子どもの記憶力や記憶力アップの方法について、脳研究者で東京大学教授の池谷裕二先生に2回に分けてお話をうかがいました。
後半となる今回は、「柔軟な記憶力」の伸ばしかたと、学力に直結する記憶力についてご紹介します。
小学校入学後のお勉強でも役立ちそうな、この「柔軟な記憶力」を伸ばすために、今からできることはあるのでしょうか?
お話/池谷裕二(脳研究者・東京大学教授)
前半の記事の内容
・幼い子どもの丸暗記の力は成長とともに捨ててしまう。
・成長すると、頭の中で自由にイメージができる「柔軟な記憶」をするようになる。
・あいまいなイメージを覚えることで、詳細まですべてを覚える必要がなくなり、
結果的により多くのことを効率よく記憶できる。
前半記事でご紹介した「柔軟な記憶」をするためには、必要な力が2つあります。それぞれを伸ばすことで、「柔軟な記憶力」を養っていきましょう。
1. 頭の中で自由にイメージする力
まずは、イメージする力です。
「角度が変わったらどう見える?」といった、目に見えていないことを頭の中でイメージする練習から始めてみましょう。この力は将来、算数の立体図形問題などでも役立ちます。
また、ことわざや慣用句などを読んだり聞いたりして、意味や様子を自由にイメージしてみるのもよいですね。
2.共通点を探す力
次に、共通点を探す力です。
前半記事でもお話した通り、「柔軟な記憶」は、詳細まですべてを覚えはしません。しかし、髪型を変えた友人も、変わったフォントの字も、きちんと認識できるのは、自分が持っているあいまいな記憶との共通点を見つけているからです。
共通点を探す力は、「柔軟な記憶」を支える力といえます。
果物や食器など、同じ仲間を選ぶ問題や、絵さがし問題などに取り組んでみましょう。
また、だじゃれを楽しむことも、音の共通点を見つける練習になります。
「作業記憶」も伸ばそう!
「柔軟な記憶力」は、成長すれば必ず必要になる力ではありますが、それだけ育てればよいというわけでもありません。普段の生活やお勉強において、非常に重要な記憶のひとつに、「作業記憶(ワーキングメモリ)」というものがあります。
みなさんは、何かを取りに来たはずなのに、他のことをしている間に何を取りに来たか忘れてしまった、というような経験はありませんか?
私たちが普段、「あとでこれをしておこう」とか、「ついでにあれを取りに行こう」など、他のことをしながら覚えておく短期的な記憶が、作業記憶です。
作業記憶は、生活の中の何気ない行動で使われる大切な力のひとつ。
作業記憶を鍛えると、やり忘れや置き忘れといった、うっかりミスの防止にもつながります。
また、計算や作文などをしながら覚えておける情報量が増えるので、小学校以降の学力に直結するといわれています。
小学校入試で出題されるような、絵や言葉を覚えて解答する問題や、神経衰弱などの記憶力を必要とする遊びは、作業記憶をしっかりと使います。
「柔軟な記憶力」だけでなく、作業記憶も同時に伸ばしていけるとよいですね。
楽しい記憶がお子さんの素敵な個性に!
ここまで話してきたように、「記憶」は、生きていくうえで必要不可欠な能力ですが、それだけではありません。
記憶は、自分の思う「私」、ひいては私たちの個性を形作るものでもあります。お子さんがおうちのかたと楽しく遊んだり、ほめてもらったりした記憶は、お子さんの素敵な個性へとつながっていきます。
幼い子どもに失敗や間違いはつきものですが、必要以上に叱ったり、自尊心を傷つけてしまったりするような対応は、なるべく避けたいですね。
子どもの記憶力を伸ばすのにおすすめのワーク
池谷先生が教えてくれた、大人になっても役に立つ「柔軟な記憶」と「作業記憶」。その練習にぴったりなのが、池谷先生監修の「きおくのれんしゅうちょう」です。
「3~4歳 きおくのれんしゅうちょう」
「4~6歳 きおくのれんしゅうちょう」
「イメージする力」や「共通点を探す力」を段階的に育んだあとは、実際に、だじゃれや慣用句をイメージで覚える練習をします。シールやぬりえをしながら作業記憶をしっかり鍛える、楽しい記憶問題もいっぱい! 「相手の立場で想像する」練習など、普段の生活で役立つ力も一緒に養えます。お子さんと一緒に、楽しく挑戦してみてください♪
この記事の監修・執筆者
日本における脳研究の第一人者。専門分野は神経生理学で、脳が脳自身をどのように成長させているかを調べている。また、2018年よりERATO脳AI融合プロジェクトの代表を務め、AIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。『進化しすぎた脳』(講談社)、『記憶力を強くする』(講談社)、『海馬』(共著/新潮文庫)など、著書は多数。脳研究の最先端の知見を社会に還元することにも尽力している。
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