2025年4月から「改正育児・介護休業法」が施行されています。従来の育児や介護の休業制度を見直し、仕事との両立における支援の拡充を図るものです。ここでは育児に関する改正について、知っていれば賢く使えるポイントを、社会保険労務士で株式会社ウェルスプラン代表の佐藤 麻衣子さんに伺いました。
文/こそだてまっぷ編集部
どう変わった?育児休業の改正ポイントは5つ
改正育児・介護休業法における育児休業についての改正ポイントは5つ。順に見ていきましょう。
1.より取りやすくなった「子の看護休暇」
① 名称の変更:「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」へ
変更された名称が示すように、「子の看護等休暇」では、単に病気やけがの看護にとどま
らず、広義の健康管理や子供の教育活動に関連することまで、より幅広い状況に対応できるようになりました。
② 範囲の拡大:小学校3年生修了までを対象に
これまで、子の看護休暇は「小学校就学の始期に達するまで」の子どもを対象としていましたが、改正後は対象が「小学校3年生修了まで」と3年間拡大されたことが、今回の大きなポイントです。以前から「小学生も対象に」という声が多かったことから、仕事と育児の両立への支援という社会的なニーズに応える改正となっています。
③ 休暇取得事由の拡大:「学級閉鎖」や「入園(入学)式」等が追加に
これまでの子の看護休暇を取得するための条件は、「病気・けが」や「予防接種・健康診断」に限られていましたが、改正後は新たに次の内容が追加されます。
・感染症に伴う学級閉鎖等
子どもが通う学校や保育園で学級閉鎖や集団感染が発生した場合、保護者が休暇を取得できるようになります。これによって、感染症拡大時に親が迅速に対応し、子どもを自宅で安全に過ごさせることができるようになります。
・入園(入学)式、卒園式
子どもの入園式や卒園式といった行事にも、年次有給休暇を使わずに休暇が取れるようになります。なお、今回の改正には授業参観や運動会といった日常的な年間行事は含まれていませんが、法案よりも範囲を広げた措置として会社独自の判断で取得事由に含めるケースもあるので、改正を期に、就業規則など会社の制度を確認してみるとよいでしょう。
④ 「継続雇用期間6か月未満」の条件撤廃
従来の「子の看護休暇」では、「継続雇用期間6か月未満」の労働者は除外されていましたが、施行後はこの条件を撤廃。就職、転職したばかりであっても週に3日以上勤務している労働者ならだれでも取得できる制度になりました。転職者が2024年まで3年連続で増加し、正社員の転職も増え続けている現在の働き方を反映した改定となっています。
今回の「子の看護等休暇」の改正では、「取得可能日数」と「給与支給」については法的な変更はなく、「看護休暇取得時は無給」とする企業もいまだ少なくありません。この機会に、勤務先の規定を確認しておくことが大切です。
2.残業免除が小学校就学前まで拡大
改正育児休業法では、「所定外労働の制限」(残業免除)の対象者が拡大されることもポイントです。 従来は、「3歳未満の子を養育する労働者」に限られていた対象者が、「小学校就学前の子を養育する労働者」に拡大されます。これにより、子どもが小学校に上がる前のすべての親が、残業を免除される権利を得ることになります。
この制度は、子どもが就学前であれば、両親がそれぞれ別の時期に利用してもいいですし、同じ時期に利用することも可能です。
今回の改正によって、より多くの親が仕事と育児を両立させやすくなり、育児負担の軽減が期待できます。
3.短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加
短時間勤務制度は子どもが3歳に達するまで取得可能で、従業員から申し出があれば、1日の所定労働時間を6時間とすることが法律で定められているもの。実施することが難しい業務については、始業時刻の変更など「代替措置」が認められています。 改正育児休業法では、その代替措置に、テレワークが追加されました。勤務先の会社にテレワークが導入されている場合、就業規則等に見直しが行われているかどうか、確認しておくことが大切です
4.育児のためのテレワーク導入
さらに、子どもが3歳になるまで労働者がテレワークを選択できるようにすることが、新たに努力義務化されることになりました。テレワークの実施場所は自宅を基本とし、就業中は子どもを保育所などに預けることを前提としています。
努力義務のため、会社がテレワークを実施しなくても罰則等はありませんが、積極的にテレワークを業務に取り入れ、労働者の仕事と育児の両立を助けることが期待されています。
5.育休実施を公表する義務を拡大
今回の改正では、育児休業の取得状況の公表義務のある企業の対象も拡大されました。これまでは「従業員数1000人超」の企業にのみ公表義務がありましたが、改正によって「従業員数300人超」と、より多くの会社が対象となりました。
公表内容は、「男性労働者の育児休業等の取得率」または「男性労働者の育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。 これらの改正は、育児における役割分担を公平にし、両親が共に育児に参加しやすくなって少子化に歯止めをかけることを目的とするものです。
育児休業や休暇の取得がさらに進むことで育児と仕事の両立がしやすくなり、より柔軟な働き方ができるようになるでしょう。
2025年10月からの改正について
さらに、2025年10月から施行が見込まれている育児休業法の改正についても見ていきましょう。
事業主は、3歳から小学校就学前の子を育てる労働者に関して、2025年10月からは以下①~⑤の中から、「2つ以上の措置」を選択して実施する必要があります。
そして、労働者はその中から「1つだけ選択」して利用することができます。
【選択して講ずべき措置】
①始業時刻等の変更
②テレワーク等(10日以上/月)
③保育施設の設置運営等
④就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇
(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
⑤短時間勤務制度※②と④は、原則時間単位で取得可とする必要があります。
①の始業時刻等の変更とは、次のいずれかの措置(一日の所定労働時間を変更しない)のことです。
・フレックスタイム制
・始業または終業の時刻を繰り上げまたは繰り下げる制度(時差出勤の制度)②のテレワークについては、一日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上利用できるものとします。
③は、保育施設の設置や運営、その他これに準ずるサービスのサポートを行うものです(ベビーシッターの手配および費用負担など)。 ④の養育両立支援休暇の付与とは、一日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上取得できるものとします。
⑤の短時間勤務制度とは、一日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むもののことです。
このように、育児中の親がより多様な働き方ができる制度に改正されて実施されることになっています。特にテレワークの追加により、物理的な通勤負担を軽減し、より柔軟な働き方ができるようになります。
今回の育児・介護休業法の改正は、育児中の親にとって非常に有益なものです。これらを活用することで、仕事と育児の両立をしやすい環境にしていくことができます。育児休業を適切に取得するための条件や実施内容には注意が必要なため、会社の就業規則やサポート体制をしっかりと確認しておくことが大切です。
この記事の監修・執筆者
三井住友信託銀行などを経て2015年に独立。仕事と家庭の両立、育児期の生活設計に悩んだ経験から「多様なライフプランに応じた職場づくりで、企業も社員も豊かに」をコンセプトに、育児介護両立支援やテレワーク導入など多様な働き方を実現するための人事労務コンサルティングを提供。社員の将来設計を支援する企業型DC導入、継続投資教育、ライフキャリア研修にも注力している。
メディアでは「多様な働き方とライフプラン」を軸に、労務管理、資産形成に関する執筆・講演活動を行うほか、厚生労働省「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」などの構成員にも就任している。
―著書―
2018年『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本(日本実業出版社)』
2021年『人事労務・総務担当者の人へ 労務管理の基本的なところ全部教えちゃいます(ソシム)』共著
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