学校でどんな授業を受けているか、お子さんと話したことがありますか。小学校では2020年度から新しい学習指導要領に沿った教育が行われています。前編では「学習指導要領って、何?」をご紹介しました。後編では、新しい学習指導要領のもとで「何を学ぶのか」について紹介していきます。前編に引き続き、文部科学省初等中等教育局教育課程課専門官の新見志歩さんにお話をうかがいました。
文/こそだてまっぷ編集部
学習指導要領に盛り込まれた「外国語教育」と「プログラミング教育」
ここでは、新しい学習指導要領のもとで「何を学ぶのか」を見ていきましょう。メディアでよく取り上げていたこともあり、保護者のみなさんが特に関心をお持ちになるのは、小学校での「外国語(英語)教育の充実」と「プログラミング教育の必修化」の2点ではないでしょうか。
「外国語活動」は小学3年生からスタート
2019年度までは、小学5、6年生で「外国語活動」を行い、「聞くこと」「話すこと」を通して英語に慣れ親しむ学習を行っていました。たとえば、好きな食べ物について英語で表現してクラスメートや先生とコミュニケーションを楽しむような授業です。従来の小学校5、6年生での外国語活動は、中学校での英語学習の意欲づけに効果があるという成果が見られた一方で、中学校に入学後、「読み・書き」に苦労している生徒もいるという課題がありました。そこで「外国語活動」を小学校3年生から開始することとし、5年生からは、教科として「読むこと」「書くこと」も段階的に学んでいくことにしたのです。
教科化されることで、5年生から評定もつきます。「何が身についているか」「英語で何ができるようになっているか」などが評価のポイントになっています。
「外国語活動」でもタブレット端末が活躍
GIGAスクール構想により、全国の児童・生徒1人に1台の端末が支給される取り組みが進んでいます。「外国語活動」では、音声が聞けるデジタル教材などを活用して授業を展開する小学校もあります。たとえば、外国語科の授業で、音声読み上げ機能を用いて、自分のペースで英語を繰り返し聞いて音声を何回も確認したり、まねして発音したりすることで英語の音声に慣れ親しんでいます。
外国語科や外国語活動の指導に当たるのは学級担任とは限りません。英語教育専門の教員が担当したり、ALT(外国語指導助手)などの外部人材といっしょに指導したりする小学校もあります。
学校での外国語教育が小学校3年生から始まった背景には、一部の職業に限らず、あらゆる分野で英語を使う機会が増えているので、子どもたちの将来の可能性を広げるというねらいもあります。外国語を学ぶことを通して国語への理解が深まる側面もあるといえるでしょう。
※GIGAスクール構想……全国の児童・生徒1人に1台の情報端末と高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み。
なぜ、プログラミング教育が必要なの?
新しい学習指導要領では、プログラミング教育を必修化しました。そこには、どんなねらいがあるのでしょう。
コンピュータは、私たちの生活の身近な物の多くに内蔵され、人々の生活を便利で豊かにしています。子どもたちを取り巻く環境においても、ゲーム機をはじめ、スマートフォン、ICカードなどに使われ、情報化は急速に進んでいます。生活が便利になる一方で、これらがどのようなしくみで動いているのかがわかりにくく、「ブラックボックス化」しているのが現状です。情報化社会を生きていくうえで、こうしたブラックボックスの中では、人間によってはめ込まれた命令(プログラム)に従って情報が処理されているということを理解しておくことはとても重要です。
そこで、学習指導要領では、コンピュータがプログラムによって動いていることを理解したうえで、社会のさまざまな場面で活用されていることを体験し、学習することを目指しています。
とはいっても、プログラミングという教科があるわけではありません。プログラミング的思考を育み、プログラミングでどんなことが実現できるのか、世の中とどうつながっているのかを小学生のうちから体験しながら学んでいきます。
プログラミング的思考力を育む
小学校でプログラミング教育を行う目的の一つは、「プログラミング的思考力」を育むことです。コンピュータに自分が意図する活動をさせるために、どのような動きの組み合わせが必要かを試行錯誤しながら考えていく論理的な思考力です。
たとえば、算数の授業で、コンピュータを使って正三角形を作図するという課題があったとします。正三角形の条件を、コンピュータが理解できる命令に置き換えて、どのような順序と組み合わせならば実現できるのかを考えます。
さらに、正三角形だけでなく、“正多角形”の意味や性質をプログラムに組み込めば、辺の数が多い正多角形をかくこともできます。人が手作業で行うには難しかったり、手間がかかりすぎたりすることでも、コンピュータに正しい命令を出せば簡単に実現できることにも気づくでしょう。
プログラミングが社会とどうつながっているかを学ぶ
総合的な学習の時間では、「コンピュータやプログラミングが社会とどうつながっているか」に焦点を当てて学ぶ例もあります。
たとえば、「まち」の中で魅力的な情報発信をしているものについて考える学習活動があったとします。「タッチパネルを使って自分たちがおすすめするスポットの情報を発信することができないか」という課題を設定した上で、「まち」にあるタッチパネル式の案内表示を実際に見に行き、そこでどのような情報が表示されているのか、あるいは、情報を表示させるためのプログラミングのしくみについて専門の先生の話を聞いたりします。その後、試行錯誤しながら案内表示を作成し、効果検証しながら新たな課題を設定し、解決していく探究的な学びを進めていくことで、身近な生活にプログラミングが活用されていることや、その良さについて気づくことができます。
消費者教育や防災教育も盛り込まれている
外国語教育やプログラミング教育がクローズアップされがちですが、新しい学習指導要領では、ほかにも学年に応じて以下のような教育に力を入れています。
・道徳教育
・言語能力の育成
・理数教育
・伝統や文化に関する教育
・主権者教育
・消費者教育
・体験活動
・キャリア教育
・起業に関する教育
・金融教育
・防災・安全教育
・国土に関する教育
…など。
(小学校だけでなく中学校、高等学校、特別支援学校の学習指導要領も含む)
家庭での保護者の働きかけも大切
学習指導要領が育成を目指すさまざまな資質・能力を身につけるには、家庭での保護者からの働きかけの例をいくつか提示します。
- 学校や友だちのこと、地域や社会の出来事など家庭での会話が多い
・テレビやスマートフォンを見たり、ゲームをしたりする時間のルールを決めている
・本や新聞を読むように勧めている
・お子さんに最後までやり抜くことの大切さを伝えている
・自分の考えをしっかり伝えられるようになることを重視している
・地域や社会に貢献するなど人の役に立つ人間になることを重視している
(「平成29年度全国学力・学習状況調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」より)
保護者からの働きかけがお子さんの「生きる力」を育む原動力になります。それには、学校での学びを日常生活で活用したり、ご家庭での経験を学校生活に生かしたりすることが大切です。お子さんが学校で学んだことについて、ご家庭でぜひ話し合ってみてください。
たとえば、お子さんといっしょにスーパーへ買い物に行って会話をするときにもさまざまな気づきがあるのではないでしょうか。
「このキャベツの産地は〇〇だね。〇〇ってどのあたりにあるのかな?」
「きょうは、ジュースが〇〇%引きだって。ということは、いくらかな?」
「このリンゴは1個〇〇円なのに、あのリンゴは1個△△円なのはどうしてだろう?」
学校で学んだ知識が実際の生活に結びつくことで「おもしろい!」と思えたり、新しい発見によって学びを深めたりすることにつながります。そのためには保護者の方が、お子さんが学校で使っている教科書に目を通して、何を学んでいるかを知っておくことも重要です。
お子さんが学校で学んだことが、明日の学びに、そしてお子さんの明るい未来につながるように、お子さんへの働きかけをご家庭でも心がけていくことが大切です。
この記事の監修・執筆者
2013年文部科学省入省。生涯学習政策局生涯学習推進課、初等中等教育局教科書課企画係長、生涯学習政策局政策課専門職、総合教育政策局教育改革・国際課企画係長等を経て、現職。
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