マスクで顔を覆い、気軽に出て気分転換することももままならない日々。イライラが溜まってしまうのも無理はありません。こんなときこそ、必要なのが「笑いの力」。人が生きていくうえで、「笑う」ことがどのような意味をもつのか、その大切さについて、白梅学園大学教授の増田修治先生にお話を伺いました。
お話/白梅学園大学子ども学部子ども学科 教授 増田修治
子どもが育つうえで欠かせない「笑い」と「笑顔」
子どもは、生まれてから大人の表情を見てさまざまな感情を学んでいきます。笑っている顔、怒っている顔、困っている顔。身近な大人の表情が、そのまま自分の感情表現の道しるべになるのです。なかでも、笑顔は最も幸せでポジティブな感情表現であることは言うまでもありません。しかし、コロナ禍の現在、ほとんどの大人はマスクで口元を覆っています。マスクの下は笑っていたとしても、子どもには伝わりにくいのが現状です。これでは、身近な大人の笑顔に満たされないまま、子どもが育ち、感情表現が苦手な、無表情の子どもになってしまう可能性が高いのです。そうならないために、どうすればよいのでしょう。
周りの大人が、めいっぱい笑って、身振り手振りで感情表現をすることが大切です。「あれができない」「ここがなおらない」としかめ面をしている場合ではないのです。子どもの周りにいる大人=家族がいつも笑っている環境。これは、子どものためだけではなく、大人自身がストレスをためないコツでもあります。
親が子どもに求めるもの。それは?
増田先生は、現職の前は小学校の教諭でした。4年生を担任していたとき、「お父さん・お母さんの口ぐせ」というテーマで129人の子どもたちにアンケートをとり、その結果を保護者会で発表しました。
アンケートの内容は…
・明日の用意したの?(105人)
・早く寝なさい(95人)
・早くお風呂に入りなさい(85人)
・どうして弟(妹)とけんかばかりするの?(82人)
・かたづけなさい(81人)
・早く終わらせなさい(76人)
・肩もみなさい(52人) など
65種類に及ぶ口ぐせが、みごとに全部、小言(命令言語)だったのです。
これにショックを受けた先生は、アンケート結果をプリントして「みなさんで一度話し合ってみてください」と、保護者の方々に言いました。
すると、保護者の方々は口々に、いかにわが子は聞き分けがないか、言うことを聞かないかと、話し始めました。先生は「違う…そうでなくて…」と思いましたが、もう遅い。
そこで、言いたいことをわかってもらうために「みなさんの理想の子ども像とは、つまりこういうことですか?」と前置きし、次のように話しました。
「朝起こされずに自分から起き、さっさと歯を磨いて朝食をとり、学校へ元気に行って集中して勉強する。自分がやられて嫌なことは決してせず、家へ帰っても弟・妹と仲良くし、決してケンカをせず、宿題をやったあとに夕食をとり、時間割をそろえ、すばやくお風呂に入る。“肩や腰が痛い”と父母が言えば、口答えをせずに肩や腰をもむ。子どもとしての分(ぶ)をわきまえ、ゲームもやらず、テレビも見ない。……そんな人に私はなれない」
最後のところで、教室にいる保護者が爆笑しました。その後、「確かにそうですねぇ」「ちょっと言いすぎましたねぇ」と理解を得ることができました。
この事例からもわかるように、伝えたいことをユーモアにのせるだけで、相手にすっと受け入れてもらえることがあります。これは、子ども相手でも同じ。いつもガミガミと指示しているだけでは、子どもの心には届きません。大人のストレスもたまるばかりです。
笑いがあふれる家庭とは
ユーモアを大切にする増田先生のクラスの子どもたちは、笑いのセンスもピカイチでした。5歳の弟がいる並木くんの詩です。
こないだ弟が外を走っていました。弟が、
「ぼく、すごいのできるよ!」
と言いました。
弟は走りながらぼうしやくつもぬぎました。
そしてくつしたもぬげて
ズボンもぬげました。
それから弟はぼくに
「まっ、おまえじゃできねーな」
と言いました。
そんなのやりたくねーよ
この詩には、後日談があります。例の並木くんが増田先生のところにきて「先生、弟、本当にすごいんだよ。見に来てよ!」と誘ってくれたので、増田先生は並木くんの家に行きました。スゴ技自慢の弟は「ちょっとそこに立ってて」と先生を家の前に立たせ、スタスタと数十メートル先でスタンバイすると、道路を走りながら、本当に上から下まで脱いでみせたのです。あまりのスゴ技に感激して「すごいなぁ! びっくりしたよ」とほめちぎったら、弟くんは満足気な顔をしました。この個性的な弟くん、通っている園ではなかなか周りになじめず、園では就学してからのことを心配していました。しかし家族は弟くんのユーモアを受け入れ、笑いに変えていました。本人も「増田先生のいる小学校に早く行きたい」と言ってくれました。そして高学年になったときは、学級委員長までこなす、頼れる少年に成長したそうです。
もし、並木家が、笑いのない、「正しいこと」ばかりを尊重する家だったら…。弟くんはずっとストレスを抱え、誰にも心を開かない難しい子になっていたかもしれませんね。
笑いのある家庭にするコツ
「笑い」といえばセンス? と思ってしまうかもしれませんが、そんなに難しく考える必要はありません。
子どもはユーモアの種をたくさん持っています。純粋な好奇心を持ち、余計な羞恥心は持ち合わせていないので、大人では思いもよらない言動をすることがありますよね。そこに笑顔いっぱいで乗っかればよいのです。子どもといっしょに、おもしろいことをおもしろがり、興味をもったことに挑戦してみましょう。そんなことを繰り返しているうちに、自然と笑いの絶えない家庭になっていくものです。
大人から笑いを発信したいときは、まずは初級編としてダジャレから出発してみることをお勧めします。家族から冷たい目で見られることもあるかもしれませんが、めげずに挑戦してください。クスッと笑ってもらえたら、達成感を味わえますよ(笑)。
この記事の監修・執筆者
小学校教諭、埼玉大学非常勤講師を経て、現在白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。2001年「児童詩教育賞」受賞。 こどもたちに「ユーモア詩」を書かせるなど、子育てに関 しての講演、著書多数。NHK「にんげん ドキュメント」、テレビ朝日「徹子の部屋」にも出演。保育園・小学校等で研修講師多数。
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪