前回では、先輩パパママが経験した4つの事例をあげ、それにどう向き合って乗り切ったかを紹介しました。今回は、前回の事例にそって、それぞれの子どものグズグズの理由や対処法ついて公認心理師の佐藤めぐみ先生にお話をお伺いしました。子どもがぐずる背景には、いろいろな理由が隠れているようです。
お話:佐藤めぐみ先生(公認心理師、育児相談室・ポジカフェ代表)
環境の変化によるグズグズはその子の「気質」
子どもの4人に1人が環境の変化によってグズグズしがち
以前アメリカで行なわれた研究で、新しい人に会う、新しい場所へ行くなど環境に変化があったときに、適応するスピードがゆっくりである(環境の変化に弱い)子どもは、全体の25%、つまり4人に1人いるという結果が発表されています。この“新しい刺激への順応性”は、持って生まれた「気質」のひとつ。よって環境の変化によるグズグズは、「男の子のほうが」とか、「〇歳だから」のように性別や年齢で見られる傾向というよりも、気質によるものが大きいと言えます。
「気質」ってなに?
「気質」とは、持って生まれたその子の反応や行動の傾向を指します。心理学の世界では、たとえば
・アクティブか
・穏やかさを好むか
・ひとつのことに注意を向けるか
・いろいろなことに注意を広げているか
などの項目がありますが、そこに、新しいもの・ことへの「リアクションの仕方」「順応性」も含まれています。
環境の変化に弱い子どもが持つ、「人見知り」や「引っこみ思案」という気質は、新しい環境が強い刺激となってしまい、グズグズしてしまいがちに。
パパやママが「子どもの避難場所」に
発達心理学には「アタッチメント」という言葉があります。親と子どもの間で形成される「愛着感情」という意味です。子どもは不安を感じたときにママやパパを安全基地・避難場所として使うことで心にエネルギーを補充します。 保育園や幼稚園でたくさんエネルギーを消耗してくると、充足したい、エネルギーをチャージしたいという思いが強くなるので、パパやママはスキンシップを心がけ、いっしょに遊んだり、話を聞いてあげたりしましょう。そのときくれぐれも「今日どうだった?」とたずねるばかりではなく、お子さんの話を「聴く」(耳を傾ける)ようにしましょう。アタッチメントを強められると、それが親から離れて活動する際の力になってくれます。
環境の変化が関係ないグズグズはケースバイケースで対応
外出先でのグズグズは我慢の経験をさせて
園ではグズグズすることがないのに、家であるいは親子で出かけたときに外出先でぐずってしまうお子さんは、経験の中で自分の要求を伝えられる場所、伝えられない場所を把握し、ぐずれば言うことを聞いてもらえると学んでいる傾向があります。
加えて、自分の意思を押し通そうとする頑固な気質を持っていると、親が一貫性のない対応をしたとき、「前回はいいって言った」と自分に都合のいいように解釈して攻めこんでくる(かんしゃくを起こす)ことも。
こういうお子さんの場合は、園や学校に入ったときに、「家とぜんぜん違う、家のほうがずっといい」→「行きたくない」という思考回路に陥りがち。小学校に上がる前までに、自分の思いを抑えなくてはいけないときもあるという経験を重ねるとよいでしょう。子どもの思いに寄り添うことも愛情ですが、子どもたちが将来困らない術を伝えるのも愛情です。
1点集中型の子にはルールを決めよう
1点集中型で、なかなか次の行動に移せないお子さんもいますね。集中すること自体は悪いことではなく、学習面においては大切なスキルとなります。ただ、集中力が悪い方向に働き、それによって生活リズムが乱れ、ごはんやおふろの時間がずれこむと、親はストレスを感じてしまいます。結局、鬼のように怒ってしまい、子どもの心を傷つけることに。
このようなお子さんには、「これで終わり」という切り替えを経験させることが大切です。ただ、感情が高ぶっているときにルール決めをしてしまうと、「テレビを消さないならもう見せないよ」「テレビ捨てちゃうよ」など、怒りに任せて言ってしまったり、一貫性がなくなったり、後で後悔するような余計なことを言ってしまうこともあるので、あらかじめルールを決めておきます。
子どもは先に楽しいことをやってあとに嫌なことをやる快楽主義的なところがあるので、「ごはんを食べてからお絵かき」「おふろに入ってから折り紙」などのように、良いこと・楽しいことを後に持ってこられるのが理想的です。
負けず嫌いはその子の個性と認めてときを待つ
負けず嫌いは気質的な要素が強く、その子の個性です。スポーツ、かるやたトランプなどの勝負ごとで負けて泣いたりするのは、その子らしい物ごととの向き合い方だといえます。とくに小さい子は本能的な感情の表し方で泣いたり悔しがったりするので、親からすると面倒だなと感じやすいのですが、気質というのは基本的に変えられるものではありません。泣く姿に賛同はしなくていいので、その気持ちを「ま、この子らしさだよね」と受け入れることはしてあげてほしいと思います。
勝負ごとに負けてしまうのは年齢や発達が影響するため、勝負ごとの負けによるグズグズを解消することはなかなか難しいですが、年齢を重ねると悔しさの表し方も変化していきます。年上のきょうだいがいる場合は、「お兄ちゃんも3年前は負けてたんだよ」「もう少し大きくなったら勝てるよ」などと話してあげてもいいでしょう。
物心がつくまでは親とのかかわり方が大事な時期
生まれ持った「気質」は変えられませんが、物事の捉え方は後天的なので変えることができます。
たとえば、ひとつ悪いことが起こると、「この先も悪いことが起こる」と思うか、「たまたま運が悪かっただけだ」と思うかで、その後の行動も変わってきます。ふだんの親とのかかわりの中で、ポジティブな発想が身についた子は立ち直りや切り替えが早い傾向にあります。
一方、「良いことは続かない」といった発想を親が持っていると、それも子どもがその思いを踏襲してしまいます。
その子の意思を尊重することも大事ですが、その結果最後に親が大きな雷を落とすことになるのであれば、その前に気持ちを切り替えられるよう仕向けたほうが、結局はその子のものの見方がポジティブになります。
共働きなどの理由で、家庭で子どもと過ごす時間が短くなる傾向があります。限られた時間の中でお子さんとの濃い時間を過ごすよう心がけましょう。
先の楽しみを提示しよう!
子どもは楽しいことが大好きなので、この先に別の楽しみがあることを提示してあげることで、気持ちを切り替えやすくなります。
たとえば、おもちゃ屋さんで帰ろうとしない場合は、「お家に帰ったら、大好きなコロッケを作ろう」など、先の楽しみを提示していざなってあげましょう。そしてそれができたときは、「じょうずに気持ちが切り替えられたね」「我慢できてえらかったね」といったねぎらいや、ほめ言葉をお子さんにかけてあげましょう。
パパママの言葉がお子さんの心に押された「太鼓判」となって、「ほめてもらえた」「自分はえらかったんだ」と受けとめることができ、次の行動への原動力になるでしょう。
この記事の監修・執筆者
専門は0~10歳のお子さんを持つご家庭向けの行動改善プログラム、認知行動療法ベースの育児ストレスの支援。英・レスター大学大学院修士号、オランダ心理学会心理士。今、力を注いでいることはママの心のケアのための「ポジ育クラブ」
https://megumi-sato.com(公式サイト)
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