地震、台風、水害など日本は自然災害の影響を受けやすい国とされています。とくにいつ襲ってくるかわからない地震には、日ごろから「いざというとき、どうしたらいいか?」を考え、備えておかなくてはなりません。もし、あなたが子どものそばにいないときに、巨大地震が起きたら…と考えたことがありますか? 子育て家庭などで、普段から子どもに「伝えておくべき3つのこと」を防災アドバイザーの岡部梨恵子先生に聞きました。
イラスト/湯沢知子 文/こそだてまっぷ編集部
子どもが自宅に取り残されたら、どうする?
地震は、保護者と子どもがいっしょにいるときに起こるとは限りません。たとえば、東日本大震災の際、首都圏では鉄道などの交通機関の運行が止まり、「帰宅困難」が問題となりました。今後起こるであろうとされている首都直下型地震や南海トラフ地震のような巨大地震が起きた際、交通機関は1週間以上ストップしてしまうことが予想されています。もし、保護者が仕事や用事で外出しているときに巨大地震が起き、子どもが自宅に一人で残されたり、外で遊んでいて迷子になり帰れなくなったりしたら…? と考えたことはありますか? 大規模災害時は、保護者が子どものいる場所にすぐに駆けつけられるとは限りません。停電したマンションに子どもが一人取り残され、何日もだれも助けに来てくれないという可能性もあるのです。保護者がいないときに、子どもが助かるにはどうしたらよいかを教えておくことが重要です。
子どもに伝えておくべき3つのこと
いざというときのために、今のうちに次の3つのことを子どもに伝えておきましょう。自分の命を守る行動
保護者と連絡を取る方法
だれに助けを求めるか
【1.自分の命を守る行動】
いつ、どこで、どんな規模で起きるかわからない地震の場合、「こうすれば絶対安全!」という答えはありません。子どもには、「地震が起きたら、ケガなどをしないように注意して動こうね(自分の命を守る行動)」と教えておきましょう。強い揺れの際、耐震性のある建物の中であれば、その場でしゃがんで頭を守る姿勢を取ることが有効です。子どもには「ダンゴムシのポーズ」と教えるとわかりやすいでしょう。ただし、1981年以前の旧耐震基準に沿って建てられた住宅では、家屋が倒壊する可能性があるので、強い揺れを感じたら建物の外へ避難したほうが安全な場合もあります。
《子どもが自宅にいる場合》
◆まず、家具や家電が転倒しないように固定をしておくことは、保護者の責任ですので、必ず行ってください。とくに、リビングルームは窓ガラスが割れたりする危険が多い場所ですので、子どもがリビングルームにいる場合は、窓ガラスから離れ、できるだけ部屋の中央に移動し、クッションなどで頭を守り、ダンゴムシのポーズを取ることを教えます。
◆キッチンは、地震の際に「絶対に入ってはいけない場所」と教えておきましょう。食器など割れる物が多く、包丁なども危険です。また火災の危険もあります。
◆寝室や子ども部屋にいる場合は、あわてて部屋から飛び出すよりも、布団などをかぶって部屋でじっとしているほうが安全です。部屋の中に、落ちてくる物や倒れてくる家具がないかどうか、普段から確認しておきましょう。
◆トイレやお風呂に入っていたら、必ずドアを開けることを教えましょう。ドアが変形して、出られなくなることがあります。
《子どもが屋外にいる場合》
◆公園は比較的安全とされています。周囲に倒れてくる物がある場合は、できるだけそこから離れ、倒れてくる物がない広場の中央などでダンゴムシのポーズを取ります。
◆市街地では、電柱や信号機、固定されていない自動販売機などが倒れてきたり、古い家屋や塀などが倒壊したりする危険があります。地震が起きたら「危険な物から離れる」ことを教えておきましょう。普段から、子どもといっしょに近所を歩いて、「この塀は倒れてきそうだから、離れて歩いて」「あの自動販売機は固定されていないから、地震のときは近づかないで」などと具体的に危険な場所や物を教えておくといいでしょう。
《エレベーター》
子どもには、ホイッスル(笛)を携帯させて、「もし、エレベーターに閉じ込められたら、これを吹きなさい」と教えましょう。「自分がここにいる」ということを伝えるのにホイッスルは有効です。
マンションに住んでいる方は、自宅マンションのエレベーターに「非常用収納BOX(または防災キャビネットなどとも呼ぶ)」が設置されているかを確認しておくといいでしょう。巨大地震が起きた場合、エレベーターに閉じ込められると、だれかが助けに来てくれるまで時間がかかるという事態が予想されます。非常用収納BOXには、食料や水、簡易トイレ、ブランケットなどが収納されています。エレベーターに非常用収納BOXがあることを確認し、その使い方を子どもに教えておきましょう。
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【2. 保護者と連絡を取る方法】
《公衆電話》
大規模災害時には、通信制限により携帯電話や固定電話がつながりにくくなります。それに比べて公衆電話は通信制限を受けないので比較的つながりやすく、停電時も使用できます。自宅、学校、最寄りの駅など子どもの生活圏内にある公衆電話の設置場所を確認しておきましょう。子どもといっしょに道を歩きながら「ここに公衆電話があるね」と教えるといいでしょう。また、実際に年に3回くらいは公衆電話をかけて使い方を練習しておくことも大切です。
《三角連絡法》
子育て家庭には「三角連絡法」がオススメです。被災地内、また被災地以外から被災地への電話はつながりにくいですが、被災地から被災地外への電話は比較的つながりやすいです。たとえば、東京に住んでいる人の場合、東京が被災したら、北海道や九州など遠方に住む親戚や知人を中継地点にして家族と連絡を取る方法が「三角連絡法」です。子どもと離れているときに被災した際、子どもが公衆電話を使って遠方に住むお祖母ちゃんに「ぼくは〇〇に避難しているよ」と伝えます。保護者もお祖母ちゃんに電話をかけると「〇〇ちゃんは〇〇に避難しているって言っていたよ」というように子どもの安否確認ができます。中継地点はあらかじめ2、3か所決めておき、それを子どもに伝えておきましょう。
《電話番号を書いたメモを持たせる》
以上のようなことから、子どもには保護者の携帯電話番号や中継地点となる親戚や知人の電話番号を書いたメモを持たせておくといいでしょう。できれば保護者の携帯電話番号くらいは暗記させておくことをオススメします。
もし、保護者が近くにいないときに被災したり、保護者とはぐれてしまったりした際、子どもだけではどうすることもできませんが、周囲の大人に保護者の連絡先を伝えることができれば、大人が助けてくれることも考えられます。ただし、大人ならだれでも連絡先を教えていいわけではないことも教えておきましょう(詳しくは後述)。
ほかにも、大規模災害発生時には「災害用伝言ダイヤル(171)」や「災害用伝言板(web171)」などの通信サービスがあります。年に数回の体験利用期間が設けられていますので、実際に試しておくといいでしょう。
【3.だれに助けを求めるか】
保護者が職場にいるときに巨大地震が起きたら、すぐに帰宅できない可能性があります。その際、子どもを守るにはどうすればいいかを考えておくことが大切です。学校にいる時間なら先生がいますが、それ以外の場合は「もし、私がいないときに大きな地震があったら、〇〇号室の〇〇ちゃんのおうちの人に助けてもらってね」というように、近所で信頼できる大人の存在を伝えておきましょう。もちろん、事前に相手の方の了解を得ておく必要があり、自分もいざというときは相手の方のお子さんの安全を確保してあげなくてはなりません。自分が帰宅できないときに子どもを守ってくれる大人(ママ友や、マンション住まいだったら管理組合の方など)が近所に数人いることが望ましいです。そのためにも普段から近所の方と信頼し合える関係性を築いておくことはとても重要です。
子どもが近所の友だちの家にお世話になる場合は、手ぶらで行かないように教えておきましょう。非常事態であることはどのご家庭も同じですから、自分の分の食料や水、お菓子などを入れた子どもの非常用持ち出し袋を持たせる配慮は必要です。
子どもが保護者と離れているときに屋外で被災したり、被災後に迷子になったりした際、大人ならだれでも頼っていいわけではありません。大規模災害後は被災地の治安が悪化し、性犯罪や連れ去りなどが発生することが懸念されます。どの人なら信頼できるかを子どもが見分けるのは難しいので「困ったり、迷子になったりしたら、警察の人か駅にいる駅員さんに助けを求めて」など、お住まいの地域の状況に合わせて頼ってもよい大人の存在をいくつか教えておきましょう。
子どもの防災~後編では「家庭でできる準備」をお伝えします。
この記事の監修・執筆者
東日本大震災時に住んでいた千葉県浦安市で、液状化現象の被害を受けたことをきっかけに防災に取り組む。防災士、ファイナンシャルプランナー、整理収納アドバイザーなどの多様な資格を持ち、被災後の食、お金、片づけ、備蓄法など“主婦目線”“子育て目線”からのアドバイスが人気。
岡部梨恵子先生のWEBサイト https://okabekataduke.info/
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