【パソコンやタブレット、使えますか?】 小学校のICTを活用した授業の最新事情とは

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“子ども1人1台端末(パソコンやタブレット)”の環境を整えるという文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」により、小学校では順次児童に端末が支給され、ICT(情報通信技術)を活用した授業が行われています。2020年4月には、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策の一環として一斉休校などの措置がとられた一方で、子どもたちが在宅で受けるオンライン授業も話題となりました。今、小学校ではどんな授業が行われているのか、ICT活用授業に詳しい信州大学の佐藤和紀先生にお話を聞きました。

お話/佐藤和紀(信州大学学術研究院 教育学系・助教)
文/グリーンペペ

目次

小学校では端末を使ってどんな授業を行っている?

「小学校では、本当に、1人1台端末を使って授業をしているの?」

「うちの子は、まだタブレットに触ったこともないのに大丈夫?」

“小学校で1人1台端末”と聞くと、不安になる方もいらっしゃるかもしれません。

まずは、ある小学校の1年生の生活科の授業をのぞいてみましょう。

授業のテーマは「秋を見つけてきて、おもちゃやかざりを作ろう」です。子どもたちがそれぞれ外で拾ったどんぐりや葉っぱを使って、おもちゃやかざりなどの作品を作ります。それぞれが作品の写真を撮り、写真に説明をつけて仕上げていきます。完成した作品を端末(この学校ではノートPCを使用)にあるグーグルスライド(ブラウザ上でプレゼンテーション資料を作成できるサービスのこと)にアップすると、作品をクラスのみんなで共有することができます。友だちの作品を見て、感想や意見を言い合ったり、自分の作品作りに生かしたりしながら授業が進んでいきます。ICTを活用した授業では、このように豊かな体験をすることができます。

次は、小学校1年生の「算数」です。端末(ノートPCを使用)の画面を見ながら、フラッシュ型教材(※)に取り組んでいます。一人で取り組んだり、友だちとペアで取り組んだりすることもあります。小学校1年生で、入学前にタブレット端末に触ったことがない子どもでも、教員が使い方を教えればすぐに慣れて使いこなします。

※フラッシュ型教材……フラッシュカードのように、課題を次々と提示するデジタル教材のこと。基礎・基本の定着を目的として、短時間に集中力を高めたり、繰り返し学習を行ったりするのに活用されることが多い。

1、2年生には端末が行き渡っていない小学校も

「うちの子も小学校に入学したら、端末を支給されるの?」

残念ながら、今のところはまだ、すべての小学生に端末が行き渡っている状況とは言えません。その実情を簡単に説明します。

“子ども1人1台端末”の環境を整えようという文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」は、「児童数の3分の2の台数の端末を整備する」というものでした。残りの3分の1(約1800億円)は、地方財源措置の対象だったのです。つまり、「3分の1は、各自治体の判断で端末を配備しましょう」というわけです。実際には、地方財源分を端末購入に充当していない自治体もあります。全員が1台を持っている自治体もあれば、子どもの3分の1はまだ端末を持っていない自治体もあるのです。

全児童数の3分の2の台数しか端末がない小学校では、その“しわ寄せ”が低学年にいきます。その結果、1、2年生には端末が行き渡っていないという小学校もなかにはあります。

子どもたちの情報活用能力育成は国の急務

自治体によって違いがあるとはいえ、今後はますます教育のICT化は加速するでしょう。なぜ、国は「GIGAスクール構想」など教育のICT化に力を注いでいるのでしょうか。

今の子どもたちが大人になる時代には、日本は人口の減少により労働力が圧倒的に不足することが予想されています。一方で「AI(人工知能)」が飛躍的な進化を遂げ、不足した労働力を補うにはコンピュータに頼らざるを得なくなるでしょう。そのためには子どもたちがコンピュータを使いこなす情報活用能力が不可欠です。子どもたちが将来コンピュータを使いこなせなかったら、社会が維持できなくなってしまうおそれすらあるのです。

ところが、日本の子どもたちの情報活用能力が海外に遅れをとっていることが、数年前から問題視されています。たとえば、OECD加盟国を中心に3年ごとに実施されている国際的な学力調査(PISA)は、2015年から「コンピュータ使用型調査」に移行しました。そこでは、コンピュータの画面上で課題文をスクロールして読む、あるいはキーボードを使用して解答を入力するなどの操作が求められます。その結果、一部の分野で日本の順位が低下していて、日本の子どもたちがコンピュータに不慣れなのでは、という可能性が指摘され始めたのです。

ICTを活用した教育が重要という国際的な潮流に対応し、日本では2020年度から実施の小学校の新学習指導要領でICT活用やプログラミング教育を学習の基盤として位置づけました。コロナ禍による休校措置によってオンライン授業が始まったとお考えの方もいらっしゃるようですが、コロナ禍が学校現場におけるICTの環境整備を早めた側面があるとはいえ、感染症拡大対策の有無にかかわらず、子どもたちの情報活用能力育成は、今や国にとって急務の一つなのです。

ICTを活用した授業のメリット

端末やインターネットを活用したICT教育は、子どもたちが従来の授業では実現できなかった豊かな体験をすることができ、初期段階では学習へのモチベーションを高めることが期待できます。たとえば、ビデオ会議機能を使って、海外の子どもとたちと外国語でやり取りをする授業や、画像やアニメーション動画を活用して子どもの視覚や聴覚に訴える授業もその一例です。

ICTを活用した授業のメリットとして、主に次の3つが挙げられます。

1)個別学習

漢字の練習をする際、先生が黒板に書き順を示して「さあ、書いてみましょう」と言っても、すぐにできる子もいれば、できない子もいます。各自が端末を使って練習している内容を先生が確認できれば、それぞれのレベルや理解度を把握でき、個別に対応することができます。

たとえば、音楽の授業で、先生がリコーダーの吹き方のお手本をクラウド上にアップしたとします。子どもたちは、それを見て、それぞれが自分に必要な部分を練習します。一人一人が同時に異なる課題に取り組めるというわけです。さらに、個人の学習履歴も記録できます。

2)協働学習

子ども同士で意見を交換したり、情報を共有したりして学びに生かすことができます。たとえば、生活科で観察や実験をした際、友だちの実験結果データをリアルタイムで共有できます。自分と友だちのデータを比較したり、それを見て話し合ったりできます。

3)多様な対応

端末があれば、いつでも、どこでも学習できます。教室ではなく多様な空間で学べるので、事情があって欠席せざるを得ない子どもでも授業に参加できます。コロナ禍での一斉休校や分散登校時には、「オンライン授業」を行った小学校もあります。

教育ICT化時代、家庭でできることは?

「家庭でも子どもに端末を使わせたほうがいい?」

と心配する保護者の方もいらっしゃるのですが、“小学校で1人1台端末”だからといって、家庭でそれを気にする必要はあまりないでしょう。学校で毎日使えば、子どもはすぐに慣れて使えるようになるので心配しなくても大丈夫です。

学校現場で教育のICT化が進む時代、塾や通信教育でも「オンライン学習」という選択肢が増え、今後は「オンラインで学ぶ」を実践するご家庭もあるでしょう。その際、家庭ではどんなことを心がけたらいいのでしょうか。

お子さんに端末を与える場合は、使うときのルール作りやフィルタリング、情報モラルを教えるなどの最低限のサポートはもちろん欠かせません。ですが、端末はあくまでも学習ツールです。端末を使って勉強しようと、昔ながらの紙と鉛筆で勉強しようと、結局、ものを言うのは、「家庭の教育力」だということを忘れないようにしましょう。

家庭で「言葉の力」を養おう

今のうちから家庭でとくに養っていただきたいのは「言葉の力」です。文部科学省の学習指導要領には、言語能力と情報活用能力は学習の基盤、つまり基礎であると書かれています。コンピュータで文字を入力するためには、言葉の力がもちろん必要になります。言葉の力が発達していなければ、コンピュータで情報を処理できません。言葉の力は、短期間で身につくものではありませんので、幼児のうちから、読み聞かせや絵本を読んで言葉の力を育むことが重要です。

親子でICTを活用したクリエイティブな活動を

親子でICTと関わるのもいいでしょう。

「親子でコンピュータを使う」というと、ゲームを思い浮かべてしまいがちです。ですが、ゲームは誰かが作ったものを楽しむ“消費行動”にすぎません。やっていただきたいのは、ICTを使ったクリエイティブな活動です。

たとえば、端末をお持ちなら、日記をつけるという活動があります。まだ文字を書けないお子さんなら、好きな物の写真を撮って、毎日の記録を残すだけでも十分です。撮った写真を見ながら、親子で

「これは、何の写真かな?」

「この写真のどこが好き?」

など会話を楽しめばクリエイティブな活動になります。

子どもに写真を撮らせると、面白がって何でも撮ってしまいます。ときには撮ってはいけない写真を撮ってしまうことがあるでしょう。たとえば、お風呂上りの写真などです。

「この写真は、撮っていけないよ」ということをその都度教えていくと、自然と情報リテラシーを身につけていくことにもなります。

ICT教育への理解を持とう

小学校での教育のICT化には、コストやサポート態勢、教員のITスキルなど、まださまざまな課題があり、自治体によってもばらつきが見られます。ですが、お子さんがICTの機能を理解し、正しく使いこなせるかどうかが本人の将来に大きく関わってきます。家庭においては、保護者のみなさんの理解が一層必要になってくるでしょう。

家庭でオンライン学習動画を見せておけば、お子さんの教育は大丈夫というものではありません。とくに幼児や小学1年生など低学年のお子さんでしたら、保護者の方がそばに寄り添って「今、何をどうやって学ぼうとしているのか」などをしっかりと見守るようにしましょう。

この記事の監修・執筆者

信州大学学術研究院 教育学系・助教 佐藤 和紀

信州大学学術研究院 教育学系・助教。公立小学校教諭、主任教諭等を経て、常葉大学教育学部・専任講師、静岡大学教育学部・非常勤講師等を務めて現職。文部科学省のGIGAスクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議の委員等も務め、情報教育やICT活用授業などを研究している。

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