仕事に、家事に子育てと、日々休む間もなく頑張っている保護者の方は多いと思います。ですがそんな保護者の姿が、実は知らず知らずのうちに子ども自身の頑張りすぎにつながってしまうことがあります。
びっしりのスケジュールをこなしているうちに疲れ切って自律神経のバランスが崩れ、不登校になることも。保護者の方が自分自身のストレスの状態を理解し、適切なセルフケアを行うことで、子どももストレスに対処できるようになります。頑張りすぎる保護者の方に大切なセルフケアについて、文教大学教授で「⼦育て科学アクシス」代表の成田奈緒子先生に伺いました。
文/こそだてまっぷ編集部
頑張りすぎてストレスを抱える親子が増えている
仕事で疲れて帰宅して、休む間もなく夕食の支度や子どもの宿題をチェック。塾や習い事の進捗管理をしたり、翌日の栄養価の高いお弁当の準備をしたり……。
毎日やることが山積みで、ついつい頑張りすぎてはいませんか?
近年、共働きのご家庭が増えたことで、「子どものため」と必要以上に頑張りすぎてしまう保護者の方が増えています。性格的にまじめで完璧主義タイプの人、不安があって考えすぎる人ほど頑張りすぎてしまう傾向があります。
ただし、そんなふうに育児も家事も手を抜かずに頑張っていることは、実は子どもにいい影響を与えているとは言えないのです。
家庭の中で、保護者の方が頑張る姿ばかり見せていると、そのお子さんもまた頑張りすぎる傾向があります。
毎日のように塾や習い事など何らかの予定があり、宿題や課題がいっぱいで疲れていても、「今日はちょっと休もう」などと、自分で考えて調整することができません。心や体がとても疲れているのに、自分が疲れていることにすら気づかない子どももいます。
そうしてストレスや疲れをためこんでいった結果、朝、起きられなくなったり、学校に行けなくなってしまったりするのです。
また、子どものうちに「疲れていたら休む」習慣や、ストレスに対処する方法が身についていないと、社会人になっても無理をしすぎて体を壊したり、精神疾患を引き起こしたりする可能性もあります。
「親が休む」ことが子どものためになる
大人も子どもも、疲れたときは休むべきです。特に、睡眠不足は一番体にこたえるもの。子どもの年齢に合った睡眠時間を確保し、質のよい睡眠をしっかりとらせることはもちろんですが、大人もよく寝ることが大事です。生活リズムが整うことで脳がしっかり働き、心に余裕を持つことができます。
疲れたときに休む習慣を持ったり、ストレスに対処したりする親の姿を見て、子どもはストレスへの対処法を自然に学んでいくものです。
「今日はちょっと疲れたから、片付けはパスして早く寝るね」と、保護者の方が初期の段階でうまく自分をメンテナンスしていく姿を見せることで、お子さんも「疲れたときは休んでいいんだ」と思えるようになります。
保護者の方自身が「今、自分が休むことが子どもの将来のためになる」と自覚して、罪悪感を持たずに堂々と休みましょう。疲れたときは無理せず、家事や育児の手を抜いて元気でいることが、結果としてお子さんの「自律」と「自立」を促すことにつながります。
簡単に実践できる「ストレスコーピング」とは
近年広がりつつあるのが「ストレスコーピング」という考え方です。アメリカの心理学者・ラザルスが提唱したもので、「ストレス」に対してうまく対処する(coping=対処する、処理する)セルフケアの一つです。自分のストレスの状態を理解し、効果的に対処することが大切だと考えられています。
言語化する
まず、ストレスコーピングで大事なのは、「言語化する」ということ。
「お母さん、今日は仕事で疲れちゃったの。頭のマッサージをしてソファでちょっと横になるね」と言って休み、その後「休んだおかげで頭が軽くなって、元気になったよ!」とストレス解消のプロセスを言葉にしましょう。
そうすることでお子さんは「疲れたときは休んでいいのだ」と学習します。それは、家庭でしかできない学びなのです。
また、行動をきちんと言葉にすることで、お子さんだけではなくパートナーとの意志疎通がスムーズになり、家庭内での協力を得やすくなるメリットもあります。
簡単に実践できるセルフケア20
ストレスコーピングのセルフケアで大事なのは、「すぐに」「家の中で」「簡単に」実践できることを行うということ。
例えば、ストレス解消にはなるけれど、事前の準備やお金がかかってしまうセルフケアはどうでしょうか。
「子どもを夫や親に預けて、一日自由に過ごす」
「一人でホテルに泊まる」
「好きな映画を見たり、ライブに行ったりする」
などもストレスを軽減できるイベントですが、時間や予算は人それぞれ。
ストレスコーピングのセルフケアで大事なのは、状況に応じて「すぐに」「家の中で」「簡単に」実践できる、自分なりのストレス対処法をたくさん持っておくことです。
ここで、簡単に実践できるセルフケアの例を20個紹介します。
1.「10秒間深呼吸する」
2.「両肩を10回ずつ回す」
3.「3分間瞑想する」
4.「ヨガやストレッチで体をほぐす」
5.「だらだらする、ソファで横になる」
6.「夕食をテイクアウトや冷凍食品で済ませる」
7.「コンビニスイーツを買って食べる」
8.「ちょっといい紅茶を飲む」
9.「洗い物を翌日に回し休むことを優先する」
10.「ペットとゆっくり遊ぶ」
11.「好きな写真や動画を見て楽しむ」
12.「次に行きたい旅行先を考える」
13.「ベランダで5分間、月や星を眺める」
14.「お風呂に好きな入浴剤を入れる」
15.「朝風呂にゆっくり入る」
16.「朝、近所を散歩してみる」
17.「タオルを新しいものに替えてみる」
18.「好きな香りのピローミストを使う」
19.「好きな曲をかけてベッドに入る」
20.「とにかく何もせず、早く寝る」
いかがでしょうか。他にも、簡単にできるセルフケアの方法はまだまだたくさんあるはずです。自分なりのストレスコーピングを考え、状況に応じて使い分けられるようにしておくとよいでしょう。
人に頼る
ストレスをためないためには、人に頼ることも大切です。
仕事で困ったときに、会社の同僚に助けを求めるのと同じように、疲れがたまっているときは家族に早めにヘルプサインを出して、頼ってみることです。
そもそも、日常的に家庭内で家事の役割分担ができていると、いつも自分だけに負荷がかからずに済みます。2歳以上の子どもなら「玄関の掃除をする」「テーブルをふく」「洗濯物をたたむ」など、何らかの家事を担当することができます。
任せた以上は、「これは自分の仕事ではない」と考えてあまり口出しをしないこと。そうすることで、子どもは自発的に考え、工夫して家事をこなすようになります。
また、平日は仕事が忙しい大人でも、「休日はメインで育児を担当して、パートナーを休ませる」「重い荷物を運ぶ」「学校や塾・習い事の窓口を担当する」など、家庭に貢献できる方法にはさまざまな形があるでしょう。
家族間で仕事を押しつけ合うのではなく、だれかが忙しいときにはフォローし合いながら皆で家庭に貢献する、という姿勢が大切です。また、親のそういう姿を見せることで、子どもも「困ったときは人に頼ってもいいんだ」と学び、一人で抱え込まずにストレスに対処することができるようになります。
まとめ~子育てのゴールは「子どもの自立」
「子どもの将来のために」と保護者の方が必死になりすぎてしまうと、家庭は息苦しい場所になりかねません。そうなると、子どもは社会に出ることや家庭を持つことに夢を持てなくなります。せっかく頑張っても、結果的に子どものためにはならないのです。
私自身は家で集中して仕事をした後は、「ああ疲れた、これからはオフ、何もしない!」と宣言し、ひたすらだらだらします。それを見て育った子どもは、集中して勉強し、終わったらだらだらするようになっています。教えたわけではないのに、子どもは勝手に学んでいきます。
子育ては保護者にとって一大プロジェクト。「忙しい人や体調が悪い人がいたら協力する、人に任せる」……仕事ではあたりまえにしていることを、家庭でもしたらいいのです。
子どものために、あれもこれもやってあげたいという親心は理解できますが、まずは保護者が元気でいなければいけません。本当に大変なときは「眠らせる」「食べさせる」という最低限のことを行っていれば大丈夫。
「自分の力で生きられる人間にする」のが子育てのゴールと考え、保護者は元気でいて「子育てというプロジェクト」を最後まで見届けないといけません。
ついつい頑張りすぎてしまう保護者の方には、「保護者が元気で家庭生活を楽しむ姿を見せることが、子どもの成長にいい影響を与える」ということを忘れずにいてほしいと思います。
この記事の監修・執筆者
1987年神⼾⼤学医学部卒業、2009年より⽂教⼤学教育学部特別⽀援教育専修教授。2014年から学・⼼理・教育・福祉を包括した専⾨家集団による新たな親⼦⽀援事業「⼦育て科学アクシス 」を開設、代表に就任。また、⽂部科学省 や東京都教育委員会などで⼦どもの⽣活習慣を科学的に考える育児教育への提⾔・社会活動を⾏っている。
著書:「その⼀⾔が⼦どもの脳をダメにする」(SB新書・成⽥奈緒⼦共著) 「『発達障害』と間違われる⼦どもたち」(⻘春出版) 「⾼学歴親という病」(講談社) 「⼭中教授、同級⽣の⼩児脳科学者と⼦育てを語る」(講談社)他多数
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