「朝、子どもがなかなか起きてくれない」と悩んでいる保護者は、少なくありません。睡眠習慣の乱れは、発育の遅れなど健康や学校生活に影響を与えることもあります。また、睡眠障害(眠りに関する病気)が原因となっている場合もあるそうです。
そこで今回は、子どもの睡眠の問題に詳しい阪野クリニックの阪野勝久先生に「朝、起きられない」原因についてお話をうかがいました。
記事の最後に睡眠異常を調べるセルフチェックもあるので、お子さんの状況を確認してみてはいかがでしょう。
文/こそだてまっぷ編集部
朝起きられない子は、まずこの3つをチェック
「朝起こそうとしても、子どもがなかなか起きてくれない」と感じた際は、まず、以下の3つに注目するといいでしょう。
①睡眠時間が足りているか
小学1、2年生くらいの子どもの場合、1日9~11時間程度の睡眠時間が適切とされています。十分な睡眠時間を確保できていないと、朝起きられないのは無理もありません。寝不足は、朝、起きられない(起床困難)理由の中で最も多いものです。近年、子どもがゲームをしたり、動画を見たりして夜ふかしをし、朝起きられないケースも増えています。また、保護者の帰宅が夜遅いなどの理由で、家族のライフスタイルが「夜型」になっていると、子どもも夜ふかしをしがちです。これも朝、起きられない要因のひとつと考えられます。
《子どもの睡眠不足が疑われる行動チェック》
□学校(園)から帰ると、ソファーなどで寝てしまう
□日中にあくびをすることが多い
□学校が休みの日は、昼近くまで寝てしまう
□朝、目覚まし時計が鳴っても起きられない
□やる気や気力が落ちている
□頭痛や吐き気を訴えることがある
※上記のチェック項目で 2つ以上該当する場合は、生活習慣の改善に取り組みましょう。
睡眠不足が続くとどうなるのでしょうか。人間の脳は、昼間は活発に働いていますが、夜間帯には休息する必要があります。ところが、寝不足の状態が続くと、脳は十分に休むことができず、その結果、記憶の整理ができない、物忘れが多くなる、思考力が低下するなどの悪影響が出てきます。とくに学習能力が落ちるため、勉強の効率も低下します。
また、睡眠不足になると免疫力が低下するため、感染症にかかりやすくなります。かぜ、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などの予防にも、十分な睡眠時間をとることが欠かせません。
また、睡眠不足が続くと、精神状態にも影響が出ます。たとえば、不機嫌になったり、イライラしたりするなど情緒不安定を引き起こします。その結果、学校生活がうまくいかず、不登校につながることもあります。
大人の場合は、自分で「最近、寝不足だな」と気づいて、仮眠をとるなど対応できますが、子どもは自分が寝不足であることがわからず、それを保護者に伝えることができないこともあります。急に機嫌が悪くなったり、怒りっぽくなったり、落ち着きがなくなったりするのは、眠気のサインかもしれません。保護者は子どもの様子に注意しましょう。
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②睡眠リズムが整っているか
朝、起きられないという子どもは、「睡眠相後退症候群」の可能性もあります。これは、体内時計の睡眠リズムが普通の人よりも後ろにずれて遅れてしまったために、夜眠くならない、朝起きられないという病気です。
私たちは、朝起きて、昼間に活動して、夜眠るという生活リズムを持っています。これは脳の体内時計の働きによるもので、約25時間のサイクルで作用するため「概日(がいじつ)リズム」と呼ばれています。ところが、体内時計は、夜に強い光の刺激を受けると遅れが生じ、就寝と起床時間のリズムが後ろにずれてしまいます。たとえば、寝る前にゲームをしたり、動画を見たりしてスマホなどから光の刺激を受ける生活を続けてしまうと、夜になっても眠くならず、明け方になって眠りにつくので、だんだんと朝起きられなくなってしまいます。このような睡眠習慣を続けていると、昼夜逆転の生活リズムになり、朝起きられないことが原因で子どもが不登校になってしまうケースもあります。
③睡眠の質に異常はないか
睡眠の質が低下すると、ぐっすり眠ることができないため、朝、すっきりと起きることができません。睡眠の質を下げてしまう要因はいくつかありますが、比較的多いのが睡眠時無呼吸症候群です。
睡眠時無呼吸症候群とは、肥満、あごの形態、扁桃肥大などなんらかの原因によって上気道(鼻からのどまでの空気の通り道)がふさがってしまい、眠っているときに呼吸が一時的に止まってしまう病気です。上気道が狭くなった状態で呼吸するときに生じるのが「いびき」で、いびきをかいているときは、体内への酸素の取り込みが悪くなっています。そうなると、息をしようとして何度も目が覚めてしまうので、睡眠が浅くなります。睡眠時無呼吸症候群には耳鼻科の病気が関与していることもあります。
ほかにも、睡眠の質を下げてしまう睡眠障害があります。子どもに多いものを紹介します。
●寝るときに脚に違和感や不快感があり、脚をじっとさせていられないむずむず脚症候群(鉄分不足が関与している)
●眠っているときに脳が部分的に覚醒してしまって、ベッドから出て歩き回る夢遊病(睡眠時遊行症)
●睡眠中に突然、興奮した表情で悲鳴のような声を上げて覚醒してしまう夜驚症(やきょうしょう)
最近では、注意欠陥・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害による不眠も注目されています。
睡眠の質の低下にはさまざまな要因が複合的に関係しているケースが多くあり、詳しく調べるには医療機関で診察を受ける必要があります。
以下のチェック項目の中に3つ以上当てはまるものがあれば、睡眠に問題があるかもしれません。その場合は小児科医に相談してみましょう。
《幼児・小学生向けの睡眠異常を調べる簡易診断セルフチェック》
□夜寝る時間になっても、寝つきが悪くなかなか寝ない
□夜中に目が覚めてしまう
□夜中に起きて歩いたり、寝ぼけて叫んだりすることがある
□大きないびきをかく
□睡眠時間が1日7時間未満
□学校が休みの日は、起床が遅く睡眠時間が平日より長い
□朝、起きられないことが多く、起床時の機嫌が悪い
□日中、眠そうにしている
□日中、疲れた様子で元気がない
□発育(身長と体重)が同じ年齢の子より遅れている
次週は「朝起きられない子の対処法~うちの子、もしかして睡眠障害? ~後編」をお届けします。
この記事の監修・執筆者
愛知医科大学医学部を首席で卒業。愛知医科大学病院の循環器内科を中心に内科の診療に従事。カナダ・マニトバ州立大学のSt. Boniface総合病院睡眠障害センターに2度留学して、いびき・睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群など子どものいびき・睡眠障害の研究を行う。2011年に睡眠障害を専門のひとつとするクリニック(岐阜県)を開設し、内科と睡眠障害の専門医の立場から診療を行う。
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