最近よく聞くようになったHSC(ひといちばい敏感な子ども)。「もしかしたら、うちの子のことかも!?」と思い当たるかたもいるのでは? 心療内科医の明橋大二先生にHSCの特徴についてお話をうかがいました。
文/こそだてまっぷ編集部
HSCって、何?
HSC(Highly Sensitive Child)は、「ひといちばい敏感な子ども」と邦訳され、メディアなどで取り上げられています。
HSCは、豊かな感性を持ち、人の気持ちを思いやれる一方、ちょっとした刺激にも大きな影響を受けてしまうため、集団の中ではすぐに疲れてしまいます。また、さまざまな刺激に敏感で、味やにおい、感触などの小さな変化にも気づきます。HSCの割合は5人に1人といわれています。
HSCの概念は、アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が1996年に提唱したのが最初で、まだ30年も経っていません。2015年にアーロン博士の著書が邦訳され(『ひといちばい敏感な子』翻訳:明橋大二 1万年堂出版刊行)、近年、その認知は急速に広がりつつあります。
HSCの判断ポイントは?
子どもがHSCかどうかを判断するには、次の4つの性質(英文の頭文字を取ってDOES)に当てはまるかどうかをチェックしてみるとよいでしょう。下の4つの性質すべてに当てはまるなら、HSCの可能性が高いです。
D(Depth): 深く考える
・物事をじっくり深く考える。
・物事に対して慎重で、行動を起こすのに時間がかかる。
・「失敗したらどうしよう」「相手を不快にさせてしまったらどうしよう」と不安になりがち。
O(Overstimulation):過剰に刺激を受けやすい
・大きな音が苦手。
・暑さ、寒さ、痛さに敏感。
・皮膚感覚も敏感でチクチクする服や濡れた服を嫌がる。
・楽しいはずのイベントでも、すぐに疲れてぐったりする。
・興奮するようなことがあった日は眠れなくなる。
E(Empathy & Emotional):共感力が高く、感情の反応が強い
・人の心の動きをいち早く察知する。
・他人が怒られている場面を見て、自分事のように受け止めてしまうことがある。
・動物や小さな虫など人間以外の気持ちにも共感する。
・完璧主義な面がある。
・不公平なことやささいな間違いにも強く反応する。
S(Subtlety):ささいな刺激を察知する
・小さな音、かすかなにおい、人の髪型や服装の小さな変化に気づく。
・家具の配置がちょっと変わったり、置いてあったものがなくなったりすることにいち早く気づく。
・遠くにいる鳥の声などが聞こえることがある。
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HSCは“治す”ものではない
HSCは、その子が持って生まれた特性で、病気や障害ではありません。ですから、病院で治療したり、治したりするものではないのです。
HSCの概念が知られるまでは、園や学校の集団生活になじめない子どもの保護者が「ほかの子と違う?」と気づいて医療機関に連れて行くと、医師に「発達障害」もしくは「グレーゾーン(発達障害の特性が見られるものの、診断基準には満たない状態)」などと言われてきました。
HSCは、発達障害と似ている部分もありますが、異なるものです。発達障害との大きな違いは「人の気持ちをくむのが得意か苦手か」です。HSCは人の気持ちを察知することに長けていますが、発達障害のひとつであるASD(自閉スペクトラム症)は人の気持ちに気づきにくく、空気を読むのが苦手なので、正反対です。ただし、ADHD(注意欠陥・多動性障害)とHSCの特性を両方持ち合わせる事例はあります。
大人になってもHSCの敏感な特性は基本的に変わりません。大人の「ひといちばい敏感な人」を「HSP」(Highly Sensitive Person)といいます。HSCの親がHSPであることはありますが、HSCが遺伝によるかどうかはまだわかっていません(HSCと非HSCのきょうだいもいます)。
HSCが苦手なこと・得意なこと
【苦手】
HSCは、「みんなと同じことを時間内にやる」ことなどが苦手なため、園や学校など集団生活では求められたことができず、傷つきがちです。また「答えが間違っているよ」のような言葉を“人格の全否定”のように感じて自信を失ってしまいます。“人を蹴落として勝つ”というような競争が苦手なので、大人になっても、人との競争を強いられるような組織の中では生きづらい面があるでしょう。
【得意】
その一方で、思慮深さや公正心を持ち、人の気持ちを読むのが得意です。感受性が高く、音やにおいなど目に見えないものを感じ取れる鋭い感性も持っています。
HSCが将来HSPとなっても、人の気持ちに共感できる特性を生かして、カウンセラーや医療従事者などの分野で活躍できる可能性があります。また、鋭敏な感性は、音楽や美術などの芸術家や職人のような“ものづくり”の分野で存分に生かすことができるでしょう。
保護者は、HSCのよい面に目を向け、その子らしさを伸ばす育て方をしていくとよいでしょう。
人間以外の生物にもHSPは存在する!?
HSP(いわゆる慎重派)と、非HSP(いわゆる大胆派)が存在するのは、人間以外にも約200種類の生物で見られる現象です。これは種の生存戦略のひとつなのではないかと考えられています。
たとえば、シマウマを例に説明します。サバンナにいるシマウマの群れにライオンが近づいてきたとします。ライオンのにおいに敏感に気づいて「逃げろ」と警告する慎重なシマウマの存在は必要です。しかし、群れのすべての個体が慎重派だと、新しい餌場を求めて活発に行動するのが難しくなります。危険を顧みず、大胆に行動するシマウマも必要です。大胆な個体のほうが危険に遭遇して命を落とす確率が高いため数が多く、少数でも慎重で敏感な個体は生き残る確率が高いため、種の生存に必要不可欠なのではないかと考えられています。
HSCは持って生まれた特性で、保護者の育て方やしつけ方とは関係ありません。ひといちばい敏感であることは、生きづらい面もありますが、すばらしい才能として輝く可能性も持っています。この特性を「その子らしさ」ととらえて伸ばしていきましょう。
この記事の監修・執筆者
京都大学医学部卒。国立京都病院内科、名古屋大学精神科、愛知県立城山病院(現・愛知県精神医療センター)を経て現職。精神保健指定医、高岡児童相談所嘱託医、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長(射水市子どもの権利支援センター「ほっとスマイル」の設立団体)、一般社団法人HAT共同代表、富山県虐待防止アドバイザー、富山県いじめ問題対策連絡会議委員、富山県ひきこもり対策支援協議会委員などを務める。
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