【子どもを性被害から守る】「わいせつ教員対策新法」ってどんな法律?

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【子どもを性被害から守る】「わいせつ教員対策新法」ってどんな法律?

第204回国会において、議員立法として「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(令和3年法律第57号)が衆参両院の全会一致により成立し、令和3年6月4日に公布されました。一部の規定を除き、令和4年4月1日から施行されています。

どんな法律かご存じでしょうか?

文/マムズラボ

目次

子どもを守る「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」

「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(教育職員性暴力等防止法・わいせつ教員対策新法)は、児童生徒等の尊厳を保持するため、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を推進し、児童生徒等の権利利益の擁護に資することを目的としています。

この法律では、「児童生徒性暴力等」などの定義を定めているほか、次のことが規定されています。

・児童生徒性暴力等の禁止
・基本理念(学校の内外を問わず教育職員等による児童生徒性暴力等の根絶等)
・児童生徒性暴力等の防止・早期発見・対処に関する措置(データベースの整備等)
・特定免許状失効者等に対する免許法の特例、など

また、文部科学省は、法に定められた施策を総合的かつ効果的に推進するため、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」を策定し、さらに関係省令の整備を行っています。

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教育現場、子どもを取り巻く環境における性暴力の実態

文部科学省によると、2020年度に児童生徒への性犯罪・性暴力(わいせつ行為)やセクハラで、処分を受けた全国の公立小中高校と特別支援学校、幼稚園の教職員は、201人でした。処分数は、2013年度以降200人から減ることなく推移しています。
※1

教員による児童生徒への性暴力は、教職員といった子どもたちに対し優越的な立場にある大人が、職務上の立場を利用して、わいせつ行為を行うものです。なかには何をされているのかさえわからず、ただ恐怖に固まり、性暴力の被害者になってしまう子どももいます。これらは決して許されない卑劣な行為です。

では、どのような状況下で犯罪は起きているのでしょうか。実際にあった事件を紹介します。

事件1
自宅において、令和3年4月3日午後2時頃から同月24日午後2時40分頃までの間に、 勤務校において、同校生徒と二人きりの状況等で、同生徒を抱きしめる及び同生徒の頬に複 数回キスを行うとともに同生徒に嫌悪感を与えるなどの行為を行うなどした。
※2

事件2
令和2年10月中旬頃から同年12月上旬頃までの間の日の午後3時30分頃、勤務校において、当時同校児童が13歳未満の者であることを知りながら、同児童にわいせつな行為をしようと考え、同児童に対して、両手で同児童の胸を触るなどの行為を行った。
※2

事件3
男子中学生に対し、わいせつな画像を自撮りさせ、自身のスマートフォンに送信させたとして児童買春・児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕された。また、自家用車内において、わいせつな行為をし、強制性交等容疑で再逮捕された。
※3

法改正以前の問題点、改正後も残る課題

平成27年度版「犯罪白書」によると、小児わいせつで罪が確定した前科2犯以上の加害者のうち、8割以上が過去にも小児わいせつ事件を起こしていたことも報告されています。小児性犯罪の再犯率の高さを、数字が裏付けています。
※4

小児性犯罪を繰り返させないため、また大切な子どもたちを守るため、国も対策に取り組んでいます。この度の新法施行以降、教師がわいせつ行為で教員免許を失効した場合、その処分履歴がデータベース化される予定です。また、データベース化までの移行期間の対策も含め、官報に公告された過去40年間分の免許状失効情報を検索することができる「官報情報検索ツール」もあります。採用者側である教育委員会は、こうした国の情報ツールと並行してデータベースを活用し、採用や教員免許の再交付などの際、より慎重に判断できるようになります。

しかし、この制度が適用されるのは教育職員等に限られ、保育などの現場では適用されません。さらに抜け道もあります。政府関係者によると、2017年に15年前の教員時代にわいせつ行為をして懲戒処分を受けていた男が、再び同じ市町村の児童相談所の非常勤職員となり、わいせつ行為をして逮捕された事案が発生しました。

現在の制度ではこうした事案がさらに起きる可能性があります。法改正による対応は、まだまだ不十分だといわざるをえません。

子どもを守るための具体的な取り組み

令和2年9月、すべての都道府県・指定都市教育委員会の懲戒処分基準において、児童生徒等に対して性暴力等に及んだ教員に対し、原則として懲戒免職とする旨の規定が整備されました。

また、文部科学省は教員による性暴力等の防止のために必要となる取組について、次のようなことを通知に明記し、各教育委員会に対応を求めています。

・児童生徒とSNS等による私的なやりとりをしてはならないことの明確化
・執務環境の見直しによる密室状態の回避等の予防的な取組等の強化
・採用希望者の経歴等を十分に確認
(※文部科学省において、新たに共通的に利用できる採用関係書類の様式例を作成)し、適切な採用判断を行うこと

我が子を性被害から守るために

「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」施行によって、一定の効果は見込めるでしょう。

しかし、これらは、学校で子どもと関わる事務職などの幅広い職種をはじめ、保育士、医師など文科省所管以外の資格、またベビーシッターや塾講師、スポーツインストラクターといった法定資格を必要としない職種、活動などはカバーできていないのが現実です。

※5

子どもを守るため、今後さらにきめ細かい法律の制定、縦割り行政による抜け道をつく
らない、などの問題を解決するよう、注視していかなければなりません。

筆者は一人の親として、我が子に日常の暮らしの中で気をつけるべきことばや相手、子ども自身が性犯罪に巻き込まれないように教えていくことが大切だと思いました。
さらに、周囲の環境や、子どものちょっとした変化にも敏感に気づくことができるよう、日々のコミュニケーションを大切にしようと思いました。

<出典・参考資料>
※1 文科省 令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)
https://www.mext.go.jp/content/20221222-mxt-syoto01-000019570_00.pdf

※2 東京都教育委員会 教職員の服務
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/staff/personnel/duties/infringement.html

※3 千葉県教育委員会 わいせつな行為の根絶に向けて-教職員一人一人の自覚にかかっています-
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/syokuin/kanri/documents/waiseunakouinokonzetu.pdf

※4 法務省調査 平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第5節/3
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/n62_2_6_4_5_3.html

※5 栃木県県民生活部くらし安全安心生活・交通安全担当 リーフレット
https://www.pref.tochigi.lg.jp/c03/kouhou/documents/p01_04.pdf

この記事の監修・執筆者

弁護士 上谷さくら

青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。殺人、性犯罪、交通事故等の被害者支援が専門。熊谷6名連続殺害事件、東池袋暴走死傷事故、軽井沢スキーバス転落事故等の被害者代理人など。法務省性犯罪に関する刑事法検討会委員。保護司。テレビ西日本報道番組「記者のチカラ」コメンテーター。著書『おとめ六法』(共著、KADOKAWA)、『おひとりさまの心配ごと、すべて解決してください!』(Gakken)など

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