に気づくことは少なくありません。
このようにさまざまな要素が重なり、子どもが反抗的な態度になったりすることが増えてくる時期でもあります。これもまた、保護者にとって悩みのひとつとなる事と思います。
ただ、思春期の感情の揺れや反抗的な態度は“性格”ではなく、“脳とホルモンの発達による自然な反応”です。
この時期の脳はまだ未成熟で、「感情を司る扁桃体」が先に活性化し、「理性を司る前頭前野」の発達が追いつかない構造になっていること、そして性ホルモンの急激な変化も加わることで、自分でも感情をコントロールしづらくなるのです。
そのため、大人が“性格の問題”と決めつけるのではなく、発達のプロセスとして理解し、見守ることが大切です。
さまざまな角度から子どもの様子をしっかりと見て、何かに困って悩んでいないか? よく注視するようにしましょう。
高学年で気をつけたい二次障害(二次的な問題)
何か特性があってもこれまで適切な支援や理解を得てこなかった場合、そういう子は「どうせ自分はできない」「また怒られる」と自己否定が重なっています。さらに「もう6年生なんだから」「中学生になる準備を」といった周囲からの言葉に、大きなプレッシャーを感じて精神的にも追いつめられてしまいます。
叱られ続けるうちに、自己肯定感がどんどん下がり、それとともに「嘘をつく」「暴言を吐く」「物にあたる」といった問題行動が見られるようになることもあります。
しかし、これらの問題行動の背景には、「怒られたくない」「自分を守りたい」という防衛反応が隠れていることが多いのです。
また、進路に関する不安もこの時期特有のものです。「中学でついていけるだろうか」「支援級を検討すべき?」と悩む保護者は多く、子ども自身も「自分は他の子と違うのかも……」と感じ始めます。しかし小学校の特別支援学級や通級指導教室への抵抗感から、親子でギリギリまで支援に頼らず自力で頑張ってしまうケースも多々あります。
この❝頑張りすぎ❞が二次障害(うつ、不安、引きこもり、攻撃的な言動など)につながることもあるため、周囲の早い気づきとサポートが何より大切です。
さらに❝親子関係のすれ違い❞によって起こる二次障害もあります。発達特性のあるお子さんは、親の愛情を受け取る力が弱く、「応援してるよ」「がんばってほしい」と伝えたつもりが「できてないってことだよね?」と伝わってしまうことがあります。
こうしたすれ違いが積み重なると、「どうせわかってもらえない」「信じてもらえない」と思うようになり、反抗的な態度や無視、暴言など“拒否反応”として現れることも。
けれどそれは「親なんていらない」ではなく、「本当はわかってほしい」「信じてほしい」という“声にならないSOS”です。思春期であっても、安心できる環境があれば子どもは必ず素直になれます。
だからこそ、「今までの関わり方を見直して、あらためて関係を育て直す」という視点がとても大切です。親子関係は、一度こじれてしまっても“もう一度つくり直す”ことができます。焦らず、一歩ずつ信頼を積み重ねていきましょう。
≪関連記事≫【字が書けない⁉】学習障害(LD)ってなんだろう[専門家監修]
高学年で気づけた「今」がチャンス
5・6年生で発達障害に気づいたというと、「遅すぎた…」「もっと早くわかっていれば!」と感じる保護者の方も多いことと思います。しかし、今気づいたということは、高学年になったからこそ見えてきた課題=決して気づくのが遅かったのではなく、脳が育ってきたからこそ、今、見えるようになったのです。
今気づけたということは、今がスタート地点。「もっと早く気づけば…」ではなく、「気づけた今がちょうどよかった」と思えるような支援の第一歩を、ここから始められるとよいでしょう。
実は中学生以降になると、こういった発達障害関連の相談先は今よりぐっと少なくなります。
児童精神科や行政の相談窓口は❝中学生まで❞ということが多く、高校生になると、子ども本人の意思がなければ(精神科など)受診・支援につながりにくくなります。「頑張ったら通常の学級でついていけるからまだ何とかなる!」などと思っているうちに、サポートの手が届きにくくなってしまうのです。
実際に私のもとへ相談に来られた、ある高2年生(男子)のご家庭の例です。
小さい頃から定期健診や学校の相談窓口などで、何度も発達の相談をしては「様子見」という判断で、決定的な支援にはつながらなかったそうです。小学校高学年では暴言などでスクールカウンセラーへ相談。中学校では学習面での困りごとが出て、塾や家庭教師で何とか対応。そして高校生になって、昼夜逆転し不登校に……。しかしこの時点ではもう、児童精神科や行政の相談窓口では対応してもらえず、行くなら大人と同じ精神科ということに。本人が行く気にならないので、どこに相談すればよいか……と途方に暮れたそうです。(現在はカウンセリングのもと、通信制の高校に転校し、落ち着いて過ごせるようになりました)。
ですので、小学校高学年で気づけたなら、そのときこそ専門家や学校と連携しながら支援を始めるチャンスなのです。
発達障害は「治す」ものではなく、「理解して工夫していく」もの。苦手を補う環境を整えてあげられれば、得意を生かす方向に伸ばすことができます。
そして何より大切なのは、「あなたはこんなところが得意だね」「こういうときに困りやすいんだね」と、少しずつ本人の特性を直接伝えていくことが、将来の自信につながります。
保護者の「あなたのこういうところが素敵だと思うよ」という一言が、子どもにとって自己肯定感を支える大きな力になります。
発達の特性に気づくことは、子どもの可能性を狭めることではなく、これからの成長を支える“新しいスタートライン”です。5・6年生での気づきは、これからの中学・高校生活、そしてその先の人生を豊かにするための、希望のサインなのです。
この記事の監修・執筆者
2010年熊本大学大学院医学教育部卒業。新生児集中治療室(NICU)での大学病院等勤務を経て、22年に発達診断専門の「親子のミカタオンラインクリニック」を開院。全国の親子から発達相談を受ける。自身も、注意欠陥多動性障害(ADHD)の長男と、グレーゾーンの次男を育てる。医療者であり、発達障害児を育てる当事者でもある視点から、子育てのリアルな悩みに寄り添う。
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