外出の機会が増え、「きちんとしてもらいたい」場面も増える夏休み。「まだ子どもだから」とその場にふさわしいマナーを教えずにいると、保護者の方が恥ずかしい思いをすることも出てきます。親戚や友人宅を訪ねる際や公共交通機関を利用する時のマナーなど、子ども向けのマナー講座を開催するキャリア・ジョセフィーヌ代表の関 優子さんに伺いました。
取材・文/FUTAKO企画
マナーで身につく力とは?
マナーというのは、「まわりの人と気持ちよく過ごすための、思いやりの形」です。小学校低学年の子どもにとって、完璧な作法を身につけることよりも前に大切なのは、「自分の行動が相手にどう伝わるのか」を知ること。
例えば、「大きな声を出すと、近くの人がびっくりしたりうるさく感じたりするものだ」とか、「勝手に人のものを触ると、相手に不快感を与えるものだ」とか、「ありがとうと言われると、相手はうれしい気持ちになる」とか。
こうした自分の言動による他人への伝わり方を知り、お互いに気持ちよく過ごせるよう思いを向けることがとても大切です。そうした小さな積み重ねが、人を思いやる心を育てていくのだと私は思います。
まず大前提として、マナーは「子どもを縛るためのルール」ではないということをお伝えしたいです。マナーとは「社会の中で、子どもが安心して人と関わっていくための力」だということを知ってもらいたいですね。
「お宅訪問」でのマナー

夏休みには友だちのお宅や、親戚宅などを訪問する機会も増えるでしょう。お子さんが人のお宅に伺うときには、まずは「自分の家とは違うところだよ」と伝え、意識して行動するよう促すことが大切です。 事前に下記の項目を理解できているか、お子さんに確認してみましょう。
人の家を訪問する際のマナー
①「こんにちは」「こんばんは」など、家の人にあいさつをする
②「おじゃまします」と言って家に上がる
③玄関で靴を脱いだら、手で靴の向きを揃え、玄関にかかと側が来るようにする
④裸足のまま家に上がらない(素足にサンダルの日は、靴下を持参)
⑤冷蔵庫や戸棚などを勝手に開けない
⑥案内された部屋以外には入らない
⑦トイレを使いたいときは「借りていいですか?」と家の人に聞く
⑧おもちゃ・ゲームなど家にある物は使っていいか確認する
⑨ソファやベッドで、飛び跳ねたり、寝転んだりしない
⑩自分の家や他の家と広さや新しさを比べない
⑪使った物や借りた物はお礼を言って返す
⑫帰るときに「おじゃましました」「さようなら」と家の人にあいさつをして帰る
あいさつは「経験」を通して身につく
まず大切なのは、やはりあいさつです。
玄関先では、「こんにちは」「おじゃまします」、おやつや食事のときには「いただきます」「ごちそうさまでした」、帰るときには「おじゃましました」。
相手に聞こえるように大きな声で言えるようにしたいものです。
ただし、あいさつの文言をただ口にしただけでは、「本当のあいさつ」とは言えません。新入社員研修などで大人の方にもお伝えしていることですが、形だけあいさつをするのではなく、気持ちをこめてあいさつの言葉を発することが大切なのです。
あいさつとは「あなたの家に迎えてくれて、ありがとう」とか、「楽しい時間を過ごさせてくれて、ありがとう」という気持ちを込めてするべきもの。小さくても、そうした「あいさつの意味」を知ったうえで言葉を発してほしいなと思います。
また、年齢の低い子どもの場合、緊張して声が出ないこともありますよね。
そんなときには「ちゃんとしなさい」とか、「はっきり言いなさい」などと強く責め立てるよりも、親が先にあいさつをして、見本を示すことが大切です。
私の息子も人見知りが激しいタイプなので、まず初めにお手本として私が明るくあいさつをして息子に見せるようにしていました。
こうして、「一緒にやってみようね」「帰るときにありがとうって言えたら、素敵だよね」などと声をかけて、少しずつ声に出す経験を積み重ねていくと、自然にあいさつが身についていきます。
細かいところで言うと、「靴を揃える」ということも、訪問時のマナーとして大切だと思います。子どもたちに教えるときには、単に見た目を整えなさいと伝えるのではなく、「玄関という共有の場所を、次に使う人が気持ちよく使えるようにするための配慮」だということを教えています。
ただ「靴を揃えなさい」と言うだけでは、そうすべき意味を理解できないままですが、「次に入ってくる人が通りやすいように靴を揃えようね」と理由を添えてあげると、納得がいくので行動として定着しやすくなるのです。
声かけは「出かける前」が効果的
年齢が低いほど、子どもは、悪気がなくても興味のままに動いてしまうことがあります。例えば、人の家の冷蔵庫を勝手に開けたり、案内されてない部屋に勝手に入ってしまったり、ソファやベッドで飛び跳ねたりするのも、「楽しい」とか「気になる」という気持ちから出る行動だと思います。
ですが、訪問先というのは、相手の大切な暮らしの場。
だからこそ、出かける前に「今日は○○さんの家に行くよ。そこで使いたいものがあったら、必ず家の人に聞こうね」とあらかじめ教えておくことが大切です。
キッチンやトイレといった場所も、人の家では勝手に使っては失礼にあたります。「勝手に他の場所に行かないで、案内されたところで過ごそうね」「トイレに行きたくなったら家の人に聞こうね」と、出かける前に言っておくとよいですね。
子どもはその場で注意されることよりも、「訪問先ではこうするとよい」と、わかっているほうが安心して行動できるので、事前の声かけがとても大切です。 そして、「使ってもいいですか?」「トイレを借りてもいいですか?」「見てもいいですか?」という一言で、相手に与える印象は大きく変わるものです。
マナーで「相手を大切にする心」が育つ
何気ない言葉についても注意しておきたいものです。例えば、出された食べ物が苦手だったときに、「私これ嫌い」と言ったり、人の家を見て、「うちのほうが広い」「古い家だね」などと言ってしまったり。そういうことを言うお子さんは、悪気なく発言しているのだと思います。
でも、それが相手を傷つけたり不快感を与えたりしてしまうこともあることを、お子さんに理解させておくことが大切です。
例えば、ちょっと苦手な食べ物が出たときには、(アレルギーがある場合以外は)少し頑張って食べてみる。どうしても食べられない場合は、「ごめんなさい。 少し苦手です」と正直に言うなど、相手への感謝を忘れない伝え方を保護者の方が教えてあげるとよいと思います。
人の家でのマナーは、単に同じ場所で過ごすだけではなく、「相手の大切な空間に入らせていただいている」という感覚を育てること。そして、何か失礼があったときにはただ叱りつけるのではなく、親子で正しい言動を一緒に実践していくことが、マナーを身につけるうえで大切なことです。
食事のマナー

訪問先や外出先などで、特に気になるのは食事の際のマナー。家庭での毎日の様子が表れやすいところでもあります。下記の項目について、お子さんができているか確認してみましょう。
食事の際のマナー
⑬食前・食後に「いただきます」「ごちそうさま」をきちんと言える
⑭箸・スプーン・フォークを正しく使うことができる
⑮NGな箸の使い方をしない(くわえ箸・突き箸・寄せ箸・迷い箸・探り箸・指し箸・拾い箸など)
⑯姿勢よく座って食べる
⑰食べ物を口に入れたら、口を閉じて食べる
⑱口に食べ物を入れたまま話をしない
⑲茶碗は手に持って食べる
⑳立ち歩かずに食べる
㉑食器の音を立てない、乱暴に扱わない
食事のマナーは「一緒に食事をする人への配慮」
食事の際のマナーは、家庭での教えが特に表れやすいものです。
お箸の持ち方、食べる姿勢、口に食べ物を入れたまま話さないことや、食器をガチャガチャと乱暴に扱わないこと、食い散らかしなど、気になりだすとキリがないですよね。
ただ、最初から完璧を求める必要はないと私は思います。大切なのは、「食事を作ってくれた人、一緒に食べる人がいる、満たされた時間である」と伝えることです。そうして、食事の前後のあいさつの大切さを理解させることも必要だと思っています。
これもマナー講座でお話しすることなのですが、「いただきます」と言うのはなぜかというと、「食材や自然の恵みをいただくことへの感謝」「作ってくれた人への感謝」を伝えるためなんですね。そして、「ごちそうさま」は、「食事を用意してくれた人への感謝」を伝える言葉ですね。
「ごちそうさま」の「ちそう(馳走)」とは、その昔、馬に乗って命懸けで食材を集めた「もてなし」への感謝に由来するもの。
こうした言葉の意味を理解して毎日大切に口に出していると、訪問先や外出先でも自然に出やすくなります。
それから、食べるときの姿勢も大切です。なぜ正しい姿勢が大事かというと、見た目の問題だけでなく、姿勢がいいと消化がよくなるからです。そして、椅子に深く座るとか、足をブラブラさせないとか、テーブルに肘をつかないとか、食器に顔を近づけないなどの「所作」は、一緒に食事をする人に不快感を与えないための配慮だと理解させることが大切だと思います。
「1つずつ」「前向きな言葉」で伝える
お子さんに食事のマナーを教えるときの伝え方についても、少し意識してみるといいと思います。
「みっともないから、やめなさい」ではなくて、「背中を伸ばすときれいに見えるよ」とか、「足を止めて静かにしていると、隣の人も落ち着いて食べられるよ」というように、保護者の方が前向きな言葉に変えて伝えられるとよいでしょう。
日本では、箸の作法として「やってはいけない決まり事」がいろいろあります。 箸をくわえて他のことをする「くわえ箸」、食べ物に突き刺して口に運ぶ「突き箸」、箸で食器を引き寄せる「寄せ箸」、箸を持ったまま人を指す「指し箸」など、大人でもうっかりやってしまうこともあります。 しかしながら、マナーに反する所作とはいえ食事中に何度も繰り返し注意されると、子どもにとって食卓が苦痛になってしまうこともあるのです。
ですから、食事の場では「一度にたくさん注意する」のではなく、「今日は箸で人を指さないようにしようね」とか、「食べ物を口に入れたら、口を閉じて噛もうね」とか、1つずつ練習していくことが重要です。「口が空っぽになってから話そうね」など、子どもにわかりやすい言い方で伝えることも大切なことだと思います。
また、外出先でのお店の方への態度も、大切な学びになります。
お店には、注文を取ってくれる人、作ってくださる人、料理を運んでくれる人、それから片付けてくれる人もいます。外出先の食事というのは、たくさんの人の働きによって成り立っていることを、保護者の方がきちんと教えることも大事です。
料理が届いたとき、水を注いでもらったときに「ありがとう」を言う、食べ終わって席を立つときにテーブルの上の食器を少し整える、食事中は大きな声を出さないなど、大人の姿を見て子どももお店での対応を覚えます。こうしたことも、大切な学びの機会だと思います。
さらに、食べ物の好き嫌いですが、誰にでもやはり苦手なものはあると思います。そういうときは、「苦手でも全部食べなければだめ」と子どもを追い詰めるよりも、最初から「少なめに盛りつけて少しでも食べられるように誘う」「食べ方を自分で考えさせる」など、子どもが自分の適量を知る経験につなげることが大切なのではないかと思います。
食事のマナーは、家庭での毎日の積み重ねがそのまま出ます。だからこそ、特別な日だけきちんとしようとするのではなくて、普段の食事の場で実践することが大事です。
「きれいに食べると、気持ちがいいね」など、前向きな言葉をかけながら、お子さんの将来につながるマナーを教えてあげてほしいですね。
公共交通機関でのマナー

夏休みは旅行や帰省など、移動の際に電車や飛行機等の公共交通機関を利用する機会も増えると思います。まわりの人に迷惑をかけることがないよう、下記項目についてもチェックしておきましょう。
電車に乗るときのマナー
㉒ホームでは黄色い線の内側に、順番に並んで待つ
㉓降りる人が全員降りてから乗る
㉔車内では大きな声を出さない
㉕車内でスマホ・ゲームなどの音を出さない
㉖座席付近で動き回らない
㉗シートを勝手に倒さない
㉘荷物が人のじゃまにならないようにする
㉙床に座らない
㉚ゴミを捨てない
㉛エスカレーターでは歩かずに手すりにつかまる
㉜エスカレーターの乗り降りのときに遊ばない
㉝階段や通路で急に立ち止まらない
㉞通路では横に広がって歩かない
㉟スマホ・ゲームなどをしながらの「ながら歩き」をしない
㊱スーツケースを持って移動するときに遊ばない
飛行機の中でのマナー
㊲前の座席を押したり蹴ったりしない
㊳テーブルを乱暴に出し入れしない
㊴シートベルトのサインがついているときは立ち歩かない
㊵通路で立ち止まらない
「他者と同じ空間を過ごすための知恵」として伝える
子どもは楽しくなると、つい声が大きくなってしまったり、あちこち動き回ったりしてしまいますが、まわりで座っている多くの人にとっては、公共交通機関での移動時間はやはり静かに過ごしたい時間に当たります。
そうしたとき、「静かにしなさい」と怒るよりは、「電車の中では、近くの人に聞こえるくらいの小さな声で話そうね」「ここでは走らずに座って過ごそうね」などと、具体的に伝えるとよいでしょう。
また、通路や混んでいる車内で荷物をブラブラさせたりしていると、人の迷惑になったり、危険な目に遭ったりすることもあります。「荷物は自分の体の一部分だと思って離さずにきちんと持つ」と伝えると、お子さんにもわかりやすいと思います。
階段やエスカレーターでの歩き方も重要です。先に挙げた項目ですが、これらはマナーであると同時に、安全を守るための大切な行動ですよね。
「後ろの人も歩いてるから、急に止まるとぶつかっちゃうんだよ」「エスカレーターは、遊ぶ場所じゃなくて、移動するための場所なんだよ」など、理由も一緒に伝えることで、理解しやすくなると思います。
飛行機の中での行動も、要注意。私もCA時代に経験していますが、お子さんが退屈だからと前の座席を蹴ってしまってクレームにつながることは、本当によくあります。これは、保護者の方が気づかないうちにしてしまいやすい行動なんですね。
だからこそ、出発の前に「前の席には別の人が座っているから、足が当たらないようにしようね」と伝えておくだけで、お子さんの意識が違ってきます。
そして、長時間の移動になった場合は子どもが退屈してしまうことが往々にあるので、静かに楽しめる本や折り紙など音の出ない遊びを事前に用意しておくのは、親側の準備として必要不可欠だと思います。
公共交通機関でのマナーというのは、「周囲に迷惑をかけない」ということだけではなく、「自分とまわりの人が同じ空間を気持ちよく過ごすための知恵」だと思います。お子さんがそれを理解し始めると、保護者の方のストレスも軽減し、親子での外出そのものがとても楽しい時間になります。
マナーは、一度言えばすぐ身につくものでもありません。何度も伝えて、何度もお手本を見せて、そしてできたときにきちんと認めてほめることが大事です。そうやって、少しずつお子さんの意識の中に根づいていくものだと思います。
最後に~どうすればマナーが身につくか
夏休みにいつもと違う場所に出かけるとなると、保護者の方も先回りして、「あれもこれも言っておかないと」という感じになりがちですよね。
ただし、一度では伝えることも身につけることも難しいもの。繰り返しやることが大事です。一度にたくさんのことを言いすぎる保護者の方もいらっしゃいますが、それだとお子さんを消化不良にしてしまい、うまくいかないことが多いのです。
大切なのは、まず最初に大人がお手本を見せることだと思います。
子どもは、大人が言ったこと以上に、大人がしていることをよく見ているものです。周囲への思いやりを持って行動する親の姿というのは、子どもにとって何よりの教材になると思います。
夏休みは、体験を通して「社会で生きるうえでのマナー」をお子さんに教えられるせっかくの機会ですので、まずは1つ、これはというテーマを決めて、実践してみるとよいですね。
この記事の監修・執筆者
株式会社キャリア・ジョセフィーヌ代表。元JAL国際線ファーストクラス客室乗務員。
一流の接遇の現場で培った経験をもとに、子どもたちが自信を持って人と関われる力を育むキッズマナー講座を開講。
あいさつ・言葉づかい・思いやりの心を、親子で楽しく学べる内容が好評を得ている。
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪